新元号「令和」が決定し、平成も残りわずかになった。そこで、平成に人気を集めたスポットを漫画家・コラムニストの辛酸なめ子が巡った。
平成5年(1993年)、千葉県船橋市に開業した「ららぽーとスキードームSSAWS(ザウス)」。日本最大級の屋内スキー場だった(Photo/The Asahi Shimbun/Getty Images)。
もうすぐ平成が終わろうとしています。新しい時代が来る前に、リセットの意味を込めて平成の思い出の地を訪れたいです。メルセデス・ベンツの最上級セダン「Sクラス」で巡る平成の走馬灯。今回もかなりの移動距離でしたが、座席に「アクティベーション」と呼ぶマッサージ機能があったため、エフォートレスな旅となりました。
まず訪れたのは、平成3年(1991年)にオープンし、バブルがはじける泡とともにボディコン女子たちが乱舞した「ジュリアナ東京」(東京都芝浦)の跡地。薄暗い駐車場には赤紫の屋根が当時のまま残されていました。奥には黒い重厚感あふれる扉が。開いたらパラレルワールドのジュリアナに通じていそうな、異空間の気配が。くすんだ赤紫の屋根に煩悩の残留思念を感じました。当時、地味に生きていたので体験していなくて残念です。
カーステレオで平成のヒット曲を聴きながら、続いて訪れたのは平成5年(1993年)に開業した「ららぽーとスキードームSSAWS(ザウス)」(千葉県船橋市)の場所。鉄骨によって巨大な坂が作られた構造は、古代の出雲大社社殿のようなインパクトでした。1年を通して真冬の気候が保たれ、気軽にスキーが楽しめます。総工費が400億円もして、ランニングコストもかさみそうで、リクープが心配でした。
約9年でクローズし、今は跡地にIKEAができています。現地を訪れたら隣の浜町中央公園にすべり台を発見! ザウスを思い出しながら滑ると感慨深いです。ウェアも板も不要なのでスキーよりも手軽で安全で、何度すべっても無料な“ミニザウス”。個人的にはこれで十分です。
平成14年(2002年)に営業終了した「ららぽーとスキードームSSAWS(ザウス)」の跡地は、現在、家具量販店の「IKEA」が建つ。
なんと、IKEAのすぐ隣にある浜町中央公園には高さの異なる滑り台がふたつあった!
湾岸スキーヤー気分で、平成最後の滑走を楽しむ筆者。
諸行無常スポットは続き、東京スカイツリーを遠くに望みながら高速で移動。横浜方面に進んで「ワイルドブルーヨコハマ」(神奈川県鶴見区)の跡地へ。平成4年(1992年)に開業した、1年中常夏の海が体感できる施設です。個人的には何度か訪れた思い出の地。波のプールだけでなく、流れるプールもあって、塩素臭が漂う中、カップルが密着しながら流れていたのが記憶に残っています。
平成24年(2012年)に開業した東京スカイツリー。
そのワイルドブルーヨコハマは、現在では大規模マンションに変身。しかも南国リゾートをイメージし、ヤシの木が前庭に植えられた「ヨコハマアイランドガーデン」という名前のマンションでした。マンション1階には、「やしの木クリニック」という名前の病院まであって、ワイルドブルーの名残が。ワイルドブルーは目標集客人数に届かなかったようですが、住んでいる方々の景気が良いことを祈ります。
「ワイルドブルーヨコハマ」の跡地に建てられた大規模マンション「ヨコハマアイランドガーデン」のエントランス付近にはヤシの木が植えられていた。
平成に大規模開発されたスポットといえば、「横浜みなとみらい21」ですが、平成14年(2002年)にリニューアルした「横浜赤レンガ倉庫」をはじめ、「マリン&ウォークヨコハマ」、「大さん橋」、「横浜ワールドポーターズ」、「パシフィコ横浜」、「カップヌードルミュージアム」「MARK IS みなとみらい」など、どの施設も盛り上がっていて、土地のエネルギーを感じます。
古い建物を大切に保存していて、新旧の文化がいい具合に混在。埼玉出身として、みなとみらいの繁栄ぶりには嫉妬せずにはいられませんが、それでも何度も訪れてしまう吸引力があります。平成最後のブームといえば「SNS映え」ですが、「マリン&ウォークヨコハマ」には有名な撮影スポット「エンジェルウィングス(天使の羽)」が。行ったときには孫がおじいちゃんを壁ぎわに立たせて撮影していました。「こうかな?」と次々とポーズを取る祖父に「じいじ、いい感じ!」と少女。見ているだけで和みます。
「マリン&ウォークヨコハマ」の壁に描かれたエンジェルウイング。LAなどとおなじく、コレット・ミラー氏が描いた。
「大さん橋」のウッドデッキも歩いているだけで気持ちよく、テナントもおしゃれで高級感があり、横浜のセンスの良さを見せつけられたようです。みなとみらいは新たな時代になっても変わらず発展し続けるのでしょうか……。
「横浜港 大さん橋 国際客船ターミナル」には、カフェ・レストラン・ショップも入る。
テレビ番組『料理の鉄人』ブームで盛り上がった周富輝のお店「生香園」でランチ。地元の人に愛されているお店のようで、おしゃれすぎない居心地の良い空間で、さり気なくレベルの高い中華を楽しめます。 壁には、周さんと山田邦子、周さんとMAX、周さんと梅宮辰夫と兄の周富徳、周さんと野茂英雄といった平成セレブとの記念写真が貼られていました。退色気味の写真に時の流れを感じます。
食後すぐに乗っても、メルセデス・ベンツSクラスは揺れが抑え目なので、胃腸も安定。次に訪れたのは渋谷の「プリクラ店」。コギャルブームとともに平成に登場したもののひとつです。現在はゲームセンターの一画がプリクラコーナーになっていましたが、10代だらけでアウェイ感が半端ないです。
しかも久しぶりにプリクラを撮ってみたら、モードやコースを選んで何度もポーズして、隣のブースに移動して落書きをしてスタンプを押したり、目を大きく加工したり、分割を選んでスマホにデータ転送したりと、限られた時間でタスクが多すぎました。デジタルネイティブ世代とのスキルの差を痛感。ひと仕事終えたような疲労がありました。そのあと、スマホに転送されてきたメールに「今日撮ったプリがまだ保存されてないよ★」と、ため口のメッセージが書かれていてさらに脱力。
新大久保の韓流ショップのあたりも若い女子だらけで、ホットドッグやホットク、タピオカドリンクの店などに長蛇の列が。平成は、ティラミスやパンナコッタ、白いたいやきなどさまざまなスイーツが流行りましたが、最後の一大ブームはタピオカドリンクです。腹持ちが良いので、ドリンクであると同時にちょっとしたランチにもなりそうで、節約できるのがウケているのかと推測。
韓流ブームに思いを馳せながら韓流グッズの店をまわりました。大ブームだったヨン様のグッズがないかと思ったのですが、防弾少年団メンバーのアイテムが席巻していて、ヨン様は見つからず……。平成16年頃のブームなので、今の10代は覚えていないのでしょうか。チャン・グンソクのポストイットメモ帳は1種類だけ見つかりました。ファンは移り気で、スターは栄枯盛衰です。
しかし平成8年(1996年)に日本に上陸した「スターバックスコーヒー」は、今も変わらない人気です。日本1号店の銀座松屋通り店へ。コーヒーショップはWi-Fiも使えて、第3の場所として重宝しています。
内心、コーヒーショップで人々が手軽に充実し、心の穴を埋められるようになったことが、本離れや恋愛離れを引き起こしているのでは? と疑っているのですが……。でも快適なものは快適だと認めざるを得ません。
東京・銀座にあるスターバックスの日本1号店。
スターバックスのコーヒーを飲みながら、平成を振り返る筆者。
平成の走馬灯の最後をしめくくるのは、やはり皇居です。東京随一の磁場のエネルギーを感じつつ、次の時代を生きるための鋭気を養いました。皇居の周辺を散策している人は皆さん穏やかな良い表情で、「令和」も平和な時代になることを確信いたしました。平成の走馬灯を追体験できたので、もう未来だけを向いて生きていけそうです。
2019年5月1日に新元号「令和」を定める政令が施行され、改元される。
辛酸なめ子 漫画家・コラムニスト
1974年生まれ。埼玉県育ち。女子学院中学・高校を経て武蔵野美術大学短期大学部卒業。漫画家・コラムニストとして新聞、テレビ、ラジオなど幅広いメディアで活躍中。著書に『ヨコモレ通信』(文春文庫PLUS)などがある。