バリー・スパークスのソロ・アルバム『BASS IN YOUR FACE』が7月4日に発売となった。現在は、十余年にわたりB’zのベースサウンドを一手に担っているバリーだが、『BASS IN YOUR FACE』という作品は、ベーシストであればまず聴いてみてもらいたい“ベースのベースによるベースのためのアルバム”とでもいうべきサウンドが濃密に収録されている。ベースがきちんと前面に出て主張されるよう、徹頭徹尾のこだわりで制作されたベース愛に溢れた作品だ。
◆バリー・スパークス 動画
2015年3月にはマイク・ヴェセーラをボーカルに迎えアルバム『First Wave』を発表、1970〜1980年代ハードロックサウンドを今の世に復権させたバリーだが、なぜ今作は、一変してベースオリエンテッドなインスト作品となったのか。<B’z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI->に突入し全国を飛び回っているさなか、バリーをキャッチ、話を聞いた。
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■チャレンジングだったのは
■テクニックの話だけじゃなくてね
──CDはすでに発売となっていますが、<B’z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI->の会場でも、とても売れているそうですね。
バリー:そう、とっても嬉しいよ。今回は曲に合わせてGoPro (註:小型・防水・防塵アクションビデオカメラ)でミュージックビデオを自分で撮影したんだ。プロモーションのために映像をYouTubeに上げているから、その成果もあったのかな。
──ベースに固定したカメラで撮影した映像ですよね? 「The Christmas Wish」は雪景色で。
バリー:あれはコロラドのロッキーマウンテンにあるインディペンデントパスという一番高い山脈で撮影したんだ。「The Christmas Wish」はもちろんクリスマスソングだから、雪のあるところでビデオを撮りたくてね。天気予報で「ちょうどスノーストームが来る」と言っていたから「これはバッチリだぜ!」って喜んでいたんだけど、実際に現地に行ってみたら、ものすごく寒くて指も動かなくて、速弾きどころじゃなかった(笑)。1曲弾くのが精一杯ってところに、ブリザードもやって来て、2〜3テイク撮ったところで「もう帰らないと、このままではヤバイ」って状況になった。もう死ぬかと思ったよ(笑)。
──ミュージックビデオはハッピーな映像になっていますけど、本当は大変だったんですね。
バリー:ビデオで見るよりももっと凄いドラマがあったね。振り返るとベースのソフトケースが雪に埋もれて失くなっているんだから(笑)。もう道もわからないし。本当に寒かった。でもおかげで、出来上がった映像はすごく気に入っているよ。
──今回はバンドサウンドではなく、最初からベースを核としたインスト作品を作ろうと思ったのですか?
バリー:Riot on Marsはバンドサウンドだったけど、今回は自分のメイン楽器であるベースを核にしたアルバムを作りたいと思った。マイケル・シェンカーのファンからも「バリーのベースソロ、カッコよかった」「凄くいいよ」って言われることがよくあったし。
──マイケル・シェンカー・グループのライブでは、「イントゥ・ジ・アリーナ」でベースソロを披露していますよね。
バリー:そうそう、そういうソロで称賛をもらっていたから。このアルバムを作る前の話だけど、「マイル・ワイルドロード」という曲を作ってGoProをベースのヘッドにつけて撮影してみたら、“これはカッコいい!”と思ったんだ。それがきっかけで、ベースをメインにしたアルバムを作りたいと思うようになった。その曲はアルバムに収録されていないけど、そこから曲を作り進めていくたびに、ベースにとってチャレンジングな曲やプレイがどんどん出てきて、深い作品になっていったんだ。
──アルバムには、非常にテクニカルな曲もありますよね。
バリー:ベースプレイヤーが指で速弾きするのはカッコいいだろ? アルバム4曲目の「Dream Of The Samurai」はアルバムで2番目にできた曲なんだけど、これはイングヴェイ(・マルムスティーン)っぽい感じだよね。これまでのキャリアの中で最も難しい曲に仕上がったと思うよ。
──“イングヴェイのようなベースプレイ”って、その時点でクレイジーだと思います(笑)。
バリー:今回はチャレンジングなところもすごく多かったから、1曲あたり1ヶ月くらいの時間がかかっていると思う。アルバム全体で2年くらいかけて制作に打ち込んだから、出来上がった後は2週間くらい放心状態だったな(笑)。
──作曲自体は順調でしたか?
バリー・:チャレンジングだったのはテクニックの話だけじゃなくてね、そこにきちんとメロディがあることが大事だよね。そこは重要視しているよ。
◆インタビュー(2)へ
■B’zのステージでも
■自分のベーシスト魂は十分に伝わる
──全てのベースサウンドがものすごくクリアに聴こえるのも素晴らしいと思いました。
バリー:そうなんだよ。今回はTDCのエフェクターを使っているんだ。ベース用ではなくギター用のオーバードライブなんだけど、その音がすごく良かったから、それを自分用にカスタマイズしてもらったプロトタイプをレコーディングでたくさん使った。普通のギター用オーバードライブペダルも何ヵ所かで使っているよ。
──ギター用だろうがなんだろうが、音が良ければそれで良しですね。
バリー:うん。バンドサウンドの中のベースサウンドって、奥に引っ込みがちだろ? 「このキックドラムすごいね」とかみんな言うけど、「……俺、その後ろですごい弾いているんだけどな」って思うこともよくあるんだよ(笑)。だから、今回のアルバムに関しては、自分が弾いているベースという楽器の音をしっかり聴いてもらうために、ちゃんとミックスしたんだ。まるで目の前で弾いているかのように、ね。
──なるほど。ベースサウンドが非常に聴き取りやすいのも、意識したサウンドメイクだったんですね。
バリー:ちゃんとベースが前に出て聴こえるように、スタジオだけじゃなくノートPCで再生してみて、それでもきっちり聴こえることを確認しているよ。
──レコーディングで使ったベースは、ESPのクリーム色のカスタムベース(Serena signature bass)ですか?
バリー:90%はそのベースを使った。あとイングヴェイとツアーをしている時に手に入れた紫色のカーヴィンの6弦ベースも使ったけど、レコーディングのあとにトラスロッドが折れてしまってね。ちょっと泣きそうだった(笑)。3〜4弦の高音フレーズで凄くクリアな音がするベースなんだ。アルバムのクレジットに「安らかに眠れ(R.I.P)」と書かれているのはそういう意味なんだけど、でも……いつか必ず修理して復活させるつもりだよ。
──『BASS IN YOUR FACE』を引っさげてのライブも是非お願いしたいです。
バリー:やりたいよね。このアルバムを再現するためいろいろ考えていることもあるから、楽しみにしていてほしいな。この曲をライブで演ったらすごくカッコいいし、みんなに「ワオ!」と思ってもらえるものになると思うよ。
──普通の音楽ファンはもちろん、ベーシストは要注目ですね。
バリー:僕のところにもベーシストからのメッセージがたくさんくるよ。ベースをわかっている人にたくさん聴いてもらいたいな。ベースがメインになっている作品はこれまでもいろいろあったと思うけど、おとなしいものも多かっただろ? 『BASS IN YOUR FACE』は、とにかくベースがガツンと来るようなラウドで力強いパンチのあるアルバムだから、低域の魅力もたっぷりと楽しめる。自分のアルバムだから、自分で納得がいって満足できるアルバムに仕上げたよ。こういうサウンドこそ、最近にはない色鮮やかなロックだよ。分かるだろ?
──バリーが子供の時にこんなアルバムが存在していたら、また歴史が変わっていたかもしれませんね。
バリー:ありがとう。それは嬉しいな。ベースを弾き始めて40年くらいになるけど、今でもベースを持った時のワクワク感は何も変わらない。20〜30年前に『BASS IN YOUR FACE』が世の中にリリースされていたら、自分だけじゃなく、いろんな人の人生を変えたんじゃないかな。
──<B’z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI->でのバリーのベースプレイにも期待しています。
バリー:そうだね、B’zのステージでも、自分のベーシスト魂は十分に伝わると思う。俺はいつでもロックしているからね。
取材・文◎BARKS編集長 烏丸哲也
■アルバム『BASS IN YOUR FACE』
2018.07.04 on sale
ZACG-9004 ¥1,800(税込)
01. O Come All Ye Faithful
02. Relentless
03. Cliffhanger
04. Dream Of The Samurai
05. The Abyss
06. The Christmas Wish
07. All For Nothing
08. The Secret Garden
09. What Lies Beyond
10. Hyperspaceman
◆バリー・スパークス オフィシャルサイト
◆バリー・スパークス オフィシャルYouTubeチャンネル
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