思わぬ雨に見舞われたり、前日の雨で地面がぬかるんでいて車のタイヤがスタック。立ち往生してしまって楽しいレジャーが台無しに……。そんな悲劇を回避するために、ここでは有効な対処法を6つご紹介します。
今回ご指南いただいたのは、埼玉県のカーショップ「キャナス」代表の三角(みすみ)氏です。国内外の過酷なラリーにメカニック・ドライバーとして参加した経験を持ち、カーレスキュー(ロードサービス)も行っているエキスパートなのです。
駆動方式でアクシデントの可能性が変わる!
さて、スタックレスキューの話をする前に、みなさんは愛車の『駆動方式』をご存じですか? 主に4WD(AWD)、FF、FRといった表記がされていますが、これはエンジンの搭載されている位置と車輪が動く箇所を示しています。
FRなら“フロントエンジン・リヤドライブ(後輪駆動)”、FFなら“フロントエンジン・フロントドライブ(前輪駆動)”です。
これら前後いずれかが駆動するものを2WD(二輪駆動/2ホイール・ドライブ)と呼び、4WDは4ホイールドライブ(四輪駆動/AWDはオールホイールドライブ)を意味し、エンジンは基本的にフロントにマウントされています。他には、MR(ミッドシップエンジン・リヤドライブ)などもあります。
今回サンプル車として使用したスズキ・イグニスは、グレードによって2WD(FF)と4WDの二つの駆動方式が存在する。また、4WD車でも常に四輪駆動で走る「フルタイム4WD」と、スイッチで2WDと4WDを切り替える「パートタイム4WD」がある。
三角氏によると「基本的にスタックしやすいのはFRですね。駆動輪が軽い後ろ側にあるためホイールスピンしやすいんです。一番スタックしにくく、抜け出しやすいのはやはり4WDです。ただし、4WDは走破性に優れる反面、スタックした際にリカバリーできなければ、かなり困難な状況だと言えるでしょう」とのこと。4WDだからと言って過信は禁物なのです。
最近のクルマは、タイヤの空転や横滑りを防止したり、下り道で自動的に速度を抑えてくれるアシスト制御機能が備えられていることも多い。スタックしそうな道を走る時はこれらの機能を使ってみるのも手だ。
対処法その1:タイヤ周辺の土をなだらかにしてみる。
それでは早速本題に入りましょう。スタックとは、タイヤが空転(スピン)してしまいグリップしない状況です。泥地の他に、雪や砂浜などで起こるトラブルですね。今回は場所を選ばず通年見舞われるであろう、ぬかるんだ泥地を想定しています。
万が一スタックしてしまったら、まずは空転しているタイヤ付近の土を掘って、タイヤの前後になだらかな空間をつくりましょう。これだけで脱出できる可能性がグンと上がります。
土を掘るのはスコップが理想ですが、持ち合わせていない場合は木の枝や手を使って作業しましょう。場合によっては成人男性で30分以上かかることもあるので地道に行いましょう。
また、クルマを前後に小刻みに動かして“地面を慣らす”やり方もありますが、不慣れな人が無理にアクセルを踏んだり、ハンドルを左右に何度も切り替えしたりするとさらに状況が悪化してしまうことがあるので注意!
対処法その2:地面に敷いて空転を阻止しよう。
次に試してみるべきは、タイヤの進行方向や真下に木の板や布などを敷いてタイヤの空転を阻止し、タイヤが地面を蹴ることができるようにすることです。
敷くモノはしっかりとグリップするものが理想ですが、これも手持ちがない場合は『フロアマット』を活用しましょう。ほとんどのクルマに備えられているし、それなりにグリップ力もあるので有効です。砂を撒くのも効果的ですよ。
坂道では、スタックしていないタイヤの後ろ側に「輪留め」を挟んでおけば後ろに下がってしまう心配もありません。輪留めは木片や石でも代用できます。
スタック脱出用のラダーやタイヤに巻く使い捨てチェーンなども市販されている。敷くモノはフロアマット以外でも、木片、麻袋、レジャーマットなどの他に、タオルや着用しているシャツなど身近なアイテムでも代用可。
タイヤの下にモノを敷く時は、ジャッキアップしてタイヤを浮かせよう。ぬかるんでいてジャッキが地面に沈みこんでしまう場合は、下に板状のものを置くと◎。
対処法その3:空気圧を抜いて接地面積を拡大!
緊急脱出の方法として「タイヤの空気を抜く」やり方もあります。スタックしたタイヤの空気圧を下げて接地面積を増やすことでグリップ力を高めることが可能です。
一般的にクルマのタイヤの適正空気圧は250~270kPaほどですが、これの半分位まで下げると効果が得られます。抜きすぎないためにも簡易的な空気圧ゲージを常備しておくとわかりやすいですね。
これは一時的な対処法にすぎず、空気が抜けた状態では大変危険ですので、後ほどガソリンスタンドなどで空気を補充するのを忘れずに!
タイヤの空気を抜くには、バルブキャップを外し、バルブ中央の突起部分を先端が細いもの(鍵やドライバーなど)で押す。
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対処法その4:他者のサポートで作業がスムーズに。
ここまでは一人でも作業できますが、自分以外に人がいるならぜひ助けてもらいましょう。後ろからクルマを押してもらったり、軽自動車などの軽量なクルマなら男性が4~5人いればなんとか車体を持ち上げることだってできます。
現場に複数人いる場合は一人が運転し、他の人がクルマを押してみる。運転手はスタックした箇所(タイヤ)を見ながら慎重にアクセルを踏み、押す人はなるべく強度がある部分に手をかけるようにしよう。なお、双方の声が聞こえるように、ステレオは消して窓は全開に!
対処法その5:クルマで引っ張る“牽引”が最も効果的!
状況によるけれど、他のクルマに引っ張ってもらえばすんなり脱出できるケースも多いです。この「牽引」の仕方は、まずスタックしたクルマの牽引フック用カバーをマイナスドライバーなどで外し、ボルト穴に牽引フックを取り付けます。
あとはロープなどで引っ張る方のクルマの後ろ側のフックと連結して引っ張ってもらうのですが、いきなり加速するのはNG! ロープが切れてしまう可能性があります。
まずは牽引するクルマが少しずつ進んでロープがピンッと張った状態にし、ホーンや掛け声でお互いに合図したら牽引する方はアクセルをゆっくりと踏み、スタックした方(牽引されるクルマ)はアクセルを踏まずに、状況を見ながら小まめにブレーキを掛けるのがセオリーです。
牽引用のチェーンを使う場合は、万が一切れてしまった時に破片が飛び散るので、真ん中にタオルなどを被せておけば防止できます。
対処法その6:ロードサービスを利用するのもあり。
自力での脱出が困難な場合は、早々に切り上げてJAFなどのロードサービスに連絡するのが吉です。今は任意保険にロードサービスが付帯されていることが多いので確認してみましょう。
作業の前には安全を確保するのが最優先。
以上がスタック解決の方法です。
これらの作業を行う際には、危なくないか辺りを確認しつつハザードランプを点滅させ、さらに三角表示板や発煙筒を使用して周囲にトラブルが起きていることを知らせましょう。夜間ならクルマのルーフレールなどにヘッドランプを取り付けておくのも効果的です。
これらを怠ると二次被害が発生して時には大事故につながりかねません。スタックしてしまったら、まずは焦らずに状況を確認するのが先決です。
立ち往生している場所にかかわらず、作業中は三角表示板(三角停止板)を抜かりなく準備しましょう。中古車の場合は車載されていないこともあるので要チェック。1000円~2000円で購入できますよ。
常に気を配り、クルマの停め方や場所も考慮しよう。
せっかくの楽しいキャンプが台無しにならないためにも、スタックトラブルを想定して事前に準備をしておきたいものです。
なお、キャンプ場でのクルマの停め方・場所についてですが、平坦な場所よりは進行方向(クルマの前側)が下になるよう傾斜がついた場所に停車しておけば安心感は高いです。
また雨が降った翌日に大きな水溜りに、なんてこともザラにあるので、常に気を配りつつ川や湖などの水辺にサイトを展開していたなら、速やかに離れるようにしましょう。
スタックに対処できるよう、軍手やゴム手袋、輪留め、ロープor牽引用チェーン、スコップ、ジャッキ、ライトの他に安全面も考えて三角板や小型のパイロンなども常備しておきたい。
Report & Text:Yasuo Sato
Photo (image):Takuma Utoo