[プロフィール]
黒島結菜(くろしま・ゆいな)
1997年3月15日生まれ、沖縄県出身。ソニー・ミュージックアーティスツ所属。「ウィルコム沖縄のイメージガールコンテスト」での沖縄美少女図鑑賞受賞をきっかけに芸能界入り。2013年、映画『ひまわり~沖縄は忘れない あの日の空を~』で女優デビュー。2015年、「カルピスウォーター」のCMキャラクターに起用される。宮藤官九郎脚本作品への出演は、『ごめんね青春!』(TBS系)以来2度目。NHKの大河ドラマへの出演は、『花燃ゆ』(2015年)以来2度目となる。周防正行監督の映画『カツベン!』(2019年12月公開)ではヒロインを務める。
●あらすじ:第22回「ヴィーナスの誕生」(6月9日放送)
東京府立第二高等女学校(通称・竹早)では、四三(中村勘九郎)の熱血指導によって女学生たちがスポーツに打ち込んでいた。教え子の富江(黒島結菜)たちは全国的なスポーツアイドルとなるが、その前に日本女性離れした見事な体格の人見絹枝(菅原小春)が立ちはだかる。四三の指導を手伝うシマ(杉咲 花)も大きな悩みを抱え、それをスヤ(綾瀬はるか)に打ち明ける。一方、真打昇進を果たしてもすさんだ生活を送る孝蔵(森山未來)には見合い話が舞い込む。
●あらすじ:第23回「大地」(6月16日放送)
四三(中村勘九郎)やシマ(杉咲 花)の提案で、富江(黒島結菜)は父の大作(板尾創路)と駆けっこで競走。鍛えた女性は男に勝てると証明する。治五郎(役所広司)はスポーツが育ってきた日本でオリンピックを開催できるよう神宮外苑競技場の完成を急ぐ。方や、孝蔵(森山未來)とおりん(夏帆)夫婦は、貧乏と夫の酒浸りの生活のせいで破局寸前に。そんな折、関東大震災が発生! 混乱の中で孝蔵は妻をかばう。
黒島結菜演じる「村田富江」とは?
「真面目で気が強くて、金栗先生にもすごい言葉で反発してしまう子です。腕や足など、肌を露出する格好に抵抗があった時代ですが、富江はスポーツの楽しさに気が付き、走ったり、飛んだり、テニスをしたりと、女子スポーツ選手として活躍していきます。他にも女子選手がたくさん出てくるので、これまでの『いだてん』とは違う雰囲気になっていくのでは、と思っています」(2019年3月の記者発表会から)
勘九郎さんの熱演に感動。本番であることを忘れ、泣いてしまいました
―― 金栗四三の魅力は、どんなところにあると思いますか。
『いだてん』は第1回から見ていました。四三さんは、純粋に応援したくなる人柄ですよね。毎回「頑張れー」と、視聴者と同じ気持ちで応援しながら見ていました。撮影していても、四三さんの一生懸命さが伝わってくるんです。現場で見ていても熱いものを感じます。そんなところが、とても魅力的です。
―― 涙が止まらなくなるシーンがあったとか。
より速く走れるようにと靴下を脱いで走った写真が世に出回って、騒動になり、保護者と学校の話し合いの場が持たれ、富江は、先生は悪くないので辞めさせないで欲しいと訴えます。その流れから、四三さんが「親に理解がないから女子スポーツが普及しないんだ」と熱く語る場面がありました。
本番前のテストでは「金栗先生、本当にその通り。正しい」なんて思っていたら、本番で中村勘九郎さんがテストを上回る情熱で汗をかきながら熱弁されていて、感動して泣いてしまいました。
引きで全体を撮っているシーンなんです。だから四三さんのセリフが終わって、カットがかかったときに「私、余計なことをしちゃったかも、台本にないのに泣いちゃった」と思いました。余計なお芝居をしてしまったので、使われないと思ったし、実際に使われていなかったのですが、現場で感じるものがあって。
お芝居なのだけれど、真っ直ぐな気持ちが強く伝わってくるんですよね。本番中だということ忘れる経験は滅多にないことだと思うので、現場にいられて、とてもよかったなと。私、そのとき思わず拍手もしてしまって(笑)。泣きながら。なんか、本当に余計なことをしてしまったと反省もあるんですが、そういう現場に立ち会えたことが幸せでした。
―― 富江たちは金栗四三をパパと呼ぶ。女生徒たちにとって、先生はどんな存在だったか?
(※金栗四三の書籍には、生徒たちから「パパ」と呼ばれていたと記述があり、このエピソードは事実として知られています)
私も高校生のときに、仲の良い先生がいて友だちのような近い距離感で、何でも話し合えていました。向こうも一生懸命にぶつかってきてくれる。だから、こちらも自然と思いを伝えやすい。先生と生徒であって、友だちではないのだけれど、そこまで先生という感じでもなく、不思議な関係性でした。先生に対して信頼があってこそ。私は、そんな関係性がすごく良いなと思っています。四三さんは頼りになるし、かわいらしい部分もあるじゃないですか。女子からしたら、ちょっと良い風に、魅力的に見えたりするのかなと思っています。
昔は、先生は偉くて生徒と距離感があるというイメージでしたが、富江の時代から私とその先生の関係性に近い、そういうこともあったんだなとうれしく思いました。
―― 金栗先生とは段階を追って打ち解けていく。距離感が縮まることを意識しながら演技したのでしょうか。
短パンとTシャツで来て、私たちに「スポーツしよう」と呼びかけるのですが、本当に嫌だ、と思いました。でも熱い思いを聞いて、1歩、歩み寄ったら四三さんの魅力から抜け出せなくなっていました。“四三ワールド”というか。
播磨屋まで行って、ズカズカとお部屋までお邪魔して、スヤさんのいる前で四三さんに「足の筋肉を触らせてくれ」とか言うのですが、自然とそこまでの関係性になれたんですよね。四三さんの人柄あってのことかな、意識せずに自然と。台本を読んでいても、いつからかタメ口になっていたし、パパって呼ぶようになったり。段階を追って、というか、でも割とすぐにそんな関係性になれたのではないかと思います。
「運動して身体を動かしている女性は美人だ」。金栗四三の言葉に共感
―― 役に共感する部分は。
はじめの頃、「運動なんて女子がやるものではない、女子は結婚してお嫁にいくことが幸せなんだ」という、昔ながらの考えがありました。お裁縫ができる、お料理ができる良い奥さん、お嫁さんになりたいと。でも四三さんは、美人というものの捉え方が違った。先生が女子たちに「運動して身体を動かしている女性は美人だ」と語りかける場面があるんですね。その一生懸命な思いも伝わってきて、私自身、四三さんの言葉が胸に響きました。
運動して変な目で見られても、それが綺麗だと思われるならすごいこと。お芝居しながら、心の変化を感じました。共感できる気持ちがあったので、村田富江と一緒に気持ちの変化が起こった気がしています。
―― テニスをしていて、暴言をはくシーンもあります。
台本を読んでいたときに「こんなこと言うのか」と驚きました。お父さんがお医者さんで、村田富江はお嬢様という役柄。礼儀正しい娘かと思っていたのに、いろいろたまっていたのだな、と(笑)。「くそったれ」と言うのですが、お芝居しながら、最初は「これで合っていますかね」と監督に確認したりして。そうしたら、もっともっと、なんて求められて。でも、おりゃー、おおー、とか声を出していると身体も乗ってきて、声を出すって大事なことなんだな、と思いました。お腹の底から声を出す。テニス、やり投げも勢いが出て、やっていて気持ち良かったし清々しかったです。
―― 体育のシーンで村田富江は、やり投げにも挑戦しています。
練習で投げたとき、初めてだったのに意外と飛んだんです(笑)。だから、次はもっと飛ばしたいなと思いました。村田富江と同じ気持ちになって、どんどん楽しくなってきて。だから本番でも真剣な気持ちで、地面にグサっと刺さることを目指して投げました。実際には刺さらなかったので、ちょっと悔しかったです。
テニスもそうですが、初めてのものに挑戦すると「上手になりたい」と上を目指したくなります。富江と重なる部分が自分にもあったんです。女子スポーツの始まりを演じる中で、役を通じてもっと上手くなりたいと思いました。
―― 人見絹枝(演:菅原小春)と対決したシーンの思い出はありますか?
菅原小春さんのパワーを感じました。彼女がそこに立ち、絹枝としているだけで存在感があって。こちらが身構えてしまうような迫力を感じました。完成した映像を確認すると、現場で感じたものがそのまま迫力を持って伝わってくるシーンになっていました。
うれしさと寂しさが絡み合う複雑な心境のシーンでした
―― 都合、何回走ったのか。
テストや段取りも含めると10回以上ですね。そもそも勝負を5、6回やった気がします。スタッフさんは「今日はたくさん走ると思うから、調整しながら、疲れないようにしてね」と気を遣ってくださいました。でも私は、走るのが好きなので。疲れてもいいから全部、全力で走ろうと思いました。
寒い日で、足を出して走らないといけないので厳しい環境だったんですが、四三さんが氷のうにお湯を入れたものをくれたんです。中村勘九郎さんの優しさを感じました。
お父さんが意地をはって、もう1回、もう1回と食い下がるんです。食いついてくるお父さんに応えよう、でも先生を守るために負けられない。そんな気持ちの葛藤があって。最後は、ごきげんようと手を降って去るんですが、切ない複雑な気持ちになるんですよね。振り返ると、みんなが笑顔でいる。四三さんが辞めさせられなくて済むから。でも娘としては(お父さんを負かしたことによる)寂しさがあって、うれしさと寂しさが絡み合う複雑な心境のシーンでした。現場では一体感と言いますか、みんなで力を合わせてひとつのことをやり遂げる雰囲気がありました。
(板尾さんは)袴を履いて、たすき掛けして、身体を横に振って走るんです。あぁお父さん、頑張っているなと思いました(笑)。最後、へとへとになるんですが。撮影の舞台裏では、頑張りましょう、と声を掛け合っていましたね。
―― (役作りのために)トレーニングは、どのくらいしましたか。
撮影の1か月前から週1くらいのペースで竹早の4人と菅原さんと一緒にテニスの練習をしました。その時代の走り方に基づいてハードルや走る練習をしました。他にはやり投げも教えていただきました。中学校までバドミントンをやっていたし、もともとスポーツは好きでした。当時のテニスラケットって、現在のものより小ぶりなんです。バドミントンのラケットに似ていたので、バドミントンみたいにならないように注意しました。
女子がスポーツすることの意義。この役ができて良かった
―― 村田は、日本女子スポーツの源流というべき役柄。現代で活躍する女性アスリートを見て思うことはありますか?
私自身、幼い頃からスポーツに慣れ親しんできました。もう女子がスポーツをすることが当たり前の時代ですし、そこに何の疑問も抱かなかったんですが、今回の役を演じることで、そんな時代もあったんだなと。お嫁に行くことが一番で、シマ先生(演:杉咲花)などは朝早くにコソコソ走っていたので、女子がコソコソしなきゃいけなかった、というのが驚きでした。
いま女子スポーツで活躍されている方が、世界中にいて、男子と同じレベルで女子がスポーツできる時代になった。着ている服も、おへそを出したり、あの時代の人たちがタイムスリップして現代のスポーツを見たら、本当に衝撃的なことなんだろうなと思います。
昔の人のスポーツに対する考え方を知り、こういうことがあったから、今につながっているんだ、ということを知ることができました。この役を演じることができて良かったです。
―― 自作のテニスのユニフォームが有名になるシーンがあります。着てみた感想は?
(※ドラマの中では、当時評判になったテニスウエアのデザインを参考にしたものが使われています)
とてもかわいいんです。襟がついたブラウスっぽい形に、ボタンがついた真っ白なワンピースなんです。運動するには、たぶん適していないと思うのですが、見た目重視というか、でもかわいくて、着ていてテンションが上がります。こういう素敵なものを自分たちで作って、着て、運動すると気持ちも高ぶる。見た目から入るのも良いな、と思いました。私もバドミントンをやっている頃、カッコいいユニフォームを着たかったし、それだけで強く見えたりするじゃないですか。それも富江の時代から変わらないのかな。テニスって、上品なスポーツですよね。この時代から、そんな印象が出来上がっていたのかな、と思うほど綺麗なワンピースでした。
『アシガール』の経験があるから、いつまでも走っていられます
―― 土曜時代ドラマ『アシガール』(NHK総合/2017年)でも走っていました。
アシガールで走ったのは、山道とか川の中とか、過酷な場所でした。しかも草鞋(わらじ)でした。『いだてん』では、靴下をはいて靴はスパイク。場所もグラウンドなので私の中ではレベルアップした感覚です(笑)。今回の『いだてん』でも、皆さんから「大変そうだね」「身体をはっているね」と言われるんですが、走ることは好きですし、これくらい余裕だという気持ちです。アシガールの経験があるので、転んだり、なんでも大丈夫です。アシガールのときは、速く見える走り方を意識していました。『いだてん』で意識することは、四三さんの呼吸法だったり。でも現代の走りと、そこまで大きくは違わないのかなと思います。
―― アシガールで共演した古舘寛治さん(可児徳 役)と、『いだてん』でも共演しています。
第24回で、古舘さんと一緒のシーンがあります。四三さんたちが走るのを、みんなで応援するんですが、そのときに「うれしいよー、またこうして一緒に出演できてー」と話しかけていただきました。
―― 今回演じる村田富江という役柄は、以前出演されていた『ごめんね青春!』(TBS系/2014年/脚本:宮藤官九郎)の生徒会長役(演:黒島結菜)と被っている印象もあります。
私も当時を思い出していました。宮藤官九郎さんの作品は、これで2回目です。『ごめんね青春!』は男子校、女子校の話でした。私は女子のリーダー役で、女子たちを引き連れていました。今回、最初に教室に入るシーンとか、フラッシュバックするものがあり、思い出したんですよね。
宮藤官九郎さんの脚本には、私たちがお芝居できる“幅”が残されている気がするんです。あまり細かくまで決められていなくて。役者さんの個性というか、宮藤さんが普段どういう風に本を書いているのかは分かりませんが、役者側に、役のゆとりをもたせてくれている印象があります。だから台本を読んでいて、想像が膨らむんです。読んでいて、いつもおもしろいな、と思います。
―― 第21回から出演し、本格的に『いだてん』に登場していきます。金栗四三も加わり、いよいよ女子スポーツが盛り上がる。ズバリ、見どころは?
どんな風に女子たちが変化していき、スポーツの楽しさに気付いて、それを四三さんが広めていくか、が見どころですね。『いだてん』に、一気に女性が増えます。今までと違う雰囲気になり、画面にも華やかで綺麗なかわいい女の子たちがたくさん出てくるので、見ていて楽しくなります。ぜひ、そのあたりを楽しみにしていただきたいです。
<Text:近藤謙太郎/Photo:NHK提供>