漫画家としては、あの手塚治虫以来二人目となる、国立の美術館での個展を実現した荒木飛呂彦。その代名詞とも言える『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズを30年以上描き続ける、荒木の創作哲学とは
BY MASANOBU MATSUMOTO, PHOTOGRAPHS BY MIE MORIMOTO
荒木飛呂彦
国立新美術館でのプレス内覧会にて、東京会場用の公式ビジュアルとともに。国立の美術館で漫画家の個展が開かれるのは、手塚治虫以来二人目
(写真左)『岸辺露伴ルーヴルへ行く』(集英社刊、2011年)の表紙。
パリ・ルーヴル美術館が企画したバンド・デシネプロジェクトの作品。普段は入れない美術館の地下室などを取材し、独自の物語を膨らました。荒木にとって初の完全フルカラー作品
(写真右)《徐倫、GUCCIで飛ぶ》『SPUR』2013年2月号別冊より。
グッチとのコラボレーション第2弾。第6部の主人公(シリーズ初の女性主人公)徐倫(ジョリーン)が着用しているのは、当時のグッチの最新コレクション。花柄や竹素材などに見られるグッチの自然への賛美に荒木も共感したと話す
© HIROHIKO ARAKI & LUCKY LAND COMMUNICATIONS / SHUEISHA
初の大型原画制作だったため、「画材の量や絵の具の乾燥時間など、予想外のことが多く苦戦した」と話す。荒木が描いているキャラクターは、キラークイーン。人気の“スタンド”だ
12枚の大型原画を仕上げる荒木。
モチーフは『ジョジョの奇妙な冒険』のキャラクターだ。「等身大だと、顔や体をなでるように筆が動く。すると何千回も描いてきたキャラクターが、いっそう愛おしく感じられるんです」
「原画展の東京の会場は国立新美術館。これまでの原画展の会場と比べても、かなり広い。空間に負けないものが必要だと思ったのです。以前、現代画家の山口晃さんが、『漫画ほどのサイズの絵が描けるのなら、大きいものも描けますよ』と言っていて、この機会に試してみようと。そして、せっかくならばキャラクターを等身大に。鑑賞者がこの作品を観たとき、その人とキャラクターたちで同じ場所を共有している――そんな一体感を生む絵を描こうと思ったのです」
作業場に置かれていた大型原画の設計図。これをベースに着色していく
色の調合レシピ。いくつかのインクをミックスし表現したい色を作る
原画展のプレス内覧会にて、完成された大型原画《裏切り者は常にいる》の前に立つ荒木。
鑑賞者とキャラクターの融合を目指し、「観る者の目の高さが、絵に描かれた地平線(遠近法における消失点)に合うように作品を設置しました」と説明した
「漫画界への感謝とは、今のこの業界を盛り上げている若い作家に対してでもあり、もちろん先輩たちへの感謝です。『ジョジョ』という作品は、僕がずっと手塚治虫先生や藤子不二雄先生、ちばてつや先生、大友克洋先生などの作品を読んできて、“そうではないもの” “彼らと似ていないもの”を描く、という発想で生まれているんです。先輩なくしてはありえない」と荒木。“そうではないもの”とは、“アンチ”ではない。脈々と受け継がれる漫画の王道的な面白さや表現、スタイルをロジカルに研究し、その本脈の上に“新しいもの”を生み出そうとするプロセスが『ジョジョ』の源泉だということだ。「今思えば、70〜80年代の漫画家は天才たちだらけ。また、音楽やファッションでも新しいものがどんどん生まれて、刺激的でした。あの時代にデビューし『ジョジョ』を描き始めることができたのは、よかったかもしれない」
《第1部ファントムブラッド》『週刊少年ジャンプ』1987年第46号より。
第1部の主人公ジョナサン・ジョースターが死亡するシーン。当時の少年漫画のセオリーを破るものとして話題になった
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アトリエの本棚には、世界各地の建築やインテリア、乗り物などの参考資料が並ぶ。なかには料理のマナー本もあり、徹底したリアリティを求める荒木のこだわりがうかがえる
普段の漫画を執筆するアトリエにて。
基本デジタルは使わず、アナログ派。自宅からここまでは徒歩で通勤
「たとえば、木を描くとき、枝がどうついているかをきちんと観察していないと変な絵になってしまいます。絵を描くことは、ある種、化学実験。絵を描きながら学んでいる部分もあると思います。自然科学や物理学、そして哲学や経済、そういったものが全部一体化した思想や理論の中で『ジョジョ』の世界を描いていくことが理想です。漫画はファンタジー、架空の世界の話。ですが、一体化した思想や理論のもとに描いていくと、不思議とキャラクターたちが、今そこに“存在”している感じがしてくる。それがすごく楽しいし、その絵を目指している」
ロックを中心に洋楽にも精通しており、作品のネタにもしてきた荒木。音楽をかけながら作業をするのが日課で、デスクまわりには、CDが山積みに。最近はエルヴィス・プレスリーが個人的に再ブームだという
《第5部黄金の風》『週刊少年ジャンプ』1996年第5・6合併号より。
主人公は宿敵DIOの血を継ぐジョルノ・ジョバァーナ。舞台は荒木が大好きなイタリア
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荒木飛呂彦(HIROHIKO ARAKI)
1960年宮城県生まれ。’80年手塚賞に準入選した「武装ポーカー」でデビュー。’87年に『週刊少年ジャンプ』で『ジョジョの奇妙な冒険』を連載開始(現在は『ウルトラジャンプ』にて連載中)。2012年、仙台と東京・六本木で本格的な原画展を開催。’14年、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞
原画展の公式ビジュアル。
東京会場は、第3部の主人公である空条承太郎(左)、大阪会場は宿敵、DIO(右)がモチーフに。荒木自身も認める“最強のふたり”だ。この2枚の原画も会場に展示されている
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『荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋』
東京での展示が大盛況のうちに閉会した『ジョジョ』の集大成たる原画展は、11月25日(日)から大阪会場(大阪文化館・天保山)に場所を移して開催。大型原画を含む、荒木の原画展が大阪で開催されるのは今回が初となる
会期:2018年11月25日(日)~2019年1 月14日(月・祝)
会場:大阪文化館・天保山(海遊館となり)
住所:大阪府大阪市港区海岸通1-5-10
開場時間:10:00~20:00 ※最終入場は閉館の30分前まで
定休日:無休
電話:
~11/20(火) 050(5542)8600<ハローダイヤル>(8:00~22:00)
11/21(水)~ 06(6574)2323<大阪会場事務局内>(9:30~20:00)
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