東京都府中市を拠点に活動する府中新町FCが、クラブの保護者に向けた講演トーク会を実施した。ユース年代でトップクラスの育成実績を誇る青森山田高校に有望選手を毎年輩出し、全国大会での実績もある青森山田中学校の上田大貴監督と、サッカージャーナリストの川端暁彦氏をゲストに招いたこの会の主な内容(一部編集)をテーマ別に構成。パート1のテーマは「育成年代で伸びる選手に共通するポイントとは?」。司会は、府中新町FCの葛谷智貞監督が務めた。
出典:『サッカークリニック』2020年7月号
取材・構成/石田英恒 写真/Getty Images、BBM、石田英恒 協力/府中新町FC
上の写真=近年、U-18年代の各大会で輝かしい成績を残し続ける青森山田高校 写真/Getty Images
KEYWORD 01「覚悟」
司会 今、各地域におけるナンバーワンの子供たちは、地元にあるJクラブの下部組織に行くケースが多いと思います。青森山田中学校に行く子は、必ずしもナンバーワンではない子、あまり目立たなかった子です。しかし、その子たちが中学校と高校を経た6年後には、Jクラブに行ったナンバーワンの選手たちをしのぐ結果を出したり、成長を果たしたりしています。そこにはどんな秘密があり、伸びる選手のポイントはどこにあるのでしょうか? ぜひ教えていただきたいと思います。
上田 青森山田中学校と高校には、現在活躍中、あるいは卒業後にプロになった選手がたくさんいます。伸びる選手に関して、何が共通しているのかと思い返すと、やはり性格的な部分なのかなと思います。単純に言うと、素直な性格です。サッカーの技術面で言えば、みんなさまざまで、最初からうまかったわけではなく、伸びる時期もまちまちでした。
川端 入ってきた当初から、すべての選手が素直で誠実なわけではないと思います。
上田 もちろん、100人いれば100通りの性格があるわけです。お山の大将でオレがオレがというタイプもいれば、引っ込み思案なタイプもいます。彼らに共通するのは覚悟を持ってやってきた子供たちであることです。そして、覚悟を持って送り出した保護者の方々がいます。
川端 青森山田の場合、県外出身選手の割合は中学校入学段階で7割くらいを占めます。東京から行く選手もいますが、東京から青森に行くこと自体が大変ですから、何となくという気持ちで青森山田に入る子は少ないと思います。最初から志の高い子がそもそも行くイメージがあるのですが、その点はどうでしょうか?
上田 その覚悟はあるでしょう。しかし、小学6年生でまだ12歳です。人生をかける覚悟と言っても漠然としていますし、予想通りにはやはりいきません。こんなはずではなかったということが、あとからたくさん出てきます。12 歳で親元を離れて寮生活をするのは大変なことで、私たち大人から見てもリスペクトに値します。
KEYWORD 02「自己解決力」
講演トーク会に登壇した、左から葛谷智貞監督(司会/府中新町FC)、上田大貴監督(青森山田中学校)、川端暁彦氏(サッカージャーナリスト)
川端 私の中学生時代を振り返っても、彼らの挑戦の大変さが想像できます。青森山田の子供たちは、同年代の選手たちと大部屋で一緒に過ごします。そこで人間関係を築いてうまくやっていくのは難しいはずです。それをいかに乗り越えるか、そこにポイントがあるのでしょうか?
上田 一人では乗り越えられないことが多くあります。離れた保護者に電話して相談する子供がいたり、同じ悩みを抱えた子供たち同士で相談し合ったり、いろいろです。
川端 指導者は、子供たちが自分で自分のことを解決するように促しつつ、子供たちがヘルプを出したら助けに行きます。指導者や仲間に対して自分がこういうことで困っているのだと伝えるのも、自己解決能力の一つになります。
上田 最初から言える子と、まったく言えない子がいます。こんなことがありました。母親から電話があって、「寮生のAの親です。ウチのスリッパがないようです。探してもらえませんか?」と言うのです。「お母さんのスリッパがないんですか?」。「いえ、ウチの息子が、スリッパがなくて困っているみたいなんです」。
KEYWORD 03「要求する力」
2019年度は、フジパンカップ関東少年サッカー大会優勝、東京都U-12サッカーリーグ優勝などの成績を収めた府中新町FC(写真は18年のもの)
川端 確かに「自分が困っている、こうしてほしい」と伝えるのは、ピッチ上のことにも通じます。自分の要求を伝え、人の要求を聞く、つまり互いに要求し合わなければなりません。
上田 サッカーのピッチは、その子の本性が出る場所です。本性を隠すことはできません。寮で寮監の言うことを聞けない子、学校で先生の言うことを聞けない子は、一番大事ないざという場面で指導者の指示を聞く耳を持てません。
川端 2019年度の高円宮杯JFA U– 18 プレミアリーグEASTで青森山田高校と対戦した大宮アルディージャU18の丹野友輔監督は、「青森山田と対戦すると勉強になります。選手たちに発信力があるからです」と語っていました。「彼らはピッチ上で互いに話をし、指示を出し合っています」と。ピッチ上のコミュニケーションは、苦しい時間帯になればなるほど難しくなります。そして、苦しい時間帯に間違った指示をすると、負ける可能性が高まります。少なくとも、声が出なくなるのはありがちな状況です。しかし、青森山田の選手たちは逆です。
上田 声を出すのは、青森山田の大きな特長の一つであると思います。高校生も中学生も普段のトレーニングからかなり声を出しています。
「もう少しこうしよう、ああしよう」と大声で話したり、味方を鼓舞したり、そういうものをいざというときに出せるのは、普段から高い意識を持ってトレーニングをしているからです。「声を出せない選手は、いざというときにいいプレーができない」と言い続けているので、トレーニングは常にすごい活気の中で行なわれています。
川端 2月、福岡で行なわれた九州高校サッカー新人大会に取材に行ってきました。熊本県立大津高校が優勝したのですが、大津の選手たちも声をものすごく出していました。「チームカラーが少し変わったのですか?」と古閑健士監督に聞くと、「青森山田と昨年の夏にインターハイで対戦して負けたのですが、私たちに足りないのはこれだと気付かされたのが選手同士の声でした。(青森山田は)気合や指示の声を普段から出しているからこそ、言うべきときに言わなければならないことを言えるのです」と話してくれました。
上田 全国的にそういうチームが増えて、みんなが強くなってしまうと、青森山田としては困ります。ほどほどにしてほしいという思いもありますね(笑)。
青森山田中学校監督プロフィール
上田大貴(うえだ・だいき)/ 1985年9月25日生まれ、北海道出身。青森山田高校から仙台大学へ進む。社会人としてプレーしたあと、2011年に青森山田中学校の監督に就任。17年度までに全国中学校サッカー大会で5回の優勝を果たした(14年度から17年度まで史上初の4連覇。18年度と19年度は準優勝)。18年度のJFA 第22回全日本U-15サッカー大会では、中体連として史上2校目となる決勝進出に導いた
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