飛び抜けて変な人と、普通に変な人が集まる冬アニメ『のんのんびより のんすとっぷ』に吹いたちょっと新しい風とは? 越谷夏海役・佐倉綾音さん【インタビュー連載 第7回】
のどかな田舎でのびのび過ごす少女たちの姿を描いたコミック『のんのんびより』のアニメシリーズ最新作となる第3期『のんのんびより のんすとっぷ』(以下、のんすとっぷ)が2021年1月より放送中です!
2013年に第1期が放送されて以降、第2期、劇場版と、ゆったりとした雰囲気やキャラクターたちのやり取り、綺麗な風景描写で人気を博した本シリーズ。『のんすとっぷ』では、旭丘分校に通う少女たちの明るく元気な日常が、新たな仲間たちを迎えて彩られます。
その待望の第3期の放送を記念して、アニメイトタイムズではキャストやスタッフへのリレーインタビューを実施。
第7回は、越谷夏海役・佐倉綾音さんのインタビューをお届けします。明るい性格でムードメーカー、時には騒動も巻き起こす中学1年生の夏海。第3期での夏海の印象や新たに感じたこと、周りのキャラクターたちのことなど、いろいろお話をうかがいました。
新キャラクターは世界観にちゃんとマッチしていて違和感なかったです
――第3期が発表された時や、実際にアフレコが始まっての率直な気持ちをお聞かせ下さい。
越谷夏海役・佐倉綾音さん(以下、佐倉):こういう日常系の作品って、なんとなくいつまでも続いてくれるものなのかなと思いがちなんです。でも、ちゃんと続けられると正式な発表を聞いた時はやっぱり感動しました。当たり前のことに感動できることに、また感動したといいますか。
アフレコが始まった時期的に、当たり前のことが当たり前じゃなくなった世界になっていたので、そんな中で続編に取り掛かれる喜びもあって。全員では収録できなくても、誰かが隣にいてくれる幸せを噛み締めながらアフレコをしています。
――少人数だとしても、直接掛け合いができるのはいいですよね。
佐倉:そうですね。ちゃんとメインで絡む人が隣にいてくれるので、まだストレスが少なくて済んでいるかなと思います。
――『のんのんびより』は日常系ですし、毎回同じ学年を描いているので大きな変化はないでしょうが、第3期で演じてなにか新たに感じたことなどはありますか?
佐倉:話数が進めば進むほど、こんな感じだったなと思い出したり懐かしさを感じたりしています。それに加えて新キャラクターもいるので、そこは新鮮な風かなと思いますね。
――新鮮な風として登場した新キャラクターのひとりが、富士宮このみの後輩である篠田あかねです。彼女の印象はいかがですか?
佐倉:劇場版のイベント(2019年5月開催「にゃんぱす祭り ばけーしょんなのん!」)でもちょっと喋ったんですが、長く続く作品の途中で出てくる新キャラクターって、自分が視聴者側だった時にはすごく苦手だったんですよ。
今までメインキャラクターたちが作り上げてきた空気感に急に新キャラが割り込んでくるのは、なんか異質なものみたいに感じてしまって。
▼「にゃんぱす祭り ばけーしょんなのん!」イベントレポート
――自分はあの空気感が好きだったのに……という感覚ですよね。
佐倉:だから、どういう風に受け止めてもらえるのか、劇場版では少し不安を感じていたんです。でも、アフレコの時に下地さん(劇場版の新キャラクター・新里あおい役の下地紫野さん)の声を聞いたり、あおいちゃんの雰囲気を見て、これは私自身も嬉しいキャラクターの登場だと思いました。実際、皆さんにも受け入れてもらえたと思います。
あかねちゃんも、あおいちゃんと同じように『のんのんびより』の世界にちゃんとマッチしたキャラクターで。ちょっと賑やかさが増えたなというくらいの、全然違和感がないのが正直な感想ですね。
――あかねは別のところから突然やってきたわけではなく、今まで描かれていなかっただけで、このみと同じ高校に通っていたわけですからね。
佐倉:そうですね。(インタビューの時点では)まだオンエアを見ていないので、どんな雰囲気になるのか私も楽しみです。
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夏海とひか姉のやり取りは、本当にバカだなって
――物語は第7話まで放送されたところです。ここまでを振り返っての感想をお聞かせ下さい。
佐倉:全体の感想になりますが、第3期はひか姉(宮内ひかげ)がとにかく出てくるんですよね。今までシリーズの中でも特ににぎやかというか、バカな展開やギャグパートが前半から多いなと思いました。収録も福圓さん(ひかげ役の福圓美里さん)と一緒になることがすごく多くて、やっぱりいいな、この空気感だったなと思い出しましたね。
――ひか姉は第1期からずっと登場していますが、たまに帰ってくるという印象がありましたからね。
佐倉:そうなんですよ。第7話の時点でもう何回も出てきていて、登場頻度が高いなと思いました。ひか姉と夏海の過去を描いた回(第3話「昔からこうだった」)は真面目なシーンも多かったですけど、基本的にはギャグですし。
――では、具体的にこの掛け合いが面白かった、といったところを挙げるならどこでしょうか?
佐倉:やっぱり第3話です。福圓さんと一緒に「この子たち本当にバカなんだな」ってゲラゲラ笑いながら録っていたんです。ノリが男子ですよね(笑)。女子が笑いながら喋っている雰囲気ではなく、やらかしたことを小学生男子的なあの手この手の発想で免れようとして。
――第3話は完全にそれですよね。植木鉢を割ってしまい、どうやって言い逃れようとするか。
佐倉:2案(証拠隠滅)、3案(一から植木鉢を作る)のやり取りもすごくバカみたいで、でもそれがすごくいいなって思いました。第6話で宿題を回避しようとするところもそうですが、夏海って絶対に最後は裏切るんですよね。(性格の悪さからではなく)面白いからそのままでいて欲しいと思う親心が芽生えてしまうぐらい、小賢しいんですよ(笑)。
――やろうと提案された方はたまったもんじゃないですからね。
佐倉:そうなんです。「夏海が提案してひか姉を上手に乗せて最後に裏切る」みたいな図式は、2人の間で様式美と化しているぐらい綺麗で。毎回それにひっかかるひか姉の学ばなさ、頭がいいのか悪いのかわからない2人のやり取りがすごく楽しいですね。
――そして、最新話である第7話では授業参観の様子が描かれました。ここでのやり取りは、また違った意味でおバカな感じでしたね。
佐倉:かず姉(宮内一穂)もやっぱり変なんですよ。夏海のお母さんに怒られるのが嫌で、夏海を何とかしようとするわけですからね。かず姉のおバカ感みたいなものが今期は結構出ている気がします。
それと、第7話は名塚さんと一緒に収録できましたが、「夏海って本当に頭が悪かったんだね」って話していたんです。“勉強できないキャラ”ではあるけど、実はそこまでではなくて最低限はできるのかと思いきや、本気でできないんだって。本当にこの子は遊ぶことしかやってなかったんだなとわかりました。それを野放しにしていたかず姉もかず姉ですが。
――でも、そういうところも夏海の魅力ではあると思います。
佐倉:ただ、今回バカなのは夏海だけじゃないので、この村の人たちは総じてどこか変わっていると思っちゃいますね。れんちょん(宮内れんげ)は天才の気がある子ではありますけど、村では常識人にみえる蛍やちょっと抜けているものの基本的には常識のあるこまちゃん(越谷小鞠)は実は普通に変な人で、夏海やひか姉、かず姉が飛び抜けて変な人なんじゃないかと(笑)。
――そう思ってしまいますよね(笑)。では、第7話にちなんでお聞きしますが、印象的な授業参観の思い出はありますか?
佐倉:自分の授業参観ではないんですが、いとこの授業参観に行ったことですね。たまたま私の学校が休みだったので、一緒について行ったんです。
――いとこは佐倉さんより年上? 年下?
佐倉:1つか2つ下です。家だと全然喋らない、ムスッとしている思春期の中学男子でした。
――中学生男子だったら2つ上のいとこのお姉さんが来たら嫌でしょうね。絶対見られたくないと思います。
佐倉:そうですよね(笑)。家ではそんな感じなのに、学校ではすごくやんちゃで悪ガキとして扱われていて。そのギャップにびっくりした覚えがあります。いつものクラスメートとちょっと悪いことをしてはスンとするのを、ずっと眺めていて、それが印象的でした。
<次ページ:「ただいま」が「ただ今を生きる」にかかっているのもオシャレ>
「ただいま」が「ただ今を生きる」にかかっているのもオシャレ
――エンディングテーマ「ただいま」はいつもの4人で歌っています。今回の楽曲はいかがですか?
佐倉:シリーズを通してエンディングはZAQさんが手掛けていて、今回の曲も聴いただけでZAQさんが作ってくださったとわかりました。
もともと、ZAQさんはアップテンポで強い曲を歌っているイメージでしたが、第1期エンディングテーマのデモを聴いて「なんかZAQさんの曲みたい」と思ったんですよ。ZAQさんらしさをちゃんと『のんのんびより』の世界に入れ込んだ曲を作ってくれる人だと思って、安心と信頼を持って今まで関わらせていただいています。
【アルバム】のんのんびより シリーズOP/ED主題歌集 のんのんびよりでいず
――レコーディングはZAQさんがディレクションしてくださったそうですね。
佐倉:そうなんです。レコーディングスタジオに行ったらZAQさん本人がいらっしゃって。事前に聞いていなかったので「え? ZAQさんがいる!」って驚きました。シリーズを通して、初めてディレクションをZAQさんがしてくださったんです。
ZAQさんってすごく褒めてくださるので、役者を乗せるのが上手なディレクションだなと思いました。お会いできて良かったですし、すごくポジティブな気持ちでスタジオを後にしましたね。
――多彩な楽曲を作られますし、ご自身も歌が上手いですし。
佐倉:すごいですよね! キャラクターソングにも興味を持ってくださっている方で、終わった後にはキャラクターソングをどういう風に捉えていて、どういう風に会得していったのかを話したりもしました。
やっぱりキャラクターソングって日本独特の文化じゃないですか。それが音楽業界でどう扱われているのかも個人的にはよくわからなかったので、そういうお話ができて嬉しかったです。
――ただ設定だけ読めばいいわけではないですし、難しいですよね。
佐倉:今回も歌詞がすごくよく出来ていて、ギミックもちゃんとあるんです。タイトルの「ただいま」が、Dパートの「ただ今を生きる」にかかっていたりして、すごくオシャレだなと思いました。
でも、ZAQさんに「めちゃめちゃいい歌詞ですね」と言ったら、「偶然できたやつです」「なんとなくこの歌詞を書きたいなと思ったら、偶然『ただいま』になっていた」とおっしゃっていたので、天才の所業だなと。
――エンディングテーマを第1期から続けて聴くのもいいなと思いました。
佐倉:そうなんですよ。リバイバルした音程(メロディ)をそのまま引っ張ってきていたり、作品全体を通して同じアーティストさんが作詞作曲をしてくれている意味が、ちゃんと発揮されていて。聴くたびに本当にいい曲たちだなと思います。
――ぜひフルで聴いてそういうところも感じてもらいたいですね。では、『のんのんびより』にちなんだ、田舎に関することもお聞きします。このご時世で田舎に移住してのリモートワークが注目されることもありますが、佐倉さんは田舎への思いに変化はありましたか?
佐倉:私は実家が東京なので、夏休みに田舎に帰ることが実感としてわからなくて、小さい頃は「夏休みに帰省するから東京にいない」ことが羨ましかったんです。そういう憧れはいまだにあるんですけど……虫が苦手なので、今まで田舎にあまり興味を示してこなかったんですね。
でも、東京にいなくてもできる仕事の人たちが新しい生き方を提案している記事や雑誌の特集などを読んで、いいなと思いました。自分もこの仕事をしていなかったら、こうした未来もあったのかなと思うと、例えば隠居した後にこういうセカンドライフもいいなとか。それに、いつか技術が進んで、もしかしたら現場にいなくても0.1秒のラグもなく、みんなで一緒に収録できるかもしれないですし。
――バーチャル技術も活用して、本当に隣にいる感覚で収録できるかもしれないですからね。
佐倉:それこそ5G回線が全国に普及した暁には、そんな未来が待っているかもしれないですよね。そうなったら、時代に適応した仕事のやり方をしてみるのはありかもしれないと考えさせられました。
――最後に、第8話以降も楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。
佐倉:今までずっと『のんのんびより』を追いかけてくださった皆さんは、変わらない『のんのんびより』と、ちょっと新しい風を感じていただけていると思います。それだけでなく、第3期で初めて『のんのんびより』を観た方、時間ができてアニメに触れる機会が増えたことで観た方もいるかもしれません。
『のんのんびより』はどのタイミングから第1期、第2期、劇場版に戻ってもらっても大丈夫な作品です。日常に疲れたときには、ぜひ観返したりしてもらえたら嬉しいなと思います。
[取材・文/千葉研一]