デザイナーが映画の衣装を手がけることは、決してめずらしくない。1980年公開の『アメリカン・ジゴロ』は、当時まだアメリカでは無名だったジョルジオ・アルマーニ(GIORGIO ARMANI)が衣装を担当した。リチャード・ギア演じるジュリアンのスタイルは、メンズ・ファッションに革命をもたらした。※前回の「80年代のトレンドが凝縮した『アメリカン・サイコ』」はこちら。
American Gigolo (1980): Richard Gere (as Julian Kaye)
Photo: Paramount Pictures/Photofest/AFLO『アメリカン・ジゴロ』(00)の主人公ジュリアンは、ビバリーヒルズの裕福なマダムたちを顧客とするジゴロだ。メルセデスのコンバーチブルを運転するオープニングで、彼が着ているのはリネンのジャケットと細いブラウンのネクタイ。それまでスーツといえばダークカラー一択だったアメリカの観客は、ベージュを中心としたアースカラーのスタイルに熱狂した。
American Gigolo (1980): Richard Gere
Photo: Paramount Pictures/Photofest/AFLO肩パッドなしのリネンのジャケットのてろんとしたシルエットは、その後に大流行した80年代を代表するエフォートレスなスタイル。ラフに見えるけれど、素材は全て高級品だ。監督のポール・シュレイダーは「『アメリカン・ジゴロ』は主人公についての物語じゃない。彼が着ているアルマーニが主役だ」と語ったことがあるほど。
AMERICAN GIGOLO, Richard Gere, 1980
Photo: Paramount/Everett Collectionジュリアンが自室で鼻歌を口ずさみながらスタイリングするシーンでは、クローゼットを埋め尽くすワードローブの数々が圧巻だ。今では当たり前の光景だが、40年前には男性が服選びに頭を悩ます姿は、それだけで新鮮だった。ブラックのタキシードからスーツ、そしてセンタープレスの入ったブルーデニムにシャツをインするカジュアルまで、あらゆるスタイルを着こなしたリチャード・ギアも、ジョルジオ・アルマーニ(GIORGIO ARMANI)と同様、この映画で大ブレイクを果たした。
映画はそもそもジョン・トラヴォルタ主演の企画で、彼のマネージャーがアルマーニを猛プッシュしたのが起用のきっかけだったが、トラヴォルタ降板後もアルマーニは残留。ちょうどアメリカで初のプレタポルテ・コレクションの発表を控え、映画を見て「欲しい!」と思ったら、すぐ入手できるというタイミングも周到だった。
Text: Yuki Tominaga