どんな日にも、颯爽とヒールで登場するスタイリストの仙波レナさん。あらゆるヒールを履きこなす彼女の秘密テクを、若手編集Nが徹底的に聞き込み調査しました。
編集N 連休ですっかり緩んだ体と気持ちにヒールで喝を入れたくて。ヒールといえば仙波さんしかいない! ということで、今週はその極意をお伺いできればと思います。
仙波 ヒールを攻略するための一番のポイントは、“慣れ”ですね。シンプルですが、それに尽きます。私の場合は好きでずっと履いているので、その経験値が大きいと思います。
編集N いきなり克服できるものではないということですね。仙波さんを見ているとヒールでも楽そうに見えるのに、なぜ自分に置き換えるとこうも辛いのか……。
仙波 とくにパンプスなどの場合、最初に履いて靴擦れするのは当然です。私でもそうですよ。何度か履いていくうちに克服できるものなのですが、その前に挫折してしまう方が多いんですよね。たった一度の靴擦れで諦めてはダメです!編集N スタートは皆同じということですね、いきなり丸一日履くのではなく、少しの時間から慣らしていくといいのかもしれませんね。
仙波 靴が少しずつ自分の足の形になっていくことをイメージするんです。ただ、どんなに頑張っても慣れない痛い靴があるのも事実。
編集N それはどんな要素が関係してくるんでしょうか?
仙波 素材でいうと、硬いエナメルやPVC、布素材などの伸びない素材は、馴染みにくいのでハードルが高いかもしれません。ビギナーには柔らかくて馴染みやすいスエードをおすすめします。カーフもいいですよ。編集N なるほど! そういった目安があると選びやすいですね。
仙波 そしてヒールに慣れていない人は、足首をしっかりホールドしてくれるストラップ付きから始めてみましょう。冨永愛ちゃんが履いているタイプも、ハイヒールでも見た目以上に快適に履けるタイプだと思います。あと足裏が痛くなるという方は、ある程度厚みのある底のものを選ぶのもポイントかもしれません!
ストラップ&プラットフォームはビギナー向け。
編集N 仙波さんのおっしゃるストラップ&厚みのあるソールというと、ニコ・パーカーやドリュー・バリモアが履いているプラットフォームタイプでしょうか? かなりヒールが高い印象ですが。
仙波 プラットフォームは傾斜がないので、見た目以上に快適に履けるんですよ。編集N そういえば、エディターの先輩も、このタイプのプラダ(PRADA)のプラットフォームシューズを履いているのですが、「走れる」と断言していました! こういったデザインは、足先と靴の当たる部分が比較的少ないことも疲れにくいポイントですよね。
仙波 そうですね。指が長かったり、扁平足だったりと、足の形は本当に人それぞれなので、誰にでもOKというマルチな靴は存在しないと私は思っていて。ヒールが高いか低いかだけが問題ではないんです。靴の安定性もあるし、自分の歩き方も癖も影響しますしね。パンプスはとくに自分に似合う木型を見つけるのが難しいと思うのですが、いろいろ履いて試して欲しいですね。
編集N 確かに! 私、キトゥンヒールのシューズを持っているのですが道に挟まるし、安定感がなくてグラグラしてしまって。こんなにヒールが低いのに、何で歩きにくいの? と思っていたんです。
仙波 履いているときに、足の重心がどこにかかるかが重要ですからね。そしてそれが自分に合っていることがポイントです。キトゥンヒールは、その点意外と難しいのも確かです。高さよりもバランス、そこを心得て欲しいですね。
仙波さんのベスト・パンプスをご紹介。
編集N ちなみに仙波さんにとってのベストヒールは何センチですか?
仙波 パンプスの場合は11cmですね。写真左の愛用しているジャンヴィト ロッシ(GIANVITO ROSSI)のパンプスがちょうどそれぐらいで。一般的には7〜8cmが目安だと思いますが、私はそれぐらいの高さだと走れてしまう。もはやフラットのような感覚ですね。
編集N …かっこいいです! 愛用パンプスのポイントについてもう少し詳しく教えてください。
仙波 ジャンヴィト ロッシ(GIANVITO ROSSI)のパンプスは、最初スエード素材のものを日本で買ったんです。ヒールはしっかりあるけれど、あまりにも履きやすくて……すごく自分の足の形にあっているのだと思います。パンプスの場合、甲が深くても擦れたりするので指の付け根が見えるぐらいの浅いものが私にはベスト。ヒールは横から見ても美しく見える、細めのものが好みです。その隣のメゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)も安定感があって履きやすいですよ。
編集N メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)のタビシリーズは、履きやすさに定評がありますよね。モード関係者の愛用率がすごく高い!
仙波 タビの形のおかげで、前に滑りすぎずに済むので疲れにくいんですよ! 本当に良くできた靴だと思います。
編集N ポインテッドトゥとラウンドトゥの違いはありますか?
仙波 それは一概には言えないですね。ポインテッドトゥって先の部分は余っているので、足指の付け根の部分がしっかりフィットしていればすごく楽です。逆にそこがフィットしてないとキツイかも。ラウンドトゥは楽そうに見えますが、木型次第では必ずしも足先が痛くならないというわけではないですし。
編集N 結局は自分の足型に合うかどうかが大事ということですね。
仙波 そうですね。このジャンヴィトもポインテッドトゥですが、すごく楽です。あまりにも気に入ったので、日本では取り扱いがなかったカーフ素材を海外に行ったタイミングで買い足してきました。最初は締め付け感があったのですが、履いているうちに馴染んできてカーフ素材のほうも今はとても快適に履いています。自分の足に合うブランドや型と出会ったら、素材や色違いで揃えて大人買いしておくのも手ですよ。
スリングバックは日本人にはややハードル高め?
編集N 先ほどストラップの話が出ましたが、私はスリングバックのパンプスにも憧れがあって。ただ今まで試したものはことごとく合わず、ストラップが浮いてミュール状態で歩く羽目に…。
仙波 一概には言えませんが、スリングバックは基本的に日本人向けじゃないんです。足袋の形を想像していただくとわかりやすいですが、私たち日本人は、かかとがないんですよ。でも欧米人の方はしっかりかかとに膨らみがあるから、ストラップがパチっとはまる。この差がすごく大きいです。
編集N なるほど…! だからいつも脱げてしまうんですね。腑に落ちました。
ヒール攻略への道は自分の足の形を知ることから。
編集N ここまでお話をお伺いしていて改めて実感しましたが、やはり自分の足に合うものを選ぶことが大前提ということですよね。そういえば、この間海外の友人が、なんで日本人は靴をカパカパさせている人が多いんだと驚いていました。
仙波 痛いのが嫌で大きめサイズを買う人が多いのかもしれませんね。スエードやレザーは基本的に伸びるものなので、少しキツめのサイズを買う方が良いかもしれません。
編集N いつもヒールを美しく履きこなすキャサリン妃もスエード率が高めですが、サイズはまさにジャストフィットといった感じですね。
仙波 そうですね! そして見極めが非常に難しいところではあるのですが、私は試着したとき、なくなる痛みか、そうでない痛みかを考えます。編集N その違いは何でしょう?
仙波 前者は何度か履いていくうちに素材が馴染んでフィットしていくもの。後者は骨などに変なアプローチがかかって歩き方が変になってしまい体に負担がかかるものを指します。靴の構造上、残念ながらいくら頑張っても無理なものはある。そういう場合は、いくらデザインが気に入ってもすっぱり諦めるのが私のルールですね。
編集N あと私、街で膝が少し曲がった状態で高いヒールを履いている人を見ると、ちょっと不安な気持ちになってしまうんですが…仙波さんはいつも綺麗に歩いてらっしゃいますよね?
仙波 ヒールは履き慣れていない人ほど前重心になってきてしまうので、かかとのほうに重心を置いて歩くのもポイントです。いくらきれいなパンプスを履いていても歩き方がきれいじゃないと台無しなので!
仙波さんのお気に入りシューズとメンテナス法。
ヒールの場合、地面と足の腹部分との接着面も歩きやすさに大きく左右します。イメージでいうと花魁の下駄のような足先が浮いているタイプは、上級者向けかもしれません。このプラダ(PRADA)のスエードシューズもヒールは高いけれども、ストラップ&接着面がしっかりとあるので見た目以上にとても快適。一日中履いても私は疲れません。
そしてお気に入りのブランド、ジャンヴィト ロッシ(GIANVITO ROSSI) は細ヒールでも安定感抜群。こうしてソックスとレイヤードして楽しむこともあります。最近はすごく可愛いソックスも増えているので、レイヤードもヒールの楽しみ方の一つですよね。私は基本的に中敷は入れないタイプなのですが、もし滑ってしまうのが気になるという方は、薄いシリコン製の部分的な中敷を入れるのがおすすめですよ。
最後にお話したいのは、お気に入りのシューズを長持ちさせるためにはメンテナンスが本当に重要だということ。日本は雨文化ということもあり、私は必ずどのシューズの底にも滑り止めはつけます。すり減ったら新しいものに取り替えるし、傷みやすいヒール部分も定期的にケアを。自分でも靴磨きはよくしますね。
そして職業柄、他人の靴を扱うことも多いので、匂いケアにもすごく気を遣います。消臭・防臭アイテムを駆使して足も靴もケアしますし、シューズの中も拭いてきれいな状態を保つように心がけています。
いくらきれいな格好をして新しいバッグを持っても、靴がきれいじゃないと、それだけで残念な感じになってしまうので、足もとこそ気合いを入れておしゃれしていただきたいです!
仙波 レナ
スタイリスト地曳いく子氏のアシスタント経て、独立。『VOGUE JAPAN』をはじめ、さまざまなモード誌や広告、CMなどで幅広く活躍。
Text: Asa Takeuchi Editor: Airi Nakano