アップルの「AirPods Pro」が発売され、早くも品切れ状態になっている。運良く10月30日の発売当日に購入できたため、1日じっくり使ってみたら、その真価が次第にわかってきた。
山本敦氏による速攻レビューでもお伝えしているとおり、AirPods Proは非常に完成度の高い製品だ。そのクオリティを伝えるためには、これまでのAirPodsや、他社製品と比べながら説明するのが最も分かりやすい。
ということで、つい先日、自腹購入レビューをお届けしたソニーの「WF-1000XM3」との違いを交えながら、AirPods Proがほかのイヤホンとどう違うのか、何が優れていて、欠点はどこにあるのか、順に説明していきたい。価格が近いこともあり、うってつけの比較対象だろう。なお本稿では、AirPods Proの全ての機能を網羅的に説明はしない。そちらは山本氏の記事をご参照頂きたい。
■AirPodsの手軽さとノイキャンの静寂を1台で両立
先日のWF-1000XM3のレビューで、ふだん通勤電車のなかでは「AirPods」(Proではない通常のオープン型モデル)をまずは装着しておき、少し良い音で聴きたいと思ったらWF-1000XM3に着け替えていると紹介した。
オープン型のAirPodsは、私の耳にはすごく良くフィットする。脱落はほとんど起きたことがないし、なおかつ着けたときのストレスもない。
しかもAirPodsは、外音がほぼそのまま飛び込んで来る。だから、音を聴く・聴かないにかかわらず、とりあえず電車に乗ったら着けておく。そうしておくと、ふいに動画を見たくなったり、音楽を聴きたくなったり、YouTube動画へのリンクをタップしたりした際などに、その都度イヤホンを探して装着する手間が省ける。
ただ、AirPodsは外音と聴きたい音が混じるため、騒がしい環境でじっくり聴きこむ用途には向いていない。そういうときに活躍するのがWF-1000XM3だ。ノイキャン効果が高く、音質も良いため、音楽や動画、ゲームの音に没頭できる。
今回の「AirPods Pro」のすごいところは、少し乱暴な言い方をすると、この「従来のAirPodsの装着のしやすさ+外音も聞こえる安心感」と、「ノイズキャンセリングによる没入感」を、1台で両立できている点にある。なぜ、そんなことが可能になるのだろうか。
■AirPodsの手軽さとノイキャンの静寂を1台で両立
AirPods Proはカナル型イヤホンである。カナル型イヤホンは、耳の穴にイヤーチップを押し込むというその性質上、外音がどうしてもマスクされてしまう。このため、着けたまま話したりするには、集音マイクで拾った音を再生する必要がある。
アップルが長年、EarPodsやAirPodsをオープン型としてきたのも、このカナル型イヤホンならではのデメリットと、気軽に着けられるカジュアルさを天秤に掛け、後者を選択したからだろう。
だがAirPods Proは、カナル型であるにも関わらず、これまでのAirPodsの感覚に近い開放感が得られる。それを可能にしているのが「外部音取り込みモード」だ。この外部音取り込みモードの仕上がりは、他社製品と比べものにならないほどのレベルに達している。
外部音取り込みモードを選択すると、カナル型イヤホンを着けていることが信じられないほど、周りの音がクリアに聞こえる。当然、着けたまま自然に周囲と会話することができる。驚くのは、自分の声や咳払いも、まるでイヤホンがあいだに存在しないかのように聞こえることだ。サーッというノイズは聞こえるものの、それ以外はイヤホンを外した状態とあまり変わらない。
どこまでいけるのだろうと、外部音取り込みモードオンでAirPods Proを装着しながら、日高屋でラーメンを食べてみた。普通のカナル型イヤホンなら、咀嚼音が頭の中に響いて、不快きわまりないシチュエーションだ。AirPods Proでも当然ながら、咀嚼音が頭の中で響くが、それほど不快ではないレベルに収まっていた。信じられない性能だ。
一方、ソニーのWF-1000XM3は、外音取り込み量を調整できるが、マックスの「20」にすると、周りの声や音はたしかに自然に聞こえてくるが、自分の声はくぐもってほとんど聞こえない。だから外音取り込みをしながら、周囲と自然に会話するのは困難だ。咳払いをしたり唾を飲み込んだりすると、その音も不快に響く。
この違いは、マイク性能やその音声を処理する能力もさることながら、イヤーチップの違いによるところも大きそうだ。ソニーのWF-1000XM3には複数の種類のイヤーチップが付属するが、いずれもかなり奥まで、ぐっと押し込むタイプ。それに対してAirPods Proのイヤーチップは、奥行きが半分程度しかない。あまり奥に押し込む必要はなく、これも装着時の圧迫感を軽減できている理由の一つだろう。
そのほか、風切り音の対策もAirPods Proの方が優れている。うちわで風を起こして実験したが、WF-1000XM3では風切り音ノイズが発生する強さで扇いでも、AirPods Proではまったくノイズが出なかった。
またAirPods Proにはベント(通気孔)が設けられており、「圧力を均一にする」とアップルは説明している。このベントも、「イヤホンを着けていない感覚」のために役立っていそうだ。
なお、このベントが奏功しているのか、ノイキャンをオンにして歩いているとき、着地した際の振動が頭の中に響かないのが、個人的にはとても気に入った。自分の歩き方が悪いのかもしれないが、WF-1000XM3では、普通に歩いていても頭の中をズンズンと音が響くのが気になっていたのだ。
■ノイキャンは「差」ではなく「違い」がある
さて、もうひとつのAirPods Proの大きな特徴は、ノイズキャンセリング機能だ。これは、かなり効果が高い。オフィスでも地下鉄でも試してみたが、ノイキャンをオンにすると、一瞬で喧噪が消え、静寂に包まれる。
ではそのノイズの消え方について、AirPods Proとノイキャン性能に定評のあるWF-1000XM3とで差があるかというと、どちらもハイレベルで、甲乙付けがたい。差というより、違いと言った方が正しいかもしれない。
WF-1000XM3は、かなり強力にノイズを消すのだが、それほど圧迫感を感じさせない。特定の周波数帯域を残すなどの工夫で、圧迫感を抑えているのだろう。ただし先ほども説明したように、深くまでイヤーチップを押し込んでいるため、物理的な圧迫感はある。だから長時間聴いていると疲れやすい。
一方のAirPods Proは、少しマイルドな効き具合で、たとえばバイクが近づく音、今こうしてキーボードを叩いている音などは、それほど強く消さない。だからか、ノイキャンをオンにして都心の道路を歩いても、あまり危険を感じなかった。その上で、ザワザワした喧噪など、消して欲しい雑音はしっかり消してくる、そんな印象だ。先ほど説明した装着感の良さもあいまって、長い時間聴いても疲れにくいのはAirPods Proだ。イヤホン自体が軽量であることも、この自然なフィーリングにつながっているはずだ。
どちらのノイキャンがよいかは好み次第だが、より万人にフィットし、様々なシチュエーションに無理なく対応できるのはAirPods Proではないだろうか。
■モードを自動切り替えできるソニー、手動切り替えのアップル
AirPods ProとWF-1000XM3は、ノイズキャンセリングと外音取り込みを切り替える際の考え方も大きく異なる。AirPods Proはあくまで手動で切り替えるのに対して、WF-1000XM3はレビューでもお伝えしたとおり、「Headphones」アプリと連携し、ユーザーの状況を自動判別し、それにあわせてモードを切り替える「アダプティブサウンドコントロール」を強く押し出している。もちろん手動で切り替えることもできる。
どちらが優れているかは、これこそ好み次第だ。いちいちモードを切り替えるのが面倒なので自動でやって欲しい、という方もいるだろうし、アダプティブサウンドコントロールのモード判別は完璧ではないので、いっそ自分が切り替えた方がよい、という方もいるだろう。一長一短なので、自分の性格や好みにあわせて判断しよう。
なお余談だが、AirPods Proのノイキャンモードと外部音取り込みモードは、Siriを使って、声で切り替えることもできる。意外と便利なので、買った方はぜひ試してみて欲しい。
■音質は明らかにソニーの方が良い
さて、音質の比較も行っておこう。AirPods Proはノイキャンのオン/オフくらいしか設定できないのでシンプルだが、WF-1000XM3はイヤーチップの種類、DSEE HXのオート/オフ、接続優先モードか音質優先モードか、など色々な要素が絡む。
今回はふだん使っているハイブリッドイヤーピースロング、DSEE HXオート、音質優先モードで聴いた。デバイスはiPhone 11 Pro Max、ストリーミングサービスにはAmazon Music HDを使った。
まず、WF-1000XM3でOfficial髭男dism「Pretender」を聴くと、解像感がありつつシルキーで、ハイレゾらしい広がり感が得られる。サビ部分のスピード感も申し分ない。低域の沈み込みもなかなかのものだ。
あいみょん「マリーゴールド」では、以前も書いたように、冒頭のギターのキレが良く、指使いまで見えるようだ。ボーカルにかかっているエフェクトまで聴き取れるほど、豊かな情報量がある。見事な仕上がりだ。
ここでAirPods Proに交換。WF-1000XM3と同音量程度(ボリュームレベルの半分より少し上程度)に調整して再生すると、少し物足りない。低域のリッチさがないし、もっと深く沈んで欲しいと思ってしまう。全体的に平板で、WF-1000XM3のような広がり感は得られない。
あいみょん「マリーゴールド」を聴くと、その差がさらに顕著となる。冒頭のギターはWF-1000XM3に比べて弱々しく、ボーカルもツルッとしていて情報量が明らかに乏しい。
単純に音質で比べるなら、明らかにソニーWF-1000XM3の方が良い。
■音が切れにくいのはAirPods Pro
続いて、音の途切れにくさをチェックする。最初に結論を述べると、AirPods Proに軍配が上がる。AirPods Proを着けて1日色々なところを歩き回って、切れたのは1回だけだった。それに対してWF-1000XM3は、特に音質優先モードにしていると、ターミナル駅では何度も音切れすることがある。
AirPods Proの接続性能は優秀だと思うが、一方でこの2-3年、通常のAirPodsを着けている際、ほとんど音切れを経験したことがなかった。だから1日の使用で、たとえ1回でも音が切れたというのは、逆に意外だった。こと音切れに関していうと、通常のAirPodsの方が性能がよいのかもしれない。
■AirPods Proになく残念な機能も
もうひとつ、WF-1000XM3にはあって、AirPods Proにはない便利な機能も挙げておこう。クイックアテンションモードだ。音楽を再生中、ボタンを長押しすると、音楽再生のボリュームがグッと下がり、同時に一時的に外音取り込みモードに切り替わる。急に話しかけられたときなどにすごく便利だ。
この機能がないAirPods Proでは、一旦再生を停止し、必要に応じて外部音取り込みモードに切り替えなければならない。そして用事が済んだら、再び再生をスタートさせ、ノイキャンモードに切り替える必要がある。面倒なことこの上ない。もちろん片側のイヤホンを一旦外すという方法もあるが、あまりスマートとはいえないし、頻繁に行うとイヤホンを下に落とす危険性が高まる。
一時的にヒアスルーモードにする機能は、ソニーだけではなく他社でもあるものなので、今後、AirPods Proでも同種の機能を追加して欲しいものだ。
もうひとつAirPodsに欲しかった機能は、声によるアナウンス機能だ。バッテリー残量やモードを音声で教えてくれたら、「いまどのモードだったっけ」などと考える必要がなくなる。これも他社では当たり前の機能なので、あえて採用しなかったのだろうが、あった方が安心、というユーザーは多いだろう。
そのほか、防水性能の有無、ケースサイズ、バッテリー持続時間など様々な違いがある。スペックは公式サイトで確認できるので割愛するが、ケースはAirPods Proが圧倒的に小さく、使いやすいことも付け加えておこう。
■どちらもハイレベルだが、異なる方向を目指している
アップル「AirPods Pro」とソニー「WF-1000XM3」、2つの人気モデルを比べてみた。使いやすさ重視でふだん使いのお供に選ぶならAirPods Pro、音質を最重視するならWF-1000XM3、というのが私の感想だが、途中で何度も述べたように、個々の好み、こだわりポイントの違いによっても変わってくる。
実際に試せる場所が近くにある方は、ぜひ比べて使ってみてほしい。2つの製品はどちらもハイレベルだが、異なる方向を目指しているということがよくわかるはずだ。