皆さんは「学術論文」を読んだことがあるでしょうか。
大学生や大学院生なら、自分の分野の論文は読んでいることでしょう。
情報が広く共有される現代でも、
「学術論文は専門家や研究者が読むもの」
「普通の市民は論文など読めない」
というイメージは今でもかなり強いように感じます。
私はこれを非常に「もったいない」と思っています。
実際には、「素人が専門の論文にアクセスする」ためのハードルは年々下がっているからです。
今や、素人でも「専門家が読んでいるのと同じ文献」をその気になれば読める時代になりました。
にもかかわらず「科学論文を読む素人」や「分野外の論文を読む学徒」が増えないのは、「論文の読み方」を大学以外でなかなか習えない、というのが一つの障壁になっているのかもしれません。
「論文の調べ方」「論文の読み方」に王道などありませんが、今回はあくまで私の例として、論文を探して読むためのハウツーを簡単にまとめました。
「その気になった人」にとっての小さな道標となれば幸いです。
論文検索ツールを押さえようまず、論文検索のために「データベース」と呼ばれるサービスがあります。
深く考えずに、「論文用の検索エンジン」くらいに思っておきましょう。
論文のデータベースにはいくつかメジャーなものがあります。
私が比較的よく使うものを紹介します。
・CiNii
https://ci.nii.ac.jp/
・PubMed
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/
・Ovid
http://www.ovid.com/site/index.jsp
・Web of Science
http://www.webofknowledge.com/
これも大学の契約ジャーナル次第。大学の図書館などで使い方をチェック。
このあたりでしょうか。
とはいえ、「よく分からないけど最初に何を使ったらいいの」状態の人も多いかと思います。
「迷ったらとにかくこれ!」的なオススメは何と言っても
・Google scholar
https://scholar.google.co.jp/
これです。何の捻りもないですが、やっぱりGoogleは強い。
私も馴染みのない分野の文献を探す時や、分野横断的に調べたい時は真っ先に頼ります。
使い方は簡単で、普通の検索エンジンの感覚で入力すれば
論文や学術書がヒットします。
日本語もありますが、圧倒的に英語が多いです。
(その感覚も検索してみると分かります)
Tipsはいくつかありますが、
覚えておくと便利なのは「引用元〇〇」という部分。
これは、「これだけの数の論文でこの論文が引用されました」という意味。
「引用元される回数が多ければ多いほど良い論文」というわけではありませんが、少なくともデタラメばかりで信頼性の低い論文が何百人もの専門家に引用されることは稀なので、そういった意味で一つの目安にはなります。
引用が非常に多い論文は、良い意味であれ悪い意味であれ、
その分野では「常識」の一つになっていると考えていいでしょう。
無料のものを活用しようあらゆる論文で必ず無料で読めるもの、それはAbstract。
馴染みのない分野で、「実験の結論だけ知りたい」なら
これだけでも十分だったりします。
Abstractだけで論文を概観するテクニックとして、こんな本もあります。
Amazonの商品ページより
「論文を読む予備知識ゼロ!」の方はここから入ってみては如何でしょう。
科学論文は分野によっては前提となる理論や数式が多いですが、
医学論文は疫学であれば比較的読みやすいものが多いのです。
医学は多分野の専門家が入り乱れているので、
「こんなことは書かなくても常識だよね」といった態度が通用しにくく、
かなり基本的な前提も明示的に記述されます。
このため、医学論文は科学論文の入り口として比較的易しいのです。
ちなみに、公立大学の図書館は一般向けに開放されていることが多く、大抵は在籍していなくても利用可能です。電子ジャーナルの利用も無料で可能なところがあるので重宝します。
Abstractに目を通してFull textを読みたいと思った論文をまとめてメモしておき、最寄りの大学図書館などを利用して閲覧(+印刷)するようにすると手間が少なくて済みますね。
オープンアクセスの論文も意外と多いもう一つ、「オープンアクセス」の論文誌も実は結構あります。
先程のGoogle Scholarのページからでも、
PDFへの直リンクが貼られていることがあります。
論文のタイトルをクリックしてもいいですが、
右の方に[PDF]と書いてあるリンクがあれば、直通でPDFを落とせます。
この赤線の部分をクリックするとPDFにいきなり飛べます。
同じ論文が複数のジャーナルで公開されている時、有料閲覧のサイトと無料閲覧可能なサイトが混在している場合があります。
それを判別するのが面倒な人は右側に論文への直リンクがあるものだけザーッと眺めれば良い、というわけ。
ただ、全ての論文検索をGoogle Scholarで行うわけではないので、場合によっては「フリーアクセス可能かどうか調べる」のに一手間かかる場合がありますね。
そんなオープンジャーナルを求めて彷徨う人向けにめちゃくちゃ便利なツールがあります。
Unpaywall
http://unpaywall.org/welcome
こちらはChrome用のプラグインです。
論文のページにアクセスした時、その論文が「どこかでフリーアクセスになっていれば」自動で探してきてくれるというものなんです。
「フリーアクセスになっているバージョンを自動で探してくる」だけなので、当然ながら違法ではありません。有料ジャーナルでしか掲載していないものはこのプラグインでも取ってこれません。
「無料でフルテキストにアクセスできるか」がどこでも一発で分かります。
また、ジャーナル(論文誌)そのものが全てオープンアクセスというのも近年増えています。
PLoS (Public Library of Science)は完全オープンアクセスなことで有名。
https://www.plos.org/
また、有名雑誌『Nature』の姉妹誌で、Nature Communicationsというオープンアクセス誌があります。
https://www.nature.com/ncomms/
また、数理系ではarXivが特に有名です。
https://arxiv.org/
情報の更新が一際速い情報科学分野などでは重宝されています。
他にも、一部をオープンアクセスにする論文誌は最近増えています。
ダウンロードした論文PDFの管理Unpaywallで無料版をダウンロードするにしろ、大学図書館でアクセスして保存するにしろ、(よほど古くない限り)論文のデータはPDF形式で保存することになるかと思います。
文献管理ソフトで有名なのは「EndNote」「Mendeley」「Zotero」あたりでしょうか。保存・管理ソフトは人によってまちまちです。
あくまでここでは私の方法を一例として紹介します。
私は「整理整頓」に時間を取られたくないので基本的に雑です。
昔の私は「筆者名_論文タイトル.pdf」というファイル名でジャンル名フォルダに入れて、探すときにはエクスプローラのファイル名検索で出してきていました。
(この方式でやりたい人は、MenedeleyのWeb版がいいかもしれません)
最近の私はこれの発展形(さらに怠惰化)として、「Evernoteに入れる」方式になりました。
「論文」のスタックを作って、何も考えずドカドカ入れていくだけ。
強みは何と言っても、検索機能でPDFの中の文章まで検索してくれることです。これが論文だとめちゃくちゃ心強い。「あれってどこに書いてあったっけ?」みたいなぼんやりした記憶からちゃんと論文に辿り着ける。
それに、勝手にPDFの中身で検索してくれるので、
ファイル名をいじる必要もないのです。
Evernote自体の使い方はググればいくらでも出てくるので詳述しませんが、基本的には「テキスト管理+軽いファイルのクラウド管理」が主用途の文書管理ソフトです。
その文書やファイルを階層化したフォルダ形式で管理できるのが強み。
まとめ流れとしては、
「Google Scholarなどで検索」
↓
「めぼしい文献を順にクリック」
↓
「Unpaywallで無料入手可能ならダウンロード」
↓
「有料文献ならAbstractと文献情報(タイトル、号など)だけ控えておく」
↓
「どうしても見たい有料文献は大学図書館などでまとめて閲覧」
↓
PDFはEvernoteに投げ込む
といった手順で情報収集をすると、なかなか捗るかと思います。
「日常の疑問を論文で解決するノウハウ」をいくつか紹介しました。
他にも色々と学術論文の活かし方や便利なツールがあるかもしれません。
何かオススメがある方は是非私にも教えてください。
★ひとことまとめまずは「Google Scholar」を(出来れば英語で)使ってみよう。
概要を知るだけなら無料で手に入るAbstractも十分に有力。
フリーアクセスの電子ジャーナルも増えている。
フリー論文探しの強い味方「Unpaywall」
PDF管理は中身も検索できる「Evernote」がオススメ