「なぜ、大学でスポーツをやるのか」
それを解き明かしたい、大学スポーツの意義に迫りたい、ずっとそう思ってきた。
須山選手をインタビュー対象に選んだのも、「2年の浪人生活という苦労を経て入った『東大』で、相撲というスポーツを選び打ち込んでいるなんて、きっと何か深い理由があるに違いない」という勝手な先入観からだった。恥ずかしながら、インタビュアーとしての私は、そんな先入観にがんじがらめになって、「なぜ、なぜ」を繰り返してしまったように思う。
しかし、何度聞いても、どんな聞き方をしても、須山選手の答えは一貫していた。
「相撲が好きだからです」。
「一浪で慶應入学→仮面浪人」の末、二浪めで東大へ
--とてもユニークな経歴をお持ちですよね。東京大学への合格にこだわった理由はあるのですか?
最初は大学でもきちんと勉強しようと思って、それなら東大がいいかなと。でも現役の時はダメで一浪して。一浪めも落ちてしまったんですけど、点数開示したら惜しかったので、諦めきれなくて二浪めに突入しました。
--二浪めの1年間は慶應義塾大学に通われていたと伺いました。
そうですね、大学にも通いつつ。結構大学生らしいこともしていました。サークルにも入っていて、遊んでばっかりでしたね。受験勉強に本腰を入れ始めたのは12月とか。そもそも慶應に入った時点で、東大をもう一回受けようとはあまり思っていなくて。でも夏ごろにオードリーの春日さんが東大受けるみたいなのが話題になっていたので、「俺も受けてみるか」みたいな(笑)。一浪めがあと0.02点とかで、本当に惜しかったので、もう一回くらいやってみてもいいかなあと。「受かったらいいな」くらいだったし、周りの友達にも言っていなくて、隠して遊んでいましたね。
--慶應では相撲部に入ろうとは思わなかったのですか?
調べはしたんですけど、練習場所が通うキャンパスから遠くてやめちゃいました。東大でも、もし格技場が本郷(キャンパス)にあったら、相撲部には入ってなかったかもしれないですね。
--では、大学進学前や浪人時代から「大学で相撲をやりたい」と思っていたわけではないのですね。
はい、そうです。入学してから、ふらっと(笑)。
「おもしろいから。これに尽きます。」--そもそも相撲に興味を持ったきっかけはありますか?
いちばん最初まで覚えていないけど、小さいころから、それこそ朝青龍のころからずっと見ていましたね。別に両親が好きだったとかではないんだけど、自然と興味は持っていたみたいです。
--ずっと相撲が好きだったということですが、見るだけでなく「自分でやってみよう」と思ったきっかけはありますか?
大学で何かやりたいなと思って、まあ相撲が好きだったので。軽い気持ちで見学に来てみたら面白そうだったので、入ってみようかなと。
--これまで他のスポーツ経験はありますか?
中学生の時は野球部だったくらいですね。高校では坊主にするのが嫌で、野球部には入りませんでした。
--最初は「勉強したい」というのが東京大学を目指す動機だったとのことですが、大学での勉強に関してはいかがですか?
もう専攻は相撲って感じですね(笑)。合格した直後は「去年1年間はたくさん遊んだし、そろそろちゃんと勉強しよう」と思ってたんですけど、相撲部と出会ってしまって…(笑)。
--なぜ、東京大学で過ごす4年間を相撲に懸けたいと思うようになったのですか?
やってみたらおもしろかったから、ですかね。先輩が丁寧に教えてくれて、相撲部は居心地がいいなって思ったのもあります。最初から「4年間懸けたい」みたいな強い気持ちを持っていたわけじゃなくて、「おもしろそうだしやってみようかな」くらいの気持ちで。もちろん今は、大学生活の中で必死に相撲に取り組みたいと思うようになりましたけどね。おもしろいから。これに尽きます。
--見ているのと実際に自分でやるのとでは、やはり違いますか?
全然違いますね。相撲って力勝負のイメージがあって、僕自身もそう思っていたんですけど、実際やってみると結構テクニックとか相手との駆け引きとか、奥深さを感じます。
--ちなみに、初めて相撲を取ったのは大学に入ってからですか?
はい、そうです。先輩から学んでいった感じです。
--部のホームページで戦績を拝見したのですが、入学後すぐに試合に出場されていましたね。
そうですね、入学してすぐだったので、相撲を初めて1か月とかでした。言われたときは僕もびっくりしました。「もう!?」って。
--実際に試合を経験してみていかがでしたか
その時体重が80キロないくらいだったんですけど、大会のパンフレットを見たら、相手が160キロって書いてあって。「倍じゃん」って慌てました(笑)。試合は普通に押し出されて負けてしまったんですけど。初戦はそんな感じでしたね。
--そこまで自分と比べて大きい人が相手となると、少なからず恐怖もありそうです。
最初聞いたときはビビったんですけど、土俵に立っちゃえばそんなに怖さは感じませんでしたね。冷静に考えたらすごい光景だったと思いますけどね。
--そのあと出場された東日本選手権の動画も拝見しました。ひとつ気になったのが、金髪で出場していましたよね。
当時は「スーパーサイヤ人だ」とか言ってふざけていましたね。周りの先輩には「お前まじか」みたいに笑われましたけど。
--大学生活4年間で相撲に取り組んだ後どのようになりたいかといった、卒業後のビジョンは現時点でありますか?
いま本当に相撲が楽しいので、力がついたら大相撲とかにも挑戦できたらいいなとは思いますね。現実問題、私立の強豪の選手とかにはかなわなくて難しいかなとは思うんですけど、何らかの形で相撲に関わっていけたらいいな、と思います。まだ相撲を初めて1年弱ですけど、軽い気持ちで始めたので、正直ここまで好きになるなんて思いませんでした。
--相撲の何がそこまで、須山選手にとって魅力的なのでしょうか。
相撲の特徴として「勝負は一瞬」なんですよね。本当に2秒3秒とか。その短い時間に神経と感覚を研ぎ澄まして集中して、全力を出し切るってところがおもしろいですね。
--大学生活の中で、相撲における目標はありますか?
国公立大会で個人・団体ともに1位になりたいです。あと、体重別の大会があるんですけど、それの100キロ級でも1位を取りたいなと。あとはインカレの個人戦でベスト32に入りたいと思っています。
何も持たず飾らない。その潔さがかっこいい。--相撲部の部員は、現在何人いますか?
選手は3人ですね。4年生3人が引退してしまうので、3年生1人と1年生2人で。団体戦は5人なので来年新人いれないと本当にまずいです。
--勧誘活動は普段から結構されていますか?
暇そうにしている人を見かけたらよく声をかけていますね。「俺相撲部なんだけど、相撲とかどう?」って。「相撲はちょっと…」みたいな反応をされることがほとんどですけど。
--そういった反応に対しては、どう思いますか?
まあ仕方ないかなあと。僕も相撲部に入る前は、ちょうど角界の不祥事もあったりして、理不尽とか怖いようなイメージもあったので。この部に関しては、もちろんそんなことないんですけど。でも、知らない人がそんなイメージを持ってしまうのは仕方ないかなあと…。
--今後部員を増やしていきたいと勧誘活動を行う上で、相撲部をブランディングしていく必要もあるかと思いますが、何か考えていることはありますか?
これはもう作戦があって。3人で話し合って決めていますね。大学から始めるスポーツって、例えばアメフトとか人気なんですけど、あれって少なからずモテたいとか思って始める人が多いと思うんですよね。だから相撲も、「相撲部はモテる」っていうのを前面に押し出していこうと思っています。ビラにも「モテる相撲部」って大々的に見出しをつけるつもりです。ビラなんて大量にもらうと思うんですけど、「モテる」って書いてあったら男は一瞬見ますよ。その一瞬が大事で、そこで相撲部があるって知ってもらうように仕向けていきたいです。
--実際は、どうでしょう(笑)
それは…これから頑張っていきます(笑)。この間の駒場祭の時は、ちゃんこのお店を出していたんですけど、物珍しさもあって「写真撮って」とかって言ってもらったりもして、結構楽しかったです。
--「相撲のここがかっこいい!」というポイントはありますか?
やっぱり、何も持たず飾らない、身ひとつ・裸一貫で戦うってところじゃないですかね。その潔さですね。もっと多くの人にこのかっこよさをわかってほしいですね。
--他大にない東大相撲部ならではの良さはどこにあると思いますか?
いわゆる強豪を見てると、上下関係がすごく厳しかったりするんですよね。下級生は雑用とか。でも、僕たちは人数が少ないのもあって、全然そんなことなくて。4年生の先輩をいじったりもしています。上下関係が全くないわけではないし、もちろん尊敬もしているんですけど、学年に関係なく和気あいあいとした雰囲気です。
――東大相撲部は広報も面白いですよね。入部者募集のホームページもユーモアがあって。Twitterの更新も反響を呼んでいます。
あれは2つ上の先輩が書いているんですけど、センスありますよね。
――須山選手個人のSNSでも、積極的に発信を行っていますね。
学内で「相撲部の人ですか?」って話しかけられたりするようにはなりましたね。それで部員が増えたとかじゃないのでなんとも言えませんが…。
――そういった発信にはどのような思いを込めていますか?
相撲が好きだから、思ったことを発信しているだけです。もちろん、それを見て「相撲かっこいいな」って思ってくれる人が一人でも多く、増えたらいいなとは思っています。
須山選手への取材を終えて、ふと「そもそもスポーツに夢中になることに『意義』など必要なのだろうか?」と思った。
スポーツに限らず、何かに夢中になって取り組む上で、楽しさだけで済まされるということは、決してない。真剣であればあるほどに、苦しいことや悔しいこと、思い通りにいかずもどかしいことは、自ずと増えるものだろう。
それでも、向き合い続ける原動力は「好き」「楽しい」という気持ちに他ならないと、須山選手への取材を通して気づかされた。
人間力を高める、仲間との絆を育む、困難に立ち向かい乗り越える経験を積む…。私たちは、スポーツ、特にアマチュアスポーツや学生スポーツというものに、何か高尚な意味づけをし過ぎているのかもしれない。
たしかに、選手や指導者が競技人生を通して得たものについて語るとき、1つの競技に人生をかけて取り組み、努力を重ねる人々の語る言葉だからこその重みがそこにはあるし、その実感は本物なのだろう。けれど、それはあくまで、スポーツに打ち込み続けてある境地に達した人々が「後付け」したものに過ぎないのであって、スポーツに取り組む「理由」にはならない。
どんな高尚な理由も偉い人の言葉も、「そのスポーツが好き」という純粋な気持ちに勝るものはない。そんなことに気づかされた取材だった。
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取材・執筆=久野映
編集=栗村智弘
写真・デザイン=高橋団
関連リンク
東大相撲部東京大学運動会相撲部ホームページdosukoi.net