吉野家 伊東正明氏が明かす、ヒット商品を生み出す「アイデア開発とフレームワーク」
ひらめきの裏側にある思考法
田岡 (前編は、こちら)今日お話をお伺いしていると、伊東さんは吉野家へ入社して以来、「ライザップ牛サラダ」で高たんぱく・低糖質の食事を食べたい人を取り込んだり、朝食やテイクアウトを訴求することで新たな利用シーンを開拓したり、いろいろなアイデアが次から次へと出ていますよね。どうすれば、そんなふうにできるんですか。

田岡 敬
エトヴォス 取締役 COOリクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。
伊東 アイデアを出すには、ずっとアンテナを張っているしかないと思っています。私の場合、吉野家の平日/休日・時間帯、そして立地別の客数、客単価などが頭に入っています。そして、どのタイミングでどの店舗へどんな客層に来てもらいたいのかを通勤している時も、どこかの店に行く時もずっと考えているわけです。
この、いつ、どこに、どんな人が来るのかというパターンの多さが「アンテナの数」です。だから、なぜできるのかと問われれば、たぶんアンテナの数が多いという答えになるでしょう。
そして、このパターンごとの戦略の精度が「アンテナの感度」。これを高めるためには、店舗の冷蔵庫にある食材や現場のスタッフの力など、吉野家ならではと言える強みやブランドイメージといったリソースを組み合わせることが必要です。これらによって、我われにできること、つまり成果につながるアイデアが見えてくるのです。

伊東正明
吉野家 常務取締役P&Gにてジョイ、アリエールなどのブランド再生や、グローバルファブリーズチームのマーケティング責任者をアメリカ・スイスにて担当。ヴァイスプレジデントとしてアジアパシフィックのホームケア、オーラルケア事業責任者、e-business責任者を歴任。2018年1月より独立、ビジネスコンサルタント。また、吉野家 常務取締役も務めている。
田岡 アンテナの数と感度というわけですね。
伊東 あとは、市場をどう捉えるか。そもそも市場分析をするときに、「人の1年間の食事回数が1095回」という話をしている人は、そう多くありません。
外食で働いている人の共通認識として“胃袋シェア”という言葉があり、ライバルはコンビニなどの中食だと言っている人はたくさんいます。ただ、日本人の外食の年間平均回数がだいたい100~140回だと調べて、食事が1095回あるので残りの約1000回伸ばせるから、“外食が入っていない可能性が高い胃袋はどこだ”というアンテナを立てている人は少ないんですよね。
田岡 外食を食べていない1000回の方が大きいし競争もない。だから、そちらを狙った方が、ROIが高いという実感はありますか。
伊東 はい。それをやらなければ、外食は潰れます。
田岡 そうしないと外食同士の泥沼戦争ですもんね。あとは、外食をしていない人たちが食べているものから、それらをリプレイスできるようなシーンやTPOを考えるわけですか。
伊東 そうです。たとえば、外食は家で調理し続けるよりもお金がかかるじゃないですか。でも、困っている人は、それにお金を支払っている。
アンテナを張ってから先は、そこまでロジカルな考え方があるわけでもないです。アンテナを張って、刺激をいろいろなところにぶつけていって、あとは大喜利するしかないんですよね。
田岡 大喜利というのは、お題の設定が大事ということですね。お題さえ設定されれば、大喜利のようにうんうん唸って考えれば、なんとか答えが出るということですね(編集部注:伊東さんは高校時代に落語研究会に所属)。
でも、最初はいわゆるTAM(Total Addressable Market)と言われている、市場にどれだけ余地があるか、そこからどんなお題を設定できるかから入るということですよね。そこは基本にしておかなければならないと。
アイデアとフレームワークは、どちらが先か?
田岡 先ほどから具体的なアイデアと、フレームワークと両方の話をされていますが、アイデアとフレームワーク、どちらを先に考えるんですか。
伊東 どうでしょう。7:3くらいでフレームワークから入っているかもしれません。簡単に言うと、まさに今日、田岡さんがインタビュー用に持ってきてくれたフレームワークのように、時間帯、店舗形態、新規既存顧客別、頻度アップ施策なのか単価アップ施策なのか、といった軸で考えていきます。

しかし、この表に唯一入っていないのが、「どういう顧客なのか」という人軸。外食は誰が、いつ、どこで、何を食べているかが大事なんですよ。例えば、表内の「生活圏内ビルイン」だと、平日夕方ご来店するお客さまには「今日は出来合いを買って帰りたい主婦」と、「会社帰りに晩ご飯をひとりで食べる男性」がいます。
前者が注文するのは「3人前でお得なテイクアウト・セット」、後者は「おかず2品のW定食で、ご飯おかわり無料」のように、同じ店・同じ時間帯でも異なる施策を用意することが必要です。

田岡 なるほど、マーケットから見ているんですね。アイデアとフレームワークの話で言うと、私は、アイデアが先なんですよ。アイデアを分解してフレームワーク化して、そこからもう一度アイデアを探しにいくという。

伊東 私もそのキャッチボールは、常にやっていますね。結局、考え方はパターン化していくんです。たとえば、外食回数1095回という考え方は、実はP&Gのファブリーズのときと同じ。使用回数を見て、どこまでターゲットを広げればよくて、その頻度はどうで、という考え方です。
飲食業では、新規を取るよりも来店頻度を上げる方が、実は圧倒的にビジネス効果が高いんです。なんといっても、お客さまは購入意思決定を1095回しているわけですから。
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もともと興味がない人を連れてくるのは大変ですが、1回の人を2回にすれば、それだけでビジネスは2倍になります。これは当時のファブリーズも一緒で、購入者数を増やすより、購入頻度・使用頻度を上げる方が大きかった。
ファブリーズのときに考えていた、たとえばキッチンやトイレ、車といったシーンを、人の食べるシーンに置き換えて、お母さんが食事を選ぶ権限を持っているときと、お父さんが一人のとき、子どものときというふうにマトリックスが頭の中に揃うと、まったく同じように考えることができるんです。
外食業はマーケターの天職?
田岡 P&Gのような大きなメーカーですと、新商品テストは、工場に商品をつくってもらったり、リサーチも綿密に行ったり時間が掛かりますよね。それが、外食では、すぐに自社の店舗で試作品をテストできます。そのスピードがマーケターの思考にも影響を与えると思っています。
伊東 もちろんです。このスピードの速さは、メーカーにいた人間からすると超ありがたいです。どちらかと言えば、吉野家は飲食業の中でも慎重に事を進める方ですが、それでも10~20店舗規模の実験が2カ月でできてしまいます。
田岡 私は常々、マーケターは外食業に向いていると思っているんですよ。足立さん(ナイアンティック シニアディレクター 足立光氏)もマクドナルドで大きな成果を出されましたし、伊東さんとP&G時代の同期である刀の森岡毅さんも丸亀製麺の支援で力を発揮されていますよね。

伊東 そう、それはありますね。そういう意味では、吉野家に入ってから消費者調査は、ほとんどしていないですね。なぜなら、やった方が早いから(笑)。それは、入社当初に河村社長から言われたことで、「本当にそうかな」と思っていたら、実際にそうでしたね。
伊東流、コミュニケーションのコツ
田岡 伊東さんは、上司や部下、取引先などとのコミュニケーションもすごくお上手なイメージです。何か大事にされていることはあるのですか。
伊東 参考になることと参考にならないことをひとつずつお話します。参考になることは、相手に説明するときにフレームワークと具体的な話の両方をすること。
要するに、具体的な施策だけを話しても、なぜうまくいったかが分からないけれど、いくつかの具体例をひとつのフレームワークに当てはめながら、これもこれもそうでしょと話すと、なるほどと理解してもらえる。それを、とにかくやっています。
まったく参考にならないのは、私が落語をしていたことですね(笑)。
落語は、頭を使わずに噺ができるようになるまで練習します。なので、お客さんに落語を披露しているときは、身体は落語をしていますが、頭はお客さんの顔をずっと見ているんです。そして、今日のお客さんにはこれがウケるから、あそこをこう変えようというふうに、話しながらずっと頭で計算しているんです。

田岡 反応から話を修正しながら、しゃべるんですね。
伊東 そうです。だから普通に誰かと話しているときにも、相手の目や表情から、今は理解してもらえていそう、興味持っていそうということを読み取りながら言い方を変えているんです。それは落語という部活動で練習したからできていることなんです。
吉野家の「未来の店舗」を考える
田岡 伊東さんのお話を伺っていると、いわゆる広告領域だけじゃなくて、メニュー開発や店舗オペレーションまで関わっていらっしゃると思うのですが、どういう優先順位でご自身の時間をマネジメントしていらっしゃるんですか。
伊東 一番時間を掛けているのは、売上と利益をつくることなので、全体戦略と商品企画ですね。もちろん店舗のオペレーションは企画のときにも考えますが、実行には関わっていません。

田岡 与件に入れておくということですか。
伊東 はい、それこそ「店舗の負荷を下げる」、あるいは「再現性を高めること」への研究は、私自身の中でもある程度のウェイトをもって考えています。省力化に向けた機械や画像認識技術の導入も実験を進めています。
田岡 伊東さんも「CES」(毎年1月に開催される、世界最大規模のコンシュマーテクノロジーに関するカンファレンス)に行く日が来ますね。
伊東 はい。今年は行きたかったのですが、「行こう」と思ったタイミングは、すでにスケジュールが埋まっていてダメだったんです。来年こそは行きたいと思っています。
田岡 では、伊東さんは吉野家の「未来のデジタル店舗」について考えていらっしゃるわけですね。
伊東 はい、そこはプロパーではなく、外からきた私が担うべき領域だと思っています。意味があるテクノロジーを発見して、それを吉野家に入れていきたいですね。
田岡氏 対談を終えて
P&G出身のマーケターの方のお話は、インスパイアされることが非常に多いですが、再現性という観点では伊東さんのお話が我われ凡人にとって一番実践的だと思います。再現性というのは、対象の業界や業態が変わっても通じるものでもあり、伊東さん以外の人がそのフレームワークを応用できるということです。アイデアが出る出ないは、残念ながら最後は得てして説明が不可能な領域ですが、どこにアンテナを立てるか、アイデアを考えるスコープをどう切るかには再現性があります。インパクトの大きい領域にフォーカスして考えられるようになるだけでも、アイデア創出のROIは飛躍的に高まります。

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外部リンク
カミングアウトすると、むしろ人気に? 若い世代ほどオタクに抵抗がない理由
1億総オタク社会も近い?若者の7割がオタクと公言
オタクが……増えている?
フジテレビ「めざましテレビ」の調査では街の7割がオタクと公言。また、ラクマの調査でも女子高生の8割がオタクにポジティブな印象があると述べ、「自分はオタク」と回答した人も8割にのぼったそうです。

参考:フリマアプリ「ラクマ」、急成長するカテゴリーの要因をひも解くため、女子高校生の意識調査を実施
参考:自ら公言する「オタク女子」が急増! どんな“オタ活”をしている?
昔はマイナーな存在で、「モテない・暗い・気持ち悪い」といったネガティヴなイメージがついていたオタクですが、今の若者にとっては「好きなものに情熱をかけて楽しく生きている人」くらいのポジティブなイメージに転換しています。

オタクの街と言われた秋葉原。
実際、私の周りでもオタクを公言する友人は多く、「ゲームオタク」「アイドルオタク」「演劇オタク」「美容オタク」など、熱中の対象はさまざまなジャンルにわたります。
そしてジャンルは違えど、「好きなものを追いかける者同士」という仲間意識から仲良くなりやすい傾向にあると感じています。
なぜ若い世代にとって、オタクのイメージは良くなり、マジョリティになっていったのか。その価値観の変化を探ります。
オタク≠ダサい。オタクかどうかは外見じゃなくて心で決めるもの
昔はオタクといえばチェックシャツにバンダナ、瓶ぞこメガネ、変な喋り方、非リア充といったダサいイメージが強く、中身よりも外見でオタクと判断されていました。

15年前に大ヒットした「電車男」。
オタクと公言すれば、相手から引かれたり蔑まれたりしてしまう時代。周りにオタクとバレないように暮らしていた「隠れオタク」も多かったのではないでしょうか。
しかし、最近では、リア充オタクの増加がテレビでも取り上げられたり、オタク=ダサいという描き方をしていた映画に対して、「古臭い」という意見がたくさん出ていたり。オタクといって想像される容姿は千差万別になりつつあります。

参考:マツコ・デラックスさん「オタクを特殊なものとする見方は完全に古い」
参考:増殖する「リア充なのにオタク」たちの実態
容姿端麗な人もいれば、ダサい人もいる。リア充もいれば、非リア充もいる。特殊でマイナーな人たちではなく、どこにでもいる普通な人。オタクという存在は、外見ではなく「メンタリティで語られる存在」になったのです。
敷居が下がったのはなぜ?0円でオタクになれるネット社会
オタクが増えたのは、間違いなくインターネットの影響でしょう。インターネットのおかげで、簡単に深い情報が手に入るため、ちょっとした興味が“沼化して”オタクになってしまった若者は多いはずです。
YouTubeではミュージックビデオが見放題。過去の動画も、探し放題。実況、解説動画が溢れているおかげで解説本を買ったり、自分で研究したりする必要もない。
SNSではコアファンが深い情報を分かりやすくおもしろく発信してくれているので、少し検索するだけでどんどん知識が増えていきます。「公式垢(アカウント)」を通して、タレントやアーティスト、作者などの言葉を直接見聞きできます。
さらに、動画配信サービスに入会すれば、遠征しなくてもアニメやコンサートがすぐに見られます。

昔は画像やインタビュー記事など、「推し(最も応援しているタレントやコンテンツ)」の資料ひとつを集めるのに、たくさんのお金や時間がかかりましたが、今は空き時間に検索するだけで簡単に、そして膨大な情報が手に入ります。
日本テレビ「ZIP!」で放映された「オタク特集」によると、オタクひとりあたりの年間消費額は10年で、10万円から2万5000円と4分の1に下がっているそうです。消費量は下がっても、オタク一人ひとりの知識量は昔と変わらないか、それ以上に増えているのではないでしょうか。
参考:「ZIP!」で「リア充オタク」特集 ネット上では様々な反応
さらに「にわかオタク」や「新規」という単語もメジャーになりました。たくさんの情報を仕入れて深みにハマった後に、コンサートやグッズなどで初めて大きなお金を落とすという人も多いでしょう。昔と違って今のアーティストやアイドルは、1円もお金を使ったことがない“にわかオタク”をたくさん抱えているはずです。
参考:『にわかファン』を歓迎するラグビーの空気感から学べる事
どれくらい夢中になったら、お金や時間をどれだけ使ったら、オタクを自称していいのいか。オタクの境界線はとても曖昧で自由なのです。時間を費やせば0円でもオタクになれるネット社会によって、オタクの敷居が下がり、オタクが量産されたのです。
好きなものがある人ってなんかいい。指原莉乃もオタクを公言して人気に
オタクが市民権を得たのは、タレントの影響力も大きいでしょう。
「あんなに可愛い、かっこいい人もオタクなんだ!」というイメージの転換に加え、タレントがオタクを公言することによって世間から共感と人気を集める様子を見て、オタクに対する偏見が薄れた人も多いはずです。
たとえば、元AKBの指原莉乃さん。

指原莉乃さんがジャケット写真「Love Story~私が笑顔になれる歌~ 編集」
今や女子の代弁者のような存在感で、バラエティタレントとして唯一無二の活躍をしている指原さんが、いちアイドルから抜け出せたのはオタクキャラがきっかけだったように思います。
彼女はアイドル大戦国時代のまだ売れていない頃、AKBに所属しながら他のアイドルグループのオタクであることを公言して、AKB以外のオタクからも好感や親近感を集める特殊な存在になりました。
自分もオタクだからオタク心理がわかる。そして複数のアイドルが集まるライブで司会を務めるようになり、持ち前のトーク力に磨きをかけていったことが、今のバラエティ番組での活躍につながっているように思います。
参考:指原莉乃が「けっこう目立って」いた“女オタ”時代を振り返る。「若くてかわいい女オタがいるぞって」
参考:指原莉乃「ハロヲタ時代は毎日掲示板で知らない人と喧嘩」
今は女子のアイドルオタクは珍しくない存在ですが、昔はアイドルオタクといえば男性で、しかも恋愛経験がなさそうな人といったネガティブなイメージでした。指原さんの例は、女性のアイドルオタクのイメージが改善されたきっかけのひとつでもあると思います。
ゲームオタクを公言する女優も登場。さらなる人気に
さらに、女優の本田翼さんもオタク像を変えたひとりではないでしょうか。
Dead by Daylight実況
モデルから女優になった彼女はおしゃれなイメージで活躍していましたが、ゲームオタクを公言してネット民からの共感や人気を集め、YouTube進出タレントとしてもいち早く地位を築きあげました。
女子がやるゲームといえば、「たまごっち」や「どうぶつの森」、「ポケモン」などがメインのようなイメージがありましたが、本田さんはホラーゲームなどのハードなゲームも実況したり、はまっていると公表したりししたことで、「ゲームをちゃんとやる可愛い女子も結構いるんだ!」という風に世間の印象を変えたように思います。
アナウンサーの田中みな実さんも美容オタクとして注目
アナウンサーの田中みな実さんが「ちょっとうざい女子アナキャラ」から「女子の憧れ、美のお手本ポジション」に変わったのも、美容オタクを公表したことがきっかけでした。

田中みな実1st写真集『Sincerely yours...』
芸能人に「美を保つためになにか気を使っていることはありますか?」と聞いても「特別なことは何もやってません」というふんわりとしたコメントしか返ってこないのが常でした。
しかし、彼女は「並並ならぬ美容への努力と知識、執着」を披露し、美容垢や整形垢から一気に共感を集めたのです。
参考:田中みな実「スキンケア初め」ですっぴん披露、ファン絶賛「貴重な写真!」
その他にも、山本彩さんやハライチ岩井さんなどがBL漫画好きを公言していたり、叶姉妹がプライベートでコミケに参加したり、山本美月や宇垣美里などがアニメ好きを公言してコスプレ写真を投稿したり、オタクを公言して新しい支持を集めているタレントはたくさんいます。
オタクを公言することによって、タレントのパーソナルな面により関心が集まり、見え方が変わる印象を受けます。ものすごい美人やイケメンでも親近感を感じられる点が、人気につながるのかもしれません。
若い世代の最大公約数的な幸福が「好きなものがあること」
オタクがポジティブなイメージになった要因のひとつとして、若者の価値観が大きく変化したことも挙げられます。
無理に努力してお金持ちやエリートを目指すのは疲れそう。トロフィーワイフも追い求めるのもなんか古い。他人に自慢するためのブランド物はかっこ悪い。
少子化と不景気で、お金も少なく夢も抱きにくい若者たちにとって、”等身大で叶えやすい私たちの幸せ”が趣味時間の充実なのだと思います。
「人によって幸せが違う」が当たり前になった今のご時世において唯一、多くの若者から見て、共通して幸せに思える理想像が「好きなものに熱中している」なのです。

原作、映画ともに大ヒットした「桐島、部活やめるってよ」。
カースト上位の菊池が、夢中になれるものを持っている
陰キャラ映画部を見て涙を流すシーンは印象的でした。
ヒットの陰にオタクあり?オタクの口コミは絶大な信頼。
マーケティング的な観点でもオタクの重要性は、日に日に大きなものになっています。
オタクの数が増えたことによって、さまざまなジャンルでオタクの消費額が拡大していることはもちろん、単純なお客さまとしてだけではなく、SNSを通して間接的に人々に影響を与える広告的な存在価値が出てきているのです。
なぜなら、オタクは言わば、そのジャンルの専門家。
その口コミの信頼性の高さは、ちょっとした著名人以上です。ジャンルによっては、有名タレントを使った広告を何度も打つよりも、熱量とユーモアを持った顔も知らないオタクの一度の投稿の方が、人々の消費行動を喚起することもあります。
最近では、ヒットする映画やドラマ、コンテンツのほとんどはオタクの口コミから生まれます。逆に言えば、どれだけ素敵な広告を打ってもオタクが否定的な口コミを広めてしまうと、あまりヒットせずに終わってしまうケースも起こります。
参考:『カメラを止めるな!』だけじゃない!口コミで爆発ヒット&上映館拡大した映画
また、美容業界でもオタクの影響力は顕著に表れています。
昔は容姿が美しい人やモテている人、憧れられている人の口コミこそ絶大でしたが、SNSで美容垢というジャンルがさかえたことで、顔も体型もわからないけど「とにかく美容の知識と執着がすごい人」、いわゆる美容オタクの発言力がとても強くなりました。
これによって、今までは人目に触れなかったような、ニッチな商品が大ヒットしています。例えば、美容感度が高い人ならば知らない人はいない「the ordinary」。

日本では発売されていないカナダのブランドなのですが、美容オタクが絶賛したのをきっかけに日本でも広まっていき、今や美容オタクでもない普通の女性や学生まで、わざわざ個人輸入して購入しているほどのヒット商品になっています。
参考:美容オタクがSNSで広めたthe ordinaryの血みどろピーリング
オタクの声がとても大きいSNS社会では、広告戦略でも、そのジャンルのオタクの心を掴むことが大切だと思います。
オタクを味方につけるが勝ち。インフルエンサーはキラキラ層だけではない
インフルエンサーと聞くと、キラキラした読者モデルのような若者たちを想像する人が多いと思いますが、今回紹介したように今やオタクもインフルエンサーの一部だと言えます。

icosha /Shutterstock.com
オタクが一般化し、SNSで影響力を持ちつつある今、オタクはコアでマイノリティな存在という昔のイメージにとらわれて軽視することは非常にもったいないことです。
そのジャンルについて詳しい人のインサイトを深掘りしたり、そのジャンルの魅力や奥深さを理解しようと勉強したり、視座を高めてオタクが喜び、味方になってくれるようなアイデアを出せたなら、予算があまりなくても世間に届くものになる可能性は充分にあります。
皆さんもオタクの心理を理解するために、まずは何かしらのオタクになってみるのもいいのではないでしょうか。
外部リンク
日本オムニチャネル協会が設立、会長はデジタルシフトウェーブ鈴木康弘氏。コロナ支援も開始
新型コロナ対策への支援も開始
一般社団法人日本オムニチャネル協会が4月16日設立された。店舗などの拠点を持つ日本企業のオムニチャネル化の促進が目的。会長には元セブン&アイ ホールディングス CIOで、現在は企業のデジタル化を支援するデジタルシフトウェーブ 代表取締役社長の鈴木康弘氏、専務理事にはecbeing 代表取締役の林雅也氏が就く。
主な活動内容としては、経営層向けセミナーや実務者向け研修、業務知識を体系化する場の運営、オムニチャネル白書の刊行などを行い、ネットと実店舗の融合に課題を持つ企業を支援していく。
また、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う自粛の影響が大きい店舗の現状を踏まえて、初年度無料プランをつくり、リモートワークなどのデジタル化の相談、EC・ライブコマース短期立上支援などを行っていく。

■アドバイザリーボード
・矢嶋 正明 ビームス 事業企画本部 コミュニティデザイン部 部長
・川添 隆 ECエバンジェリスト(ビジョナリーホールディングス 執行役員)
・藤井 創一 日本マイクロソフト 流通業施策 担当部長
・植野 大輔 DX Japan代表(元 ファミリーマート デジタル戦略部長)
・小橋 重信 リンクス代表(元 オーティーエス 執行役員)
・渡部 弘毅 ISラボ代表(元 日本テレネット 所長、日本IBM シニアコンサルタント)
・岸良 征彦 日本Web協会 専務理事
■推進ボード
・逸見 光次郎 オムニチャネルコンサルタント(元 キタムラ執行役員/EC事業部長)
・喜多 宏介 フィードフォース 取締役
・宮田 ひろ コンサルタント(元 ベルクEC担当マネージャー)

日本オムニチャネル協会 会長
(デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長)
鈴木康弘 氏
外部リンク
新型コロナ 緊急事態宣言が発令、初のオンライン取材で考えたこと
在宅勤務で、働き方が大きく変わる?
私の連載「関西発・地方創生とマーケティング」で、ダイキン工業で宣伝プロモーションを統括している片山義丈さんにお話を聞こうと、日程を決めて「さあ明日!」という日に緊急事態宣言が発令され、やむなく延期。ところが間髪を入れずに、片山さんと担当編集さんからオンラインでやりましょう、と。
それで土曜日の朝、編集さんから送られてきたURLにアクセスするも、なぜか私だけ接続できず・・・。結局、Facebookのメッセンジャーで3人をつなぎましたが、途中で音声が途切れたり、タイミングが遅れたり、若干のやりづらさはありました。それでも休日に外に出ず、ラフな格好で取材できるのは、やはり楽ですね。
そこで今回は時節柄、コロナに関する周辺の動向と、今後のマーケティングの可能性について考えてみることにしました(片山さんへの取材記事は、少しお待ちください)。
さて、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、働き方が変わった人も大勢いるでしょう。特に、緊急事態宣言が発令された都市では有無を言わせず、そしてほぼ何の対策も出来ないままに在宅勤務を始めた人も少なくはないはずです。

とにかく政府が示す「人との接触の8割減」を実現するためには、計算上は週1回程度の出勤に留める必要があります。上司も部下も手探り状態。在宅勤務の日は、とりあえず朝夕に上司に連絡を入れる。でも、人によってその内容が違うんですよね。
「今から仕事を始めます」「今日の業務を終了します」とだけ連絡をくれる人もいれば、きちんと朝は「今日のタスク」、夕方は「具体的な実施内容と達成度、明日の予定」を報告してくる人まで。これは、これで面白いですね。
片山さんいわく、「在宅勤務になると、部下がきちんと仕事しているのか分からないから困る、と言う人がいるけど、そもそもそんな人は普段、目の前に座っている部下の仕事さえ把握できているのか甚だ疑問だ」と、おっしゃっていました。その考え、すごく分かります。
ただ、全ての業務が在宅で出来るわけではありません。例えば、私が勤務するホテル事業は、スタッフがお客さまに面と向かってサービスを提供するので、全従業員を在宅に切り替えることは出来ません。
多くの同僚がリアルな場所で働いている中では、在宅勤務がしづらい面もあります。また、バックオフィス部門でも、例えばクラスターの発生が不安視されるレストランのブッフェや、ホテル内に併設するスポーツジムの営業方針を決定するという仕事もあり、なかなか在宅に切り替えづらい環境にいるのも事実です。
でも、一部の業務は、工夫すれば(その気にさえなれば?)可能なのでしょう。よくよく考えてみれば、そうした方針もグループ内の各ホテルと電話やメールをしながら決めているため、そもそもリモートしているとも言えます。
一方で、みんなで集まって議論する方が早かったり、リアルな場で議論し合うことから生まれる空気で議論の流れが変わったり、やはり顔を合わせた打ち合わせも効果的であるのも確かです。

オンラインのデメリットとして感じるのは、テレビ中継でスタジオとロケ先とのやり取りが不自然にずれるように、どうしても時間差が出てコミュニケーションしづらいという点でしょうか。
ただ、これも先日NTTの方と話をしていたのですが、今後5Gや6Gと技術が進化するにつれて解消されていくでしょうし、そもそも慣れの問題なのかもしれません。現に片山さんのチームでは、会社内でも特にリモートワークが進んでいて、現状は大きな問題なく仕事が出来ているようです。
在宅勤務で、ビジネスモデルが変わる?
何はともあれ、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、仕事の仕方や世の中の仕組みが劇的にとまでは言わないまでも、変わっていくのは間違いないでしょう。
近鉄グループの鉄道事業に例えると、人の移動が減ると、当然ですが電車の利用も減ります。しかし、過去から現在まで人の移動手段を振り返ると、馬・船・汽車(電車)・自動車・飛行機と新しい乗り物が生まれつつも、それぞれが消えることなく進化しながら共存しています(馬は移動とは違う別の価値に転換しているかもしれませんが・・・)。

観光特急「しまかぜ」
鉄道は100年前に出来たビジネスモデルがあまりに良く出来ていたがゆえに、つい最近までは利用者を増やすための努力は必要がない面もありました。ですが、さすがに人口構成の変化でそうもいかなくなり、今回のコロナ騒動を機にますます人の移動が減ると、もっとマーケティングの力が必要になります。
加えて不動産、レジャー、リテールなど鉄道グループのポートフォリオの見直しも必要になってくると思います。そこに今後のマーケターの活躍の場があるはずです。
また、先日のアジェンダノートの緊急アンケートの結果を見ても分かるように、出社している人がパートナー企業では1割を切るのに対して、ブランド企業では4割を超えています。
これは緊急事態宣言が出される前の回答なので、おそらく両者ともその割合は下がっているはずですが、在宅勤務の支援というサービスをとってもオンラインを得意とするパートナー企業の活躍の場が増えると思われます。
それと、もうひとつ。オンライン環境がさらに整い、オンラインでの仕事が普通になれば、東京と大阪の距離の問題が解消され、例えば、東京のパートナー企業は東京にいながらにして、大阪をはじめ全国のクライアントを獲得出来るチャンスになるのではないでしょうか。
色々と大変ですが、個人的にはある意味いい機会だと捉えています。よく言われることですが、ピンチはチャンス。そして、いつか事態が収束する日に向けて最大限の注意を払いながらも、今だからこそ自宅でゆっくり反転攻勢策を考えるのも悪くはないでしょう。
皆さま、くれぐれも気をつけて、また近いうちにオフラインでお会いできる日を楽しみにしています。次回は、ダイキン工業の片山さんのインタビューをお届けします。
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「キャリアは計画された偶然」米国・空軍ROTC生が電通でクリエーターになるまで
米国職業軍人になるための訓練を受けた大学時代
教室のスクリーンで垂直方向に離陸する軍用機を見ながら、「世間一般が騒いているUFOはこのことだよ」と、少しふざけた笑みを浮かべる大尉の一言は、今でも鮮明に覚えている。
「Integrity first, Service before self, Excellence in all we do.」(誠実第一、自己より奉仕優先、完璧を目指す)
空軍のコアバリューが脳裏に焼きついて離れないほど、当時は職業軍人を育成するアメリカ空軍ROTCで訓練を受けていた。

今でこそ、電通でクリエーティブ・プランナーとして、事業開発や最新技術を用いたクリエーティブ設計の仕事をしているが、もともとはクリエーティブとは、ほど遠い存在だった。
そんな職業軍人を目指していた私がなぜ電通で働くことになったのか。多くのマーケティングやクリエーティブを仕事にしている若手社会人にとっても参考になる考え方があると思い、今回は前編で私のキャリアを紹介しながら、いかに戦略的にキャリア形成していくことが大事かを話したいと思う。
また、後編では、私が考える「切り株理論/Stump-Buzz Model」を紹介しながら、激動(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、不透明性(Ambiguity)であるUVCA時代や通年採用が今まで以上に活性化する中で、個々と企業価値を高めているためには、何を注力すれば良いかを話していきたいと思う。
私は、現在は電通でクリエーティブ職の仕事をしており、最新テクノロジーを用いたクリエーティブ設計や広告コピー、さらには事業開発やコンサルも行っている。
日々の仕事で培ったノウハウを学生用に就活での領域でも使って欲しいと思い、「通年採用時代の就活デザイン」(白桃書房)という就活でのセルフ・ブランディング論の本を出したことで、僭越ながらキャリアの面からも注目を集めることになった。
軍事から民間へ「次世代の成長産業を探し求めて」
私がアメリカ空軍ROTCで訓練を受けていた2009年は、今ほどSNSやIoTが普及していなかったが、IT(サイバースペース)が陸、海、空、宇宙に次ぐ第5の戦場になることは早々に言われていた。
であれば、民間にデジタルの波が来ることはそれなりに推測でき、私は職業軍人の道ではなく、ビジネスの領域に身を置こうと思った。
ただ、デジタルの波が来ると想像できても何がどうなるのか。ましてや広告業界が今のようにデジタル化され、メディアの概念がこれほどまで変わるとは当然ながら分からなかった。
当時は、「PPM分析」も行った。アプリケーション層のIT産業は、成長への期待はあるものの、全体のシェアがまだ無かったため、「金のなる木」でも「スター事業」でも無く、ただの「未知なる領域」でしかなかった。

そう考えたとき、将来の情勢に臨機応変に対応できるIT領域に身を置いて、状況を観察しながらキャリアを積めば良いのではないかと思い、まずは大手通信事業の会社に就職することにした。
その理由は、IT領域自体がインフラ基盤(ネット回線、光ファイバーなど)、システム(サーバー、iOSなど)、アプリ(一般的なアプリケーション層、プラットフォームなど)と、ざっくり分けると3つになっており、インフラ基盤を事業にしている通信事業ならば、市成長性は見込めないが、市場での占有率は十分にあるため、アプリやシステムが成長した段階で転職をすれば、異業種でも通用すると考えたからだ。
なぜ日本企業だったかと言うと、日本企業にはまったく業務経験のない学生を採用する「新卒一括採用」というシステムがあるからだ(プロフェッショナル人材育成の観点から言えば、通年採用の方がいろいろメリットはあるが)。
そんな風に、学生から社会人になるときにも、戦略的にキャリア形成について考えたのだった。
キャリアのほとんどは「計画された偶発性」で成り立つ
そんな経緯もあり、人生の1社目で通信事業の営業に配属されたのだが、私はマーケティング、強いてはクリエーティブでのキャリアの重要性に気づいたのも社会人1年目だった。
当時、新規で大手不動産企業のネットワーク基盤のコンペがあり、競合他社の提示価格はこちら側の2割以上も安かった。ネットワーク基盤の場合、設備事業なので提供するサービスの質にそこまで差別化が出来るものではないため、付加価値による差別化が難しい。
そこで私はクライアントをインフラ基盤設備の見学ツアーに招待し、実物を見ながらこちらが提示するプロダクトやサービスに対する「思い入れ」を構築していく戦略に転じた。
その結果、めでたく数億円規模の案件を新卒1年目で受注することが出来た上に、私自身もクライアントの「思い入れ」という付加価値(ブランド力)やそれを訴求するクリエーティビティの重要性を認識することになった。

この経験はスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が唱えた「計画された偶発性理論/Planed Happenstance Theory」に基づいていると言える。
これはキャリア形成において有名な理論で、「個々のキャリアの8割は予想できない偶発的なことで決定される」というもので、その偶然をいかに計画し、自分のキャリア形成を良い方向に持っていけるかというものだ。
一見、「偶然」と「計画」はまったく違う単語だが、クランボルツ教授は「いかに偶然を計画できるか」ということの重要性を論じている。
よく講演などで「アーロンさんは自分のキャリアをどう計画されたのですか?」という質問を受けるが、これは未来予想と同じで、自分自身のキャリアを意図的に積み上げていくことは、未来から来た人でない限り不可能なのだ。さらにデジタル化が時々刻々と進む今日の社会では、計画的にキャリア形成をすることは非現実的以外の何ものでもない。
では、何が「計画された偶発性」なのかというと、予想できない未来をただ単に待つのではなく、自らつくり出せるように積極的に行動し、時代の流れに神経を研ぎ澄まし、「偶然を計画的に変化させてチャンス(機会)にする」という考えなのだ。
そのため、クランボルツ教授は好奇心、持続性、楽観性、柔軟性、冒険心の5つの行動方針を提唱している。

私の例で言えば、絶望的だった案件で価格競争ではなく、今の時代に必要なインフラという概念を再定義し、ポジティブな考えでクライアントをインフラ基盤設備の見学ツアーに招待したことで、継続的な関係を築けたといったところだろう。
そこから「思い入れ」から成る付加価値(ブランド力)やそれを訴求するクリエーティビティの重要性を認識し、社会人3年目で大手メーカーに転職した。
ちょうど時期的に「電力自由化改革」への規制緩和の最中で、電力会社がユーザーの獲得を気にしなくてはならなくなった時期、私はライフステージでの消費者購買行動での適切な広告掲載に関するデータ事業の担当(システムレイヤー/サーバー、iOSなど)を経て、その後、メガベンチャーに転職し、本格的にデジタル広告やコンテンツ事業(アプリ/一般的なアプリケーション層、プラットフォームなど)の経験を積んでいった。
この段階でようやくIT領域の全領域をある程度経験したので、3社目のメガベンチャーで「成長産業に注力すべきだ」という概念をもとに「事業開発」と「クリエーティビティ」を自身の柱にしようと思ったのだ。
そこで外資ベンチャーの顧問兼ディレクターを経て、電通に入社したのがこれまでの私のキャリア形成だ。
キャリアの構築は、情報社会の次の時代へ
これまでの人類の歴史を見ると、狩猟社会(Society1.0)に始まり、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、そしてITの登場で瞬時に情報共有が可能な情報社会(Society4.0)となった。
これからはSociety5.0のようなIoTで仮想空間と現実空間を連携し、モノや情報、ヒトが一つに繋がる時代が、AIなどの活用により訪れる。
ビジネスの境界線もどんどん曖昧になってくる。その中で一番重要なことは、どの領域のどこに価値を見出すかだと考えている。それがビジネスパーソンとしての価値にも繋がるということだ。
だから私はその価値を見出すアイデアである「クリエーティビティ」とそれを利益化していける「事業開発」を自身のキャリア形成として取り入れている。もちろんこの2つの追及には「計画された偶発性」での5つの要素が不可欠なのは言うまでもない。
職業軍人育成部隊という全く違う国の違う領域にいた自分が、今日のキャリアに至るまで、いろいろな経験や時代の変化があったと思うが、ただひとつ一貫して言えることは、「成長産業と計画された偶発性という機会を模索し続けた結果」だと言える。
そして今、私が辿り着いた広告業界は変化期に直面している。
今まで積んできたテクノロジーの経験で、「次世代の広告業」という未知なる領域を新しい世界に持っていけるか。だからこそ、毎日の仕事がすごく刺激的で、もがき楽しみながら、活動出来ているのだと思う。
※後編「切り株理論/Stump-Buzz Model」に続く
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数々の広告賞を受賞した、高崎市「絶メシリスト」から見える“差別化を超えた地平”
私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介し、その分析に努めていますが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、その上でその意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかを考えていこうと思います。実際、日本で話題になった事例の中には、海外のトレンドの延長線上にあるものが少なからず存在しています。今回は、その第4回です。
数々の広告賞を受賞した “差別化”を超えた施策
今回、取り上げるのは、高崎市の地域活性化施策「絶メシリスト」。数々の広告賞を受賞し、現在ではテレビドラマ化までされている事例です。

絶やすな!絶品高崎グルメ 絶メシリスト
「絶メシリスト」は、店主の高年齢化や後継ぎ問題などで、時代とともに次々となくなっている“絶やすには惜しい絶品グルメ=「絶メシ」”にフォーカスを当てた、群馬県高崎市のローカル特化型グルメ情報サイトです。
オムライスにホワイトソースがかかっている「白い恋人」(からさき食堂)やラム肉に大量のすりおろしニンニクを絡めて炭火で網焼きにするだけの「バクダン」(山木屋)などが、レシピとともに紹介されています。
さらに店主の高齢化に対応する“後継者求む”や、読者からの情報を募る“タレコミ求む”などのページも用意して、人気のサイトになりました。
2018年ACC賞マーケティング・エフェクティブネス部門グランプリや2019年カンヌライオンズのメディア部門ブロンズも受賞し、その後さらに広がりを見せ、テレビドラマ化され2020年3月現在、毎週深夜に放映されています。
テレビCM総集編
この事例で筆者が気になったのは、「絶メシリスト」にあるようなお店は、何も高崎市に限ったものではないということです。広告表現の基本中の基本と言われているのがUSP(ユニーク・セリング・プロポジション)で、「他では言えない売り込みの効く主張」と訳されます。
もっと簡単な言い方だと「差別化」となり、競合商品や競合サービスとは異なる点を取り上げようとするのが鉄則です。例えば、あちらのお茶がスッキリしているのならばこちらはマッタリ、商品Aが王道であれば、商品Bは挑戦者を打ち出すといった具合に。
PR動画
ある学会イベントで、この施策を手がけた広告会社の人が話していたのですが、アイデアを採用するかどうかという時に、そのことは議論になったそうです。しかし市長は「他の自治体でも言えること、だからこそ我われが先陣を切って手掛けることに意味がある」といった趣旨の発言とともに、採用を決めたと言います。
さらに市長は、「日本全国の地方都市が同じように困っている問題だから、絶メシがうまくいったら他の街でもやったらいい」とも述べ、実際にその後、石川県や柳川市にも絶メシリストの活動が拡がっています。
海外事例にも見られる、先陣を切って問題を発信する型
カンヌライオンズ2019の受賞作の中にも、この“先陣を切って、競合も抱える共通の問題を発信”した話題作があります。
それは、自動車会社VOLVOによる「E.V.A.プロジェクト」です。クリエイティブ・ストラテジー部門グランプリをはじめ多くの賞を受賞しました。
この事例によれば、現状、多くの自動車メーカーでは、男性の衝突実験用ダミーを使った実験データに基づいてクルマが設計されているとのこと。そうしたことから、女性がむち打ち症になるリスクは、男性と比べて高くなっているそうです。
また、女性の場合、胸部の骨格や強度の違いから、自動車事故の際に胸部に怪我を負うリスクが男性よりも高くなると言います。こうしたデータも活用し、ボルボは最適な保護機能を目指し、受ける衝撃を最小限に抑えるようなクルマの構造やシートベルト、サイド・エアバッグの開発を重ねてきたそうです。
E.V.A.プロジェクトの事例は、こちらでもご覧いただけます。
事例ビデオ
このようにボルボは40年にわたって、実験の際も男女平等になるようデータを収集しているのですが、その長年の研究結果を誰でもダウンロードできるようにしました。それが、E.V.A.(Equal Vehicles for All)プロジェクトです。
“あらゆるクルマがより安全になることを願って”、自社のUSPや差別化ポイントの源となり得る情報を、競合他社にも公開したわけです。
もちろん、そのことによって、ボルボには良い評判が得られるというメリットがあります。「安全なクルマ社会をリードするボルボ」というイメージの獲得が期待できるわけです。
参考:ボルボ日本のWebサイト
本当に生活者が望んでいるのは何か
50年以上にわたって広告界の基本中の基本として考えられているUSPや差別化。しかし、社会や商品が成熟してくると、実際に有効なUSPの発見は困難になり、むしろ「生活者側は特に望んでもいない差別化ポイント」が横行する傾向があります。
そんな中で、先陣を切って「皆が言えること」「競合他社にとっても必要なこと」、そして「生活者にとって本当に必要なこと」を表明することが重要な方法論となり得るのではないでしょうか。
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「ECの専門家」という肩書を、なぜ手放したのか。ディノス・セシール CECO 石川森生氏
デジタル領域を出自としながら、DMなどリアルな手法をデジタルと組み合わせ、昨年は全日本DM大賞のグランプリを受賞するなど成果を出しているディノス・セシール CECO 石川森生氏。前編に続き、EC業界から、あえてカタログを強みにする通販会社に飛び込んだ背景に迫りました。
「意味のないEC」を「意味のあるもの」に変える挑戦
徳力 (前編は、こちら)失礼な言い方かもしれませんが、石川さんが経営者まで経験された後、ディノス・セシールに加わったことを不思議に思う人は少なくないんじゃないかと思います。
当時のディノス・セシールは、まだそこまでデジタル化が進んでいなかったでしょうし、私からすると、せっかくECでの経験を積んだのに、すごく大変なところに踏み込んだように見えたんですよね。
石川 当社の通販ブランドである「ディノス」も「セシール」も1990年代からECサイトを運営していたので、インターネットの歴史は長いのですが、あくまで受注ツールでしかなかったので、本当にECビジネスをしていたかと問われたら、おそらくそうではなかったですね。

石川 森生
ディノス・セシール CECO(Chief e-Commerce Officer)新卒でSBIホールディングス入社。SBIナビ(現・ナビプラス)の立ち上げに参画、営業統括の責務を担う。その後、ファッション通販サイトのマガシークにてマーケティング部門の責任者、製菓製パン向けECサイトcottaを運営する株式会社TUKURU代表取締役社長を歴任。イントレプレナーとして常に企業の課題解決に従事。2016年2月、株式会社ディノス・セシールでCECO(Chief e-Commerce Officer)に就任。同年7月よりEC本部を組織。既存の枠組みを超える、サスティナブルなECビジネスを構築するというミッションを実践している。
徳力 それの、どこにおもしろさを感じたんですか。
石川 逆に言うと、Eコマース単体にそれほど価値がないからですよね。
徳力 それは前職までの経験で、ECしかない事業はつまらないと感じていたということですか。

徳力基彦
アジャイルメディア・ネットワーク アンバサダー・ブロガー /ピースオブケイク note
プロデューサーNTTやIT系コンサルティングファームなどを経て、 2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視する アプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より取締役。2019年6月末で退任、7月から現職。同月 ピースオブケイク noteプロデューサー/ブロガーにも就任。
石川 いえ、面白いんですけど、価値がないんです。日本のEC化率を見れば分かりますよね。小売全体の10%にもいっていません。「ECのスペシャリスト」と言われてチヤホヤされていても、それがこの先も続かないことは、少なくとも2013年の後半頃から分かっていました。
徳力 ECビジネスに限界を感じたのは、マガシークでファッション通販サイトのマーケティング部長をされていた頃ですか。
石川 いえ、SBIで社会人になった当初から感じていたかもしれないですね。これから、すべてがECに置き換わるんだと思って業界に入ったわけですが、深く潜ってみると、ECはたしかに便利だし、一部を代替する可能性はあるけれど、だからと言って店舗が消えるとは思えなかったんです。
結局ECは、どこか別の場所で興味をもって購入を決めた後にしかアプローチできてないんです。しばらくは、その意思決定の場がWEBになる時が来るんだろうと思いながら見ていましたが、それが大多数になることは「一生ないな」と確信しました。
徳力 欲しいと思ったものを買うツールとしては便利だけど、欲しいと思わせるきっかけにならないということですよね。
石川 そうです。だから、EC至上主義のような考えはズレていると思いました。それを確かめるために、EC専業の事業会社に行こうとマガシークに行きました。色々経験させていただいて、ECだけで100億円の売上を作るすごさを実感しましたね。良い意味で、再現性が低いビジネスになっていました。
徳力 どちらかといえば、ECをツールとして広く活用できる形にしたいと。
石川 はい。だから、一度TUKURUで社長を引き受けたんです。その業界のECとしてはトップの規模にできました。結果、EC単体で価値を生み出そうとすることに意味はないなと確信しました。ECが強くなくても、顧客に素晴らしい価値提供ができている会社は他にもありましたので。
とはいえ、そこで少しは新しいことができたと思っています。徳力さんに言うのもなんですが、発信力のあるブロガーさんたちに協力していただいて、一緒にコンテンツや商品をつくっていたんです。
徳力 単純に商品をWebサイトに並べて売るのではなくて、インターネットだけでは完結できないことをやろうとした結果としての取り組みですね。わざわざブロガーに、実際に会いに行くという手間をかけられていたと記憶しています。

石川 そうですね、個人のトップブロガーさんに会いに九州にまで足を運ぶこともありました。アパレルと違って、菓子やパンの基本的な作り方は普遍性があるので、一度つくったコンテンツが半永久的に使えるんです。だから手間暇をかけて作ったコンテンツが資産として溜まっていくんですよ。
徳力 その一方で、ECそのものの限界が見えてしまった。おもしろいですね。今の世の中的には、D2C(Direct to Consumer)の文脈もあってECの専門家は引く手あまたなイメージですが。
石川 まあ、そうですね。ただ、それもTUKURUの時のようなコンテンツの文脈ではあっても、ECそのものではないかもしれません。
だから当時、TUKURUのメンバーには、もっと購買ファネルの上流を押さえるプレイヤーにならないと、確実にやっていけなくなるという話をしていました。
自分なりの場所を探した結果、ディノス・セシールへ
徳力 そこで言う「ECの専門家」という存在は、すでにニーズが顕在化している状態のものを、いかにコンバージョンまで連れていけるかという設計する人ということですよね。
石川 そうですね。いくらコンバージョンの直前にあるKPIを磨けても、別のところに流れている大きな波は見えていない、という話をずっとしていましたね。
徳力 それを確認するために、ディノス・セシールが一番魅力的な場所だったということですか。
石川 ディノス・セシールはECがリーチできていなかった、上流を押さえるカタログやテレビというチャネルを持っていたんです。
もちろん購買に一番インパクトがあるのは店舗ですが、すでに業界には髭をはやした「オムニチャネルマスターのおじさん」がたくさんいらっしゃいましたから(笑)。

徳力 ECと従来のリアルとの組み合わせを考えたとき、自分のキャリアのポジションとして、確立できそうなところを選択したわけですね。
石川 じゃないと、楽できないじゃないですか(笑)。私がどんなにオムニチャネルと叫んでも、5番手か10番手にしかなれないなら、そんなところに向かっても意味がないですよね。
徳力 はたから見ると、あまのじゃくにしか見えないけれど(笑)。
でも実は、すごく論理的に考えた結果なんですね。紙側や通販側にいる人たちがデジタルに目覚めれば、その道を確立できそうな気もしますけど。

石川 業界としての歴史が長いから難しいですね。私は大企業の「慣性の法則」と呼んでいるのですが、これまでの組織や仕組みの影響が強いので、従来の動きをどうしても続けてしまうんですよ。自社だけでなく、外部の大手企業も巻き込んだエコシステムが完成されているので、あれを変えるのは簡単ではない。
徳力 でも、それを外部から人が入って変えるのも、めちゃくちゃ大変なことですよね。
石川 はい、めちゃくちゃ大変です。私も今の社長がいなければ、ディノス・セシールには来なかったかもしれません。入社前に話をして、社長が社長でいる間はいろいろできるなと思ったんです。
徳力 社長とは、どのようにお会いしたんですか。
石川 いまも私の隣の席に座っていますが、WEBの部長からの紹介でした。TUKURU時代に私たちのビジネスに興味をもって会いにきてくれて、当時の従業員を含めて高く評価してくれて、メンバーごと誘ってもらいました。
※ 第3回「デジタルよりもはるかにレベルが高かった紙メディア。その融合は、どう進む?」に続く
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心理から「ロイヤルティマーケティング」を学ぶための良書【書評】
エンジニアによる「顧客心理を数値化」する試み

「お客様の心をつかむ 心理ロイヤルティマーケティング」
諏訪良武監修 渡部弘毅著
顧客心理のマーケティングロジックを書いている本は何冊もあるが、実際に現場で試しながら「NPS ®(Net Promoter Score・顧客推奨度)」や「NRS(Net Repeater Score・顧客継続度)」、カスタマージャーニーを結び付けて具体的に示した本は少ないと思う。
この書籍『お客様の心をつかむ 心理ロイヤルティマーケティング』は、その少ない中の1冊。著者の渡部氏とは、私がカメラのキタムラ時代にコールセンター業務でお世話になったご縁で、その後もロイヤルティマーケティング領域でいつもご教示いただいている。
渡部氏はもともと日本ユニシスや日本IBMのエンジニアとしてCRM領域に携わり、その後にコールセンター業務支援会社を経て独立し、コンサルタントになった。
これまでのキャリアで、さまざまなCRMのフレームワークを学び、カスタマーサクセスなどの考え方に触れる一方で、経営者からの「それで、なんぼ儲かんねん」(“はじめに”より)という現実に対応するフレームワークを見出そうとされてきた。本書は、エンジニアが顧客視点で「顧客心理を数値化しよう」という大胆な試みなのである。
顧客満足と収益を結ぶ3つのロイヤルティ
「心理ロイヤルティを高めると、それが行動ロイヤルティに影響を及ぼし、さらにそれが経済ロイヤルティを高め、収益に貢献するのです」(“はじめに”より)
渡部氏は、この3つのロイヤルティに注目し、まず「心理ロイヤルティは、お客様と企業や商品との接点での満足から成り立っています」と定義している。
そして、心理ロイヤルティを横軸にして、実際に商品を繰り返し購入したり、知り合いに推奨したりする行動ロイヤルティを縦軸にして、それぞれが最大化したところに「当社の未来を支える良い売上」が存在するとし、収益とロイヤルティの関係を明確化している。
そして、その手前を「当社の今を支える不確実な売上」「当社の未来のリスクになる悪い売上」として位置付けている。
財務諸表である“売上”を顧客ロイヤルティとの関係を明確な定義によって、“見える化”しようとしているのだ。必ず聞かれる「なんぼ儲かる?」に対する明確な答えだ。
筆者もよく「顧客満足は重要だ。しかし、それが売上・利益にどう結びついているのか知りたい」と聞かれる。その際には、新規/既存顧客と、各顧客単価と購買頻度を分解して答えているが、顧客満足の本質であるロイヤルティにまでは踏み込んではいなかった。渡部氏は、ロジックと実践からこの答えを生み出したのである。
ロイヤルティドライバーには2つの価値がある
さらに踏み込んでいる箇所が、顧客満足を高めるロイヤルティドライバーを「基本価値ドライバー」と「体験価値ドライバー」に分けたことだ。
前者の「基本価値ドライバー」は、品ぞろえ、品質、デザイン、価格、立地など、当たり前に向上させなければならない要素をマッピングし、基本価値として高めねばならないと定義している。
後者の「体験価値ドライバー」は、カスタマージャーニーの中で情報収集、来店、試着などの行動の中で顧客がどう感じたのかを「頭の満足」と「心の満足」に区分して測定している。
その手法に「NPS ®(Net Promoter Score・顧客推奨度)」を組み込むのだ。実際に渡部氏と取り組んで仕事をした際には、Web上で顧客に今の瞬間どう思っているのかというアンケートを取り、「ネガティブ」「ポジティブ」の分類と、NPS®評価を取っている。それぞれのジャーニ―段階で、同様のことを実施してデータを集めるのだ。
これをWebだけでなくリアルな店頭でも実践されているのを知ったときは驚いた。その質問票も社内で繰り返しワークショップを行いつくり上げて修正されることで、腹落ちしたものになる。

最終的には、NPS®からNRS(Net Repeater Score・顧客継続度)として顧客の継続率を見る指標、つまりLTV(Life Time Value)にまで昇華させている。
ここまでロイヤルティを定量化し、施策のPDCAをきちんと回すCRMはなかなかない。様々な事例も触れられているのでロイヤルティの定義に関心がある方はぜひご一読いただきたい。
商売と顧客を満足させることが好きであっても、それを自分の得意領域であるデータによる定量化と、明確に定性化するのは並大抵の努力では難しい。ひたすら現場で実践を続ける渡部氏だからこそ生まれた著書であることを繰り返しお伝えしたい。
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新型コロナ感染拡大による仕事減。マーケティング業界の苦悩【緊急アンケート調査】
「売上が下がった」「契約が解除」。コロナショックのリアル
「アジェンダノート」編集部は、新型コロナウイルス感染拡大によるマーケティング領域の変化と実態を把握し、企業の対策に役立ててもらうためのアンケート調査を実施した。
<調査概要>
対象:ブランド企業[事業主としてマーケティングコミュニケーション活動(広告出稿など)を行っている立場]と、パートナー企業[コンサルティング会社、広告会社、ソリューションプロバイダー、メディアなど、ブランド企業を支援する立場]、調査期間:2020年3月31日~4月3日、回答数:94、調査手法:インターネット
新型コロナウイルスの感染拡大によるマーケティング活動(または、支援する活動)への影響を聞いたところ、97.9%が「影響がある」と回答した。

質問「新型コロナウイルスの感染拡大は、貴社のマーケティング活動(または、支援する活動)への影響がありますか?」

質問「どのような影響がありましたか?(複数回答可)」
具体的には、「キャンペーンやイベントが延期・中止(69.6%)」、「広告などの露出(出稿量・メディア)を変えることになった(40.2%)」、「商品・サービスの発売・発表を延期(39.1%)」、「マーケティング予算に増減があった(39.1%)」などが多かった。
「映画の延期に伴い、予定していた広告も延期になった」「訪日外国人向け商品の発売キャンペーンが延期した」など、特にイベントや映画などのエンターテインメント、観光業を中心にしたインバウンド向けプロモーションに影響が出ているようだ。
業種別に見てみると、小売業では「化粧品のテスターを店舗から撤去したり、試食を中止したりしたことで顧客満足度が低下する」など、体験の機会が減ることを危惧する声があった。
マイナスの影響ばかりではない。食品メーカーは「家庭用食品は供給が追い付かないほど好調」だという。ただその半面で外食機会が減ったことで「業務用食品は前年比70%程度まで減少している」といった声もあり、“巣ごもり消費”が直撃した格好だ。
そして今回の調査で、最も影響が顕著な印象を受けたのが、広告会社やソリューション会社などのパートナー企業だ。仕事の依頼状況を聞いたところ、約半数が「依頼が減った(48.6%)」と回答した。

質問「クライアントからの依頼状況について教えてください」
企業のマーケティングプランの見直しを受けて、「売上が下がった」「契約が解除された」などの切実な声が聞こえる。
また、「商品の上市判断をするための意思決定に使用するオフラインリサーチ(対象者を呼集する集合調査)の中止の影響が大きい」という声もあり、販売やプロモーションだけでなく、企画段階にも影響が出ている。
一方で、新たな依頼としては「SaaS系のプラットフォームからの問い合わせが増えた」「ブランディング施策の再検討を求められた」という声も。「(クライアントが)イベントや交通広告などのオフラインへの出稿を止めて、オンライン広告に重点を置くようになった」など、メディアへの予算配分の見直しに対応している様子がうかがえる。
今後マーケットに何が起きるか。スピーディな対応がカギ
今後、新型コロナウイルスの感染がさらに拡大した場合に備えて、どのような対策をしているのかについて聞いた。
「オフライン系の施策が難しくなるため、オンライン系の施策への切り替えを検討している」「インバウンド需要から国内需要に向けて、ビジネスをシフトさせている」など、メディアやターゲットを見直す回答が多かった。
また、飲食チェーン店は「店舗での飲食は減少、宅配需要の増加を見越して、商品・サービス開発からプロモーションまで早期の立案を進めている」。
化粧品販売では、「店舗でのテスター自粛により、新色や新商品よりも使ったことのある商品のリピート購入やネームバリューのある企業が有利になると想定。ネームバリューがないブランドは、モニター&口コミのキャンペーンが必要になる」。
BtoB企業は「イベント・展示会などを通じた、リード・ジェネレーション活動が制限される。オンラインで、どのように認知と存在感を出していくかが重要」といった声があった。

飲食チェーン店では、宅配重視のプロモーションを進めている。
今後のマーケットを見越したその他の回答は、次のとおり。
「家庭内備蓄が増える。無駄な消費が減少し、必要最小限の消費が増加すると予想している。所得減少により、商品単価の低下も進む」
「家庭内で楽しむという、行動変化が進む。さらにインターネットの活用が進み、コミュニケーションが変わる」
「攻めの広告ではなく、守りの広告になる。また、新規顧客ではなく、既存顧客に向けたマーケティングがメインになる」
「注力するクライアントの業界を変更している。具体的には人材、不動産、旅行、アパレルなど売上に甚大な影響のある業界から、EC、金融、公共機関などの案件にリソースを寄せている」
ブランド企業とパートナー企業で違い。リモートワークの実態は?
リモートワークの実施状況(調査期間:3月31日~4月3日)についても聞いたところ、ブランド企業とパートナー企業で違いが見られた。
■ブランド企業

ブランド企業は「出社している(40.7%)」が最も多く、「リモートワークと出社を併用(35.6%)」「完全にリモートワーク(23.7%)」という順になった。
■パートナー企業

一方で、パートナー企業は「リモートワークと出社を併用(65.7%)」が最も多く、「完全にリモートワーク(28.6%)」「出社している(5.7%)」が続いた。パートナー企業の方が、リモートワークが進んでいる状況がうかがえる。
また、リモートワークによって、業務がどのように変化したのかも聞いたところ、ブランド企業からは「無駄な会議や打ち合わせが減り、効率的に仕事を進められている」などの好意的な声が多いが、「メンバー間の情報共有やコミュニケーションが不足」を課題とする声もあった。
パートナー企業も業務効率の改善を好意的に受け止めているものの、「社内の他部署への調整が捗らない」「クライアントが在宅勤務になり、進行中だった企画の進捗ペースが落ちた」などの声もあり、業務の進行に遅れが生じているケースも少なくないようだ。
新型コロナウイルスの感染拡大は、間違いなくマーケティング領域にも大きな変化を迫っている。様変わりする世界で何をすべきか、マーケティング領域の真価が問われる状況ともいえる。
※ 緊急アンケート調査 後編「東京オリンピック・パラリンピックの延期決定による影響」に続く
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海外赴任で痛感する、日本人コミュニティの大切さ【ネスレ 村岡慎太郎】
危機発生!「日本人コミュニティ」の大切さを実感
ネスレ本社があるスイスに1月上旬に赴任してから2カ月が経ちましたが、現地の日本人同僚との「つながりの大事さ」を感じさせられてばかりです。今回は2月に経験したことからお話ししようと思います。

髪を切りました。
スイス本社には8人の日本人がいます。その中でも私より1カ月遅れでスイスに来た島川基(Assistant Regional Manager, Zone AOA)と、森田浩平(HR Business Partner, Zone AOA)には、本当に助けてもらっています。
2人とも私が日本に居たときから一緒に仕事をしてきた仲で、島川は何度かスイスに来ていたため現地への順応性が高いですし、森田はスイスに赴任してから1年以上経っていて経験が豊富なため、仕事から生活までサポートしてもらっています。

3人で食事。
最近、その有り難みを痛感した出来事がありました。私が2月上旬から3つのイベントのコーディネイトを任せられ、約1カ月に渡って激務が続いたんです。
ひとつ目のイベントは、「MOR(マンスリー・オペレーション・レビュー)」という各プロジェクトがKGI/KPIに対して、どこまで進捗したのかを月間で確認する会議。本社内のさまざまな部署を巻き込んで、情報をアップデートしていくことが求められました。
2つ目は、「グローバルメディア・ミーティング」。ネスレが仕事を依頼している4大グローバルエージェンシーとの四半期ミーティングの仕切りです。議題は他の人と一緒につくるのですが、その進行のフォーマットが定まっていなかったので、上司から「オーガナイズしてほしい」という依頼を受けました。
そして3つ目が「グローバルメディア・カウンシル」。これが3つの中で最も重要な会議で、世界の主要18カ国のメディア責任者が3日間かけて話し合います。多くのメンバーが参加するため、無駄のないスケジュール管理やプレゼンテーション準備が求められました。
経験したことがない業務の連続で、精神的にも余裕のないギリギリの状態が続き、イベント直前に動けないほど体調が悪くなってしまいました。
でも、絶対に休んでいられない時期だし、どうしようかと困っていたところ、島川や森田が心配して食事を用意してくれたり、まめに連絡をくれて助けてくれて、どうにか出社できるまでに体調が戻りました。
そして「良かった」と安心したのも束の間。その1週間後には猛烈な腹痛に襲われて、上半身は蕁麻疹(じんましん)で真っ赤に・・・。
「これは、やばい」と病院に行くと、疲れによるウイルス性胃腸炎という診断でした。ここでも彼らがこまめに連絡をくれて、サポートしてくれたんです。
そこから、なんとか復帰してイベントを乗り切ったのですが、おそらく私ひとりだったら、回復できずに業務をやり遂げられなかったと思います。
海外赴任している人の中には「早く語学を身につけたい」という理由で、なるべく日本語に触れないように意識している人もいますが、私はむしろ「日本人同士のつながりを大事にしたい」と再認識した経験でした。今は自分が彼らに何かお返しをしていかなければ、という心持ちでいます。
自分のバリューを出すために実践している3つ
心身ともにすり減ったものの、赴任したばかりの私をチームメンバー、特に上司が信用して仕事を任せてくれたのは、本当にありがたいことです。その期待に応えようとする中で、自分のバリューを出すために、実践していたことが3つあります。
そのひとつが、「①事前準備」の徹底。上司や他部署との打ち合わせがあるとき、始まる前に「会議用の想定問答集」をつくりました。それをしておくと、その場で出てきた質問にすぐに返せるので、お互いにストレスフリーな状態がつくれます。もちろん会議は英語で行われますので、その対策もできます。
そして会議が終わった後の「②復習」もマメにしています。英語のスピードが速くて正直聞き取れない時があるので、大事な会議はICレコーダーで録音して家に帰ってから聞き直しています。もしくは、朝の日課のウォーキングの時に聞いています。そうすると会議中は無意識に聞き漏らしていることが、結構あることに気付かされます。
あとは、「③スピード」への意識ですね。本社のスタッフは忙しいので、デットラインに対する意識や、対応のスピード感が遅く感じるときもあるので、私は常に早く対応するように心がけています。具体的には、上司から1週間でやるように言われていた仕事を2、3日で終わらせて確認してもらって、指摘されたポイントをやり直すようにしています。
日本だとごく普通のことですが、本社は結構ぎりぎりで動いていて、その意識があまり高くないように感じるので、それが強みになると思って取り組んでいます。同僚からは「Japan Time」とからかわています(笑)。

会社の近くになるレマン湖。朝のウォーキング中の一枚。
そうした行動を上司は評価してくれているので、やりがいがあります。日本と比べると、チームや他部署とのコミュニケーション量が多く、良かった点は言葉ではっきりフィードバックしてくれるんです。それは悪い点も同様です。いわゆるダイレクトフィードバックですね。
そんな中で、「もっと自分のバリューを突き詰めないと、まずいな」と思っています。自分の中の満足度で言うと、10段階中で2か3ぐらい。今はイニシエーター(創始者・発起人)というよりも、フォロワー(追従者)になってしまっているので、そこへのストレスがかなりあります。
自分だからできること、周囲から真似したいと思われるぐらいのアウトプットを出したいと思っています。
吐きそうな毎日は、まだまだ続く
このように仕事に関しては、もう少し戦略的な領域に踏み込んでいかなければと危機感をもっています。
日本にいたときは、例えば、1カ月、1週間、10日後の具体的なプランをつくることが多く、それに向けて取り組んできましたが、いま私のいる部署は実行部隊ではなく、相手(各国)に行動を促すようなダイレクションや、ガイドラインなどのアウトプットが求められます。いまは、その感覚をどうすれば取得できるのか、模索しているところです。
最後に前回、皆さんにご心配をおかけした日々の生活(洗濯など)は、ようやく落ち着いてきました。それでも洗濯機はしばしば止まりますが(笑)、温度設定はできるようになりましたし、不自由は減ってきましたね。

早朝ランができるまでに回復したときに撮った写真
ただ食事が悩みの種で、料理が得意ではないので、もっぱらパンとサラダばかり食べていたら、4キロほど痩せました。
それでは、また次回!3月の「生活(Work at home)」をお伝えしたいと思います。