マンションであれ木造家屋であれ、古い住まいの窓には、自然と不満が出てくるものです。窓のそばに漂う冷気やガラスをぐっしょり濡らす結露など、悩みはいろいろ。
そこで今回は、窓のリフォームを検討する際に知っておくと役立つ新常識を窓のプロに取材。築50年超えの賃貸マンションの大家でもある日刊住まいライターが、レポートします。
室内から逃げる熱のおよそ半分は窓やドアから
取材に伺ったマテックス株式会社は窓の卸売りを手掛ける「窓の問屋さん」。さまざまなメーカーの窓を取り扱う、商品知識が豊富な窓のプロフェッショナルです。
一般ユーザー向けにも「窓のコンシェルジュ」というコンセプトの窓の総合情報サイト「madoka(マドカ)」を運営しています。
取材に協力してくれたのは藤代慶美さん(写真左)と岩﨑美紗子さん(写真右)。「窓リフォーム」に関する素人の素朴な疑問に丁寧に答えてくださいました。
まず大事なのは「冬場、室内から逃げる熱のうち、窓やドアなどの開口部が48%を占めている」という事実。窓の断熱性能を高めることが暖かい部屋をつくる第一歩なんだそうです。
ひとくちに「ペアガラス」といっても種類はさまざま
断熱性能の高い窓といえば「ペアガラス(複層ガラス)」が代表的です。2枚のガラスの間に空気やガスを挟み込んだ構造で、ノーマルな単板ガラスとくらべて高い断熱性能を発揮します。
そんな「ペアガラス」にはいろいろな種類があります。まず、2枚のガラスの間に空気が入っているかガスが入っているかの違い。空気に比べてガスが入っているものは断熱性能が1.2~1.3倍アップするそうです。
さらにガラスの表面に特殊な金属コーティングが施された「Low-Eガラス」だと、ふつうのペアガラスと比べて1.5~2倍の断熱性能があります。
「断熱」だけでなく「遮熱」も大事な要素。熱を通さないだけでなく、差し込む日光による熱を遮る性能を持つガラスもあります。
たとえば西日が射し込む部屋の暑さを軽減したい場合などに効果を発揮しますが、冬の暖かい日射しを遮ってしまう側面もあるので、部屋の環境をよく考えて選ぶとよいそう。
なんとなく「ペアガラス=断熱性能が高い窓」としか思っていませんでしたが、種類の豊富さに驚きました。
真空で断熱。薄いのに高性能な窓ガラスを体感
ペアガラスは複数のガラスを重ねる構造上、どうしても厚みが出てしまうため、ガラスだけを交換するリフォームに対応できないケースもあります。
既存のサッシはそのまま使いたいけれど断熱効果もほしい…実は、そんなリクエストに応えるガラスもありました。それがこちらの「真空ガラス スペーシア」(日本板硝子株式会社製)です。
ノーマルなガラスの厚さが約5ミリなのに対し、スペーシアの厚さは6.2㎜。ほぼ同じ厚さなのに高い断熱性能があります。
実験でその断熱性能を体感させていただきました。窓の左側がスペーシア、右側がノーマルなガラス。
裏からコールドスプレーを吹きかけて急速冷却します。
ガラスの表面を触ってくらべるとその差は歴然。普通のガラスがはっきり冷たいのに対し、スペーシアの方はほんのり冷たさを感じる程度でした。これはすごい!
秘密はガラスとガラスの間に真空を設ける特殊な構造。よく見ると、ガラスに栓が付いているのがわかります。
ここから空気を抜いて真空にすることで、この薄さで高い断熱性能を実現しているそうです。
ただし、高性能だけあって価格も高め。ペアガラスや内窓を取り付けるよりも高額になってしまうこともあるそうなので、予算との相談が必要です。
樹脂の熱伝導率はアルミの1000分の1。サッシの材質も重要
窓の断熱=ガラスと思い込みがちですが、断熱効果にこだわるならサッシ選びも重要。おすすめは「樹脂サッシ」だそうです。
樹脂というとプラスチックなどをイメージしがちですが、サッシに使われるのは特殊な樹脂で雨風にも耐久性のある素材なんだとか。
こちらはマテックスの社内の窓に取り付けた窓。既存の窓の内側に設置されている白い窓が樹脂製です。
実際に触れて開け閉めしてみたのですが「樹脂」という言葉から感じる「プラスチック感」はありません。しっかり重量感もあり安っぽさを感じさせない質感です。
樹脂サッシの特長はなんといっても断熱性能。
岩﨑さんによると「樹脂の熱伝導率はアルミの1000分の1なので、サッシの材質も重要なんです」。外気の影響を受けにくいため、アルミサッシとくらべて格段に断熱効果が高まります。
既存の窓の内側に樹脂サッシを取り付けて二重サッシにすれば、かなりの断熱効果が期待できそうです。
ちなみに、インテリア性の高い住宅事例などで見かける「木製サッシ」は、断熱性能は高いのですが、湿度の高い日本だと、どうしても経年変化で反ったり歪んだりする可能性もあるので注意が必要、とのことでした。
アルミサッシがびっしょり…ならばリフォームを検討してみては
窓のリフォームは冬の結露対策にも有効です。
結露は室内の水蒸気が冷たいガラスに触れてできるものなので、断熱性能の高いガラスを導入することでかなり結露を抑えることができます。
ただし、既存のアルミサッシのガラスを交換した場合、ガラス表面についていた結露がアルミサッシのほうに逃げて、サッシの結露がさらにひどくなることもあります。
窓ガラスだけでなく、外気の影響を受けやすいアルミサッシ本体にも結露は発生しやすいのです。
言われてみれば、私が住むマンションの自室では、まるでアルミサッシが汗をかいているようにびっしょりと結露しているのを何度も見ました。築古物件で結露対策にこだわるならサッシも含めて交換するのがベストだと思いました。
ただ、藤代さんはこうも付け加えます。「結露は自然現象ですから、換気をしっかり行なったり、加湿しすぎたりしないよう気をつけることも大事です」。
今まで、窓といえばアルミサッシが当たり前だと思っていましたが、ガラスもサッシも進化していて、機能性が高くなっていたことがわかり、大家としてもすごく勉強になりました。
室内の寒暖差や結露が気になる方は、窓リフォームを検討してみてはいかがでしょうか。
取材協力/マテックス株式会社 参考サイト/窓のコンシェルジュmadoka