もくじ
ー 超人気カテゴリーのタント、フルモデルチェンジ
ー シートアレンジ、理解すると便利に使える
ー 動力性能〜走行安定性まで幅広く向上
ー 国内販売1位のN-BOXと比べてどうなのか
ー ダイハツ・タントXターボ2WDのスペック
超人気カテゴリーのタント、フルモデルチェンジ
今は軽自動車の人気が高い。国内で売られる新車の40%近くが軽自動車だ。
そして軽乗用車の50%近くを全高が1700mmを超えるスーパーハイルーフモデルが占める。車内が広く、後席を畳めば自転車なども積みやすい。スライドドアを備えて乗降性を向上させたことも人気の理由だ。
特に最近の軽自動車は安全性や快適性を大幅に進化させ、なおかつ上級カテゴリーの価格が全般的に高まったから(その割に所得は増えていない)、軽自動車が従来以上に注目されて需要も増えた。
2019年7月には、スーパーハイルーフモデルの主力商品となるダイハツ・タントがフルモデルチェンジを受けたので、一般公道を試乗してみたい。また国内販売1位を独走するライバル車のホンダN-BOXとも比べる。
新型タントは従来型の路線を踏襲してフルモデルチェンジを行った。N-BOXやミニバンのセレナなどを含めて、車内の広い実用的なクルマは日常生活のツールだ。好調に売れていると、基本的なデザインや使い勝手を変えにくい。
とりわけ新型タントの車内の広さは、従来型でも限界に達していたから、広さは先代型と同等になる。
左側のピラー(柱)はスライドドアに埋め込まれ、前後のドアを開くと開口幅が1490mmに達する。この特徴は従来型と同じだが、シートアレンジは大幅に充実させた。
シートアレンジ、理解すると便利に使える
新型はスライド機能を充実させ、助手席は380mm、主力グレードの運転席は540mmの前後調節が行える。
この長いスライド機能は、ワイドに開く左側のドアと組み合わせることで、優れた相乗効果を生み出す。運転席を後方に寄せ、助手席は前側に位置させると、左側の後席の足元空間が大幅に広がる。なおかつ車内の移動もしやすく、スライドドアから運転席へ、という動線を生み出した。
この動線は子育て世代のユーザーに最適だ。後席の左側にチャイルドシートを装着した場合、スライドドアの電動機能を使えば、子どもを抱えた状態で車内に入れる。ミラクルオープンドアを全開にすれば、ベビーカーごと乗り込める。スライドドア部分のステップ高さは359mmだから、乗降性が良い。
車内に入ったら、助手席を前側に寄せたことで生じた左側の広い空間を使い、子どもをチャイルドシートに座らせる。次は後方に寄せた運転席に移れば、車内の移動で完結するから雨天の日も快適だ。
また高齢者の同乗者にも優しい。左側の前後のドアを開けば開口幅がワイドに広がり、体を捩らずに乗車して後席に座れる。助手席の背もたれにもグリップが装着され、さらにオプションでは大型の「ラクスマグリップ」も用意した。電動式のミラクルオートステップもあり、乗降性をさらに向上できる。
ちなみに先代型の後席は座り心地が悪く、足を前方へ投げ出す着座姿勢だったが、新型はこの欠点を大幅に改善した。座面には適度な柔軟性があり、座面の前側を少し持ち上げたから腰の収まりも良い。高齢の同乗者が座っても、不満は感じないだろう。
今後の改善点としては、乗り込む時の右側にも乗降グリップが欲しい。多くの乗員にとって利き手は右手で、ボディの左側面から乗り込んだ時には、右側に回り込んで後席に座る。従って乗降グリップも右側に装着されていると乗員に優しい。
後席の格納方法も変更された。従来は後席の背もたれを前側に倒し、座面と併せて床面へ落とし込む方式だった。これは操作が面倒なので、N-BOXやスズキスペーシアと同じように、後席の背もたれを倒すだけで座面も下がるワンタッチ方式に改めた。
操作性が向上して、格納操作を単純化したから座り心地も良くなったが、広げた荷室の床に傾斜ができてしまう。一長一短だから、先代型から新型に乗り替える時は注意したい。走行性能については、先代型の欠点を解消している。
動力性能〜走行安定性まで幅広く向上
エンジンはノーマルタイプとターボの2種類がある。ノーマルタイプの場合、先代型は2500-4000rpmの実用域で駆動力が乏しかったが、新型は先代型よりも余裕を感じる。最大トルクは6.1kg-mで先代型と同じだが、発生回転数は5200rpmから頻繁に使う3600rpmに引き下げたからだ。
さらにCVT(無段変速AT)の機能も刷新して、変速可能なギア比の幅を広げた。アクセルペダルを深く踏み込んだ時には高回転域を積極的に使い、巡航時にはエンジン回転数を下げて燃費を節約できる。
実用域の駆動力に余裕を持たせながら、4000rpmを超えた領域の加速感も活発だ。車両重量が試乗した標準ボディのXで900kgに達するから、パワフルとはいえず登坂路ではパワー不足も感じるが、全高が1700mmを超えるボディを考えれば納得できる。
ターボの動力性能は、排気量が1ℓのノーマルエンジンに匹敵する。最大トルクは10.2kg-mだから、ノーマルエンジンの1.7倍だ。アクセルペダルの踏み込み量も抑えられて扱いやすいが、ノーマルエンジンが扱いやすく洗練されているためか、さほど魅力を感じない。
登坂路の多い地域のユーザーは、ノーマルエンジンとターボで登り坂の走りを比べてからエンジンを選ぶと良い。
注意したいのはノーマルエンジンとターボの価格差だ。標準ボディのXターボは、ノーマルエンジンのXに比べて9万7200円高い。装備はほぼ同等だから、この金額がターボの価格換算額になる。
一方、カスタムのターボを搭載するRSは、ノーマルエンジンのカスタムXとの価格差を8万1000円に抑えた。しかもRSではステアリングホイールとATレバーが本革巻きになり、アルミホイールが14インチから15インチに拡大される。ショックアブソーバーも摩擦の少ないタイプにするなど変更を加えたから、価格差が8万1000円でもターボの価格換算額は実質6万円程度だ。標準ボディとカスタムではターボの換算額が大きく異なる。
従って最も買い得なグレードは標準ボディのX(146万3400円)だが、上級のカスタムを選ぶなら、価格上昇を抑えたターボのRS(174万9600円)にして動力性能にも余裕を持たせたい。
走行安定性も向上した。先代型は後輪を中心とした安定確保のために、操舵に対する反応を鈍く抑え、峠道などを走ると旋回軌跡を拡大させやすかった。そこを新型はプラットフォームを刷新して安定性を底上げしている。曲がりにくさを抑え、なおかつ後輪も良く踏ん張る。全高が100mm以上低いムーヴに近い感覚で運転できた。では新型タントの実力を国内販売1位のN-BOXと比べよう。
国内販売1位のN-BOXと比べてどうなのか
居住空間の広さは両車とも互角だが、シートの座り心地はN-BOXが優れる。背もたれと座面に十分な厚みを持たせたからだ。内装もN-BOXが上質だ。
荷室の広さと積載性も、N-BOXが優れている。N-BOXは燃料タンクを前席の下に搭載して、路面からリアゲートの開口下端部までの高さを470mmに抑えたからだ。新型タントの580mmに比べると大幅に低く、N-BOXなら自転車を積む時も前輪を大きく持ち上げる必要はない。
その一方で乗員の乗降性や車内の移動性は新型タントが勝る。先に述べた通り左側ドアの開口部がワイドだから、乗降性が優れている。運転席と助手席のスライド機能により、子どもや高齢者を後席に座らせた後で、スムーズに運転席へ移動できる。ラクスマグリップやミラクルオートステップなど、乗降性を助ける装備も豊富に用意した。福祉車両の考え方を盛り込んでいる。
走りについては、動力性能は互角だ。走行安定性と操舵感は、新型タントが少し自然で安心感も伴う。エンジンなどのノイズは、N-BOXが抑えられて静かな印象だ。乗り心地も、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)が長く、シートに厚みを持たせたこともあってN-BOXが上質に感じる。
運転支援機能では、両車ともに車間距離を自動調節できるクルーズコントロールを備えるが、新型タントは全車速追従型とした。ただし電動パーキングブレーキを装着しないので、追従停車した後、2秒を経過すると再発進する。
このように両車とも優劣が異なり、価格は競争が激しいために拮抗する。結論をいえば、N-BOXは内装の造り、シートの座り心地、乗り心地、静粛性が新型タントと比べても上質だ。価値観がセダン的で、大人4名で乗車するなど一般的な使い方に適する。
新型タントはミラクルオープンドアと、前述のシートアレンジが特徴だから、価値観がミニバン的だ。子どもや高齢者のいる家庭に推奨できる。
つまり新型タントは日常的な移動を便利で快適にする幅広い機能にこだわり、N-BOXは移動の質を重視した。使い方や好みに応じて選びたい。
ダイハツ・タントXターボ2WDのスペック
※()内は4WDの値
全長×全幅×全高:3395×1475×1755(1775)mm
ホイールベース:2460mm
重量:910(960)kg
エンジン種類:直列3気筒ターボ
排気量:658cc
最高出力:64ps/6400rpm
最大トルク:10.2kg-m/3600rpm
WLTC燃費:20.0(18.8)km/ℓ
トランスミッション:CVT
タイヤ:155/65R14
税込み車両価格:156(168)万円