2016年の夏頃から、タイで不動産会社を経営する筆者の所に、バンコクの不動産業者の方々から相談が相次いでいる。
バンコクでコンドミニアム(マンション)が完成したのだが、その部屋を購入していた日本人多数が行方が分からなくなっており、連絡も取れなくなっているというのだ。
数十名の大人が忽然と姿を消した
タイの不動産、コンドミニアム(マンション)の開発では、完成前にデベロッパーが権利を販売する事が一般的だ。まだ物件が計画されているだけの、更地の段階からコンドミニアムの権利を購入する事ができる。
購入者はまず手付金を数万バーツ程度支払い、契約書を締結する。その後にコンドミニアム建築中に総額の25%ぐらいを支払い、完成して引き渡しの際に残額の全額と、その他の不動産登記費用などの諸費用を支払うということが多い。
もちろん、建設中に問題が起きて物件が完成しなかったり、デベロッパーが倒産してしまったりする危険性も高い。完成しなくても、デベロッパーが倒産しなければ返金される可能性はあるが、デベロッパーが倒産してしまったら、その返金の可能性もなくなる、そのような、リスクの高い買い方だ。
ただ、そのリスクの分として早い段階で購入するほど、安く購入できるような仕組みになっている。また、倒産可能性の高い中小規模のデベロッパーほど、より安い価格で販売される事が多い。
このような仕組みで売られていたバンコクのとある高層コンドミニアムで、購入者のうち日本人ばかり、人数にして数十人の大人たちが、まとめて行方不明となって、連絡もつかなくなっているという。登録してある連絡先に連絡しても返事もなく、完成した物件の部屋も引き渡せなくなっていた。
コンドミニアムの建設には通常数年はかかるため、完成時までに、例えば購入者が死亡してしまったりして、連絡が取れなくなってしまう事は稀にはある。
ただ、その割合は1~2%程度であって、日本人購入者ばかりが数十人も音信不通となる事は聞いた事が無い。
現状を聞いてみると、開発したタイの大手デベロッパーは、日本人購入者が音信不通なのをいいことに、登録してある住所に通知を送り、期間内に引き渡しを受けなければ、支払い済みのお金の権利を抹消して、デベロッパーのものとするという対応を行うのみだった。
相手は音信不通なのだから、返信も何もあるわけなく、権利はことごとく抹消されて、デベロッパーのものとされていっていた。
「日本の警察の方にも知らせてもらえませんか?」
このコンドミニアムで、一体日本人に何が起きているのだろうか?
相談してきた人は、この物件のエージェントなどもしていて、事情を詳しく知る人だ。
その人は「明らかに異常な状態だから、この日本人たちは行方不明者なのか、何なのか、日本の警察の方にも知らせてもらえませんか?」と頼まれた。日本人や日本に、何か被害が出ているのではないかと心配してのことだ。
そこから調べていくと、この「日本人多数が行方不明となっている」バンコクのコンドミニアム。実際の購入者の情報を日本で探してみると、音信不通となっている日本人のうち、結構な割合の人間は、そもそも存在などしない人間なのではないか? という疑問が浮かんできた。
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デベロッパーの人間も、実際にはこの事態に気づいているという。日本側の「エージェント」から出される購入者の日本人は、いつも同じ『パタヤ在住の日本人』と称する人間だけだというのだ。つまり、そのような代役しかいない、実際には存在しない人間だという可能性が考えられる。
そうすると、この現象の背景には、日本からタイに「コンドミニアム代」として多額の金を送金する事が目的の、マネーロンダリングである疑いが浮上してきた。
日本から海外へ送金する際に必要なのは契約書で、これは手付金を支払えば作る事ができる。手付金は5万バーツ(約15万円)とわずかで、それで契約書ができ、その契約書でコンドミニアム総額以上、数千万円の送金が簡単にできるようになるというわけだ。
しかも、このタイのデベロッパーの物件だけで、日本人ばかり多数が行方不明で権利抹消とされているわけだから、実際にはこのデベロッパーも気づいた上で、このような行為を「日本のエージェント」が行うのを黙認している可能性が高い。
デベロッパーからすれば、なかなか売れないコンドミニアムが売れた事に加え、手付金やその後の払い込まれたお金は、購入者が音信不通になればデベロッパーの「収益」になるのだから、非常に良いビジネスとなる。
「日本のエージェント」からすれば、日本からの不動産の購入を名目とした多額のお金がタイへ送金され、その後の行方はわからなくなってしまい、マネーロンダリングも出来るようになる。
そんな「日本人購入者多数が音信不通となっている」バンコクのコンドミアム不動産。
2020年6月の今、実はさらに酷い状況となっている。
バンコクで、このタイのデベロッパーと、日本の上場している大手デベロッパーが「ジョイントベンチャー」だとして、バンコクで新たに複数のコンドミニアムを開発し日本人も含めて一般の人に販売しているのだ。
これは日本のデベロッパーが資金も投入して、この日本のデベロッパーの名前を使って募集をかけている。
この日本の大手デベロッパー、実際には2019年に経営陣にも取材によって伝えられ、この内情を既に知っている。知りながら、2020年6月末の現在も開発、販売を続けているのだ。こんなことを海外で行っているのに、日本ではまともに法令遵守が出来ているのだろうか?
こうして今も、バンコクでは日本の大手デベロッパーの名前で販売され、また「多くの日本人購入者多数の行方がわからない」騒動となりそうな状況となっている。
タイからも「日本の警察の人に伝えて」と言われるこの問題。こんな状況を放置しておいていいわけがない。(取材・文◎福留憲治【PJA NEWS】)