Ghost like girlfriendの多彩な音楽的背景と表現欲「そこはゴールじゃない、まだ終わってない」
ミニマルなビートに洗練されたコード進行とメロディを乗せた、現在進行形のシティポップとでもいうべき楽曲「fallin」が、YouTubeで210万回再生を超えるなど巷で注目を集めているシンガー・ソングライター、岡林健勝によるソロ・プロジェクトGhost like girlfriendの、待望の1stフルアルバム『Version』がリリースされた。
昨年の3部作『WEAKNESS』、『WITNESS』、『WINDNESS』からのリード曲も含む本作には、DadaDのShigekuniや白岩萬里ら馴染みのレコーディング・メンバーに加え、ゲストとして常田大希(King Gnu)や大井一彌、神谷洵平(赤い靴)、土器大洋(ex. LILI LIMIT)らシーンの重要人物たちが多数参加。どこか懐かしさを含むメロディラインと、透明感あふれるヴォーカルを強力にサポートしている。
実は曲作りのルーツがHey!Say!JUMPや、ENDLICHERI☆ENDLICHERIらジャニーズ系のアーティストにあったり、楽曲のインスピレーションをテレビバラエティなどから受けたりと、意外なところにリファレンスを数多く持つ岡林。すでに次作の制作にも取り掛かっているという彼の、クリエイティヴの本質に迫った。
─まずは岡林さんが、どんなふうに音楽へハマっていったのかを教えてもらえますか?
岡林:意識的に音楽を聴き始めたのは、中学1年生の頃でした。Hey!Say!JUMPがちょうどデビューした頃で、一つ下の妹が大ファンになってアイドル雑誌や彼らのCDが、自宅のリビングに散らばるようになったんですよね。それを僕も、観たり聴いたりしているうちにファンになって。あとは実家が自営業ということもあり、お客さんを通すリビングにはいつもBGMが流れていたんです。そこからいわゆる「J-POP」を吸収していましたね。
─自分で音楽を作ろうと思ったきっかけは?
岡林:高校生の時に好きだった女の子が、半年くらい不登校になっていて。僕はよく自宅へノートを届けに行ってたんです。でも、ようやく彼女がまた学校に戻ってくるかもしれない……という直前に、突然辞めてしまったんですよ。僕はその子に言おうと思ったことがたくさんあったんですけど、その機会を一瞬で失ってしまって。その気持ちをどう処理したら良いか分からずにいたんです。で、その頃に僕が好きで聴いていたアーティストたちはみんな、自分の心の内をさらけ出すような楽曲を作っていて。僕が今やるべきなのは、もしかしたら曲を作ることなのかなとそれで思いついたんですよね。
─その頃に好んで聴いていたソングライターというのは?
岡林:それも妹の影響なのですが、最初にのめり込んで全作品を聴いたのが堂本剛さんでした。彼はENDLICHERI☆ENDLICHERIなど色んな名義で作品を出されていて、それぞれ音楽性も異なりますけど、歌っている内容や込められた気持ちというものは、ずっと一貫しているんです。あとは高橋優さんやBase Ball Bear……みなさん、どことなく影があるというか。そこに一番惹かれているのかも知れないです。
─最初は本名で活動していたんですよね?
岡林:ギター1本で曲を作って弾き語りをしていました。その時に作ったデモがきっかけとなって事務所に所属し上京することになったのですけど、その時に関わってくださったスタッフさんは皆、自分の父親と同年代かそれよりも上の方だったこともあって、あまり言いたいことが言えずに契約が終わってしまったことが心残りで。この先、もしまだ音楽を続けていけるのなら、1パーセントでもいいから自分の意見が反映されれば、こういう後悔をすることも少ないかなと思って。それでLogic Proという音楽ソフトを購入し、アレンジの勉強を始めたんです。それが21歳の頃ですね。
それまでは自分の歌声や音楽性にコンプレックスがあって自信が持てなかったんですけど、Logic Proの操作を覚えていくうちに「自分の音楽は大丈夫だ!」と圧倒的な自信を持つことができるようになって。ただ、自分と同じような音楽をやっている人が周りにいなかったので「届いている」という感覚があまりなかったんですよね。それはもったいないから、まずは音楽だけだけも聴いてもらうにはどうしたらいいのかを考えたときに、これまで本人名義でやっていた音楽を一旦リセットして、今やっている音楽を何の先入観もなく聴いてもらえば絶対に届くはずだ、と。それで名義を変更するという決断に至りました。
─なるほど。この「Ghost like girlfriend」というプロジェクト名の由来は?
岡林:すでに曲を作り始めて6年が経っていたのですけど、その間に出来た中でも一番お気に入りだったのが、「私が幽霊だった頃」という曲で。そこから「Ghost」と 「girlfriend」を抜き出しました。あとは、自主制作盤を作る際に立ち上げた自主レーベルの名前の中に「like」という単語があって、それら三つの単語を並べてこの名前になりました。
直訳すると、「彼女みたいな幽霊」。幽霊は目視はできないけど「彼女」は絶対的な存在。なので「目視はできないけど、常にそばに寄り添っている存在」という意味になるかなと。後付けながら、それが高校の頃からずっと作りたかった楽曲のテーマとも重なったんです。
─サウンド面ではどんな人たちに影響を受けましたか?
岡林:アレンジの勉強をし始めた頃に、「この人のアレンジってイビツで最高だな」と思ったのは三浦大知さんです。三浦さんの場合はNaoymtさんとの共作が多いのですが、どれも好きですね。あとは星野源さんや、フジファブリックさん。一つのジャンルに固執するのではなく、いろんなジャンルをミックスしたような音楽が好きなのだと思います。
─これまでリリースされたGhost like girlfriendの曲は、どれもギターが「立っている」という印象です。
岡林:レコーディングでいつもイニシアチブを取ってくださっているDadaDのShigekuniさんから紹介していただいた白岩萬里さんが、最初の三部作『WEAKNESS』、『WITNESS』、『WINDNESS』でずっとギターを弾いてくださっていて、今回の1stフルアルバム『Version』にも参加してくださっているんです。Shigeさんが白岩さんのことを、「こいつが本気出せば日本で10本の指に入るギタリストだ」とおっしゃっていて。その言葉通り、こちらがギターのイメージを伝えると、必ずそれどおりか、それを超えるようなフレーズを生み出してくれるんです。そういうギタリストに1枚目で出会えたことで、「もっとこの人のギターが聴いてみたい」という気持ちになったんです。そこから意識的にギターをフィーチャーするようになっているかもしれないですね。
─『WINDNESS』のリード曲で、本作にも入っている「shut it up」はラップっぽくて新境地という感じですよね。
岡林:あの曲は、バラエティ番組に出ていたIKKOさんにインスパイアされたんです(笑)。『WEAKNESS』と『WITNESS』は弾き語りから作ったのに対して、『WINDNESS』はバラエティ番組からヒントを得たり、トラックから先行して作ったり、いろんな間口を設けた作品でした。ファンクっぽい曲調とかはトロイ・シヴァンや、それこそENDLICHERI☆ENDLICHERIがやっていることの影響だと思うし、中でも「youre my mirror」や「raining like hell」は、ちょうどとんねるずさんのベスト盤を聴いていたので、そういうところからインスパイアされていると思います。
─意外なリファレンスばかりで驚きました(笑)。テレビバラエティや歌謡曲、特に堂本剛さんの影響は本当に大きいんですね。では、今回リリースされた1stフルアルバム『Version』のテーマを教えてください。
岡林:まずこのタイトルは、幅広い楽曲を取り入れたいという意味での「ヴァージョン」と、もう一つ「ヴァージン・ロード」のヴァージンに語感が近かったことから付けました。本当は最初のミニアルバム『WEAKNESS』につけようと思っていたんです。というのも、本名名義の弾き語りスタイルでデビューして6年経ち、新たな名義で一から再スタートするには相応しいと思ったんですよね。で、今回メジャーデビューという門出でもあったので、これ以降はもう使うタイミングがそうそう訪れないと思ったので使うことにしました(笑)。
─冒頭曲「Last Haze」もまた、これまでにない新境地ともいえる仕上がりですよね。
岡林:実は、本格的にこの曲を作り始めた昨年末が、人生で最も体調を崩していた時で。病院をいくつも回ったり、MRI検査を受けたり、結構シリアスな状態だったんです。アルバムを作るどころか、「もう死ぬかもしれない」って思っていたんですよね。
─え、そんな状態だったのですか。
岡林:でも、よくよく調べてみたところ何も異常はなく……。むしろ人並み以上に健康だと言われるという、コメディみたいなオチを経験して(笑)。それがきっかけとなり、サビで歌っている”明日死んでも良いなんて全て叶うまで無しにしようぜ”というラインが思いついたんです。「人生、終わった」と思ったところからの、「いやまだ続きが全然ある」と気づかされた経験というのが、まさしくGhost like girlfriendとして再スタートする自分にもリンクして。
─なるほど。それでいうと「sands」の歌詞、”スタートをゴールと見間違えて喜んで 出会った何人もが坂を転がりゆく様”というラインも、ある意味では「Last Haze」に通じるところがありますよね。
岡林:そうなんです。例えば「期待の新人」という紹介のされ方ってあると思うんですけど、それも2、3年もすれば「中堅」と呼ばれてしまう。それって「賞味期限」というか、タイムリミットを設けられているのと同じような気がしてしまうんです。
他にも、例えばあるバンドがメジャーデビューを祝ってもらう酒の席で、はしゃぎ過ぎて警察沙汰になり、デビューの話も無くなってしまう話とかを実話として聞いたこともあって。「いや、そこはゴールじゃない。まだ終わってないよ?」っていう。ほんと最近は、いろんな局面でそういうことを感じるんですよね。
─良いことも悪いこともずっと続くわけではなく、死ぬまでは全てが「通過点」でしかないということを、ついつい忘れてしまいがちですよね。
岡林:そうなんです。なので、この「sands」で歌っている内容は、自分自身を律するために言い聞かせていることでもある。これまで積み上げてきたものを、絶対に崩したくないという心配性なところからも来ている曲ですね(笑)。
─それにしても、洋楽っぽいテイストもありつつ、テレビバラエティやジャニーズ、J-POPなど本当に様々な影響がアルバムの中に散りばめられているのですね。
岡林:僕の曲作りの「リソース」は、自分の思い出や記憶の中に、かすかに流れているものをすくい取る作業だったり、友人と「こんな曲があるよ」と情報を交換する中でインプットだったりすることが多いんです。自分から「ディグる」みたいなことはほとんどなくて、割と暮らしの中でふと音楽に出会うケースがほとんどなのですよね。それが自分の音楽性を作り上げているなということを、今回作ってみて改めて感じました。
─次の展開は何か考えていますか?
岡林:今回アルバムを作ってみて思ったのは、1曲目から11曲目まで全部力を落とすことなく走りきるというのは、とても力がいることだなと。作り方に工夫が必要なんですよ。実際、今作は「フルアルバムとして1枚作る」というよりは「ミニアルバムを2枚作る」という意識に途中からシフトしていて。次のアルバムは、最初からそういうコンセプトで作ってみたらどうなるかな、と思っているんですよね。実を言うと、すでに作り始めて6、7割くらいは出来上がっているんですよ。
──え、もうですか? 早い!
岡林:例えば、次のアルバムの1曲目は、今作『Version』の11曲目「feel in loud」と同じBメロを使おうかなとか。この作品と繋がったものにしたいなと思っています。楽しみにしていてください。
<INFORMATION>
『Version』
Universal Music
発売中
初回限定盤
通常盤
Tour Virgin
7月1日 東京・Liquidroom
OPEN/START 19:00/20:00
7月4日 大阪・Shangri-La
OPEN/START 19:15/20:00
ADV ¥3,500(Tax In)(ドリンク代別途)
http://ghostlikegirlfriend.com/