藤子不二雄作品の世界観をつなげるキーマン?
近年ドラマ界では、主役の人気もさることながら、いぶし銀の魅力で作品を支えるバイプレイヤーに注目が集まっています。名脇役たちが主役のドラマ『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系列)は2021年1月から第3シリーズに突入し、映画公開まで控えるほどの勢いですが……実はマンガ界にも伝説的なバイプレイヤーが存在するのです。
その名は「ラーメン大好き小池さん」。藤子不二雄マンガに親しんだ人なら、誰でも一度は目にしたことがあるでしょう。もじゃもじゃ頭に大きなメガネ、ちょっと不機嫌そうな顔つきで、いつもラーメンをすすっている、あの小池さんです。数々の藤子マンガに登場する小池さんとは、いったい何者なのでしょうか?
「ラーメン大好き小池さん」が初めて世に出たのは、マンガ『オバケのQ太郎』でした。家で大好きなラーメンを食べていたところ、ズカズカと上がりこんできたQちゃんにジャマされてしまうという悲しい役どころ。それ以降『オバケのQ太郎』だけでなく、『パーマン』や『ドラえもん』など、作品をまたいで藤子マンガに登場しては大好物のラーメンをすすり、いつしか「ラーメン大好き小池さん」として愛されるようになったのです。
では、作者はなぜ多くの作品に小池さんを登場させたのでしょうか? これは、マンガ界の「スター・システム」と呼ばれる表現のひとつだと言われています。キャラクターを俳優のように扱って別の作品にも登場させるという手法で、手塚治虫作品における例が広く知られています。たとえば、手塚氏のヒゲオヤジは『鉄腕アトム』『バンパイヤ』『三つ目がとおる』などなど数多くの作品で、名前も職業も違う役を演じていました。
ただし小池さんは、ほとんどの場合が「ラーメン大好き小池さん」というキャラクターのまま、別作品でも相変わらずラーメンをすすっているのです。これは、小池さん視点で見ると、Qちゃんもパーマンもドラえもんも、みんな小池さんのご近所でワイワイとにぎやかに暮らしているということですよね。藤子マンガの小池さんは、別々のマンガの舞台、世界観が共通しているということを表すキーマンなのではないでしょうか?
小池さんの正体とは? モデルとなる実在の人物
実は「ラーメン大好き小池さん」にはモデルが存在します。藤子不二雄(A)氏、藤子・F・不二雄氏とともにトキワ荘時代を過ごしたアニメーターの鈴木伸一氏(現・東京工芸大学 杉並アニメーションミュージアム館長)で、ふたりとはいわば盟友の関係です。
そして、ラーメン自体もトキワ荘の“心の味”。モデルである鈴木氏の好物なのはもちろん、トキワ荘では新しく入ってきたマンガ家を引越しラーメンでもてなしたり、住人が中心となって結成したマンガグループ「新漫画党」の結党式でもみんなでラーメンを食べたりと、トキワ荘生活には欠かせない食べ物だったのです。
藤子不二雄両氏もマンガ家を目指して上京してすぐの頃、トキワ荘の先輩に近くの食堂でおごってもらったラーメンの味に大感激したと言います。そんな、“盟友+心の味”を象徴するのが小池さんなのですから、数あるキャラクターの中でも、思い入れもひとしおだったに違いありません。
ところで、さんざん「ラーメン大好き小池さん」と言っていますが、実は「小池さん」は小池さんではないって、ご存じでしょうか? 本当の名前は、小池さんの家に下宿している「鈴木さん」。モデルとなったアニメーターの鈴木さんが当時小池さんのお宅に下宿していたため、マンガでも家の表札が小池さんとなっており、読者に勘違いされてしまったそうなのです。とぼけた風貌になぜかよく合う、これもまた小池さんらしいエピソードです。
(古屋啓子)
外部リンク