美術作家 植田志保さんに聞く「肯定することの大切さ」池袋の地下通路をアートで再生
2019年の東アジア国際文化都市に決定した東京都・豊島区。その豊島区が取り組む事業の一つ「ウイロードの再生プロジェクト」に今、注目が集まっています。「暗い、汚い、怖い」イメージだった公共地下通路が、美しい色により甦りつつあります。手がけているのは美術作家・植田志保さん。2019年10月まで現地で公開制作中だという植田さんに、今回の事業への想いを伺いました。
美術作家の植田志保さん。『家庭画報.com』で好評連載中のジョニー楓の「運気予報」の絵でもおなじみ。
豊島区が取り組む「ウイロードの再生プロジェクト」
大正14年に開通したとされる、池袋駅東口と西口を結ぶ地下通路「ウイロード」。老朽化による漏水などのマイナスイメージがあって、近年、女性にはあまり使われていなかったそうです。
そこで、豊島区は「明るい、きれい、女性に安心、快適性」をキーワードにした改修を決め、美しい色使いに定評のある植田さんに声を掛けました。
パレットに広げた水性塗料を直接手のひらや指につけ、押し当てたり、リズミカルに叩いたりして、色を重ねていく植田さん。16色の塗料を、混ぜたり薄めたりすることで、無限の色を生み出していきます。
美しい色調のさまざまな青
制作のきっかけは、作品展示の依頼から
「最初、既存の作品を提供してほしいという依頼でした。そこで、ウイロードに来てみたところ、長い歴史がある特別な場所なのだと強く感じて、ここをかけがえのないものにしたいと思ったんです。
そこで、壁に直接、描かせてほしいと豊島区長にお願いしました」。
改修前のウイロード(東京・池袋)。写真/豊島区提供
再生に必要なのは、肯定すること
「本当の意味で“再生”をするのなら、その場所のことを知り、ありのままの姿を肯定することが前提にあるべきだと思ったんです。上から蓋をするよりもそのほうが良いと思って。
ごつごつした壁に描くのは大変ですが、それもウイロードの個性。壁と対話しながら魅力を引き出します」
2019年10月まで、透明なついたて越しに制作風景を見られる。長さ77m、幅3.6m、高さ2.1mの地下道は中国の五行説にちなみ、「木・火・土・金・水」をイメージしたアートに。
たくさんの想いや思い出を、昇華して作品に
そんな植田さんの熱意が通じ、直接描画するという改修事業がスタートしました。
絵を描く前に、豊島区は区民からウイロードの思い出を募り、植田さんはその一部の人に直接会って話を聞きました。
パネルの上に乗り、縦横無尽に動きながら色を重ねていく植田さん。
「高校時代、ドキドキしながらここを通ってデートに行った話や、近くの公園で野球をしたこと、特に印象に残っているのは、ウイロードでギターの演奏者と出会ったことがきっかけで、音楽の道を志したという方のお話。
同時にウイロード近辺の歴史についても学ばせていただいて、戦後は闇市がそばにあったことなど、さまざまな人の想いが集まる場所だということを知りました。
みなさんの心を受け取ったような気がしていて。それを自分なりに昇華させて、色に映していっています」。
6月に完成した45枚の天井パネル
2019年春からは地下通路近くのアトリエで縦3.5m、横1.7mのパネル45枚が制作され、6月に天井に設置されました。
ウイロードの近くに設置されていたアトリエで、天井用のパネル制作風景。
縦3.5m、横1.7mの天井用のパネル45枚を完成させた。ほぼ1日に1枚ずつ仕上げていった。
音や言葉がすべて色になった幼少時代
「どうしてあげたらウイロードが一番いい”顔”になるか、と想像しながら描いている」と植田さん。
子どもの頃から、ピアノの音を聴くと、自然とそれぞれの音を表す色が頭に浮かんだという植田さん。
下絵もなしに、コンクリートのごつごつした壁に直接色をのせていく植田さんに迷いは見られず、見ていて気持ちいいほど。「一瞬一瞬に、絶対これ!」という確信があるのだと言います。
ボウルに入った塗料を豪快に流し込む。
花の成長を見守るようにウイロードも育てていってほしい
「なぜだかわからないけれど、ここに惹かれてしまいます。絵を描き上げたら完成、というのではなく、その後もみなさんに育てていってほしいと思います。
ウイロードが、ここを通る人に『いってらっしゃい』『お帰りなさい』と言っているような身近な存在になってくれたらと願っています」
海のようにも、空のようにも見え、想像力を掻き立てられる絵。
2019年10月まで制作現場を公開しています。ぜひ、現場に足を運んでみてください。
フォトギャラリー
植田さんが描いたパネルが天井に取り付けられた。
制作途中の壁面。あえて下地は塗らず、コンクリートのごつごつした面に直接描いていく。
大きな刷毛を使い、外壁用の水性塗料を重ねていく。
どこに何を書くか、どんな色を重ねるかはすべてインスピレーションなのだそう。
色を重ねたり、薄めたりして、色の濃淡や質感の違いを描く。
刷毛や手についた絵の具もまるで作品のよう。
絵の具を水で薄めることで微細な表現が生まれるという。
天井用のパネルの一部。
天井用のパネルの一部。
天井用のパネルの一部。
天井用のパネルの一部。
Informationウイロード東京都豊島区西池袋1丁目1
植田志保/Shiho Ueda美術作家1985年兵庫県生まれ。色に立脚した表現活動を軸に、色の有機的な動きを表現。対話を通して個人の記憶や意識に潜む色を即興で顕在化させる描画 『In a Flowerscape』 がライフワーク。東京・銀座の「森岡書店 銀座店」での個展や、東京・青山の「スパイラル」での合同展などを各地で開催。ほかに、化粧品やお菓子のパッケージ、書籍や雑誌、広告へのイラスト提供、舞台のアートワークなど幅広い分野で活動している。連載:ジョニー楓の「運気予報」一覧>>
1000万のたましいを呼び覚ます「色のすること」~Tour of WE ROAD~池袋ウイロードの再生プロジェクト
竣工:2019 年10 月(予定)
公開制作
実施日:竣工日までの間の平日
実施時間:9時~17時
※日時は目安となります。
TEL:03-3981-1111(豊島区役所)
写真/KEISUKE SUZUKI 取材・文/宮本 柊
●植田志保さんの作品をもっと見る
ジョニー楓「運気予報」連載一覧はこちら>>