3月、Twitterで「シャンシャン定点観測」という写真を見た。なんだこれかわいい…後ろ姿が丸い…シャンシャンちゃん…。
2017年6月に上野動物園で生まれ、12月から一般公開が始まった赤ちゃんパンダ、シャンシャン。
木の上でくつろぐ姿が約3カ月分まとめられている。
しかしこの「毎日パンダ」さん、一体何者なの?
Twitterのプロフィールには「うっかり年間パスポートを買ってしまったばかりに、毎日上野動物園でパンダを見ることになった人」とある。……この一文だけでツッコミどころがありすぎる。
ブログを見ると、本当に毎日パンダたちの写真をあげている! シャンシャンが生まれてからどころか2011年8月から6年半以上、すでに2100日超え……!出勤途中に、お昼休みに、上野動物園に通いつめ、最終的にはパンダに顔を覚えてもらえるようがんばります!(「毎日パンダとは」より)
いやいや、一体何者なんだ。
調べれば調べるほどその疑問は深まるばかりだったので、管理人のぱんだうじさんこと高氏貴博さんに直接会ってみることにした。
「うっかり」で始まった動物園通い
取材は3月半ば、桜の季節には少し早い春の日だった。
待ち合わせは朝8時半。開園後すぐに入園してシャンシャンの観覧整理券をもらうため、早朝取材になった。
シャンシャンフィーバーは一時期よりは落ち着いたものの、平日でも午前中にはその日の整理券はなくなってしまうそうだ。す、すごい。
上野動物園前のスタバに、ぱんだうじさんは真っ黒な格好であらわれた(この服装の理由も後ほど明らかになります)。
平日の火曜日の入園待ち列。午前9時50分時点で折り返し点が見えない…!
――今日は朝早くからありがとうございます。早速ですが、ぱんだうじさんが上野動物園通いを始めたきっかけをあらためて教えてください。
プロフィールにもあるように、本当に「うっかり」なんですよね。
――……うっかりで年間パスポートを買って6年半以上通いつめるものですか!?
まぁ、そう言われるとそうなんですけど(笑)。
当時職場が上野の近くにありまして、ある日、仕事の合間に時間があってぶらぶらしていた時に「そういえば、上野動物園ってパンダいるんだよな」と思い立って行ってみたんです。
で、なんとなくパンダの列に並んで、恋に落ちたんです、シンシン(シャンシャンの母)のお尻に。
桃尻という言葉がふさわしいシンシンのお尻
――お、お尻に……!
こっち側に背を向けてドーンと座っていた大きなお尻が、思ったより大きくて迫力があってびっくりしたんですよ。
ダイナミックでちょっとふてぶてしくて……テレビで見る「かわいい」パンダと全然違った!
なんて自由な生き物なんだろう! と生で見るパンダの魅力に一気にハマったんです。
ごろごろするシンシン
年間パスポートって想像したより高くなくて、4回来れば元が取れる価格なんですよね。会社も近いし「たまにお昼休みに来れば4回くらいすぐだろう」と初日にいきなり年パスを買ったんです。
そしたら「昨日年パス買ったし今日も行くか」となり、「2日連続で行ったしせっかくなら今日も」となり、「とりあえず30日続けたらおもしろいかな?」になり……。
毎日足を向けるうちに、気付いたら7年目になっていました。
記念すべき1日目、2011年8月14日
台風、大雪にも負けず
――さらっと言いますが、毎日ってすごすぎます。ブログを見る限り、休園日もいらっしゃってますよね?
はい、休園日も。台風や大雪で朝電車が止まってしまいそうな日は、前日から上野のネカフェに泊まり込んでます。
東京が大雪に見舞われた朝ももちろん上野へ
雪でも元気なリーリー(シャンシャンの父)
――まさかの前日入り! ちなみにご自宅は近くなんでしょうか。
いや、埼玉在住です。毎日、家から1時間程度かけて通っています。「台東区上野公園」の住所にいつか住みたいですね〜。
通い始めた頃は会社が近かったんですが、一度中目黒に移転した時期がありまして、通勤ルートと動物園が離れてしまったその時期が最大のピンチでしたね。
ちょっとした休憩を使ってさっと行き来するわけにいかないので、なんとか時間を捻出していました。出勤前に一瞬行くとか。
――職場の皆さんの反応は?
最初は何やってるんだろうって感じだったと思いますが、今は「今日もパンダね!」「頑張って!」って感じです。
――優しい世界!
「シャンシャンのためにカメラを新調しました」
――世間ではシャンシャンで大盛り上がりですが、ぱんだうじさんはじめパンダファンの皆さんにとってはいかがでしたか?
それはもう、うれしかったですよ! 念願かなって!
パンダって発情期が短くて、交尾ができる発情のピークが年に3日程度しかない動物なんです。たった3日ってびっくりしませんか?
その少ないチャンスで妊娠して元気に出産に至るなんて、本当に奇跡的なことなんだなとしみじみ感じました。
僕が通い始めた翌年、2012年に生まれた赤ちゃんは1週間で亡くなっていますしね……。
最初は「かわいい」から入ったパンダの世界ですが、生態を知っていくうちに彼らが希少生物であることも強く感じるようになりました。
繁殖の難しさ、動物園の飼育員さんたちの情熱を肌で感じていたので、心からうれしかったです。
12月20日のシャンシャン。まだ小さい
――当初の観覧は抽選制でかなりの高倍率でしたが。
抽選、かすりもしなかったですね……。でも、運良く引き当てたパンダ仲間に同伴して、初日に見ることができたんです。
しかも、お尻をこっちに向けて寝ていたんですよ! 普通は顔が見たいと思うでしょうが、お尻が大好きな僕にとってはベストアングル。最高の「はじめまして」でした。
――シャンシャンが生まれて変わったことはありますか?
気合を入れて、カメラを新調しました。動物園通いをはじめてから数えると、これで4台目ですね。
人混みの中で望遠レンズをガッツリ装着したゴツいカメラを構えるぱんだうじさん
――かわいいシャンシャンちゃんのために……! 子どもが生まれたお父さんみたいです。
異常に連射するので、カメラがすぐ傷んでしまうんですよね。30秒の戦い(※)なので、ほぼシャッター押しっぱなしレベルで撮り続けています。
スポーツカメラマンの人と話した時に「僕らの仕事でもこんなに連射しない」って言われました(笑)。
「パンダ観に行ったら異常に連射してる人いたww」なんていうツイートを見ると、あ、これ自分だなって思ってます。
(※30秒の戦い:シャンシャン&シンシン母子の観覧エリアは中でゾーンが区切られていて、30秒毎に隣に移動する仕組み。
シャンシャンはその中のひとつ、屋内運動場の木の上で寝ていることが多く、実質撮影可能タイムは30秒しかない! という意味)
こんな感じで4つのゾーンに分かれています。シャンシャン撮影チャンスは最初の30秒
ガラスの向こうにいるシャンシャンをこれでもかと連射しまくるぱんだうじさん(緊張感ある雰囲気にのまれて写真がブレブレです、すみません)
美男美女カップルから生まれた超美人
――シャンシャンのかわいいポイントは?
もう……とにかく美人なんですよね。将来が楽しみです。
――シャンシャンは美人!
リーリー、シンシンの両親がそろって美形なので。中国にとって上野動物園は大事な送り先なので、とびっきりのパンダを送ってくれたのだと思います。
そんな美男美女から生まれたシャンシャン、想像以上に整ったお顔でした。本当にかわいいです。
――そうなんだ、パンダにも美形という概念が……。
シャンシャンのパパ、リーリーはオスですが穏やかでおっとり。逆にママ、シンシンは自由に大胆に動き回るアクティブ派です。
僕が一目惚れしたのはシンシンですが、リーリーのよさも付き合っていくうちにわかるようになってきました。なんか……突然パンダのイメージを裏切る“ぶさかわ”な顔をするんですよ。
ぱんだうじさんセレクト“ぶさかわ”リーリー
シャンシャンとシンシンの母子のパンダ舎は整理券が必要ですが、リーリーは屋外の放飼場で時間を問わず見ることができるので、ぜひじっくり観察してみてください。
これからの時期、リーリーの大好物のタケノコがエサに出てくるのですが、ものすご〜く幸せそうに食べるので必見です!
――ぱんたうじさんのような綺麗な写真を撮るために、何かコツはありますか?
まずは先ほど言ったように、臆せず連射することです。一瞬の動きを逃さないように!
それから、黒っぽい服を着ているとガラスの反射を抑えられてきれいに撮りやすいです。だから僕は、毎日黒い服ばかり着ることになってしまうんですが……。
あとは、コツとは少し違いますが、常に最大限気をつけているのは、子どもを優先することです。
子どもたちにパンダを好きになってほしい、素敵な思い出にしてほしいので、前の方のレーンはできるだけ譲るようにしています。なので、望遠レンズは必須ですね。
最近のお気に入りショット、飼育員さんに抱きかかえられて室内に戻るシャンシャン
“残念”な姿こそ生のパンダ
――「パンダってテレビでしか見たことないな」という人も少なくないと思うのですが、生で見る魅力ってなんですか?
そうだなぁ……「かわいくない」姿も見られることですかね。
テレビのニュースで流れるのはベストショット、動いたりじゃれたり、かわいいシーンばかりです。でも本当は、実際のパンダはほとんど一日中寝てるんですよ!
すやすや
なので正直、初めて見ると「寝てるね、つまんないね、残念」と感じてしまうかもしれません。そうではなくて、「これが本来のパンダの姿なんだ」と知ってもらえるといいなと思います。
それに、パンダのキュートなところって顔や仕草だけじゃないんです。僕はお尻が最高だと思っていますが、短い足がかわいいという人もいるし、人それぞれ。
自分だけの“萌えポイント”を見つけると、パンダウォッチをさらに楽しめると思います。
――2100日を超えた「毎日パンダ」生活。いつまで続くのでしょうか。
前に上野動物園のスタッフさんにも聞かれたんですよね、「いつまで続けるんですか?」。
その時「いつまでも!」と言っちゃったので……「いつまでも」です。もうライフワークですね。
シャンシャンは数年で一度中国に帰ってしまうと思いますが、シンシンとリーリーはこれからまだ20年くらいは生きます。彼らの成長に一緒に寄り添っていけるのは幸せですよね。
これだけ通っていても毎日発見がありますし、これからも体力が続く限り通い続けると思います。いつまでも。
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