長年、就職人気ランキングでトップクラスにあったメガバンクが、2019卒から軒並み採用を減らす。その中でも前年の約1400人から半減と、削減幅の大きいみずほフィナンシャルグループの2018年の採用スローガンは「みずほらしくない人に会いたい」。量だけでなく質の面でも、大きな方針転換を打ち出している。
背景にあるのは、盤石の就職先とされてきたメガバンクを包む危機感だ。
就活生の間で人気に陰りが出て来たメガバンク。採用方針を大きく変える銀行も出てきた。
「捨てるときに見てもらえるのです、紙は」
みずほフィナンシャルグループ(FG)は3月、大手就職情報サイト「マイナビ」を通じて、2019卒向けの採用パンフレット7万部を、同サイトに登録している学生に配った。今どき、紙のパンフレットを就活生が読むのだろうか?との疑問に対し、みずほの採用担当者はそう、念を込める。
パンフレットの表紙には、黒いゴシック体で「みずほらしくない人に会いたい」と記されている。ページをめくれば「私たちは、今の〈みずほ〉をぶっ壊す人を必要としています」「答えのみえない状態を楽しめる人」など、およそ従来のメガバンクらしくない文言が並ぶ。
「変わらなければ」という決死の思いを込めたパンフレットも、オンライン上だけでは、クリックされなければ終わりだ。みずほFGをもともと受ける気のある就活生はクリックするだろうが、「受けるつもりのなかった人にも、あえて手にとってもらいたいのです」と、採用グループ担当者は言う。だから、紙も送るのだ。
みずほFGグローバル人事業務部の日置健太次長は、その意図をこう説明する。
「この2年で、新卒採用の人数を大幅に減らすのは事実ですが、量だけではありません。採用する人の質(タイプ)も大きく変えるつもりです」
銀行員に多い性格とは
「銀行も脱・銀行しなくては」と話す、みずほFGグローバル人事業務部の日置次長。
撮影:滝川麻衣子
みずほFG内で、興味深い現象があるという。
「行内で、心理学などに基づく資質診断テストを実施すると、実は同じ項目ばかり高く出るのです」(日置さん)
高く出る項目の内訳はこうだ。
・協調性・人あたり
・統率力
・課題解決
・状況適応力
決して意図的にこの指標で採用している訳ではないが、他業種と比べて、こうした項目の高い人が「従来の銀行員」に多いという。
確かに、銀行は規制業務。ライセンスの枠外にある、びっくりするようなオリジナリティーは必要ない。
一方で、圧倒的に少ないのが「創造的思考力」や「変化志向」の高い人。しかし、ここで日置さんは言う。
「今やAmazonも金融セクターに参入しようとする時代。金融のフィールドから社会を変えようと本気で思うなら、銀行も『脱・銀行』していかなくてはならない。そこで2019卒は、従来の組織にいなかったタイプの人を採りにいかねば、と考えました」
2019卒から、採用段階で新たに意識しているのは次の項目だ。
・「創造的思考力」「データへの関心が高い」「変化志向」など、従来の行員とは違ったタイプを採用する。
・デジタル、サイエンス、テクノロジーに強い人材を、理系の研究室などにアプローチして割合を増したい。
・グローバル人材を増やす。
「(新たなタイプの人材が)例えば100人中5人ではインパクトがないかもしれないが、20人ならインパクトが出る。均質化した組織を変えていきたい」(日置さん)
面接など採用プロセスを通して、意識して新たなタイプの採用を増やす構えだ。
メガバンクの曲がり角
メガバンクのビジネスモデルは、大きな曲がり角を迎えている。
2017年秋、みずほFGが10年で1万9000人分の業務量削減を発表したのをはじめ、三菱UFJ銀行、三井住友FGと3メガ合算で、数年かけて約3万2000人分の「業務量削減」方針が報じられた。
背景にあるのは、インターネット上で業務の完結するフィンテックの台頭はじめ、人工知能(AI)による業務の代行など、技術革新による構造変化の訪れだ。全国に支店を張り巡らせ、膨大な人手を前提としてきた銀行の業務モデルからの脱却が求められている。
日銀のマイナス金利政策も追いうちをかけている。金利の低下により、利ザヤの縮小が経営の重しに。さらにいうと国内市場は人口減少の影響で、この先、規模の拡大は見込めない。
人員規模の縮小で、新卒採用も抑制される。2019卒は3メガ合算で採用人数3割減と見込まれている。
最も大幅に絞り込むみずほFGでは、2017年卒では1100人程度採用していた窓口業務などを担う一般職を、2019卒では200人にまで絞る。みずほFGは「女性活躍推進を推進したことで、退職率も低下した結果」とするが、大幅減に変わりはない。
「激変する時代だからこそ銀行」という人材は集まるか(写真はイメージです)。
「かつては銀行と呼ばれていた」
こうした動きも受けてか、2019卒の就活ランキングで、銀行人気は後退している。
採用支援サービスのディスコの「キャリタス就活2019就職希望企業ランキング」では、2017年1位だったみずほFGは17位に落ち込んだほか、三井住友銀行も14位(昨年5位)と2メガがトップ10から脱落。業界トップの三菱UFJ銀行だけが4位(2017年2位)と残った。
「安定した就職先」を求めてやってくる学生の採用は減らしたとしても、ゲームチェンジの今だからこそ、あえて挑戦する人材は欲しい。変化を希求するのは、みずほFGに限らない。
三井住友銀行も、新卒採用ページで「かつては、銀行と呼ばれていた」「時代は変わる、銀行も変わる」と、従来型を踏襲しない採用姿勢を強く打ち出している。新卒採用予定人数は、2017年の800人から2割減だ。
これからの人材育成
さらに今は、採用後こそ問題だ。今の若手社員は「ここにいては成長できない」と感じたが最後、転職を考え始める。しかも世は人手不足で、第二新卒(大学卒業後数年内の求職者)は引く手あまただ。
前出のみずほFG、日置さんは言う。
「以前は、5年から10年かけて、支店を2〜3カ所経験させて、新人を育成してきました。しかし、今の若手は時間軸が違うと感じています。これはと思う人材は早い時期から、高度で専門的な業務につけて鍛えるなど、画一的ではない育成を考えています」
かつては、年功序列、終身雇用で安定の象徴とされたメガバンクだが、取り巻く環境は、様変わりしている。メガ自身がどこまで変われるのか。それが5年後、10年後の明暗を分けることは間違いなさそうだ。
(文・滝川麻衣子、撮影・今村拓馬)
編集部より:初出時、大手就職情報サイト「リクナビ」を通じて、としておりましたが、正しくは大手就職情報サイト「マイナビ」を通じて、です。お詫びして訂正致します。 2018年5月10日 11:00