◆ 第25回:「チームスワローズ」で日本一
監督として20年ぶりの歓喜の瞬間を味わった。ヤクルトを率いて2年目で日本シリーズ制覇を果たした高津臣吾監督の表情に充実感がにじんだ。
「昨年、一昨年と最下位に沈んで非常に難しいシーズンだったので、喜びも何倍も大きいと思います。すごく嬉しいです」
舞台を神戸に移して迎えた第6戦は5時間の大熱戦となった。延長12回に川端慎吾がレフトへ決勝の適時打を放って試合を決めた。
川端は日本一を決める一打を「最高の結果になってくれました」と振り返り、「本当に無茶苦茶嬉しかった。こんなに涙が出るとは思わなかった」と、日本一を手にした喜びをかみしめた。
高津監督は川端について「シーズンからずっと彼の一振りに頼りっぱなしで、アウトになることが許されない、勝つことがなくなってしまうという場面で、決して当たりは良くなかったですけど、良いバッティングだったと思います」と、代打の切り札として、シーズンを通して活躍し続けたベテランの一打をたたえた。
◆「打てないときは周りがカバー」
「ベテラン、若手、外国人を含めたチームのつながりによってここまで来られたと思っています」
日本シリーズ前日の会見では、リーグ制覇を成し遂げた自分たちの野球を思い起こした指揮官。そして、大舞台に突入しても、変わらず強固なチームワークを発揮した。
「絶対大丈夫」がチームの合言葉となったが、目の前の一戦一戦を戦い抜くことに変わりはなかった。東京ドームでの第3戦で逆転2ランを放ち、チームを勝利に導いたサンタナはお立ち台で「マダ、オワッテイナイ」と、気を緩めることはなかった。
陽気な助っ人オスナは、どんな状況でも全力プレーを欠かさなかった。ペナントレース終盤は不調に陥り、ポストシーズンでの復調を期待された男は、CSファイナルステージ期間の試合前練習で松元ユウイチ打撃コーチから指導を受け、真剣に耳を傾けていた。
日本シリーズに突入し、オスナは第4戦でセンターへ決勝の適時打。この日2試合連続の一発を放ったサンタナと2人で、チームの勝利に貢献した。
3番・山田哲人、4番・村上宗隆が仮に凡退しても、その後を打つ両外国人、さらにはその間を任される6番の中村悠平が取り返す。高津監督は「チームが肩を組んで輪がひとつになるのがチームスワローズ」と話した。
オスナも「主軸の山田選手や村上選手、青木選手らが打てないときは僕たちがカバーし、僕やサンタナが打てないときは周りがカバーしてくれている。それこそがチームだと思います」と、チームの団結力を強調した。
つなぎの6番として、さらには扇の要として投手陣を引っ張った中村はシリーズMVPに輝き「僕ひとりでは取れた賞ではありませんし、チームメイト、周りのみんなの支えがあっての受賞だと思うので、本当に周りの人に感謝したいと思います」と話すと、「来年もまた日本一になれるように頑張っていきたいと思います」と、最後は男泣きを見せた。
◆ 若い投打の3人が日本シリーズで成長
チームを引っ張ってきた4番、そして若い2人の投手の成長した姿が、強くなったチームの象徴だった。
第1戦の先発マウンドを任された奥川恭伸は、球界を代表するエース山本由伸と熱い投手戦を繰り広げた。
「初戦を任せてもらって、相手の山本投手と投げ合うことができてすごく勉強できましたし、良い経験になりました」。20歳の右腕は大舞台で貴重な経験を積んだ。
第2戦では6年目24歳の高橋奎二が、9回133球の熱投で完封勝利。奥川とともにリーグ制覇の立役者となった左腕が、日本シリーズでも結果を残した。
好投の奥川を援護する一発を放った21歳の4番・村上は「奥川があれだけ良い投球をしていたので絶対取り返したかった」と、同点にされた直後に放った会心の勝ち越し2ランについて、こう話した。
日本一を決めた直後には「プレッシャーから解放され、本当にほっとしました。嬉し涙は人生でしたことがない。こういう感じなんだな」と語った若き主砲。
「思うような打撃がなかなかできるときが少なかったですけど、初めての経験でこうして日本一になれてすごく良い経験になりましたし、これから先もっともっとこういう経験を生かして頑張りたいなと思っています」と、決意した。
強くたくましいチームへと生まれ変わった高津ヤクルト。球界随一の団結力で手にした日本一の栄冠だった。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)
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