■連載/阿部純子のトレンド探検隊
フットケアの専門知識を持つスタッフが対応する「足道楽」
ビーズラボが運営する「足道楽(あしどうらく)」は、2008年に1号店をオープンし、現在首都圏で22店舗を展開しているインソール(中敷き)と靴の専門店。同店はインソールの中でも、オーダーメイドインソールの先駆的存在で、これまでに延べ10 万人の足を見てきた実績がある。
主力商品である自社開発の「ビュートラルインソール」(2万4980 円/カウンセリング・製作費含む)は、足首の骨格のゆがみを矯正し、歩きやすくする、特許取得済みのオーダーメイドインソール。個々の足に合わせて作るオーダー品のため、一般的なインソールより高額ながらも、2018年3月の発売から2021年9月までの約3年半で、累計販売数が2万3000足を超えるヒット商品になっている。
「ビュートラルインソール」は米国の足病医学をベースに開発した中敷きを日本人向けに改良したもので、メインユーザーは、足や歩行に悩みを抱えるシニア層。利用者からは「歩き疲れなくなった」「慢性的な膝痛、腰痛が解消した」と好評で、歩行困難で車いす生活だった人が歩けるようになるなど、スムーズな足運びや体重移動を可能とし、歩いている時の足や膝への負担を軽減する。
シニアに次いで多いのが、競技のパフォーマンスを上げたいスポーツ選手や、成長痛と呼ばれるオスグッド病の痛みを抱える子どもたちで、購入者の6割以上がリピートするなど高い評価を得ている。
製品づくりを担当するのは、全身の骨格や筋肉に関する知識を有する専門スタッフ。全スタッフが自社資格「骨格マイスター」を持ち、スーパーフィート社のカスタムインソールの資格「テックマスター」や日本フットウェア技術協会のインソールとスポーツシューズに関する「スポーツシューフィッター」、スポーツブランド「ミズノ」認定の「フットウエアアドバイザー」などの有資格者も揃っている。
取締役社長の三河尚氏(下記画像)は、足に精通した“インソール博士”。ウォーキングシューズアドバイザーをはじめ、自社資格も含めると9個の資格を保有している。
足首のゆがみを矯正し、立つ姿勢も変える独自のインソール
専門知識を持つスタッフが、足の痛む部分や普段の悩みなどをヒアリングするとともに、足の可動域や形状、硬さなどを触診で確認。
立った状態で足の形状測定やインソールの成形を行わず、椅子に座り足を浮かせた無加重の状態で、専用器具を使い片足ずつ長さや横幅など大きさを測定。足本来の足裏の形に合わせたインソールにすることで、本来の正しい姿勢を取り戻し、立った時の足首の歪みを矯正するという。
形状測定後は、体重がかかっている足の部分や歩き方の癖を調べるため「足型」を取り、足圧(足裏の圧力・下記画像)をチェック。3 層構造の中間層の特殊コルクを足裏に合わせて手作業で成形計測を終えるとインソール製作に入る。
ビュートラルインソールは3層構造(上層・中間層・下層)になっており、最大の特徴である中間層は一定の高温下で自在に変形するコルク素材を使用。180度のオーブンで熱して柔らかくし、足裏の形に合わせて指でこねるように変形させ、上層(複合素材)の踵部分の外側に沿わせるように貼り付ける。それに樹脂素材の下層を貼り合わせ大枠を作ってから、足裏に当てながら、インソール全体を最終成形していく。
最終成形時も、高い椅子に座り、足を地面から浮かせた状態(無加重状態)で行い、その際、足首から下全体をビニール袋で包み、袋の中の空気を抜きながら真空状態に。足本来の形にインソールが吸い付くような状態を保ち、コルクが固まるのを待ち、最後にインソール自体の長さを調整すれば完成。
コルク部分にある程度クッション性があるが、上層下層ともに比較的硬さのある素材を使用。踵を包み込むようにホールドし、足裏の形がつぶれないように固定。立った時に足首周りの骨格を、足本来の形に合った正しい位置に戻す。
いつもとは異なる正しい姿勢になるため、動かす筋肉も変わり、使い始めは筋肉痛を伴う好転反応が出ることもよくあるが、使い続けることで歩行姿勢が安定し、膝痛や腰痛、外反母趾や偏平足などの足の悩みの予防、改善につながる。
一般的なオーダーメイドのインソールは、製造を外注するため、完成までに2~3 週間程度の日数を要するが、「足道楽」では製造小売りモデルの強みを生かし、カウンセリングから足のサイズ、形、足圧の測定、製造までのすべての工程を店内で完結。所要時間は約30~45分で、その日にうちに靴に入れて履いて帰ることが可能だ。
在宅時間が長い人は、スリッパに入れて自宅で足をケアするのもおすすめとのこと。
2年を費やし日本人の足に合うインソールを開発
「足道楽」の主力商品の一つが、元オリンピック選手や日本代表選手などアスリートの愛用者も多い、足病医学から誕生した米国スーパーフィート社製のインソール。その中でも技術的に最も難しいオーダーメイドタイプ製品の製造が終了してしまったことから、「より日本人に合うオーダーメイド型のインソールを生み出せないか」と自社開発したのが「ビュートラルインソール」だった。
大きさや形、肌の質感など、日本人の足の特徴に合わせたインソール作りに着手したが、最も難航したのは素材選び。上層は硬すぎず、柔らかすぎない素材が見つからず、歩行をサポートするには程良いしなりも重要だったため複合素材を採用。クッションとなるコルク素材は足にぴったりと合う膨張率のコルクを見つけ出すのに苦労し、開発を諦めかけたこともあったという。
欧米人と日本人では足の形も大きさも異なるため、型もゼロから見直して、日本人の華奢な踵に合わせるため、形状をミリ単位で調整するところからスタート。足の形、歩行の際の足の動きは人によっても全く異なるため、老若男女に適応する型の製作は試行錯誤を繰り返し、完成品に近い試作品だけで約50を制作。完成までに2 年を要した。
製品開発で大きな武器となったのが、日々、カウンセリングや、触診で実際に足を手で触り、感覚的に日本人の足を知り尽くしていたインソール作りの職人たちの感覚と知見。ビュートラル商品化までに、足に触れた客の数延べ約6万人で、職人たちは、試作品が出来上がるたびに、オーダーメイド試着を繰り返した。現場の感覚を大切に、“日本人の足に合うインソール”を追求したのが「ビュートラルインソール」だった。
【AJの読み】足のトラブルの解消が期待できる足病医学に基づくインソール
私事で恐縮だが、現在両足踵骨折の整復中で、オーダーメイドした治療用足底装具を装着して日々の生活を送っている。インソールといえばサイズの調整に使うものという程度の認識しかなかったが、足底装具や、「ビュートラルインソール」にように、足病医学の観点から用いられるインソールの重要性を初めて知った。
靴を履く習慣のある欧米では足病医学が早くから発展し専門医もいるが、日本では2019年に「日本フットケア・足病医学会」が発足、足の疾患の専門外来を設けたクリニックも徐々にではあるが出てきている。
日本人の約7 割が、足首が過剰に内側に倒れ込む「過回内(かかいない)」の状態にあると言われており、自分の足に合っていない靴や姿勢の悪い歩き方、加齢などで足首周りの関節が緩むことなどが原因として挙げられる。
「過回内」をチェックするには、履き慣れている靴底の擦り減り方を見るのがわかりやすいとのこと。内側に重心がかかった状態で歩いているため、靴底の外側全体が極端に擦り減りやすくなるためだ。
「足道楽」のインソールは、足の骨格の歪みを正しい位置に矯正。過回内の改善に加え、歩行姿勢も安定し、外反母趾や偏平足、浮き指、足裏に繰り返しできるタコ、巻き爪などの足のトラブル解消が期待できるという。
「足道楽」では、全身の骨格や解剖学、フットケアに関する専門知識を持ち、カスタムインソールの高い製作技術を身に付けたスタッフが、客の悩みや不調、ライフスタイルを細かくヒアリングするなど、“足の専門家”が店舗で対応、一般的な靴店とは異なる足へのアプローチが特徴だ。足のトラブルが気になるなら、最寄りの「足道楽」で相談してみては?
文/阿部純子