AMDの“Big Navi”こと「Radeon RX 6000シリーズ」は、同社のRDNA 2アーキテクチャーを採用したGPUだ。7nmプロセスで高クロック同左、さらにInfinity Cacheに16GBのGDDR6メモリーといった内容は、GeForce RTX 3080や3070と真っ向から勝負できる“最高に強いRadeon”と言って差し支えない。
すでに発売している「RX 6800 XT」および「RX 6800」の性能は「Radeon RX 6800 XT/6800で強いRadeonが久々に戻ってきた!」の前編・後編で検証しているが、RX 6000シリーズの性能を語る上で欠かせないのが“SAM”、すなわち「Smart Access Memory」の存在だ。
SAMについて簡単に解説すると、今まで慣例的にわずか256MBの小さな窓を通していたCPUからVRAMへのアクセスを止めると、そのオーバーヘッドが減って描画性能が上がる(ものもある)というものだ。
AMD縛りと思われていたSmart Access Memoryだが……
AMDはSAMについて、当初「Radeon RX 6000シリーズ+AMD 500シリーズチップセット+Ryzen 5000シリーズ」という限定した環境特有の機能であるかのように言っていた。しかし、実際はPCI Express 2.0の時代から存在する機能「Re-Size BAR」(あるいはResizable BAR:リサイズ可能なBase Address Register)を有効活用したものだ。つまり、AMD製のCPUやチップセット、GPUを用いなくとも、SAMに準じる動作は期待できるのだ。
そんな中、ASUSはいち早く同社製のIntel Z490チップセット搭載マザーボードの一部に向けて、SAM(Re-Size BAR)対応を謳ったβ BIOSの提供を開始した。同様のBIOSが今後Intel H460やIntel Z390チップセット搭載マザーボードにも提供されるかについてはまったく不明だが、今回は先んじてSAMに対応したIntel Z490チップセット搭載マザーボードを試そうと思う。
今回はCore i9-10900K+ASUS製のIntel Z490チップセット搭載マザーボード+Radeon RX 6800 XTという、「Intel製プラットフォーム上のRadeon」な環境を用意。SAMに準ずる機能(本来はRe-Size BARと呼ぶべきだが、便宜上SAMと呼んでしまおう)がゲームのフレームレート向上に効くのか否かを検証してみたい。
有効化手順はRyzen環境と同じ
今回は「ROG MAXIMUS XII EXTREME」を使って、SAMを有効化する手順について解説しよう。まずはASUSからリリースされたBIOS「1002」にする必要があるが手順については割愛する。β BIOSなのでシステムが不安定になるかもしれないし、万が一BIOS更新に失敗したら最悪マザーボードが動かなくなる可能性もある。つまり、完全に自己責任の世界になるので、同様の検証を行なう場合その辺を覚悟の上で挑んでいただきたい。
BIOSの書き換えが完了したらBIOS設定を開き「Advanced」→「PCI Subsystem Settings」を開こう。すると「Above 4G Decoding」の下に「Re-Size BAR Support」という項目が出現しているはずだ。これを「Auto」に変更しよう。さらに、「Boot」→「CSM(Compatibility Support Module)」内にある「Launch CSM」も「Disabled」にする必要があるが、ASUS製マザーボードの場合、標準でDisabledになっているはずだ。
あとはRadeon RX 6000シリーズを装着し、普通にドライバーをセットアップするだけで準備OK。デバイスマネージャー上でビデオカードのプロパティーを開き、リソースタブに「大容量メモリの範囲」という項目があれば、SAMが有効になっていることになる。
ゲーミング性能の向上は確認できた!
では、SAMがIntel製プラットフォームでも本当に機能するのか、ゲームを使って検証するとしよう。今回の検証環境は以下の通りだ。CPUのPower LimitはIntel定格設定(PL1=TDP)、メモリークロックはCPUの定格に合わせてDDR4-2933運用としている。ドライバーは検証時点における最新版(Adrenalin 20.11.3)を使用している。
検証環境 CPU Intel「Core i9-10900K」(10C/20T、3.7~5.3GHz) CPUクーラー Corsair「iCUE H115i RGB PRO XT」(簡易水冷、280mmラジエーター) マザーボード ASUS「ROG MAXIMUS XII EXTREME」(Z490、BIOS 1002) メモリー G.Skill「Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX」(DDR4-3200、16GB×2)×2 グラフィックス AMD「Radeon RX 6800 XT リファレンスカード」 ストレージ Western Digital「WD Black NVMe WDS100T2X0C」(NVMe M.2 SSD、1TB) 電源ユニット Super Flower「LEADEX Platinum 2000W」(80PLUS PLATINUM、2000W) OS Microsoft「Windows 10 Pro 64bit版」(October 2020 Update) SAMはどんなケースでも性能向上に寄与するわけではない。そこで前掲のRadeon RX 6000シリーズの検証において、その効果が顕著に確認できたタイトルで試す。すなわち、「Assassin's Creed Valhara」、「Forza Horizon 4」、「Red Dead Redemption 2」、「Rainbow Six Siege」の4タイトルだ。
まずはAssassin's Creed Valharaで試してみよう。画質は“最高”とし、ゲーム内ベンチマーク機能を利用してフレームレートを測定した。解像度は時間の都合上、フルHDでのみ検証している。
Ryzen 9 5950XとAMD X570チップセット搭載マザーボードを組み合わせた環境では、Assassin's Creed ValharaはSAMの効果が最も観測できたタイトルだった。そして、Core i9-10900K+Intel Z490チップセット搭載マザーボードの組み合わせでも、同様の効果が得られた。SAM無効時に比べ、平均フレームレートが14%上と大きく向上したのだ。
続いてはForza Horizon 4で試してみよう。ダイナミックオプティマイゼーションは無効とし、画質は“ウルトラ”に固定。内蔵ベンチマーク機能を利用して計測した。グラフ中「GPU-○○」とあるのはGPU側の処理におけるフレームレートであり、実際に画面に出てくる平均フレームレートは「fps-Avg」となる。
SAMを有効にしても無効にしても、画面に出てくる平均フレームレートは220~221fpsとなるため、SAMの効果はないように見える。しかし、GPU側のフレームレートはSAM有効時は無効時から16~20%増加していた。フルHDでは描画負荷のどこか(おそらくCPUまわり)がボトルネックになってしまっている可能性がある。
ということで、「解像度をWQHDに上げてCPUボトルネックを避ければ、SAMの効果が平均フレームレートでも表われるのではないか?」と思い、Forza Horizon 4だけWQHDでも検証してみた。
狙い通り、解像度を上げるとGPU側のフレームレートもディスプレー上の平均フレームレートも向上した。伸び幅は9%弱と控えめだが、GPUのオーバークロックも利用せずに性能が9%伸びるならば、Intel製プラットフォームでもSAMを有効にするメリットは十分あると言えるだろう。
続いてはRed Dead Redemption 2だ。画質は最高設定(精密度最大)とし、内蔵ベンチマーク機能を利用して検証する。3回計測し、最低フレームレートが最も悪かった結果を比較した。
このベンチマークは最低フレームレートが落ち込みやすい。しかしながら、AMD環境ではSAMを利用することでそのの落ち込みが解消されることを確認している。そして今回、Intel製プラットフォームのSAMでも最低フレームレートの落ち込みが劇的に改善されることが確認できた。平均フレームについても7%程度伸びており、SAMの効果は十分得られたと言える。
最後に、Rainbow Six Siegeの結果をご覧いただこう。APIはフレームレートが出やすいVulkan APIを選択。画質は“最高”をベースに、レンダースケール100%を追加した。
AMD環境で検証した時点では、SAMの劇的な効果が確認できたタイトルであった。しかし、今回の検証では最小フレームレートや最大フレームレートでこそSAM有効時のほうが高いが、平均フレームレートにおいては明確な差があるとは認められない結果となった。
β BIOSにはつきものの不具合の可能性もあるが、今回の検証直前にゲームの大幅なアップデート(容量46GB!)があり、そこでエンジンまわりに何らかの手が入った、あるいは不具合が残された可能性のほうが高いと筆者は推測している。
まとめ:Intel製CPUでもRX 6000シリーズのSAMは利用できる!
以上で簡単ながらASUS製β BIOSに実装されたSAM(に準ずる機能)の検証は終了だ。今回テストしたゲーム4本の内、3本においてAMD環境でのテスト結果に近いデータが得られたので、SAMがしっかり効いていると考えてよいだろう。Rainbow Six Siegeの平均フレームレートでは明確な差が確認できなかったが、これは今後のゲームのアップデートで変わるかもしれない。
ソフトや周辺機器の対応の関係でIntel製プラットフォームしか使えない人でも、Radeon RX 6000シリーズのパワーを引き出すことができるようになった点は、自作PCにおけるパーツ選びの自由度確保において極めて重要な実績と言えるだろう。
ちなみに、現時点のGeForceではSAMに対応できていないが、NVIDIAもGeForce上でSAM(と同等の機能)を有効にすべく動いている。もしこれが実現すれば、CPUもチップセットもビデオカードもAMD製か否かに関係なくSAMの効果が得られることになる。NVIDIAのほうはリリース時期を明言していないが、非AMD製ハードにもSAMが完全解放される日を待ちたい。
ただひとつ頭に置いていただきたいのは、今回検証したBIOSの機能(Re-Size BAR Support)は今後変更される可能性もあるかもしれない、ということだ。ASUSのBIOSもまだβ段階だし、何らかの不具合が発見されて実装が撤回される可能性もある。その辺をしっかり理解した上で、人柱となっていただきたい。
■関連サイト
AMD「Radeon RX 6800 XT」製品ページ ASUS「ROG MAXIMUS XII EXTREME」製品ページ Intel「Core i9-10900K」製品ページ