仮面夫婦から普通の夫婦に戻れるの?
仮面夫婦とは、世間体、あるいは経済的な事情などのさまざまな理由から、実質的には夫婦関係が終わっているのに、夫婦関係を続けている夫婦のこと。
ここでは、仮面夫婦になる原因や、仮面夫婦の特徴、離婚せずに夫婦で居続ける意味などを踏まえた上で、仮面夫婦の関係修復について考えてみたいと思います。
仮面夫婦になる原因の1つが「他人と自分との比較」
私の主宰する「恋人・夫婦仲相談所」では、「となりの寝室事情・うちの寝室事情」というメールマガジンを15年以上、配信しています。匿名で寄せられた夫婦仲に関する相談を公開して、アドバイスを掲載するという形式です。
読者さんからの反応では、「うちだけが夫婦仲が悪いような気がしていました。でも、うちよりひどいご夫婦もいるんですね」という、少し安心したような声が届くことはよくあります。
世の妻たちは、知らず知らずのうちに、今の環境を”おとなりさん”と比較しがちです。他人のことなんか気にしない強い妻もいますが、多くの方は、やはり自分の位置を他人と比較することで確認したがる傾向があります。
夫の会社の知名度、夫の年収、住んでいる住所やマイホームの有無、タワーマンションの階層、自家用車のブランド、夏休みの旅行先、旦那様の家事参加率、旦那様のイケメン度、こっそり聞いた夫婦の寝室事情など……さまざまな条件をインプットし、自分の結婚生活の「価値」を値踏みするのです。
そして、その結論が「私だけが損してるんじゃないか」「私の結婚生活はイマイチじゃないか」「この夫を選んでよかったのか」という風に、自身の結婚を「損得」で測るようになると、これが仮面夫婦への道まっしぐらに突き進む原因の1つになります。
「離婚を考えないわけではないが、損得でいくと損しそうなので夫婦関係を続けておこう」という流れです。こうなってくると仮面夫婦にありがちな行動をとりがちです。そして、どちらかが仮面をかぶると、相手もかぶる。共鳴現象です。
仮面夫婦の特徴とは?
そんな仮面夫婦には、以下のような特徴があります。
1:相手に興味がないので生活に必要な会話しかしない
最低限の衣食住&子供の話題のみ。それも、楽しむための会話ではなく、必要な依頼や連絡といった事務的な内容の会話になります。
2:第3者がいると表情が変わり、夫婦円満をアピールする
これが「仮面」と呼ばれるゆえん。夫婦仲が悪いことが周囲に与える印象、影響はマイナスなことが多いので、自分が損をしないように、外ヅラだけはよくなります。損得の考え方が強い人ほど「仮面」は完璧です。
3:「結婚とはこんなもの」という諦め感が強い
結婚そのものよりも、結婚が生み出す「価値」の損得勘定が優先されるので、自分の感情を「諦め」という形で封印するのです。
4:スキンシップもセックスもない
心が冷えていますので、身体も性的スイッチが入りません。会話を楽しむことができないようなふたりが、スキンシップやセックスを楽しめるわけがありません。もちろん笑顔を見せることもありません。パートナーの前では笑顔が封印されてしまいます。
ひどくなってくると、子供を通じて会話をするようになります。「お父さんは○○に行くって言ってるよ。いつ行くのか聞いておいて」など。
仮面夫婦が離婚をしない理由は? 仮面夫婦を続ける意味とは
上で挙げた特徴の中でも、とくに3番(「結婚とはこんなもの」という諦め感が強い)は多くの仮面夫婦が抱えている闇です。
そんなにクールな関係なのに、なぜ離婚しないのか?と、第3者は思うでしょう。しかし、こういった夫婦は実はあっちにもこっちにも存在すると思いませんか。
見た目には一般的な家族形態、それなりの生活をさせてくれる夫、かわいい子供たち、誰もが羨むモテ男、そこそこ美しい妻、親の遺産をたくさん持っている妻、親にすすめられて選んだ夫など……離婚するにはもったいない状況ばかり。
手放すのは寂しいかもしれないため、決定的な理由がなければ生活の安定、世間体のプライオリティが高くなります。また離婚すると「バツイチになったの?」「母子家庭で大変」と言われてしまうのではないかという不安。
よって、大きな言い争いはせず“黙り込む”、“諦める”、“やり過ごす”、“受け流す”の4拍子で暮らし、仮面夫婦となるのです。そして周囲に対しては笑っているので、誰も気づかないのが一般的なのです。
離婚後のダメージを考えると、仮面夫婦でいるほうが幸せという選択肢が多数派です。経済的ダメージ、子供の気持ちのダメージ、ステータスを汚されるダメージ(離婚すると社会的イメージが悪くなる職種)。離婚しない理由は無数にあります。
仮面夫婦で居続けるより、関係性を修復したほうが楽なのでは?
それならば、仮面夫婦の仮面を脱いで、相手との関係性を修復したほうが生活が楽になるのではなかろうかと、最初は私も考えました。本音をぶつけ合え、ということです。
しかし、本音のぶつけ合いは水掛け論になったり、怒鳴り合いになる夫婦もいました。ケロッとしてもとに戻ることはむずかしい。ぶつけ合いすらするのが嫌だという重篤な夫婦もいます。
そして、なぜ私たちの発行している「となりの寝室事情」メルマガを、夫婦の悩みを抱える大勢の読者さんが愛読してくれるのか。なぜ赤裸々に「うちの寝室事情」を語ってくれるのかをあらためて考えてみました。
離婚したいのなら、弁護士事務所や離婚相談所に行くほうが効率的です。なぜ、他人の夫婦の悩みを熱心に読み、自分たちの事情を語るのか……。
仮面夫婦が、メルマガを読んで前向きな気持ちを持てる理由
たどり着いた結論は、この相談所、あるいはメルマガが、夫婦仲に悩みを抱えている人、仮面夫婦で過ごしている方に、一種の希望を与えているのではないか、ということです。
「うちは仮面夫婦と思っていたが、相談所事例やメルマガに出てくるおとなりさんほどひどくないぞ。もう一度目の前にいる人と向き合ってみよう」
メルマガを読んでこのように思う人も少なくありません。そして、事例で登場した方たちにアドバイスしたくなるのです。うちのことはわからないけど、おとなりさんのこじれた関係にはアドバイスできる。まさに、反面教師的、夫婦関係整理法。
仮面夫婦を演じながらも、心の中に「もう一度昔に戻れるかもしれない」という一縷の望みがどちらか一方にある場合、「私たちのほうがまだ大丈夫かもしれない」と前向きな気持ちになっている。アドバイスできる気持ちの余裕まで出てくる。「経験者は語る」は必要なことです。
実際に、仮面夫婦でセックスレスの妻の方が、おとなりの事例を読んでいるうちに自分たちの言動を反省し、セックスレスが改善され、妊娠しましたという報告は少なくはありません。
こじれている自分たちの行く先を信じることができたとき、仮面を脱ぎ、もう一度ふたりきりの時でも笑い合えるようになる! その可能性があることがわかってきたのです。
仮面夫婦は「ほかにもこんな人がいる」という情報を得るのも大事
「私のパートナー選びは失敗だった」「私たちの夫婦関係はうまくいかなかった」、そんな風に自分の心にふたをしてしまった人は、周囲への劣等感や敗北感、孤独感で前向きな気持ちを持てなくなってしまいます。
そんなとき「ほかにもこんな人がいる」という情報を得ることで、「うちだけじゃなかった! 私たちはうまくやれるかもしれない」という前を向く力を得ることができるようです。
仮面夫婦を解消するきっかけのひとつが、「仮面夫婦は自分たちだけじゃない」と知ること、というのは間違いありません。私だけが結婚に失敗したと、消沈してしまうと、自分を認めることができなくなります。関係性がこじれた相手を責めながら自分を攻撃する負のスパイラル。だめです!
自分たちが仮面夫婦だと思い込んでいる方は、まず「うまくいっていないのは自分たちだけじゃない」と思うことが、状況を変える第一歩かもしれません。
そしてほかの仮面夫婦にアドバイスをしたくなったときが、仮面夫婦卒業の兆しになると思ってください。
文:三松 真由美(夫婦関係ガイド)