「叩いちゃダメ!」と叱っても全然効き目なし、どうすべき?
親から子への暴力、いわば児童虐待が問題化している昨今ですが、逆に、子供が親を叩いたり蹴ったりという話もよく聞きます。
「なぜうちの子はすぐに手が出てしまうのか?」
「どこから暴力を学んできたのか?」
と悩み、現場では「叩いちゃダメ」と叱責するものの、一向に変わる気配なし……。
この記事では、子供が叩いたり蹴ったりする心理、そして親としてどう向き合っていくのが望ましいかについてお伝えしていきます。
なぜすぐ手がでてしまうのか
「うちの子、すぐに手が出て、親を叩いたり、蹴ったりすることもある。どうして?」
こんな話を聞いたら、みなさんどう思うでしょうか? その子はなぜ親を叩くようになってしまったと考えますか?
おそらく、「親の方も子供を叩いているのではないか?」そう思った方もいると思います。つまり、「親が叩いているから、子も叩くようになるのでは」という推測です。
たしかに、こういうことはよくあります。教育心理学者のマッケンジー博士の著書の中でもこのようなくだりがあります。
親:「うちの子はすぐに兄弟や友達を叩いてしまうんです」
博士:「そのときどう対処していますか?」
親:「まず初めはしっかりと分からせるために大きい声で叱ります。それでも止めないようであれば必要なら叩きます」
このように、叩くのはダメだと子供に分からせるために、親自ら叩くという強硬手段に出てしまうケースは少なくありません。
しかし、必ずしもそうではなく、親は叩かないのに、子供が叩くケースもあります。この場合、親としては辛いものです。周りからそういう目で見られているかもしれないということ、原因が見えない分、対処に迷うこと、心情は複雑です。
手が出てしまう子の共通点とは?
困ったときに手が出てしまう子にはある共通点があります。相手を叩くことで、何かしらの恩恵を受けているということです。
身近なところでいけば、
・欲しいおもちゃが手に入った
・食べたいクッキーをもう1枚もらえた
・もっと長い時間ゲームをすることができた
などです。中には、
・周りの注意を引けた
・みんなを威嚇できた
こんなケースもあるでしょう。
人間は、自分で起こした行動でいい思いをすると、その行動を繰り返しやすくなります。心理学でいう「強化」が起こり、「あれは効く。また次もやろう」となるのです。ここでいうなら、「お、叩くとみんながびっくりして言うことを聞いてくれる。ならばやらない手はないぞ」というわけです。
親は叩いたことがなくても、たとえば周りの子のふるまいを見て、「あ、叩くのはよさそうだぞ」というのも始まりのきっかけになります。心理学の実験でも、暴力の観察学習は証明されていて、映像上で暴力シーンを見た子供たちの攻撃性が高まることが分かっています(とくに生身の人間が演じている映像で起こりやすい)。
「叩くのはダメ!」だけでは学べない
ただ、叩く、蹴るというのは、学習で得るものばかりではなく、非常に原始的な防衛反応でもあります。動物が自分を守るために相手にかみつくように、子供たちも教えてあげなければ、原始的な手段に頼ることが増えてしまうのです。
親は「うちの子すぐ叩いちゃう」と悩んだとき、「叩いちゃダメ」とその行動を封印することに神経を集中させてしまいがちです。でも「叩くのはダメ」ということを教えるだけでは、きっとその子は次も繰り返すでしょう。なぜなら、その代わりに何をすべきなのか、これが分からないからです。
「知らなければ、原始的な行動に頼るしかない」
これくらいの視点で状況を見れば、親ができる関わりが見えてきます。
叩かない解決法が効果的に学習できる工夫を
子供は暴力を観察学習で学ぶように、模範行動も学んでいきます。社会的、道徳的な規範がまだ身についていないほど、とっさに手が出やすくなりますので、非暴力的な解決法のレパートリーを増やしていくことがカギになります。
たとえば、話し合う、譲る、歩み寄る……など。ただ、「話し合おうね」「譲ろうね」と教えるだけでは学んでくれません。それらが叩く蹴るよりも「よさそうだ」と実感することで、そちらの非暴力的な解決法へと置き換わっていくのです。
叩いてしまった後では、親はもう叱るしかありません。残念ながら、事が起こった後では、できることが少ないのです。
それよりは、日ごろから非暴力的な行動(例:説明したら納得した、ごめんねと言えた、手を出さずに貸せた、など)を取れたら積極的にほめ、解決策のレパートリーを増やしていくことに力を注ぐ方が賢明です。その際は、完璧でなくても、理想形でなくても、暴力的な解決でなければ、大きな前進ですのでほめていきます。
ママやパパにほめてもらえて、叩いて解決していたときよりも「いい気分♪」を得られれば、その行動はインプットされていきます。叩くことを封印するアプローチではなく、叩かない解決法を効果的に学習できるアプローチに切り替えていきましょう。
文:佐藤 めぐみ(子育てガイド)