世界的に猛威を振るう、新型コロナの問題が、タイの日本人社会でも騒動を起こしています。
騒動の発端は、2020年3月3日の火曜日、タイのアヌティン保健相がFacebookに「日中韓などの11ヵ国の危険地域からの入国者に14日間の隔離を義務づける」という趣旨の内容を掲載した事が発端です。
しかし、この掲載はわずか数分後に何の説明もなく削除され、さらにその後、アヌティン保健相はFacebookアカウントも閉鎖しました。そしてタイ政府の見解は、このような隔離義務など決定していないというものとなります。
このアヌティン保健相のFacebookへの掲載について、掲載当日の3月3日にタイの大手英字メディアのBangkok Postが次のように伝えています。
Bangkok Post)11 risk zones defined to facilitate measures(対策のために定義された11の感染危険地域)
https://www.bangkokpost.com/thailand/general/1870669/11-risk-zones-defined-to-facilitate-measures
「アヌティン保健相は3月3日(火)に自身のFacebookで、新型コロナの感染危険地域からの入国者の全員に14日間の隔離が義務付けられると掲載した。しかしながら、この投稿は数分後に何の説明もなく削除された」
これを受けて日本メディアでは、経済紙大手の日本経済新聞が同日の2020年3月3日、以下の記事で、タイ保健省が日本からタイへの入国者に、14日間の隔離を義務付けると発表した事を伝えました。
日本経済新聞)中国・タイ、日本を隔離対象 インドはビザ無効に (2020年3月3日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56334300T00C20A3MM8000/
「タイ保健省も3日、日本や中国など計11カ国・地域からの入国者に自宅などで14日間の隔離を義務づけると発表した」
これは、上記のタイのアヌティン保健相がFacebookに投稿して公表した事実を元に伝えたものでしょう。
しかし実際には、アヌティン保健相が数分後にFacebook投稿を削除し、日本からタイへの入国者に隔離が義務付けられてなどいなかったのですが、日経新聞までが隔離義務が発表されたと報じた事から、この問題でタイで対応に苦慮している日本企業や店舗などを中心に騒ぎが大きくなります。これについては、隔離義務がされたのかと筆者の所にも問い合わせなどが多くありました。
参考記事:タイ・パタヤに異変が! コロナウイルスで激減した中国人・韓国人観光客のあとにやって来た者とは……? | TABLO
この騒動を受けて2020年3月5日、在タイ日本国大使館が、次の通り隔離義務の事実は無い事を伝えました。
「一部報道で、タイ保健省が、日本を危険感染症地域に指定、日本からタイへ入国した方について、自宅などで14日間の隔離を義務づける旨発表したと報じられていますが、当館よりタイ保健省及び外務省に確認したところ、現時点では“そのような事実はない”とのことです。
今後、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関してタイ保健省より発表等があるとのことですので、引き続き、当館のホームページ等を参照の上、最新の情報収集に努めて下さい。
なお、これまでの当館からのメールでもお知らせしているとおり、日本を含めた、国内で感染例が増加している地域からの渡航者及び14日以内にこれらの地域に滞在した渡航者については、検疫強化の対象となっており、さらにタイ保健省は、“タイ入国後14日間の自宅等における症状の観察等の協力を要請”しております。
また、入国時や病院受診時など、必要な場合にはきちんと日本等への渡航歴をご申告いただくようお願いします」
この騒動を受けてタイの日本人社会では、一部の一般の人間などから日経新聞の報道について「いい加減な報道」だとか、まるで日本大使館が、日経新聞の問題に対応しているかのような意見までが多く見られるようになり、ネット上にはそのような書き込みが溢れるようになっていました。
例えば、バンコクのある日本人は、Facebookにこんな書き込みをしています。
「いい加減な報道が多い為、僕にも問い合わせがありましたが。
“協力要請のみです”
詳細は添付しております在タイ日本大使館のお知らせを見て下さい。」
これでは、まるで在タイ日本大使館が、日経新聞の報道に問題がある事から対応したかのような書き込みです。この人物は、こんなコメントの上で、なぜか自分の顔のアップ写真をFacebookに掲載しています。
このような、タイで新型コロナ騒動となっている本報道。
これについては、タイニュースなどを配信するPJA NEWSを執筆している筆者も意見を書いておきます。
報道する人間の視点で言えば、日経新聞の上記の3月3日の報道内容は、事実確認としてタイのアヌティン保健相がFacebookに投稿してまで発表した内容を確認した上で報道しており、これを論拠にタイ保健省の発表を伝えるのは、報道する人間として当然のことです。
この点は、十分な事実確認がされている上に、たとえば誤訳や誤解などがあったわけでもなく、何ら問題があるようなものではありません。PJA NEWSの筆者だって、もしアヌティン保健相が発表した内容が確認できたのが先なら、日経新聞と同様に報道していたでしょう。
筆者は、たまたま先に上記のBangkok Postの記事を確認していたから、この記事を書かずに確認対応を優先していただけです。
問題となったのは上記のBangkok Postが報じる通り、タイのアヌティン保健相がFacebook投稿をした後、わずか数分後に何の理由の説明もなく削除し、これから検討という内容に変えて、対応が右往左往してしまっている事です。
一方で、日本の大手経済紙である日経新聞の報道の影響は、日本社会に対して非常に大きいですから、そこで「日本からタイへの入国者の隔離義務」の事実などないのに、あるかのように広まってしまった誤解を解かなければならないという状況となりました。
この「誤解を解かなければいけない」という在タイ日本大使館の側の事情ももっともであり、そのために出されたのが2020年3月5日の、上記の在タイ日本大使館からの通知です。
これらを考えると、日経新聞の上記の報道については全く問題となるものではなく、きちんと正確にタイ保健相の発表を伝えており、かつ在タイ日本大使館の対応も、日本社会の中で誤解が広まるのを止める為の、正当で良心的な対応だと思います。
騒動の問題は単に、タイの保健相、保健省の発表内容が迷走している事が問題であり、これについて報道や大使館に問題があるかのような意見は、全く的外れというべきでしょう。
もっとも、上記経緯によりタイの日本社会では、大きな騒動となった事は事実です。
タイの日系企業などでは各社、新型コロナ騒動で人の移動、物の移動、販売の大幅減少など、大きな影響が出ている中にあります。
このような状況の中ですから、日経新聞の報道については、騒動があった事も含めてきちんと説明の上で、正確な情報を冷静に伝える方が、より適切な対応だとは思います。
タイでも新型コロナの問題は、既に日本企業の経済活動を中心に大きな影響を与えており、それに伴い多様な騒動を引き起こしています。正確な情報の収集と、冷静な対応を心がける事が求められています。
一方で、タイの日本メディアにおいては、Tabloでも以下の通り報じている通り、遥かに重大な問題が引き起こされています。
このような問題は、日本のメディアの信頼を貶めるのは勿論ですが、親日国のタイで、あまりにも酷い内容ではないでしょうか。(取材・文◎福留憲治)
https://tablo.jp/archives/15747
https://tablo.jp/archives/tag/24%e6%99%82%e9%96%93%e3%83%86%e3%83%ac%e3%83%93
補記)筆者が配信責任者を務める
PJA NEWS
(タイニュース、パタヤニュースを毎日配信)
https://www.pattayaja.com/