仕事中に新型コロナウイルスに感染して「労災」を申請する人が増えている。10月7日時点で1,403件。そのうち1,104件が医療従事者などだ。労災はよく聞く言葉だが、実態はよくわからないという人も多いのでは。どんな補償があるのか、経済ジャーナリストの荻原博子さんが解説してくれたーー。
■コロナの場合は労災認定率100%
労災とは、仕事中や通勤途上で起こる「労働災害」のこと。従業員を1人でも雇っている会社は、労働災害に備えて、労災保険への加入が義務となっています。対象は、パートなどを含む雇用されて働く方全員で、労災保険料は事業主が全額負担しています。
仕事中の事故でけがをした、仕事中の有害な物事が原因で病気を発症した、自宅と職場との間で事故に巻き込まれたなどの労災が起きたら、医療費や休業補償などが支払われます。
まず、医療費は、労災保険から全額が支払われます。病院窓口で、健康保険証を提示して3割負担分を支払う必要はありません。
次に、労災がもとで仕事を休む場合は、4日目以降、労災保険から休業(補償)給付が、これまでの給与の8割支給されます。
医療費も休業補償も、業務以外のけがや病気などで通常の健康保険を利用したときより、労災保険は手厚いものです。また、療養期間中とその後30日間は、労働基準法によって解雇されない決まりになっていますから、じっくりと治療に専念できるでしょう。
ほかにも、障害が残った場合は障害(補償)年金など、また、亡くなってしまった場合はその遺族に葬祭料や遺族(補償)年金などが支給されます。
こうした労災は、申請後に審査があり、認定されるのは通常3割程度だといいます。’19年度に脳・心臓疾患での請求は936件ありますが、認定は216件。認否が決定したうちの認定率は約32%です。
ところが、新型コロナウイルスでは、審査を終えた743件すべてで労災認定され、認定率は100%。これは、厚生労働省が4月に「職場での感染が濃厚な場合は労災認定する」と特例を発表したためです。
医療従事者など、職場がクラスターとなるケースは、今後もあるでしょう。躊躇することなく、労災を申請するといいと思います。
また、コロナ関連以外では、’12年度から過去最多を更新し続けているのが、精神疾患による労災申請です。’19年度は2,060件の申請がありました。
原因には、ひどい嫌がらせやいじめ、仕事の内容や量の大きな変化などが挙げられています。’15年12月に、広告代理店に勤めていた高橋まつりさんが自殺した件も、’16年に労災と認定されました。
似たような状況で、苦しんでいる方も多いのではないでしょうか。泣き寝入りせず、会社に労災申請を要求してみてはいかがでしょう。労災などあってほしくないことですが、万が一のために、頭の片隅に置いておきましょう。
「女性自身」2020年10月27日号 掲載