人の心や体の回復や改善を図るセラピストが、ビジネスとして成功するために必要なことは何か。
それは、セラピーの技術だけではなく、経営者としてのビジネススキルやノウハウ、そしてセラピストとしてのマインドだと述べるのが、一般社団法人日本プロセラピスト協会(JPTA)代表理事の鈴木幸代さんだ。
今回は上梓したばかりの『成功する「セラピスト」ビジネスの教科書』(セルバ出版刊)について鈴木さんにお話をうかがい、セラピストがビジネスで成功を得るにはどうすればいいかを聞いた。セラピストにとって必要不可欠な「セラピストマインド®」とは一体何か。そして事業が上手くいかないときには何をすべきなのか。
(新刊JP編集部)
■長く続けるためにセラピストは今、何をすべきなのか
――『成功する「セラピスト」ビジネスの教科書』はセラピストに限らず、他の業界の方にも通用するビジネススキルやノウハウ、経営者としてのマインドが解説されています。こうした内容にしたのはどうしてですか?
鈴木:どんな企業でも、理念、企業方針、企業目標があり、最初にミッション、ビジョン、バリューを考えます。それはセラピスト業界も全く同じで、その根幹がなければビジネスとしてやっていけません。ただ、セラピスト業界はまず個人事業主から始める方が多いからか、なかなかその部分を考えられていないんです。
自分がどの目的地に向かって事業を進めているのか、どんなことを施術で提供していくのか。どんな空間を提供するのか。目的があるからこそ、マインドも定まります。だから最も大事な根幹部分ともいえるんですね。
そこをしっかり持っていただいて、事業を進めてもらう。長くセラピストとして活動していく上で、何か障害が起きることもあります。そのときに立ち返る場所として理念が必要ですし、その部分をお伝えできればと思っていました。
――セラピストは職人的な仕事であると思います。ただ、往々にしてビジネス面が疎かになってしまう印象があるのですが、それではやっていけないと。
鈴木:まさにそういう部分をクリアしていくために、一般社団法人日本プロセラピスト協会を立ち上げました。資格や技術がお客様を見つけてくれるわけではありません。相当な技術力があり、知名度も高い方ならお客様は寄ってくると思いますが、ほとんどの方はそうではないと思います。
だからこそ、ビジネススキルやノウハウが重要なんです。今、どういうニーズがあるのか、時流を読む。コロナ禍で対面での施術ができないならば、それをどう補うかを考えるためにはビジネススキルやノウハウ、マーケティングの能力、経営者としての能力が問われます。
無料や割引という手もあるけれど、価格競争が進んでしまうと体力が持たなくなります。だから、自分にしかできない付加価値は何かを考えたり、新しい価値を提供できないか探したりというビジネス面での力が問われるんです。
――では、本書を出版はちょうどタイミングが良かったということですね。
鈴木:そうなのかもしれません。こういう時期だからこそ、事業基盤を見直すことが大事です。本書を読んで頂いて、今の自分の事業と照らし合わせて、不足している点、見直すべきポイント、逆に加速できる部分があるなら、それを精査し、新しい価値を提供できるようになるチャンスだと思います。
また、事業計画がぶれているとしたら、理念に合わせた事業の進め方をすべきでしょうし、理念がないなら考えるべきです。それを今この時期に行って、新しいスタートラインに立ってほしいですね。
――また、本書の中に「セラピストマインド®」という言葉が出てきます。これは重要な言葉だと思うのですが定義を教えてください。
鈴木:日本プロセラピスト協会での定義は、「人を思い、人に寄り添い、笑顔と可能性を引き出す心のあり方」としています。つまりは「思いやり精神」ですね。
ただ、「思いやり」だけですと、思い込みになってしまったり、思い上がりになってしまうことがあります。セラピスト側の目線による「お客様のために」が、本当にお客様のためにならなかったりすることがあるんです。そうすると、お客様が苦しんでしまうことになる。そうならないように、「寄り添う」という言葉を使っているんです。
――「寄り添う」という言葉は分かりやすいですね。
鈴木:お客様が笑顔になったり、自分の可能性を信じ、自ら一歩を踏み出せるようになるために、寄り添うような気持ちでセラピストは施術する。それができる人になってほしいと思って「セラピストマインド®」という言葉を提唱しています。
――現在事業が上手くいってなかったり、仕切り直したいと思っているセラピストの方々に対して、成功するためにまず何をやるべきかアドバイスをお願いします。
鈴木:上手くいっていないならば、事業を見直すことですね。足元を固めることが必要だと思うので、事業計画を見直して、目的を達成するために何が不足しているのかを直視することが大事だと思います。
もしかしたらそれが遠回りだと思うかもしれないけれど、そうではないんです。苦しい時期だからこそ、事業の根幹作りをしましょうとお伝えしたいです。
「あり方」を見直すことで、新たな「やり方」が見えてきます。
――ビジネススキルやノウハウ、経営者マインドを学び、セラピストとして成功している事例をご紹介いただけますか?
鈴木:沖縄にヘアメイクとエステのサロンがあるのですが、その方は日本プロセラピスト協会の講座で勉強をして、事業計画を根幹から作り直し人材育成に力を注いだ結果、それまで任せられなかったサロンの運営をスタッフに任せることができるようになって、新たにメイクアップのスクール事業に着手できるようになりました。
また、セラピストとして起業と同時にビジネスの勉強をしたいという方が来て、しっかりと学んでいった結果、開業後、お客様から信頼を受けるようになり、1年で黒字化させたサロンもあります。今は更に新しい事業を展開しています。
――各所で活躍されているんですね。では最後に、『成功する「セラピスト」ビジネスの教科書』をどんな人に読んでほしいとお考えでしょうか。
鈴木:セラピストの方、起業をされてサロン経営をされているオーナー、スクールの先生を含めて、セラピー業界の方全般に読んでほしいです。また、セラピーという名前が付かない仕事でも、人を元気にするあり方をもって役に立つようなサービスを提供している起業家さんもいらっしゃると思います。ビジネスの根幹は同じです。そういう方々にもぜひ読んでいただければと思います。
(了)