震災から11年 行方不明になった妻を捜し、今日も女川の海に潜る夫
仙台放送
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  • 総評清水康之

    東日本大震災の後、仲間と「死別・離別の悲しみ相談ダイヤル」を数年続けた。「津波に流され、逃げる途中で子どもの手を離してしまった。その瞬間のことが頭から離れない」「家族が全員亡くなって、これからどう生きていけばいいのか分からない。早くみんなのところに行きたい」。そんな声を聴き続けた。 相談ダイヤルには「あいまいな喪失」に苦しむ人からの相談も寄せられた。行方不明の家族について「もう生きてはいないはず」と思いつつ、「いや、もしかしたら外国に漂着して、記憶を失い連絡が取れずにいるのでは」「いや、そんなはずない」と、わずかな希望と拭い去れない諦めとのはざまで身動きが取れなくなっていた。 高松康雄さんも「亡くなられた方と言うのは葬式をあげて、看取って、火葬して、とプロセスがありますよね。行方不明の場合は、朝行ったきり突然もう帰って来ない訳です。ちゃんと整理が出来ていないと言うか」「どこか諦めきれないような」と語る。心にぽっかり開いた穴。康雄さんは毎週海に潜り、その穴を埋めるために、祐子さんとの対話を続けているのではないか。一日も早く、祐子さんをご自宅に連れて帰れる日が来ることを心からお祈りしたい。

  • 総評長野智子

    一人の男性の生き方を通して、11年前の東日本大震災が過去ではなく「今」も継続していることが胸に迫ります。「墓に妻を納骨し、墓前で語りかけたい。俺ばっかり、ごめんな」という高松さんの言葉が、改めて震災によって大切な存在を失った遺族の悲しみと苦しみを伝えていて涙が出ました。 同時に今も海に潜り続け、またお孫さんと温かい時間を過ごす高松さんのすぐ側で祐子さんが優しい笑顔で寄り添っているように思えるのは、取材者が時間経過を丁寧に追った賜だと感じます。

LINE NEWS編集部より

「3.11」の津波で行方不明となった愛妻を捜索するため、潜水士の資格をとり、海に向かい続ける男性に密着。写真やグラフを活用し、男性の震災後の人生を丁寧に切り取った。11年以上が経過してもなお、東日本大震災は終わっていないことを実感させられる。