細田守監督の最新作「未来のミライ」が今月20日、公開となった。
すでに96の国と地域での配給が決定。5月のカンヌ国際映画祭期間中には、作家性の強さと評価で選出される「監督週間」に、アニメーション作品として唯一選出された。
日本のみならず、海外でも注目される細田作品だが、今回は"監督最愛の人"が帰ってきたことも話題となっている。「サマーウォーズ」以来9年ぶりに、あの山下達郎がテーマ曲を歌う。
しかも、オープニング(OP)テーマとエンディング(ED)テーマの2曲を書き下ろした。今回はLINE NEWS独占取材という形で、山下達郎と細田守監督が対談のオファーに応じてくれた。
山下:おひさしぶりです!
細田:ご無沙汰してしまって恐縮です。曲をつくっていただいてから、まともにお礼も言えないままで。
山下:そうか、曲ができてから、まともにお会いするのは、今日が初めてか。海外にもプロモーションに行っていたでしょう?
細田:はい。今回は完成前からフランスに行ったりとか。達郎さんこそ、全国ツアーの合間ですよね?
山下:はい。真っ最中です。11月まで続くので、まだ5分の1。まあ、ゼロから生み出すスタジオの作業に比べれば、多少はラクですから。とはいえ、先日の豪雨被害はぞっとしました。
細田:ちょうどあちらの方を回られていたんですね。
山下:倉敷、徳山、松江とライブで回っていたんですよ。東京に帰ってきて、ニュース映像を見てびっくりしました。
細田:そうだったんですね。
山下:この場を借りて、まずはお見舞いを申し上げます。
映像から受けた衝撃──
細田:あらためて、今回も本当にありがとうございました。OP曲の「ミライのテーマ」が70年代、シュガー・ベイブにいらっしゃった時の感じがある一方で、ED曲の「うたのきしゃ」はファンク系と言いますか。本当にカッコいい曲で。
山下:「サマーウォーズ」の時も感じたんですけど、基本的に細田さんのアニメには、テクノが合わないんですよ。人力のグルーヴが合う。だから普通のリズム隊でつくっているんです。
細田:「サマーウォーズ」は、すごくデジタルの作品っぽいんですけど、実は家族を描くアナログな作品です。そういったところを最初からご理解いただけて、本当に光栄です。
山下:ご自身はホームドラマじゃないっておっしゃってるけど、ホームドラマとファンタジーがないまぜになる、あのセンスが細田さんの持ち味だから。虚実ないまぜというか。
細田:そこらへんもだいぶ世間に認知していただけるようになりましたけど、それも「サマーウォーズ」で達郎さんに曲を書いていただいたのが大きかったんですよね。
山下:そうなんですか?
細田:その前につくった「時をかける少女」なんて、最初は上映が全国6館のみ。そこから次、という時に達郎さんが書いてくださった。普通なら「なんだお前は」となるところを。
山下:そんなこと、ないない(笑い)。でも、あの時はツアーとかぶっていたんで、最初はお受けできないかなと。
細田:時期的にもギリギリでしたよね。8月公開なのに、達郎さんのところにうかがったのは、2月を過ぎていたような…。
山下:でもプロデューサーさんに「僕が受けなかったらどうするんですか?」って聞いたら、そのときは主題歌はインストにすると。そんなこと言われたら、ね(笑い)。
細田:もうホント、恐れ入ります。
山下:4月までツアーがあったし、普通なら身体がキツいので尻込みするんですよ。でも、送られてきたアバターの映像がものすごくてね。「うわ、なんだこれー!」ってね。衝撃でした。
ピタッとはまった、テーマと尺のバランス──
山下:細田さんの場合は、映画はどうやって作り始めるんですか?
細田:最初は雑談ですね。プロデューサーとかと4、5人で。その中でモチーフとかが浮かんできたら、そこから作業に移ります。
山下:不思議なのは、今作も、どっちかだけでもいけただろうなと。
細田:と、言われますと?
山下:ホームドラマとして、くんちゃんと両親、ミライちゃんの物語だけで1本撮れる。逆に、未来の東京駅のシーンのような話で押し切っても1本撮れる。それがクロスオーバーしている。
細田:ああ、確かに2つ入ってますね。
山下:すごいと思うんですよね。純文学趣味の方とかは、そこまでしなくてもと思うかもしれない。しかもアニメで。でも「鉄腕アトム」とかもそうなんですよね。
細田:確かに。「鉄腕アトム」はベースは学園ドラマでありながら、SFで未来の世界を描く。それでかえって、ヒューマンな部分が引き立っているというのはありますね。
山下:しかも「未来のミライ」は上映時間98分でしたよね。これ、本当にすばらしいと思うんですよね。最近の映画は昔に比べてとにかく長い。映像作家趣味なのか、カットが長い。
細田:確かに、そうかもしれません。
山下:それがこの作品は、2つのテーマがクロスオーバーしながらこの長さに収まっている。これはすごい。
細田:いやいや、恐縮です。
山下:結末とか、当初の予定よりもだいぶ省略されましたよね?
細田:はい。そういう部分も含めて、うまく描写できたというか。考えていたことがバチっとはまって。短くつくるというのは、すごく気持ちがいいなと。
山下:生意気言うようですけど、すごくきれいな終わり方だと思いました。
細田:光栄です、本当に。短くつくるにはコツが必要ですね。テーマと尺のバランスとか。それも今回はピタッとはまりました。
実はもう1曲書いていたんですよ──
山下:今回のOP曲「ミライのテーマ」に関して言うと、本当は今のバージョンの前に、もう1曲書いていたんですよね。
細田:そうでしたね。
山下:でも鬼プロデューサーがいましてね。「これではワクワク感がない」と。けっこう渋く仕上がっていたんですが。
細田:それは本当に、申し訳ありませんでした…!
山下:最初をちょっと抑制的にしたほうがいいかなと思っていたんですよね。場面が冬だから。それから視点が下りてくる時のスピード感を考えても、最初に書いた方でいいかなと。
細田:僕はそちらも好きだったんですけど…。
山下:でもプロデューサーさんのほうが正しかった。そこはやはり百戦錬磨。こっちは今作に対してだけですけど、彼女は年間何十本もやっている中での感覚ですからね。
細田:でも、それで本当につくり変えていただけるとは思いませんでした。
山下:僕はCM音楽に関わっていた時期が長かったんで。画に合わないと意味がないところで育ったから、おっしゃりたいことはよくわかる。なら、曲調を明るくしよう、って。
細田:詞とか世界観は変わってないですよね。まあ、映画の冒頭らしさというところなんですかね。
山下:OPが妹の曲なら、EDはくんちゃんの曲。「何があっても遠くだけを見る」というのは、くんちゃんの人生観のすべてかなと。なので、それでつくろうと。
細田:「うたのきしゃ」は、最初は「バースデートレイン」というタイトルでしたね。
山下:最終的に「うたのきしゃ」の方がかわいいかなということになって、変えたんですけどね。
細田:最初にデモと一緒に歌詞を見たときに、バースデーという言葉のチョイスにぞくぞくっときました。
山下:そうでしたか。
細田:妹の誕生を素直に祝えなかったくんちゃんが、最後には祝福できるようになった。そういう意味では、彼自身のバースデーでもあるかもしれない。そう思うと、ホントにぞくぞくっと。
山下:いやー、歌詞にはそんなに自信ないんだよなー(笑い)。
細田:デモでは歌詞が完成していなくて、ところどころハミングだったりするんですけど、それも含めてカッコいい。最初にぞくぞくさせていただけるのは、本当に幸運です。
山下:細田さんの作品は、インスパイアされる強さが違いますもん。ポテンシャルが違う。
細田:うわー、本当に光栄です!
山下:東京駅をぶわーっと下りるシーンとか「一体どうやって作るんだろう」って(笑い)。いい作品だと自然とイマジネーションが湧く。
細田:OP曲のお願いをした時点では、お見せできたのは絵コンテだけでした。でもED曲のころには、予告編なども完成しつつあって、作品がこういうものですとお知らせしやすかったです。
山下:細田さんのアニメは、かわいらしさもあるんですけど、汗かいて、ぎらついている表情、僕にはあれがトレードマークに思えます。あの顔がグッと来るんですよ。何よりイマジネーションにつながります(笑い)。
初めから古い。だから古くならない──
細田:それにしても、達郎さんの曲はすごく命が長いというか。僕らファンはどれだけ長い間、それぞれの曲を聴いてきたかというのがあるわけじゃないですか。
山下:いつ作られたのか分からないような作品が理想なんです(笑い)
細田:今回の作品は、時空をこえていくという話ですけど、達郎さんの曲こそが時間を飛びこえている。しかもそういう曲が何曲あるんだろうと。数えきれないくらいですよね。
山下:20代の時から、なるべく流行を追わないようにしようと。作曲法も、編曲法も、レコーディングのやり方も。最初は常に古いと言われるけど、初めから古いから、古くはならない。
細田:それは確かに。
山下:ドゥーワップなんてのは50年代の音楽だけど、それを80年代にやっていた。もともと古いから、それ以上には古くならない。へそまがりなんです。トレンドを追わない。
細田:リズム隊のカッコよさと言うのも、最初からずっと変わらないものですよね。先ほどもおっしゃっていましたが、今回の「ミライのテーマ」も生のリズムなんですよね。
山下:そこは大事にしてます。実は最近の自分の曲って、ライブで演奏困難なんですよね。
細田:えっ?なぜですか?
山下:いただく仕事の締め切りが短いか、なかなか書けないか、なんですよ。なので結果、人力のリズム隊でトライ&エラーする時間がなくなっちゃう。
細田:うーん、お忙しいですもんね。
山下:で、どうしてもコンピューター打ち込みに助けてもらってしまう。そうすると、人力での演奏がしばしば困難になってしまうんです。
細田:レコーディングは終えられるけど、その後はどう演奏するの?って話になってしまうんですね。
山下:録音の世界はミクロコスモスで、いくらでも音を重ねられる。でもライブの場合はリズムパート6人にコーラス3人、サックス1人という制約がある。それで曲を再現できなければ、テープの音を使わざるを得ない。それはなるべく避けたい。人力で全部やりたいんで。
細田:では、少なくともこの映画の曲は、ライブでの演奏も可能なわけですね。いつか生で聞けるかもしれないのは楽しみですし、映画をつくった側としても非常にうれしいです。
ポピュラーなものと、作家性の両立──
山下:僕は、元々は作曲家かプロデューサーになりたかったんですよ。シンガーソングライターというよりも。だから昔から、曲のバリエーションの広さを意識してきた。詩には全然自信がなかったんですけど、デビューから40年以上たって振り返ると、不思議なことに、ヒットした曲は全部自分で作詞したものだったりする。
細田:「RIDE ON TIME」のころからそうでしたよね。若い人には、木村拓哉さんのドラマの主題歌のイメージかもしれませんけど、最初にヒットしたのは確か1980年。
山下:理由は分からないんですけど、結果的に自分で作詞もするようになっていった。そういう背景もあるので、どういう曲をつくるかについても、作家的な意識の方が強いんですよね。
細田:分かります。作家性の強さ。
山下:でも一方で、僕の出自はコマーシャルアートの方に近いから、「あのシーンに一番合うのはなんなのか」というのを考えてやっているところもある。
細田:そういうポピュラーなものと作家性とで、どっちかだけというわけじゃないというのが、僕は憧れとして仰ぎ見てきた部分です。それこそ、学生のころから。
山下:結果論もありますよ(笑い)。
細田:自分も作品をつくるときに、やっぱりたくさんの人のものとして仕上げたいと思うわけですよ。今回は特に、夏休み映画ですから。そういう役割を大事にしてつくっています。
山下:でも作家的で、小説的ですらある。
細田:はい。例えばアニメーション映画で、家族をモチーフにすることは普通はしないですよ。でも自分としてはそこをあえてモチーフにした上で、エンターテインメントとして満足してもらえるものに仕上げたい。自分自身の根拠みたいな部分を映画の中で表現するのと、みんなの作品として捉えてもらうことを、どう両立させるかを考えています。
山下:細田さんの作品からは、鉄の意志を感じますよ。
細田:達郎さんの曲は、そういう思想の高みです。作家性と大衆性が、ものすごく高い位置で一致しているんです。そういう曲が何十年も聞かれ続けて、今も若い人に影響を与えていると思います。若いLINEユーザーの皆さんの中には、いつ書かれた曲かを知って驚く方もいるのでは。
山下:でも、いい時代ですよね。SNSのおかげで、いったん清算された文化が復活しているんですよ。レコード時代なら、廃盤になったらそれで終わりだった。でも今は、年代を超えてすべての作品が並列ですよね。望めばどんなものでも聴ける。これはすごい。
作家性と大衆性という、相反すると考えられる方向性が、高い位置で重なっている。
そんな共通点もあってか、2人の話は尽きることがなかった。当初予定されていた30分を大幅に過ぎ、1時間近く続いた。
作り手として響き合う2人の、熱のこもったコラボ。「未来のミライ」が、世界中の人々の心を揺さぶろうとしている。
(取材・文=塩畑大輔、撮影=能美潤一郎、編集=LINE NEWS編集部)
映画「未来のミライ」情報
小さな庭から時をこえる旅へ― それは過去から未来へつながる、家族と命の物語。『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』―次々に大ヒットアニメーション映画を生み出し、国内外で注目される映画監督・細田守。最新作『未来のミライ』で挑むのは、甘えん坊の男の子“くんちゃん”と未来からやってきた妹“ミライちゃん”が織りなすちょっと変わった「きょうだい」の物語。声の出演:上白石萌歌、黒木華、星野源、麻生久美子ほか。全国にて上映中!
山下達郎さんのCD情報
New Single「ミライのテーマ/うたのきしゃ」が好評発売中です。細田守監督の最新作「未来のミライ」のオープニングテーマ、エンディングテーマが収録されています。初回限定盤:WPCL-12892、通常盤:WPCL-12893。定価:¥1,000(本体)+税。