「私を先頭に音楽業界が変われば」"起業するアイドル"という新世代の出現

2018年7月26日 11:00 LINE NEWS編集部

アイドルやアーティストの事務所移籍や脱退についての話題が、時折大きく報道される。エンタメ業界において「事務所」は、やはり大きなファクターとして存在している。

ライブハウスを中心に活動する若手のアイドルたちも、事務所に所属している人が多い。そんななか、「個人で起業して」活動を行う"新世代"のアイドル、アーティストたちが出現してきている。

彼女たちは一体どんな思いがあって「起業するアイドル」という道を選んだのだろうか──。

"ノーギャラ"時代を経て、個人での活動を決意


5月初頭、都内ラジオ局に、ひとりの女性の姿があった。アイドルやシンガーソングライターとして活動する里咲りさ(25)だ。

この日は番組収録のために足を運んだわけではない。番組に自身を出演させてもらえないかの交渉、営業に来ていたのだ。

彼女はアーティストとして活動しながら、自身が所属する事務所兼レーベルの代表取締役を務めている。れっきとした社長だ。

もともともはアイドル・グループに所属していたが、脱退。当時、事務所からギャラが支払われなかった経験もあり、これ以降は個人事業主としてフリーで活動、個人レーベル「フローエンタテイメント」も立ち上げた。

Zepp DiverCityを個人でレンタル


2014年に里咲りさ名義でソロ活動を開始。2017年9月には、Zepp DiverCityで単独ライブを行った。

X JAPAN、ボブ・ディランといった多くの著名ミュージシャンが使用してきた同会場を個人がレンタルするのは異例だったが、支配人と直接交渉し、前金を支払った上でようやくOKをもらった。

当日、客席は満員。無謀だと思われていた挑戦は大成功となり、この日の売り上げは約300万円に及んだ。

この頃、複数の大手メジャー・レーベルからオファーがあったが、契約しなかった。

「たったひとりのアーティストが、大きな会社の後ろ盾もなく、メインストリームで活躍しているという未来を実現させたいんです。でももう個人でやるのは限界だったし、一気にZeppまで行っちゃったから、仕切り直したかった」

出した答えは、個人事務所の法人化だった。今年4月、突如「Pinokko」名義での活動をスタート。同時期に、新レーベル「HAWHA MUSIC RECORDS」を設立した。

「お金がないと多くの人に届けられないし、会社の名義がないと広い会場も借りられない。それなら自分で会社を作った方がスムーズだなって。メインはもちろん音楽活動なんですけど、そのためのツールですね。私にとっては、演奏するためにギターを持つ感覚に似ています」

「最初は笑われたけど600万円の融資を得た」


資本金200万円はこれまでの活動の利益でまかない、活動資金として日本政策金融公庫に融資の申請をした。税理士事務所に足を運び、創業計画書を作成。最初は笑われたというが、活動の収支や会社の展望を事細かに書いた計画書を見ると、相手も真剣になった。

「めっちゃ資料を作りました。これまでの収支や、5年後までの収支計画を書いて。いつ人気が落ちるかわからないのは重々承知しているから、アーティスト活動以外でもどうやって収益を得られるか考えました。機材の貸し出しや楽曲提供、イベント制作など、具体的な数字を出して説明して」

その熱意が伝わり、最終的には600万円もの融資を得た。担当税理士によると、審査が通らない場合も多く、融資を受けられるのは3割程度だという。その関門を、彼女は突破した。

今後は、アイドルの「新しい形」を見せたいと話す。

「私は地下アイドル業界で育ったんですけど、そこから成功した人って、まだほとんどいないと思うんです。でも青春の貴重な時間を費やしているわけだから、みんな将来に不安を抱いている」

「地下アイドルでもZeppまで行けますってやってきた責任があるから。私がアーティストとしてちゃんと成功できれば、新しい道ができると思うんですよ」

「なんでもありなんだなって生き方を見せたい」


現在、彼女と同じように会社を設立するアイドルも増えてきている。

「YouTuberさんもそうですけど、インターネットができて、今はやろうと思えば自分たちでなんでもやれちゃう。アイドルとかは関係なく、そういう時代なんじゃないですかね」

「私は音楽が大好きで、作詞作曲も好き。音楽をずっと続けながら、これからも誰もやったことがないことに挑戦したい。なんでもありなんだなって生き方を見せたいんです」

作詞・作曲・編曲も行う多才なアイドル

 
4月中旬、都内のファミレスで会議が行われていた。その中心にいるのは、真剣な表情に混じって、時折キラキラとしたまぶしい笑顔を見せる女性。アイドルの眉村ちあき(21)だ。

この日、行われていたのは株式会社「会社じゃないもん」の戦略会議。眉村は同社の代表取締役社長を務めている。

眉村はグループ活動を経て、2016年より事務所には所属せず、現名義でソロ活動をはじめた。

作詞、作曲、編曲だけでなくトラックも自身で制作。高い歌唱力を持ち、楽器も演奏するなどマルチに才能を発揮している。アイドルでありながら、アコースティックギターを片手に、ライブ中にその場で曲を作って披露することもある。

ステージで実力を発揮する一方で、ライブ後にファンと突然ハンカチ落としや鬼ごっこをはじめるなど、自由奔放なキャラクターも話題となり、順調にファンを増やしていった。今年6月にテレビ東京「ゴッドタン」に取り上げられると、一気に注目度が上がった。

ライブの物販でファンに"株券"を譲渡

 
活動であげた利益の使い道に「迷っていた」という眉村は2017年12月、芸能プロダクションを経営する知人の石阪勝久氏の助言により、会社じゃないもんを設立した。

「おもしろそうだったから(笑)。すべては、おもしろいかおもしろくないかで判断しています。会社を立てたよって言ったら、みんながびっくりするだろうし、私がやったら絶対にうまくいくって思ってた」

眉村が90万円、石阪氏が10万円を出資。石阪氏は同社の取締役に就任した。以降、この会社が活動の拠点となった。

「わぽさん(石阪氏の愛称)は世界で2番目に頭がいいんです。1番は私なんですけど(笑)。頭の回転が速くて、本気出せば裏の裏の裏までかける人なので、一緒に組んだら絶対におもしろいことができるって思いました」

その後、ライブの物販でファンに1株1万円で株券を分譲したり、臨時株主総会や名刺交換会を行ったりするなど、「会社」を前面に出した活動を展開。チケット割引などの株主優待や、配当も予定している。

"バスジャックツアー"や無人島ライブなど斬新な企画も


その一方で、バスを貸し切って、街中を走行しながらライブを行う「バスジャックツアー」を実施。バスの外面に名前やQRコードを貼ったり、スピーカーから外に向けて車内の音声を流したりすることで、広告塔としての役割も果たすという。

ほかにも無人島や神社を貸し切ってのライブや、ファンと一緒にイカダを作り漁をするイベントなど、斬新な企画を次々に行った。

石阪氏は眉村について「なにもないところから、いろんな企画を生み出す。ゼロをイチにする力が強いんです」と語り、眉村は「私が勝手になにかやるから、それの後始末をみんながする」と笑う。

個人で活動していた頃は月30万円ほどだった売り上げが、現在は月100万円まで増えた。通販や音楽配信をはじめたことで、ライブの本数を減らしても収入が増加。制作の時間を多くとれるようになった。

「私を先頭に日本の音楽業界が変われば」


眉村は、日本の音楽業界を変えるという、大きな野望を持っている。

「CDを売らずに、音楽配信を中心にやっていきたいんです。私、アルバムを作ってる間に飽きちゃうんですよ。そうならないように、できた曲は新しいキラキラの状態で世界に出したい」

世界的にはサブスクリプション(定額制)をふくむ音楽配信が主流となっているが、日本ではいまだに音楽ソフトの売り上げの8割をCDが占める。

「私を先頭に日本の音楽業界が変わればいいなって思います。配信だけで売れた、最初の人になります」

将来的には、世界進出も視野に入れる。

「2年後にさいたまスーパーアリーナで2デイズのライブをやろうと思っているので、それまでに日本でやれることは全部やって、その後は海外に行く」

「私が売れたらハワイに別荘をつくって、ママとパパを住ませてあげたい。あとオタクが大好きなので、オタクの介護施設をつくって、年をとってもいつでもみんなと会えるようにしたいですね」

「メジャー挑戦」のための会社設立

 
「社長に就任させていただきます。おかありなと申します」

まだ桜が満開だった3月末、日本武道館や靖国神社のすぐ近くに立地する九段教会。その壇上で、就活生のようなリクルートスーツに身を包んだ女性が、はにかんだ笑顔であいさつした。シンガーソングライターのおかありな(25)だ。

幼少期より歌手を志し、2016年に地元・三重から上京。プロレス好きの歌手として話題になり、メディア出演も増えた。しかし「スタート地点」と位置づけるメジャーデビューへの道は遠かった。

もともと「音楽活動は25歳まで」と両親と約束していた。しかし期限が迫った2017年夏、「このまま辞めたら後悔する」という思いから、「メジャー挑戦」の資金を集めるためにクラウドファンディングを実施。目標を大きく上回る140万円の出資を得た。それを元手に、会社を立ち上げることを決意した。

会社化で「著作権や原盤権に関する知識」も学べる

 
「メジャーレーベルとの契約を勝ち取るため」の起業だという。個人での活動では、交渉の場を用意してもらうことも難しかった。そのため、まずは「取引先として話を聞いてもらう」ことを目指す。

それまで無知だった著作権や原盤権に関する知識、お金の流れなども、会社化すれば学ばざるを得ない。その知識は他社と契約するさい、イニシアチブを握るために必要不可欠だという、レーベル経営者・古岩井公啓氏のアドバイスもあった。

会社設立を考えたとき、頭に浮かんだのは、上京前に住んでいた大阪でウェブデザイナーとして働いていた「トレードマスターラボ株式会社」だった。

当時は社員5人で運営していた新興企業で、社長の堀田勝己氏はとにかく行動力が抜群。社員のアイデアをどんどん形にして商品化する姿勢に感化され、「ひらめきさえあれば、なんでもできる」と確信した。

堀田氏は当時の彼女について「芯が強くて、やるって決めたことはやり通す性格。勝負強さもある」「気が強いところもあるんですけど、いつもニコニコ働いていた。人に好かれて、敵を作らないタイプだと思いますね」と説明。

また社長業の先輩として「とにかくお客さんに喜んでもらえるサービスをすること。利益は後からついてくる。それが一番大事だと思います」とエールを送る。

「死んでも語り継がれる音楽を作りたい」


会社設立を宣言し、社名は「ときめき音楽社」に決めた。しかし「準備は入念にしたい」と正式な法人化はまだ。年内に2枚のアルバムを制作した後、正式に会社を立ち上げ、メジャーレーベルとの契約を成し遂げたい考えだ。

「古い考えかもしれないですけど、メジャーデビューしてやっとスタートだと思う。ミュージックステーションに出たら、地元でも話題になる。そこまでは絶対に行きたいんです」

根底にあるのは、もちろん音楽。

「私は勉強もできないし、人間的にもたいしたことない。でも音楽をやっていたら、少しずつ状況が変わってきてて、それはすごく夢があると思う」

「もし死んでも、音楽だけが語り継がれる人もいるじゃないですか。そういう音楽を作りたい。それでこそ本物感があります。音楽で評価されたいですね」

(取材・文 : 前田将博 撮影 : 二宮ユーキ、大橋祐希、飯本貴子 動画編集 : 滝梓 編集 : LINE NEWS編集部)

里咲りさ(Pinokko)ライブ情報

「Back to the Milkyway」
2018年8月10日(金)Shibuya Milkyway
開場 18:30 / 開演 19:30
前売 ¥2300 / 当日 ¥2800 (+1ドリンク)
里咲りさ オフィシャルTwitter
Pinokko オフィシャルサイト
Pinokko オフィシャルTwitter

眉村ちあきライブ情報

「眉村ちあき2ndワンマンライブ〜SOLD OUT 関係者席ありません〜」
2018年8月4日(土)新宿LOFT
開場 18:20 / 開演 19:00
前売チケットは完売
眉村ちあき オフィシャルサイト
眉村ちあき オフィシャルTwitter

おかありなライブ情報

「おかありなレコ発ワンマンライブ『ときめき記念日』」
2018年8月30日(木)新木場1stRING
開場 18:00 / 開演 19:00
一般前売 ¥3000 / 一般当日 ¥3500 (+1ドリンク)
高校生以下前売 ¥1000 / 高校生以下当日 ¥1500 (+1ドリンク)
おかありな オフィシャルサイト
おかありな オフィシャルTwitter

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