「遊び場も渋谷だった」野宮真貴とカジヒデキが語る"90年代の渋谷系"

04.28 11:00 LINE NEWS編集部

4月12日午前10時、渋谷駅。
春らしい爽やかなファッションに身を包んだ2人が現れる。

「元祖・渋谷系の女王」野宮真貴と「最後の渋谷系」と呼ばれたカジヒデキだ。

1990年代初頭、東京・渋谷のレコードショップを中心に発信された「渋谷系」。間違いなく90年代を代表する音楽の一つだが、その定義は曖昧だ。

渋谷系の発端となったこの地で、その定義から90年代を席巻した小室哲哉氏、そして注目の若手アーティストにまで話が及ぶ。

自身の音楽を体現するかのように、2人は軽やかに歩きながらタワーレコードへ向かった。

今思えば、11歳の時に出会ったものが私の音楽のルーツでした。

どうしてですか?

11歳の時に家にステレオが来て、その時に父が買ってきてくれたレコードがミッシェル・ポルナレフとカーペンターズ、セルジオ・メンデスだったんですね。偶然にも渋谷系のルーツとなるものでした。そこで初めて洋楽に触れて、世界には素晴らしい音楽があるんだなと幼心に思ったんです。それから同時期に公開された、映画「小さな恋のメロディ」は音楽も含めて大好きでした。

「小さな恋のメロディ」は90年代初頭、渋谷系の時代のサントラブームの中でもマストな1枚でしたね。

初めて友達と劇場で観た映画で、憧れましたね。カジくんのルーツは?

僕は10代の前半はYMOや大瀧詠一さんのナイアガラ、後半はパンクやニュー・ウェーヴなど洋楽の影響を強く受けましたが、一番衝撃的だったのはフリッパーズ・ギターの「three cheers for our side」です。

フリッパーズはまさに渋谷系ですね。

20歳の時に、フリッパーズの前身であるロリポップ・ソニックのデビューライブを観る機会がありました。それまで僕は、ゴスやポジパンのようなダークなパンクロックが好きだった一方で、ザ・スミスのようなサウンド的には爽やかなバンドを聴き始めた頃でした。そんな時に出会ったロリポップ・ソニックは、ポップで爽やかなんですけど、当時のパンクバンド以上にパンク精神があって衝撃的でした。

野宮さんは渋谷系の影響を感じるような、気になる若手アーティストはいますか?

3人編成のバンド、SOLEIL(ソレイユ)が気になります。ボーカルは初々しい14歳の女の子で、バックを固めているのは私たちと同世代の渋谷系の2人。ボーカルのそれいゆちゃんは、60年代のスウィンギング・ロンドンからタイムスリップしたみたいな可愛らしさ。音楽好きとアイドル好きの両方を満足させられる、新しい渋谷系アーティストと言えるかもしれませんね。

僕もアルバムに参加しています。SOLEILのように60’sのファッションをまとったバンドは今もいますが、それをいかに"メジャーなフィールド"に出せるかが大事だと思います。当時は野宮さんがその役割でしたよね。そのような人がまた現れたと感じています。

カジくんが気になる若手は?

僕は2組いて、一つはDJみそしるとMCごはん。渋谷系の直系という感じがするし、ポップとユーモアの精神の高さ、それをプレゼンすることのうまさはすごい才能です。もう一つはYogee New Waves。本人たちがどう思っているかは別として、90年代当時の気分やスピリットを感じるし、80年代のポスト・パンクやネオアコのテイストが入っていてとても好き。バランス感覚がすごくいいんですよね。

音楽の拠点は常に渋谷

──渋谷という場所について、思い出はありますか?

私はデビューからピチカート・ファイヴまで、事務所がずっと渋谷区だったので、音楽活動の拠点は常に渋谷でした。HMVなどのレコードショップに行ったり、パルコや109でお洋服を買ったり、渋谷は今も昔も音楽とファッションの発信地だと思っています。センター街にあった「ナイロン100%」という伝説的なニュー・ウェーヴの喫茶店に、デビュー前によく通っていたのは懐かしい思い出です。小さなお店なんですけど、後に活躍するそうそうたるメンバーが集まってライブをしていましたね。自分の青春の1ページです。

僕は昔、渋谷の「ZEST」というレコードショップでバイトをしていました。1991年の夏頃から、僕が所属していたBridgeが解散する1995年の夏までやっていましたね。バイトもそうですけど、ライブやクラブ、カフェでお茶をしたり映画を観に行ったり、実際の遊び場も渋谷でした。もちろんレコードサクサクも!

渋谷系とは音楽のジャンルではなく、"ムーブメント"

──そもそもお2人が考える「渋谷系」とは何でしょうか?

渋谷系は音楽のジャンルでなくて、同じようなセンスやテイストを持ったミュージシャンたちを指す言葉として、当時のメディアが使った造語です。共通しているのは、60年代を中心とした過去の素晴らしい音楽やジャケット、アートワークの影響を受けていること。渋谷系の人たちは、素敵な音楽を選ぶ"センスがある人たち"だと思いますね。

1990年代初期の渋谷を中心とした音楽はもちろん、ファッションやデザイン、映画などのカルチャー全般を巻き込んだムーブメントだったと思います。それまでのカルチャーはロックが中心で、「ロックはこうだ!」みたいな風潮がありましたが、僕らはそれに対して「もっとオシャレにやっていいじゃん!だってポール・ウェラーだってザ・クラッシュだってオシャレじゃん!」と反発していました。

──それまでのアーティストとは具体的にどこが違いましたか?

渋谷系はよく"オシャレ"と言われますが、それまでもオシャレでかっこいいアーティストはたくさんいました。でも渋谷系世代は、10代の頃にパンクやヒップホップのサンプリング・カルチャーの影響を受けているのが大きいです。渋谷系のスピリットはパンクです。

それと60年代のアメリカンポップス、フランス映画のサントラなど、とにかく世界中の音楽の知識と愛情の量がものすごい。それを自分たちが作る音楽にリスペクトしながら取り入れるという。

ヒップホップの人たちはレコードをサンプリングしますが、バンドの人はそのアイディアをバンドに持ち込みました。引用ですね。今は当たり前ですけど、当時はすごく新鮮で、時代が変わったなという感じでしたね。

──やはりCDジャケットには強いこだわりがありましたか?

それはもちろん!音楽もCDジャケットもファッションも、それぞれ同じくらい重要です。渋谷系を語る上で外せないアートディレクターの信藤三雄さんの存在は大きいですね。彼は、渋谷系と呼ばれるアーティストのCDジャケットをほとんど一手に引き受けていました。ジャケットがオシャレだから、ファンの人たちもインテリアとして部屋に飾ったり。渋谷系は、ライフスタイルとも言えるかもしれないですね。

ジャケットに対する意識改革は80年代後半くらいからありましたが、ピチカート・ファイヴの小西康陽さんの影響力はとても大きいと思います。みんな音楽も好きだったけど、同時にオシャレなジャケットにも憧れて「ジャケ買い」という言葉が生まれたほどです。

──現代の主流はストリーミングですが、90年代初期はちょうどアナログからCDが主流になっていった時期です。

レコードに愛着がある世代なので、CDに移行するときに、いかにモノとして欲しいと思えるかを考えました。今では当たり前ですけど、CDをはめ込む底面は透明になっていますよね。あれは渋谷系の発明なんです(笑)。もともとは黒やグレーや白でしたが、透明にすることでビジュアルをもう一つ見せられるわけです。

パッケージはアーティストの世界観を表現できるツールの一つです。ストリーミングでは、それがなくなってしまうのが悲しいですね。

メインストリームの音楽は正直嫌いだった

──引退を発表した小室哲哉さんが、渋谷系について「やってみたかったけど、やれなかった」とテレビで発言していたようです。

なんといっても90年代のメインストリームは小室さんでした。けれど、渋谷系はそことはあえて距離を置いていて、もうちょっとマニアックな感じなんですよね。自分たちもそうだし、ファンも王道へは行かず、クラスで何人かしかいないようなタイプ。当時、小室ファンがディスコに行っているとしたら、渋谷系のファンは、アナログレコードショップや小難しいフランス映画を観ているといいますか。

僕は当時、そういうメインストリームは正直嫌いでした(笑)。小室さんとは正反対の音楽だったというか、アンチ・メインストリームでしたね。若かったというのもあって、売れているものに対して反骨精神があったんです。もちろん、小室さんは素晴らしい曲をたくさん残していらっしゃる方ですし、リスペクトしています。

渋谷系という少数の文化系のマニアックな人たちによって、J-POPの音楽やアートワーク、MV、衣装が一気に洗練されました。それは渋谷系の私たちが、世界中のカルチャーを日本の人たちに紹介しながら音楽活動をしていたからだと思います。「音楽=スタイリッシュ」というのがデフォルトになったのは渋谷系以降とも言われていますから、次の世代に新しい音楽のあり方みたいなものを提示できたものかもしれませんね。

いい音楽は永遠に残る。あえて自分から渋谷系を歌おうと決意

──野宮さんは現在、自ら渋谷系と称して活動しています。

私は5年前ほどから、「野宮真貴、渋谷系を歌う。」と題してアルバムを出し、ライブをしています。これは90年代の渋谷系のヒット曲と、そのルーツとなった世界中の名曲を歌い継いでいくものです。60年代でも90年代でも、はたまた2020年代でも、いい音楽はいい。いい音楽というのは永遠に残りますから。世界中の渋谷系のルーツである名曲をスタンダード・ナンバーとして歌い継いで、若い世代にも聴いてもらうのが、シンガーである私の使命かなと思います。「渋谷系を歌う。」を聴いて、過去の名曲を知った若い人も多いんです。うれしいことです。

渋谷系と呼ばれる音楽はとてもしゃだつで、とりわけメロディとアレンジをすごく大切にしています。90年代、僕たちは古い音楽も新しい音楽も、そしていろいろな国の音楽も掘って掘って、気持ちのいい素敵な音楽だけがこの世界にあふれたらと頑張ってきました。そのすべてのスピリットが渋谷系であり、いい音楽は今後も残っていくと思います。

(取材・文:加藤貴大、撮影:二宮ユーキ、動画:森下大、編集:LINE NEWS編集部)

取材協力:タワーレコード渋谷店、ドゥ マゴ パリ本店

お知らせ

●野宮真貴さんからのお知らせ
シリーズ5作目となるニューアルバム「野宮真貴、ホリデイ渋谷系を歌う。」、エッセイ第2弾「おしゃれはほどほどでいい」(幻冬舎刊)、JINSとのコラボ「美人リーディンググラス」、プロデュースしたネイルカラー「キュアバザー」が好評発売中。
野宮真貴 オフィシャルサイト

●カジヒデキさんからのお知らせ
キュレーターを務める「PEANUTS CAMP」の3年目の開催が決定!!今年は8月25、26日に開催。春恒例のカフェライブツアー「IVORY CAFE ~ A Perfect Day for Earl Grey」を開催中。他、イベントにも多数出演。年内には待望の新作リリースも予定。
カジヒデキ オフィシャルサイト

●渋谷区からのお知らせ
「YOU MAKE SHIBUYA」ウェブサイトでは野宮真貴さんが歌唱、カジヒデキさんが作曲を担当したPRソング「夢みる渋谷 YOU MAKE SHIBUYA」のPVも公開中。
YOU MAKE SHIBUYA|by 渋谷区基本構想

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