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「eスポーツ後進国」日本代表として戦う新世代のアスリートたち

2018年8月30日 11:00 LINE NEWS編集部

8月9日、東京・内幸町の日本記者クラブ。

かつて大谷翔平投手が米大リーグ挑戦を正式に表明した壇上に、やや緊張した様子の若者たちが上がった。

eスポーツの日本代表として、"アジア版五輪"といわれるアジア競技大会に出場するアスリートたちだった。

サッカーゲーム「ウイニングイレブン 2018」の代表、相原翼は「1番いい色のメダルを取って日本に帰ってきます」と言い切り、会場を沸かせた。

同じく代表の座をつかみ取った杉村直紀は「ワクワクが止まりません。本物のアスリートになった気分です」と上気したような表情で語った。

「eスポーツ」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使って対戦するスポーツ競技。

海外ではすでに「スポーツ」の1つとして認められつつある。

国内でも、今年からプロライセンス制度がスタートするなど、急速にeスポーツアスリートを取り巻く環境が整備されてきた。

そして今回、初めてアジア競技大会に、日本代表が派遣されることになった。

この日は、日本代表の公式ウェアのお披露目も兼ねており、袖を通したアスリートたちに無数のフラッシュが降り注いだ。

「勝つ気持ちは人一倍あります。eスポーツの魅力を世間の皆さまに伝えたいです」

そう口をそろえ、大勢の大人たちがひしめく会場を後にした。

PKを約9割阻止できる──

「僕、PKを約9割止めることができるんです」

驚くようなスキルを、さらりと明かす相原は、角川ドワンゴ学園が設立した通信制高校「N高等学校」の3年生。

小学生の頃からサッカーを始め、自宅では父親とウイイレで対戦して育った。

高校に入学してからオンライン対戦を始め、試合に負けては弱点を洗い出し、次戦で克服して実力をつけてきた。

「ボールを蹴る直前にPKキッカーの顔がちょっとだけ動くんです。それで蹴る方向が大体分かるんです」

注意して見たところで、分かるような動きではない。

ウイイレのトッププレーヤーたちですら「全然分からない」と口をそろえる。

ほんのわずかな動きを見破る反射神経は並大抵ではない。

本人は「反射神経というよりか、ウイイレ2018の"仕様"を見つけただけなんで、大したことだとは思わないんですが…」と事もなげに言う。

隣で「たぶん、この動きを見抜くことができるのは、世界中で彼だけだと思います」と証言するのは大学4年の杉村。

「彼に何度か教えてもらいましたけど、自分も『え?動いた?うそでしょ?』と戸惑うばかりで、今も見分けることはできません」と語った。

杉村は、小学2年生のときに元日本代表監督の西野朗氏が指揮したガンバ大阪の試合を初めて観戦。

そこから熱烈なガンバサポーターになり、同クラブのMF遠藤保仁の動きを日々研究してきたという。


「小学生の頃からヤット(遠藤)さんの動きを追いかけてきたので、パスのタイミング、どの選手にボールを渡すかなど大体予想することができます」

リアルサッカーの観戦が、プレーの下地になっている。

「ヤットさんの動きや西野さんの戦術は、僕のウイイレの基礎となっていますね」

本格的に始めたのは去年から──

今年5月、ウイニングイレブンの世界大会、PES LEAGUE ヨーロッパラウンドで世界一に輝いた杉村。

実は"本格的"にプレーするようになったのは去年から。

「ウイイレ界でいうと、実はルーキーなんです」

それまでは8歳上の兄や、友達と対戦して過ごしていた。友人が選ぶチームはFCバルセロナやレアル・マドリードなどといった強豪クラブ。それらに"弱小"チームで挑み、勝利を収めていった。

オンラインでの対戦を始めると、ランキング上位に名前が載るように。

そこから自信をつけて公式大会に参加するも、当初は活躍できなかった。どうすれば相手に勝てるのか。悩みに悩んだ末、ある方法を思い付く。

「試合に勝てなくてスランプに陥ったときは、自分の調子が良いときの動画を見るようにしました」

「不調のときの原因は"頭"で把握できています。しかし、"目"で実際に確認しなければ、次のプレーに反映しません」

eスポーツはメンタルスポーツ──

世界トップの実力を持つ杉村には忘れられない1人のライバルがいる。

PES LEAGUE 決勝大会で優勝したイタリア人のEttorito97だ。

「彼と戦ったとき、初めて"世界"を感じました」

「自分はポゼッションスタイルのサッカー。その理想形のサッカーをやられました」

ポゼッションとは、ショートパスを中心につないで相手ゴールに攻撃を仕掛けていくスタイル。FCバルセロナなどで、その戦術が採用されている。

「得意のショートパスが読まれてしまう。大会の雰囲気もあって、頭が真っ白になった。1-0で敗れた試合は、ずっと頭に残っています」

今まで対戦してきた中で最強ともいえる相手だった。次への打開策を練るうちに、杉村はある1つの弱点を見いだした。それはゲームの技術的なものではなく、精神的なものだった。

「彼はリードされると、いら立ちが抑えきれません。早く追いつきたいので、攻め急ぎ、無理なパスを選択してしまいます」

究極の戦いにおいては"精神"が最も大事になってくる。

「eスポーツは結局のところメンタルスポーツと考えています」

いかに冷静さを保ったまま試合運びができるか。eスポーツにとっても、メンタリティーが重要な要素だと強調した。

普段は1時間ぐらいしか練習しない──

トップレベルのeスポーツ選手は毎日どのくらい練習しているのか。

彼らに普段の練習時間を聞くと、意外な答えが返ってきた。

杉村は「ウイイレの新作が出たら、"仕様"に慣れるために暇な時間をほとんど練習に費やしますが、普段は2時間程度です」

相原も「僕も杉村さんと同じで、普段は1時間ぐらいしか練習しません」と言い切る。

「集中せずにだれてプレーすると、変な癖が付いてしまい、それが本番の試合で悪影響を及ぼすこともあるんです」

秋田豊氏からの"守り"の指導──

相原が通うN高の部活では、インターネットの空間で集まるサッカー部があり、通常は自主練習や部員同士の対戦だが、特別顧問の元日本代表DF秋田豊氏から1~2カ月に週1回ほど指導を受けている。

「リアルサッカーの視点から指導をされます。ウイイレ上で指導もされますし、たまに部員が集められて、実際にフットサルをしながら指導されることもあります」

W杯に2度出場した堅守のDFからは、特に「守りの哲学」を注入される。

「自分は守備が苦手で、ボール保持者にプレスをかけるタイミングや、守備での駆け引きなどを教わりました」

秋田氏からは中盤でのプレッシャーのコツやロングパスの対応など、具体的な指導を受ける。

「秋田さんが得意なヘディングはまだ教わっていないので、いつか教わりたいです(笑い)」

日本はeスポーツ後進国──

最近では大手芸能事務所がeスポーツチームを旗揚げし、来年の茨城国体では競技として採用されることが決まった。また、2024年のパリ五輪ではeスポーツの種目化が検討されている。

eスポーツは確実に盛り上がってきてはいるが、一方で選手たちには迷いもある。

相原は「現状、eスポーツ選手だけで生活していくのは厳しい」と言う。

杉村も「今考えているのは、eスポーツと仕事を両立して生活していきたい」と答える。

eスポーツ選手一本で生きていくとなれば、不安も付きまとう。

国内のeスポーツ市場は、海外に比べて後れを取っているのが現状だ。

ゲーム「フォートナイト」を提供する米国のEpic Games社は年間賞金総額110億円の大会を開くことを発表。ロシアW杯の決勝でゴールを決めたフランス代表FWグリーズマンのゴールパフォーマンスも同ゲームから影響を受けているといわれている。

また、韓国ではeスポーツ選手の結婚や交際などがニュースとなるほどの人気ぶりで、プロの野球やサッカー選手と同じような扱いを受けている。

かたや、日本は「eスポーツ後進国」と表現されている。

家庭用ゲーム機の世界的シェアを誇る任天堂やSONY、ソフトメーカーでもKONAMIやバンダイナムコ、スクウェア・エニックスなどの企業があり"ゲーム大国"といえるが、一方でプロのeスポーツプレーヤーは欧米や韓国に比べて格段に少ない。

日本は"パーソナル"な発展を遂げた──

その要因について、「日本eスポーツ連合(JeSU)」の平方彰専務理事は「ゲーム大国ではありますが、ゲーム文化として日本は"パーソナル"な発展を遂げたのが理由」と説明する。


「海外はPCゲームをベースに普及していきました。PCゲーム=つながる。つまり欧米や韓国のゲーム文化の根底にはインターネットがあります」

「eスポーツの源流はPCゲームなので、海外でeスポーツがはやる素地が最初からあったのです」

一方、日本は1983年に任天堂が発売した「ファミリーコンピュータ」に始まり、ゲーム業界を家庭用ゲーム機がけん引してきた。

「それらは1タイトルを買って、ネットにつながず、パーソナルで楽しむものでした」

「今でこそネットにつながる家庭用ゲーム機は当たり前にありますが、日本と海外ではゲーム文化発展の根底が大きく違ったため、日本はeスポーツで後れを取ったと考えています」

アジア大会はマストウィン──

それでも徐々に、eスポーツアスリートを取り巻く環境には、変化が出てきている。今年、JeSUからプロライセンスが発行された。

相原は「ゲームは楽しむものって考えていましたが、ライセンスが発行されてから、勝ち方にこだわるようになりました」

杉村も「ただ勝つだけではなく、僕のプレーをもう1回見たいと思わせるようなプレーを観客に見せないと、eスポーツは盛り上がっていかない」とプロとしての"使命"を強調する。

杉村は「あるメディアには、eスポーツが日本で認められるためにも僕たち選手が結果を残さなければならないと書いてあった。アジア大会はマストウィンだと考えています」

「一戦一戦油断せずにしっかりと戦い、表彰台の1番上に立って相原と一緒に日本に帰ってきます」


アジア大会でのeスポーツ競技は26日から開幕し、ウイイレの試合は9月1日に行われる。

eスポーツの未来のためにも、負けるわけにはいかない―。プロアスリートとしての重責を背負い、彼らは戦う。

【取材・文・撮影=松本洸(LINE NEWS編集部)】

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