仕事のミスを反省しても意味がない!
「あれ? すっかり忘れていた……」
「え? それは気づかなかった……」
「そんな……。ちゃんと言いましたよね?」
「なんで、こんな判断をしてしまったんだろう?」
あなたは仕事でミスをして、こんな言葉を思わず口に出すことはありませんか?もしくは、あなたの周りでミスを連発して、こんな言葉ばかり言っている人がいるかもしれません。
ところで、こんなミスをしたとき「もっとしっかりしなければ……」と自分に言い聞かせたり、ミスをした相手に「しっかりしろ!」とハッパをかけたりしていませんか?
実は、そんなことをしてもあまり効果はありません。
なぜなら、これらのミスはあなたや私を含めた人間の「頭」、すなわち、脳の仕組み自体に原因があるからです。
この脳の仕組みを知らないでなくそうとしても、ミスを減らすどころか、増えてしまう危険性まであるのです。さて、私たちの「頭」のどんな仕組みがミスの原因になっているのでしょう?
「作業記憶」と「潜在記憶」がミスを起こす
仕事におけるミスは大きく4つに分けることができます。
(1)メモリーミス(忘れた!)
(2)アテンションミス(見落とした!)
(3)コミュニケーションミス(伝わっていない!聞いていない!)
(4)ジャッジメントミス(判断を間違えた!)
このミスをもたらしている大きな原因が、実はわれわれの「記憶」なのです。つまりわれわれが覚えていること、覚えたことです。
最初のメモリーミスはわかるにしても、あと3つのミスの原因が「記憶」というのにはビックリされたかもしれません。
しかし、「記憶」といっても、あなたにはあまりなじみのない「記憶」が原因です。一つは「作業記憶」、もう一つが「潜在記憶」。
初めて聞く人が多いかもしれませんので、簡単に説明しましょう。
「作業記憶」、これは「ワーキングメモリ」とも呼ばれますが、「脳のメモ帳」によくたとえられます。まるでメモ帳に書くかのように、さっと覚えられる記憶です。
たとえば、今この瞬間も、あなたは作業記憶を使っています。
具体的にいうと、今読んだ内容を記憶して、次に読んだ言葉とつなげて理解できるのは、作業記憶が働いているからです。読むそばから忘れていたら、理解などできませんよね。
そしてもう一つの記憶である「潜在記憶」。これは、意識して思い出そうとしていないのに、勝手に思い出されている記憶です。「え?どんな記憶」と思われますよね。
実はこれも、「作業記憶」と同じように、今この瞬間も使われています。
あなたは、今この瞬間も記憶を思い出していることに気づいていますか?
多くの人が「どういうこと?」と戸惑ったと思います。そんなふうに意識しないのに勝手に思い出しているからこそ潜在記憶なのです。
たとえば、出てくる言葉を見た瞬間に、その言葉に関する知識やイメージなどの記憶が思い出されています。だからこそ、わたしたちは言葉の意味を理解できるのです。
ただし、勝手に思い出されるので、思い出したという意識、自覚がないのです。
この、普段はほとんど意識していない「作業記憶」と「潜在記憶」。
とても役立つ記憶に思えるかもしれません。実際に役立つ記憶なのですが、ただ一方で、仕事のミスを引き起こす原因にもなっているのです。
「頑張る」ほどにミスが出る!
まずは「作業記憶」。
すぐにしっかり覚えてくれるすぐれものですが、その弱点は容量が小さいこと。しかも、覚えておくために「注意」を向けておくことが必要なのです。
また、作業記憶の容量が小さいのと同様、人が同時に向けられる「注意」も限られています。
これが、メモリーミス(忘れた!)やアテンションミス(見落とした!)が起きる原因です。
たくさん情報が入ってきて覚えようとしたり、何か他のものの注意を向けたりすると、さっきまではっきり覚えていたことをすっかり忘れてしまう、他のものに注意が向かなくなったりするのです。
たとえ、あなたががんばって覚えようとしたり、見落とさないようにしても、作業記憶や注意が限られているという制約からは逃れられません。
逆に、がんばることで、余計に作業記憶や注意を浪費してしまい、さらにミスが増えるという結果になるのです。
そして、「潜在記憶」。これは勝手に思い出してくれるという便利な働きが、逆にミスを引き起こしてしまいます。
たとえば、だれかと話していて自分の話を相手が「わかる、わかる」と言っているけれども、話が誤解されていると感じることってありませんか? これは「潜在記憶」の仕業です。
相手はあなたの話を聞いているようで、実は勝手に思い出される自分の潜在記憶に意識が向いてしまって、ちゃんと聞いていないのです。
これもがんばってわかろうと聞けば聞くほど、起こしてしまうミスです。
また、何かの意思決定をするとき、自分で決めた、しっかり考えて決断した、と思っていても、実は勝手に思い出されている潜在記憶に大きな影響を受けています。
このように、私たちは「作業記憶」「潜在記憶」によってミスを起こしてしまっているのです。
ミスをなくすためにできる本当の対策とは?
さて、いかがでしょう?
こうやって「作業記憶」「潜在記憶」なるもの、そしてその働きを少し知っただけでも、これまで起こしてきたミスが「ああ、そういうことだったのか!」と理解できたかもしれません。
さらに詳しくは最新刊『仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方』(クロスメディア・パブリッシング刊)をお読みください。
この本では「作業記憶」「潜在記憶」について詳しく解説するとともに、ミスをなくすための基本対策として何を行えばいいのか?を具体的に紹介しています。
さらには、ミスをなくすだけでなく、メモリー、アテンション、コミュニケーション、ジャッジメントという4つの分野でマスター(達人)になるための道も解説しています。
たとえば、覚えにくい数字を楽しく覚える記憶術、「ゾーン」と言われる深い集中状態に入る方法、初対面の相手と十数分で信頼関係を築く聞き方、今話題の人工知能・ディープラーニングに学ぶ直観の鍛え方などなど。
仕事のミスとちゃんと向き合うことで、あなたの「頭」、あなた自身に対する理解が深まります。そこから、ミスをなくすための対策を的確に打つことが見えてきます。
つい隠したくなるミスですが、自分を知るチャンスととらえていきましょう。それによってミスをなくしつつ、自分自身を成長させ、仕事のマスター(達人)となることができるのです。
宇都出雅巳(うつで・まさみ)トレスペクト経営教育研究所代表
1967年生まれ。東京大学経済学部卒。出版社、コンサルティング会社勤務後、ニューヨーク大学留学(MBA)。外資系銀行を経て、2002年に独立。30年にわたり、記憶術と速読を実践研究し、脳科学や心理学、認知科学の知見も積極的に取り入れた独自の勉強法を確立。受験生・ビジネスマン向けの講座・個別指導を行うほか、企業研修や予備校講師の指導も行う。専門家サイト・オールアバウト「記憶術」ガイド。主な著書に『「1分スピード記憶」勉強法』(三笠書房)、『合格る技術』『合格る思考』(すばる舎)、『速読勉強術』『絶妙な聞き方』(PHP文庫)、『暗記が苦手な人の3ステップ記憶勉強術』(実務教育出版)、『速読・多読でビジネス力が高まる!スピード読書術』(東洋経済新報社)など多数。ホームページ:www.utsude.com
Ameba公認専門家ブログ「だれでもできる!速読勉強術」:http://ameblo.jp/kosoku-tairyokaiten-ho/(取材・構成:杉山直隆)(『The 21 online』2016年8月号より)