7月16日、古着屋「髭」がオープンした。「髭」は、古着屋というイメージからは程遠い、飲み屋や“大人のお店”が立ち並ぶ昔ながらの商店街にある。こじんまりとした入り口には、これまた古着屋らしからぬえんじ色の暖簾がかかる。店主の山口駿は、東京芸術大学に籍を置く芸大生でもある。セオリーにはまらない「髭」がどのようにして生まれたのかを聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):「髭」をオープンする前は何をしていた?
山口駿・店主(以下、山口):計3年間くらい何軒かの古着屋でアルバイトをしていました。並行して「ラーメン二郎」でも働いていましたが、古着屋で働くために1度やめました。その後また戻ったんですけど。「髭」を始める1年前くらいに資金調達のためラブホテルの夜勤をやっていました。別のバイトと掛け持ちで、1カ月20万円くらいのペースで貯金していました。
WWD:なぜこのタイミングでオープンしたのか?
山口:歳をとって、家族や子どもができると勢いがなくなる気がして、勢いがあるうちに新しいことをやりたかったんです。失敗してもいいし、仮に失敗しても自分だけの責任なので。
WWD:大学の授業にも出ている?
山口:今年は全く行ってないです。音楽環境創造科という学科なんですけど、音楽にそこまで情熱がなくて。3歳から18歳までピアノをやっていました。なぜ続けているか分からぬまま高校生になり、進路決定の時までやめるにやめられませんでした。東京に行きたい、洋服について勉強したいと思っていましたが、周囲には専門学校に行く人もおらず言い出せずにいました。それで結局、芸大に行こうと思い、受験したら受かったんです。今年度が7年目で、来年春に卒業しないと追い出されます(笑)。「髭」を卒業制作として提出するつもりです。
WWD:店の名前の由来は?
山口:名前を付けるのが苦手で、ずっと決まらなかったんです。以前働いていた北千住の古着屋の人に相談したら僕のひげを見て、「髭」でいいんじゃないって言われてサクッと決まりました。このひげは2カ月くらい伸ばしっぱなしです。女子受けは悪いですね(笑)。
WWD:北千住に出店した理由は?
山口:この通りが好きだったんです。家や大学も近いので飲み散らかしてきた場所ですし。この店は、カラオケ居酒屋の跡地なんです。実は、隣の居酒屋でバイトをしていたことがあって、ある時古着屋を開きたいと居酒屋の人に話してみたら、隣空いてるよって(笑)。初めは、本当に何もない部屋でした。油臭いし、床も土でした。壁や床は自分で作りました。
WWD:夜に営業しているのはなぜ?
山口:単純に、この通りは昼間に人がいないので昼やっても仕方ないんです。16時オープンなんですけど、それでも早すぎるくらいです。実際に客足が増え出すのは18時以降で、閉店の1時頃まで来店があります。20代くらいの男性客が多いですね。飲み友だちのおじさんがふらっとやってきたりもします(笑)。この辺りには、20〜30代半ばくらいの人たちが集まれる場所があまりないので、あの店に行けば誰かいるんじゃないかと思ってもらえる溜まり場にできればと思っています。
WWD:全て1人で切り盛りしている?
山口:仕入れから、商品の洗濯、シワ伸ばし、値付けまで1人でやっています。売れた分は仕入れて毎日少しずつ新しい商品を出しています。新しいものが入らないとつまらないですからね。オープンから1カ月が経ちますが、知り合いじゃない新規の人にリーチするのが難しいですね。具体的にはインスタグラムでの情報拡散しかやっていないですが。
WWD:洋服をかっこよく見せる写真の撮り方は?
山口:ないですね(笑)。他のお店でいいなと思った写真の撮り方があると参考にしています。これをいうと元も子もないですが、インスタグラムの白枠は最強ですね(笑)。あとはハッシュタグをなるべく付けないでシンプルな投稿を心がけています。“おしゃれさんとつながりたい”っていうタグが流行ってますけど、そのタグを付けること自体がおしゃれじゃない(笑)。
WWD:品ぞろえの特徴は?
山口:「アディダス(ADIDAS)」や初期の「ステューシー(STUSSY)」が好きなので仕入れています。シューズは「コンバース(CONVERSE)」が充実しています。ブームになって手に入れるのが難しいですが頑張っています!あとは、「バブアー(BARBOUR)」や「ルイスレザー(LEWIS LEATHERS)」などのイギリスものも取りそろえています。元々その辺りの洋服が好きだったことが僕の原点なので。
WWD:古着屋をやろうと思ったのはなぜ?
山口:もともと「エンジニアド・ガーメンツ(ENGINEERED GARMENTS)」が好きだったのですが、そうした服には元ネタがあるじゃないですか。その元ネタを探すことに興味が移り、それもあって古着屋をやることになりました。古着屋で働く前には新品の洋服が好きで、小野智海さん(「メゾン マルタン マルジェラ(MAISON MARTIN MARGIELA)」で経験を積み、2009年に自身のブランド「_トモウミ オノ(_TOMOUMI ONO)」を設立)のアシスタントをやっていた時期もあります。やめた後も、いらないからとウィメンズの在庫を引きとらされていまだに持っています(笑)。ゆくゆくは新品も作ってみたいですね。「エンジニアド・ガーメンツ」の鈴木大器さんも「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」の尾花大輔さんも古着屋出身ですしね。
WWD:新品の洋服と古着の違いは?
山口:古着屋は、頭に思い描いた洋服に出合えないと始まらないですね。新品であれば、自分で作ったり、作られたものを卸したりできますけど。いるかどうか分からない魚を釣り上げる漁師に似ているかもしれませんね。
WWD:1カ月働いてみて順調?
山口:明日売れなかったらどうしようという毎日ですが、売り上げ目標はクリアできています。でも正直、楽しいことばかりではないですよ(笑)。自分がいいな、着たいなと思っている洋服が売れてしまうのが悲しいです。私物もかなり商品として出しました。貯金を切り崩している感じですね。売る気のないものは天井から下げています。どこの古着屋でも、上の方にかかっているものは手も触れられたくない洋服なんじゃないですかね(笑)。気に入ったものを手放さないと行けない仕事ですから、モノに執着がない人に向いていると思います。
WWD:今後の目標は?
山口:とりあえず大学を卒業したいです(笑)。卒業してからも店を続けていきたいです。
【自分の仕事 5段階評価】
「やり甲斐はありますね。やることはいっぱいあるんで(笑)」