インフルエンザの流行が徐々に拡大しています。東京都の3〜9日までの1週間のインフルエンザ患者報告数は、前週に比べて約1.6倍、1医療機関の患者数は1.57人となりました。「流行期入り」の目安は1.0人なので、東京都は「流行期入り」したことになります。
年末へ向けて慌ただしいこの時期、インフルエンザの感染はなんとしても避けたいものです。インフルエンザの予防策はいろいろありますが、最近は、「ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌を摂るとよい」という話があちこちで聞かれます。具体的な効果を専門家に伺いました。
ウイルス侵入の最前線で戦う「IgA」
乳酸菌に免疫を活性化する効果があることは、さまざまな研究で明らかになっています。免疫には、細菌やウイルスの侵入を防ぐ、ウイルスに感染した細胞を退治するなどさまざまな働きがありますが、鼻やのどなどのウイルス侵入の最前線で、防御の重要な働きをしているのが、IgA(免疫グロブリンA)です。
そのIgAの働きを高めるとして、いま注目が集まっているのが、R-1乳酸菌です。近年の研究によって、R-1乳酸菌の一種である乳酸菌1073R-1株を使用したヨーグルトを毎日摂取していると、インフルエンザウイルスに反応しやすいIgAが増えることがわかっています。
研究を行った神奈川歯科大学大学院口腔科学講座環境病理学の槻木恵一教授は、「IgAは免疫の抗体の一種で、主に口の唾液や鼻や消化管の粘液にあります。ウイルスを感知すると、くっついて中和することで、体を感染から守ります。インフルエンザに反応しやすいIgAが増えると、体内で効率よくインフルエンザウイルスを排出することができるのです」と話します。
槻木恵一教授らの研究グループによってR-1乳酸菌のインフルエンザ予防効果が測定されました。神奈川県内の高齢者施設に入所する高齢者96人に、1日1回100gを12週間にわたって毎日食べてもらったのです(2014年10月~12月)。高齢者は半数ずつを、乳酸菌1073R-1株を使用したヨーグルトを食べるグループと、普通のヨーグルトを食べるグループの2つにわけて、インフルエンザA(H3N2)亜型に反応する唾液中のIgAの量の変化を調べました。
すると、8週間後、12週間後とも乳酸菌1073R-1株のグループのほうが、このインフルエンザウイルスに反応する唾液中のIgAの量が有意に多いことがわかりました。
免疫効果を高めるためには?
R-1以外のヨーグルトでも、このような効果は見込めるのでしょうか。
「今回の研究では、乳酸菌1073R-1株とインフルエンザAのある型との関係を明らかにすることができましたが、R-1乳酸菌以外で発酵したヨーグルトでも、インフルエンザAと反応しやすいIgAが増えるかははっきりしていません。
とはいえ、ヨーグルトの乳酸菌は、腸内細菌叢(さいきんそう)を整え、腸管粘膜の免疫力を高める働きをします。腸管の免疫が高まると全身の免疫が高まって、唾液腺では唾液中のIgAも増えます。ヨーグルトに限らず、納豆などの発酵食品の摂取によって腸管免疫を高めることは効果的です」(槻木教授)
予防の決め手は水分補給?
インフルエンザ予防のポイントは、手洗い、マスクの着用などによって、手についたウイルスを鼻やのどへ接触感染させないことです。万一、ウイルスがのどに及んだ際でも、唾液中のIgAを活発に働かせてインフルエンザを退治したいものです。実はそのためには、適切な水分摂取がとても大切だといいます。
「体内の水分が足りないと唾液量も減少してしまいます。水分を摂って、唾液の量を保つことで、IgAが活発に働き、ウイルスを流し去ってくれます。ちょっと渇きを感じたときには、こまめに水分を摂取することが大切です。ただし、大量の水分摂取は、腎臓に負担をかける可能性があるので、水分について医師の指導を受けている方は気をつけてください」(槻木教授)
冬はエアコンの温風などによって、知らず知らずのうちに体内の水分が蒸発してしまうので、意識的に水分を補給するのがよいそうです。
ウイルスを鼻やのどへ接触感染させないことが大前提ですが、乳酸菌と水分補給によってインフルエンザの予防効果が高まりそうですね。定期的に摂ることを今冬の習慣にしてはいかがでしょうか。