cat_18_issue_oa-uhbnews oa-uhbnews_0_4400939a98a5_札幌の"無料食堂" 新型コロナで閉鎖決定 どうする貧困者の食事 4400939a98a5 4400939a98a5 札幌の"無料食堂" 新型コロナで閉鎖決定 どうする貧困者の食事 oa-uhbnews 0

札幌の"無料食堂" 新型コロナで閉鎖決定 どうする貧困者の食事

2020年3月6日 11:00 北海道文化放送

 
 "感染拡大"は、ボランティアの現場にまで影響を及ぼしつつあった。

 2020年2月28日午前、札幌市豊平区の豊平教会。全員がマスクをするなか、テーブルの上で50人分の弁当をつくり始めていた。

 
 ホームレスや年金生活の人など、貧しく困窮している人たちに食事をつくり、教会を開放し提供してきた「無料食堂」が、新型コロナウイルスの影響で閉鎖せざるを得なくなったのだ。"密室空間"での食事は危険だった。

"緊急事態宣言"の裏で…


 この日の夕方、北海道の鈴木直道知事は、新型コロナウイルス感染拡大を受けて「緊急事態宣言」を表明。道民に週末の外出を控えるよう呼びかけた。

 ティッシュペーパーやトイレットペーパーだけでなく、パスタやカップ麺なども店頭から消えた。新たに12人の感染が確認され、道内の感染者は66人と全国最多となっていた。

 教会の役員会は、建物内の食事だけでなく、ボランティア間の感染も防ぐため、この日を最後に弁当などの調理も見合わせることを決めていた。

 牧師は苦悩していた。貧困の人たち50人分の食事はどうなるのか?

 「何とか続けたいと思いますね。ひもじい思いをしているのは、わかりますから…」

 しかし、どうしたらいいのか。正しい"選択"は見えなかった。

子ども食堂から"おとな食堂"に


 札幌市豊平区の豊平教会は、2016年6月から、貧しく朝ご飯が食べられない子どもたちや、生活のたちゆかない若者たちのために無料で朝食を提供する「朝ごはん食堂」をスタートさせた。

 しかし、実際に始めてみると、子どもや若者たちの姿はほとんどなく、食事に来たのは、高齢の男性たちだった。

 彼らは、ホームレス、年金生活の人、生活保護を受けている人…。

 豊平教会は、この月1回の朝ごはん食堂を続けながら活動を広げる形で、2017年4月から、毎週金曜日に教会を居場所として開放し、昼食時には食事を提供するようになった。

 空腹の人たちのことを考え、年末年始も休みなしで続けてきた。
 食堂の名称は「とよひら食堂」。

ここで給仕する「理由」



 初めてカメラを回した2019年12月20日は、最高気温が-1.6度と真冬日。クリスマス直前、ウイルスのことなど予想もしていなかった。

 調理場には、女性4人、別室で準備している男性が3人。そのほか、街中でホームレスに弁当を配る男性が1人。その後、追いかけて2人の女性も来た。今思えば、のどかな雰囲気だった。

 調理を担当する60代の主婦の女性は、「自分はここまで元気に生活ができた。そのことを、何らかの形でお返ししたい」という思いがきっかけで始めたという。

 「何かをしてあげている、という感覚ではなくて、自分たちも食堂に来る人たちから元気をもらったりしています。大変だけど、いい時間を過ごせているなって」

 配ぜんを担当する70代の男性は、「社会人のころは、なかなかこうした活動をする時間がなかったんですが、この教会の"家庭的な雰囲気"を大切にする取り組みがいいと思い、一緒にやろうと思いました」と話す。

食堂に集まる人々とは


 食事に来る人は、毎週35人前後。ホームレスが約3割、ほかは年金生活、生活保護やその他の人たち。性別では、ほとんどが男性で女性は1割弱。年齢は40代から70代くらいまでが多い。


 スタッフは、「居心地の良さ」を大切にしているため、彼らの素性を聞き出したりはしない。配ぜんをするときや、食事中の会話などから、少しずつ来ている人がどういう生活をしているか見えてくるという。

 こうした困窮している人たちへの食事や「炊き出し」は、「ホームレス以外お断り」など、入場制限を行っているところもある。

 しかし、豊平教会の牧師、稲生義裕さん(69)は、「街のレストランには多様な方々が集うように、この食堂にも多様な方々が食べに来る。区別はされず、心安らかに食事を楽しんでいただきたいんです」と、食事に来る人の制限をしない。誰でも歓迎だという。

高齢者が「おかわり」


 この日のメニューは、トンカツ、白米、かけそば、エッグベネディクト、白菜の千切り、ケーキ。通常の食事も、毎回のようにメインにご飯、麺類、漬物などがつく。

 ボリュームがある食事。度々訪ねて驚いたのは、高齢の方が多いのに半数近くの人が「おかわりください」などと、白米や麺類をおかわりをする。

 「札幌では、毎週としては、日曜と、水曜と、他の教会や団体が炊き出しをしています。そして、金曜日のここ。ほかに、月単位や、隔週などで弁当などを提供している団体もありますが、彼らにとって、金曜が貴重な食事の機会であることに違いありません」と稲生牧師は話す。

 ほとんど毎週食べにくる、自称・廃品回収業の男性は、「この"建物の中で食べる"というのがいい。夏とかは、かき氷食べさせてくれたりするしね」。

 西区から徒歩でやってきたという別の男性も「ここの食堂はいい。とても前向きで、よくしてくれている」と、明るい表情で話す。

ホームレスには"弁当"を配る


 金曜日は、教会まで食べに来られない、街中のホームレスたちのために、10数個の弁当も併せてつくり、配達する男性に渡している。
 2020年1月24日、その男性に同行した。

 「待たせたねえ」

 大通公園で、いつも弁当を受け取っている60代の男性は、札幌で最長期間ホームレスをしていると自他が認める存在だ。「ホームレス歴37、8年くらいかな」という。

 「なんだか、週末はマイナス10度くらいになるんだって?」

 「今さ、暖かいダウンコートの足元まであるやつ。手に入ったから欲しいかい?」

 13個の弁当を持ってきた男性は、その後、さらに中心部へと入っていった。

 厚生労働省が毎年行っているホームレス実態調査によると、北海道のホームレスは2019年1月現在で47人。調査時間や範囲は限られているため、実数はもっと多いとみられる。

"閉鎖"の理由


 2月21日昼、「お知らせ」の紙を手にした稲生牧師は、食堂に着席した人たちに向かって説明を始めた。

 この前日までに、北海道で新型コロナウイルスの感染が確認されたのは5人。"市中感染"の疑いが少しずつ広まり始めたころだが、教会の対応は周囲と比べると早かった。"密室空間"での感染の危険を早い段階で伝えた。

 「大事なお知らせなんですが…。新型コロナウイルスが、新しい段階に入っちゃって、誰から誰にうつったということが、わからない状況になってしまいました。つまり、私が皆さんにうつしてしまっちゃうかもしれないし…」

 会場からわずかに笑いがもれる。

 「来週からしばらくの間、お弁当という形でみなさんにお渡しすることにしたいと思います。一生懸命、お弁当つくりますから。来週からは、12時半から配ります…しばらくの間、ご理解ください。よろしくお願いします」

 麺の湯気、温かい白米…。評判の良かった無料食堂は閉鎖。2月28日からは、弁当をつくり、密室ではなく、"風通しの良い"教会の玄関前で配ることにした。

 しかし、それで終わらなかった。

極貧地帯で"仕えた"女史


 豊平教会が、無料食堂を始めたきっかけには、こうした「貧困者への奉仕」という歴史がある。

 今から114年前の1906年。米国の女性宣教師で北星学園の創設者、サラ・スミスが、当時「東日本最大の極貧スラム地帯」と言われていた、市内中心部の川の向こう側、豊平地区で、宣教活動などをはじめた。
 「乞食長屋」などといわれた豊平6番地で、日曜学校を開いたのが豊平教会のルーツだ。

 北星学園の前身にあたるスミス女学校の生徒が残した手記などによると、当時は、200人あまりの子どもが日曜学校に集まったという記録もある。
 スミス女史は、幾人かの生徒たちを豊平に伴い、聖書教育のみならず、子どもたちの健康や衛生面でも奉仕をした。

 2009年に豊平教会の牧師となった稲生牧師は、スミス女史の活動が、市街地の市民ではなく、貧困の人たちに向けられたことを知った。
 教会は、2016年の「サラ・スミスによる伝道開始110周年」を機に、「社会の問題や貧困に目をつぶることはしない」という思いから無料食堂を始めた。

 札幌に来るまでは、タクシー運転手や材木工場での勤務など、長年、生計を立てるため仕事をしながら牧師を続けてきた稲生さんにとって、スミス女史の教育、奉仕の「現場主義」は、胸に響いた。

"障壁"はウイルスだけでなく…


 「まちの人が"来ない場所"に行く、という彼女のあり方にとても共感しました。信仰とは、何を知っているか、ではなく、どう生きるか、だと思うんです」

 そうして、なんとか無休"無給"で3年半以上続けてきた無料食堂だが、教会は閉鎖を決定。そして、貧しい人たちに、もう弁当さえもつくられなくなるかもしれない、という状況に追い込まれた。

 年間約60万円の運営資金は、善意の寄付などだが、食堂の運営は厳しい。感染を防ぐため調理をやめても、安価で弁当を調達する資金はない。

これでよいのか。牧師の苦悩


 2月28日朝、「最後になるかもしれない」弁当に、稲生牧師は黒ゴマをまぶしていた。

 「なんとか弁当だけでもつくり続けたいのですが…これからみんなに相談します。ボランティアにも感染の危険があるわけですから…」

 弁当は、総菜と白米と、容器を2つに分けた。総菜は、トンテキに野菜のお浸しなどいっぱい詰まっている。調理女性の一人は、花形に切ったニンジンで彩りを添えることにこだわっていた。ただつくるのではない。愛情が込められているのだ。

 弁当の準備をしている間、教会の外には20人以上が並んでいた。窓から、待っている様子がわかる。予定時間を過ぎて、玄関前で弁当を配りだすと、どっと人が押し寄せた。

 「はい、弁当を受け取ったら、こちらでお土産持って行ってください」
 
 この日、教会前には35個、街中のホームレスたちに15個の弁当を用意した。生活保護費支給の翌日にもかかわらず、教会前は、1個しか残らなかった。

 しかし、稲生牧師の顔は曇っていた。いつもは笑顔で食事をしている人たちの、弁当を待っているときの表情が、まるで違っていたという。

 「弁当が無くなってしまったらどうしよう、という心理が働いていると思うのですが、まるで"炊き出しに来るホームレスの人"みたいな感じになってしまって…。普段はあんなに”いらついて”いませんし、良い表情ではない。これは良くない。もっと一人ひとり対面して、食事をお渡しするという環境を整えたいですよね」

 牧師は「ハーッ」と、ため息をついた。

 「きょうは、初回だからやむを得ないですけど…失敗ですね…。考えます」

 牧師は、調理場に向かった。

 「皆さん、どうしたら良いでしょうか。ご飯を炊いて、梅干しをのせたものだと、1人でもできるかもしれません。それでも助かるっていう声もあります」

 集まっていたボランティアから、食事をつくらない、という意見は出なかった。「何らかの形で、提供し続けたい」という思いで同じだった。つくり続けた場合、どうしたら感染リスクを減らせられるか、体制や献立についてぎりぎりの話し合いが続いた。

それでも"つくり続ける"


 目に見えないウイルスにより、自分たちの生命も脅かされている前代未聞の事態。それでも教会は、少人数で、貧しい人たちに食事をつくり続ける選択をした。

 自己責任論が渦巻く昨今、社会的弱者の人たちに、なぜここまでするのか。

 「そこに空腹の人がいるから、ですね。自分を愛するように隣人を愛しなさい。これに尽きます」。稲生牧師はさらりと話す。

 善意が仇(あだ)とならぬよう感染リスクを冷静に見続けたい、と稲生牧師はいう。教会では、調理しなくてもよい総菜や、資金の提供を呼び掛けている。


【取材・文:小田学 撮影・編集:長谷博康】

問い合わせ・札幌豊平教会
toyohirachurch@jcom.home.ne.jp

札幌豊平教会のHP
https://www.ccjtoyohira.com/

※この記事は北海道ニュースUHBとLINE NEWSの特別共同企画です。

外部リンク