JRでもっとも利用客数が少ない区間はJR西日本に
JR北海道のローカル線の存続が危ぶまれています。マイカーの普及や沿線の過疎化によって、鉄道の利用客が減少したからです。赤字路線は鉄道会社にとって経営の負担となるうえに、利用者数が少なければ、公共交通として鉄道の役割も限定的です。JR北海道は、自助努力だけでは維持できないといいます。
しかし、ローカル線の利用者数減少や赤字問題は、JR北海道だけではありません。実は、もっとも利用客数の少ない線区は広島県庄原市内にあります。JR西日本の芸備線のうち、東城~備後落合間の25.8kmです。2015年度における1日1kmあたりの平均通過人員は8人で、JR各社が公表している数値としては最低となっています。
「1kmあたりの平均通過人員」とは、ある区間の年間合計乗車人数を、その区間の距離で割り、さらに営業日数(365日)で割った数値です。「輸送密度」ともいいます。この数値が小さいほど利用客が少ないといえます。たとえば東海道新幹線は約24万2000人/日(国土交通省資料 2013年度)、山手線は約108万人/日(同)です。JR北海道でもっとも輸送密度が小さい線区は、札沼線の北海道医療大学駅(北海道当別町)と新十津川駅(北海道新十津川町)のあいだで、79人/日(JR北海道報道資料 2015年度)です。
JR西日本の芸備線・東城~備後落合間は、JR北海道でもっとも輸送密度が小さい路線に比べて10分の1です。JR西日本が2018年の廃止を決めた三江線の営業密度は58人/日です。これを下回る東城~備後落合間は廃止候補になるおそれがあります。
現在、JR西日本は東城~備後落合間の廃止を表明していません。しかし、過去には中国山地の閑散区間について「バス転換を含めて検討したい」という社長の発言がありました。三江線の廃止はその流れを汲んだといえます。
利用者数減少、列車減便の悪循環
芸備線・東城~備後落合間の乗客は少ないようです。これは筆者(杉山淳一:鉄道ライター)も乗車して実感しました。2016年7月の平日、同区間を走る備後落合駅14時37分発の新見行きに乗ったときは10人ほどの乗客でした。しかし、2016年12月の土曜日、備後落合駅20時12分発の新見行きの乗客は私だけでした。筆者がいなければ乗客ゼロです。しかし、これは理由があるようです。
筆者はこの日、三次から新見へ向かおうとしていました。三次駅から備後落合行きの列車は20人ほどの乗客がありました。途中の駅で半数が降りて、10人ほどの乗客が備後落合駅に到着しました。しかし、この先、備後落合駅から新見駅へ行く列車は1時間半後です。筆者以外のすべての乗客が、駅に停めたバイクや迎えのクルマで去って行きました。
ワンマン運転の列車の運転士さんによると「かつては多くのの列車が直通、または備後落合駅で接続しました。乗客も乗り継いでくれましたし、木次線との乗り換えもあるので賑わいました。駅のホームに立ち食いそば屋もありました」とのこと。
しかしいまは接続が不便で、お客さんが乗りたくても列車がありません。
線路と共に消える「地域の未来」
現在と過去のダイヤを比較してみましょう。現在、東城~備後落合間の列車は上下3本ずつです。備後落合駅で双方の列車は折り返します。乗り継ぎに便利な列車は、朝の三次方面と14時30分ごろの新見方面、三次方面だけです。乗車機会が少ないうえに、乗り継ぎも不便です。
過去のダイヤを見てみましょう。1988年3月13日に行われた、JRグループが発足して初めての春のダイヤ改正では、東城~備後落合間は上下8本あり、ほとんどの列車が広島駅を発着する直通運転でした。広島市近郊より少ない本数とはいえ、現在よりずっと便利でした。
全体的に比較すると、広島駅付近は現在のほうが運行本数も多く、等間隔で便利そうです。その反面、山間部は運行本数が減っています。乗客が増える地域で列車を増やし、乗客が少ない地域は列車を減らしています。これは合理的な判断といえます。
しかし、乗客数の少ない区間で運行本数が減れば、乗り継ぎも難しくなり、さらに乗客が減ります。乗客が減るとまた列車も減らす。この悪循環の結果が現在のダイヤだといえます。列車がゼロになれば線路は要りません。つまり廃止です。
鉄道の廃止は地域の人々の移動手段を減らします。地域の人々はマイカーやバスに乗り換えればいいかもしれません。しかし、路線バスは「停留所の場所がわかりにくい」「停留所の時刻表表記や路線表記が省略されてわかりにくい」「バスが定時に来るかわからない」など、遠方から訪れる旅行者にとって不安な乗りものです。鉄道は駅の場所がすぐわかり、地図にも明確に示され、時刻も正確で安心できます。地方創生のために企業を誘致する場合も、鉄道がある町のほうが受け入れられやすいでしょう。
鉄道路線の廃止は、地域の交通手段だけではなく、地域の未来も失いかねません。