車両基地から試乗列車に乗車
2018年3月17日(土)から営業運転を開始する、小田急電鉄の新しいロマンスカー・70000形「GSE」。前面展望席があるロマンスカーは50000形「VSE」以来13年ぶりの新型車両で、前面展望席がないロマンスカーを含めても10年ぶりの新車です。
デビューに先立ち運転された「GSE」試乗列車(2018年2月、草町義和撮影)。
小田急ロマンスカーは1957(昭和32)年にデビューした3000形に「Super Express」を略した「SE」という愛称が付けられました。その後は7000形「LSE」や50000形「VSE」というように、「SE」の頭にアルファベット1文字を加えた愛称が付けられています(30000形電車「EXE」とそのリニューアル車「EXEα」除く)。
70000形の愛称は、「優雅な」を意味する「Graceful」を加えた「GSE」。実際、どのくらい優雅な気分を味わえるのでしょうか。営業運転の開始に先立つ2018年2月、報道関係者向けの試乗会に参加。車内の設備やサービスを体験してみました。
試乗会のスタート地点は、小田急小田原線の車両基地である喜多見電車基地(東京都世田谷区)。喜多見駅から歩いて数分のところにあります。車庫に入ると、赤い車体の「GSE」が7両の編成を組んで、出発体制を整えていました。
3号車のドアから客室に入ると、横1列に2+2席の回転式リクライニングシートが設置されているのが見えます。特急形電車としては一般的な座席配置です。13年ぶりにデビューする前面展望席付きの新車ですから、ここは展望席のある1号車か7号車に陣取りたいところ。しかし、試乗会では1号車も7号車も撮影用に確保されているため、残念ながら居座ることができません。
とりあえず3号車の指定された席に荷物を置き、1号車の前面展望席をのぞいてみたところ、ちょうど「LSE」の動いている姿が展望窓から見えました。「GSE」のデビューにあわせて引退するロマンスカーです。
車体の「長さ」が変えた客室の印象
「GSE」試乗列車は車両基地内の線路で入れ替えを行ってから、回送線をゆっくり走って成城学園前駅へ。一般の列車をやり過ごしながら11時06分、小田原、箱根湯本方面に向けて動き出しました。
列車は喜多見駅を約58km/hで通過。さらに70km/h近くまで速度を上げていきます。3号車に戻って新品のシートに腰を落ち着けてみると、従来の「LSE」や「VSE」に比べ広々としていて、開放感を覚えます。
「LSE」や「VSE」に比べ奥行きのある客室(2017年12月、恵 知仁撮影)。
「LSE」「VSE」は1両の長さが中間車で12~13m台でしたが、「GSE」は鉄道車両として7~8m長い20m。車両自体が大きく奥行きがあるのです。このほか、座面の幅がロマンスカーでは最大の47.5cmになったことや、側面の窓が「VSE」に比べ30cm高い100cmになったことも、広々とした感覚を強めているのでしょう。前面展望席の展望窓からの景色とは違う「流れ方」になるものの、側面の眺望も大きく改善されています。
座席背面のテーブルはありませんが、肘掛けに収納するタイプのテーブルがあります。肘掛けから引き出してみると、A4サイズのノートパソコンを置けるサイズのテーブルが姿を現しました。また、すべての座席で電源コンセントを提供しており、肘掛けの下にコンセントを設置。パソコンの利用やスマートフォンの充電などに対応しています。
最近は座席の近くに電源コンセントが設置されていることが増えましたが、電気容量の関係で窓下の壁にひとつだけ設置というケースも多く、通路側の席に座っている人は利用しにくいといった課題がありました。機器類の省エネルギー化が進んで電気容量に余裕ができたこともあり、コンセントの全席提供が可能になったといえます。
窓は「VSE」より30cm高い100cmに。
テーブルはA4サイズのノートパソコンを置ける。
肘掛けにコンセントを設置。通路側の席でもスマホなどを充電できるようになった。
ちょうどスマホのバッテリーが心もとない状態だったこともあり、コンセントに接続して充電開始。ついでに仕事のメールをチェックしました。ロマンスカーに乗って仕事のメールをチェックすることが「優雅」といえるかどうかは微妙なところですが。
前面展望席からの景色も上下に変化
このまま箱根に行って温泉にでもつかりたい気分ですが、試乗列車は新百合ヶ丘駅から多摩線に入り、終点の唐木田駅の先にある車両基地に向かいます。ちょっと残念な気もしますが、3月17日(土)からの営業運転では多摩線に入ることはありませんから、貴重な体験といえます。
前面展望席の窓も大型化。上の方が見えやすくなった(2018年2月、草町義和撮影)。
試乗会の参加者は複数の班に分けられ、各班ごとに指定された時間内で先頭1号車の前面展望席を見学、撮影しています。展望席に近づくのもはばかられるような状態。そこで後方7号車の前面展望席に向かいました。こちらも見学や撮影の人がいたものの、1号車ほどではありません。
展望席の最前列に腰掛け、前面の展望窓から眺めてみました。展望窓も大きくなっていて、「VSE」に比べ上の方の見通しがよくなった印象です。「LSE」と違って窓の中央に細い柱がないのも外の景色を見やすくしています。
ただ、「LSE」が前面展望窓から側面の窓へ連続するように配置されているのに対し、「GSE」は前面展望窓と側面の窓の間が太い柱で分かれています。左右方向の見通しは「LSE」の方がいいかもしれません。
7号車の展望席から後続の通勤電車を眺める。
展望窓の両脇は柱が太くなっている。
「LSE」の前面展望席。細い柱が多数あるが前面と側面の窓が連続している。
7号車の前面展望席も試乗会参加者の出入りが多く、あまり長居できません。やむなく3号車の自分の席に戻り、側面の窓から外の景色を見ることにしました。ふと座席背面の下の方を見ると、Wi-Fi接続に関する案内がふたつ記されています。ひとつはインターネット接続に関する案内。もうひとつは「GSE」オリジナルコンテンツの案内です。
前面展望が無線で飛んでくる!
スマホでオリジナルコンテンツの方にアクセスしてみると、メニューには「展望映像」という文字が躍っていました。「GSE」の運転台から撮影した映像が、Wi-Fiの電波で中間の車両にも飛んでくるのです。「展望映像」の文字をタップしたところも、先頭1号車の運転台から見える線路や、すれ違う列車の姿が映し出されていました。カメラは展望席の上にある運転台に設置されているため、展望席より視点が高くなっています。
「GSE」オリジナルコンテンツのリアルタイム展望映像(2018年2月、草町義和撮影)。
映像の脇には「後展望」というボタンがあり、これをタップすると後方7号車からの映像に切り替わりました。ちなみに、非常ブレーキが作動したときは映像が自動的に中断するようになっているといいます。
しかし、この映像は本当に「リアルタイム」なのでしょうか。「実はあらかじめ録画しておいた映像なのでは」などと、つい意地の悪いことを考えてしまいます。そこで改めて、7号車の前面展望席に向かいました。
スマホに映し出される画面を「後展望」にセット。展望窓の脇にスマホの画面が来るよう手に持ち、右目で展望窓の景色、左目でスマホの画面を見ます。展望窓の景色が暗闇のトンネルから明るい地上に移ると、スマホの画面もトンネルから地上に移り、脇の線路を通勤電車が通り過ぎると、スマホの画面にも同じ通勤電車が姿を現します。間違いなくリアルタイム映像でした。
ロマンスカーの前面展望席は人気が高く、とくに最前列の席は予約が取りにくいという印象があります。自分の目で直接見るより「画質」は落ちますが、展望席の予約が取れなくても前面展望を楽しめるようになった点は、大きなサービスアップといえるでしょう。
インターネットとオリジナルコンテンツへの接続方法は座席の背面に記されている。
前面展望席の展望窓から見える景色(右)とオリジナルコンテンツの展望映像(左)は同じ。リアルタイムで配信している証拠だ。
「GSE」は3月17日(土)、新宿9時00分発の箱根湯本行き「スーパーはこね5号」から営業運転に入ります。「GSE」で運転される列車は日によって変わりますが、新宿~箱根湯本間の「はこね」「スーパーはこね」を中心に「さがみ」「えのしま」「モーニングウェイ」「ホームウェイ」でも運転される計画です。