車内のエレベーターで車いすを客室内へ
羽田・成田両空港に発着する「リムジンバス」を運行する東京空港交通が、日本初となる「エレベーター付きリムジンバス」を導入。2018年12月21日(木)から、東京シティエアターミナル(T-CAT)~羽田空港間で運行を開始しました。
東京空港交通が導入した「エレベーター付きリムジンバス」(画像:東京空港交通)。
エレベーターは、人を乗せたまま車いすを車内に運び入れることを想定したもの。リムジンバスなどの高速バス車両は一般的に床が高く、トランクスペースの上に客室があるため、路線バスで見られる「ノンステップバス」のように乗降口のステップをなくすことができません。今回のエレベーター付きバスでは、車いす利用者はまずスロープ板を介してトランクスペースに乗り込み、そこからエレベーターで客室まで上昇、乗ってきたエレベーターの上部はそのまま客室の床面を構成します。
東京空港交通ではすでに、バリアフリー対応車両として「リフト付きバス」を導入しています。こちらは、車体側面から外側に張り出すリフトに車いすを乗せ、客室の高さまで上昇させるというもの。新たに導入したエレベーター付きバスとどう違うのか、東京空港交通に聞きました。
――エレベーター付きバスのメリットはどこにありますか?
リフトの場合は車外で昇降するので、雨風にさらされることがありましたが、エレベーターは車内なので、その影響が少なくなります。エレベーター部への乗降も、スロープ板を使用して一般的な路線バスと同じような感覚でできます。また、リフト付きバスの場合は、リフトを格納しているぶんトランクスペースが減ってしまうのですが、エレベーター付きバスの場合は、エレベーターを上昇させたあと、その下をトランクスペースとして使えるのもメリットです。
――車いすでの乗降にはどれくらいの時間を要するのでしょうか?
エレベーターがゆっくり動くこともあり、5分程度かかります。リフト付きバスは、初期型のもので7分から8分、2018年に導入した改良型のもので5分程度です。
リフト付きバスの場合も動きがゆっくりであるほか、リフト使用時は車体が揺れるのを抑えるため、サスペンションの空気をいったん抜き、出発時に再度充填する必要があります。改良型はリフトのスピードが速く、サスペンションの復帰までの時間が短縮されていますが、エレベーター付きバスの場合はそのような「揺れ止め」処置も必要ありません。
最適解は「2階建てバス」?
――一般的な車両と比べて、値段はどれほど違うのでしょうか?
エレベーター付きでおよそ700万円、リフト付きで500万円プラスといったところです。たとえば、縁石上ではない低い乗降場では、エレベーター付きだとスロープ板の傾斜が急になるため、リフトのほうがよい場合もあります。それぞれ一長一短ありますので、投入路線に応じ適性を考慮しながら増備していきます。
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一方、バリアフリーに対応するため、2階建てバスの新型を投入したのが京成バス。東京駅に近い鍜治橋駐車場と成田空港を結ぶ「有楽町シャトル」で、2018年3月から運行しています。
2階建てバスならば、乗降口にスロープ板を渡して車いすを乗せ、1階客室内に固定すればOK。京成バスによると、乗降時間は3分程度で済むとのこと。エレベーター付きやリフト付きが車いす1台のみ対応のところ、2階建てバスは2台まで乗せることができるといいます。
京成バスが「有楽町シャトル」に導入した新型2階建てバス(2018年3月、中島洋平撮影)。
しかし東京空港交通では、2階建てバスの導入は難しいそうです。
「当社のリムジンバスは、駅前やバスターミナルだけでなく、都内の主要ホテルにも乗り入れます。背が高い2階建て車両は、ホテル内に入れないケースがあります」(東京空港交通)
2階建てだと構造的に荷物スペースを十分に確保できないほか、健常者が利用する2階席は、一般的な高速バスと比べて天井が低くなります。
これからが正念場 高速バスのバリアフリー対応
東京空港交通では2018年12月現在、初期型および改良型のリフト付きバスをそれぞれ2台、エレベーター付きバスを1台、合計5台のバリアフリー対応車両を所有。さらに改良型リフト付きバスを4台、エレベーター付きバスを1台発注しており、2019年春にはバリアフリー対応車両が10台になるとのこと。それでも、2020年の「東京オリンピック・パラリンピック」に向けては、まだまだ足りないといいます。
「こうした車両を用意する以前から、トランクに車いすを預け、運転手の介助でステップを上がり、普通席にお乗りになるお客様もけっこういらっしゃいましたので、潜在ニーズは高いでしょう。高速バスの場合、バリアフリー対応は国からは『努力目標』とされていますが、空港アクセスバスは特に社会的要請も大きいと考えています」(東京空港交通)
しかし、従来のバスと比べ、リフト付きは8席ぶん、エレベーター付きの場合は10席ぶん、座席数を削らざるを得ないというデメリットもあります。
「それにより、お客様の乗車機会が減ってしまっては意味がありません。車両を増備することで『20分間隔が15分間隔になり、しかもバリアフリー対応になったよね』というのが目標です。また車いすのお客様は、どうしても乗降に時間を要してしまいますので、それをほかのお客様にご理解いただけるよう啓発していくのも重要でしょう」(東京空港交通)
東京空港交通の「リフト付きリムジンバス」。写真は初期型(画像;東京空港交通)。
バリアフリー対応については、「これからが運用面のハードルが高くなるところ」という東京空港交通。様々なアイデアを出し、課題をひとつひとつ解決していきたいといいます。
ちなみに国土交通省は、ノンステップタイプの車両を導入できない乗合バス車両(高速バスなど)の約25%を、リフト付きバスなどのバリアフリー対応車両にする目標を掲げていますが、2017年度末時点で達成率は5.9%に留まっています。
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