「普通のきっぷ」にもある割引制度
多くの鉄道会社は所定の運賃より安い割引きっぷを発売しています。ただ、割引きっぷは利用できる日や列車などが限られていたり、乗車当日には購入できないといった制約があったりします。「すごく安い割引きっぷが発売されたのに自分が利用する日と合わないから、所定の運賃で発売されている『普通のきっぷ』を買うしかない」と、悔しい思いをしたことがある人もいるのではないでしょうか。
「普通のきっぷ」でも片道600kmを超える区間の往復乗車券は割引になる。写真は東京駅から約640km離れた姫路駅(2017年6月、草町義和撮影)。
ただ、「普通のきっぷ」でも安く利用する方法がないわけではありません。
JR線の場合、片道の営業キロが600kmを超える区間では、往復乗車券は往路と復路の運賃がそれぞれ1割引(端数は切り捨て)で発売されます。実質的にはこれも割引きっぷですが、一般的な割引きっぷと異なりJRの旅客営業規則に明記された割引制度。600kmを超える区間ならいつでもどこでも利用できる、「普通のきっぷ」の一種といえます。
たとえば、東京~大阪間は営業キロが556.4kmで、片道乗車券の運賃は8750円。これに対して往復乗車券は1万7500円で、単純に片道乗車券の2枚分です。600km以下のため往復割引は適用されません。
一方、東京~岡山間の片道乗車券は1万480円ですから、往復乗車券なら片道2枚分の2万960円になるはず。しかし、営業キロが732.9kmで600kmを大きく超えますから、実際は往路と復路の運賃がそれぞれ1割引の9430円、合計1万8860円になります。往路と復路で片道乗車券をそれぞれ買うより2100円安くなるわけです。
距離が「不足」していても安くできる
逆に言えば、往復乗車券は片道600kmを超える区間でないと割引にならず、やはり「自分が利用する区間は600km以下だから安く利用できない」と、がっかりした人がいるかもしれません。しかし実は、600km以下でも往復割引を「適用」する方法があります。
東京~大阪間は先に述べたように往復割引が適用されませんが、大阪よりも遠くにある西明石駅(兵庫県明石市)までなら、片道の営業キロが612.3kmで往復割引の対象に。片道乗車券は9610円ですが、往復乗車券は1万7280円になります。東京~西明石間の片道乗車券2枚分(1万9220円)より1940円安くなるだけでなく、それより片道で約60km短い東京~大阪間の往復乗車券と比べても220円安いのです。
そこで、東京~大阪間を1往復する場合、東京~西明石間の往復乗車券を購入。往路は大阪駅で途中下車し、復路は西明石~大阪間の利用を「放棄」すれば、東京~大阪間の往復乗車券を買うより安くなるわけです。
ちなみに、JR本州3社の幹線運賃の場合、原則として営業キロ(小数点以下は切り上げ)が片道541~600kmの区間なら、それより長い601~640kmの区間の往復乗車券を買った方が安くなります。
行きと帰りで経路を変える手も
このほか、できるだけ長い片道乗車券を買うという手もあります。JRの場合、乗車券の区間の距離が長くなればなるほど、1km当たりの金額が安くなるよう運賃が設定されているためです。
往路は写真の北陸新幹線、復路は北陸本線と東海道新幹線というように「一周」するルートの片道乗車券なら往復乗車券より安くできる場合がある(2016年3月、草町義和撮影)。
出発地から目的地まで1往復する場合、往路の片道乗車券と復路の片道乗車券の2枚に分かれます。往復乗車券として購入しても、片道600kmを超えない限りは片道乗車券2枚分のお金がかかるため、安くなることはありません。しかし、往路と復路でルートを変えれば、往路ルートと復路ルートをつないだ1枚の片道乗車券にすることができ、乗車券の距離も長くなって、実質的な「往復」運賃が安くなります。
たとえば、東京~金沢間を北陸新幹線で移動する場合、片道乗車券は7340円。往復乗車券は片道2枚分の1万4680円になります。営業キロが450.5kmのため、往復割引は適用されません。
しかし、復路は北陸新幹線ではなく北陸本線と東海道新幹線を利用するなら、東京から北陸新幹線、北陸本線、東海道新幹線を経由して東京まで「一周」する片道乗車券1枚(営業キロ1073.0km)にまとめることができます。その金額は1万2960円で、東京~金沢間を北陸新幹線で往復するより1720円安くなります。
このように、ある程度長い距離を移動するなら、工夫次第で安くすることができます。また、往復乗車券の割引と長い距離の片道乗車券は、規則上は所定の運賃で発売される「普通のきっぷ」。乗車当日でも購入できますし、払い戻しや変更などでは割引きっぷより制約が少ないといった利点もあります。こうしてことも考慮して、あえて「普通のきっぷ」を買うという手もアリでしょう。
【地図】大阪までの往復ならここまで買うと安くなる
東海道・山陽新幹線の関西エリアのルート。東京~大阪間を往復するなら、大阪より約60km遠い西明石まで往復乗車券を買った方が安い(国土地理院の地図を加工)。