短い線路を建設するだけで直通可能?
近鉄線の駅から、2025年に開催予定の大阪万博会場まで、乗り換えなしに一本の特急列車で行けるようになるのでしょうか。
大阪メトロ中央線に乗り入れている近鉄7000系電車(2002年2月、草町義和撮影)。
2019年1月19日(土)、近鉄が奈良や伊勢志摩、名古屋方面から大阪湾の人工島「夢洲(ゆめしま)」まで、直通特急を走らせるための検討を始めたと、時事通信などが報じました。
夢洲は、2025年に開催される国際博覧会(2025年大阪万博)の会場で、カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致予定地。奈良、三重、愛知方面などへ路線が延び、日本の私鉄で最大規模の路線網を持つ近鉄が直通特急を運行すれば、夢洲への利便性が向上するほか、夢洲から近鉄沿線への観光客誘致につながるかもしれません。
現在の夢洲には、近鉄線どころか鉄道自体が存在しません。しかし、長田~コスモスクエア間を結ぶ大阪メトロ中央線を夢洲まで延伸する計画があり、万博の開催にあわせて整備される可能性が高くなっています。
一方、近鉄は長田駅(大阪府東大阪市)と学研奈良登美ヶ丘駅(奈良市)を結ぶ近鉄けいはんな線を運営。大阪メトロ中央線と相互直通運転を行っており、途中の生駒駅では大阪難波~近鉄奈良間を運転系統とする近鉄奈良線に乗り換えできます。近鉄奈良線は多くの近鉄線と線路がつながっており、伊勢志摩や名古屋、また京都方面からの直通も可能です。そして線路の幅(軌間)も、近鉄奈良線と近鉄けいはんな線は同じ1435mmです(車両回送用の線路であれば、すでに両線はつながっている)。
つまり、近鉄奈良線と近鉄けいはんな線をつなげる短い線路(渡り線)を生駒駅付近に整備するだけで、名古屋から夢洲へ簡単に直通できるように思えます。しかし、実際に営業列車の直通運転を行うためには、それだけではすみません。最大の理由として挙げられるのが「電気の方式」です。
技術的には不可能ではなさそうだが…
近鉄線の多くは、使用する電気とその電圧が直流1500Vですが、大阪メトロ中央線と近鉄けいはんな線は直流750Vを採用しています。電気の供給方式も異なり、近鉄線の多くは線路の上に架設した電線(架線)から、車両に電気を供給(架空電車線方式)。大阪メトロ中央線と近鉄けいはんな線は、2本のレールの脇に電気供給用のレール(第三軌条、サードレール)を設置しています(第三軌条方式)。
架線と第三軌条に対応したイギリスの高速車両クラス395(画像:Hitachi Rail Europe)。
そのため、「ふたつの電圧」と「ふたつの電気供給方式」に対応した、新しいタイプの車両が必要になるのです。
もっとも、様々な電気に対応した車両を導入することは、技術的には不可能ではありませんし、実例も多いです。たとえば、箱根登山鉄道(神奈川県)が所有する電車は、直流1500Vと直流750Vの両方に対応しています。
またイギリスでは、架線と第三軌条の両方に対応した電車が営業運転中です。そのうち、高速列車用のクラス395「ジャベリン」は日立製作所が開発したもので、架線方式(交流2万5000V)と第三軌条方式(直流750V)に対応しています。しかし、近鉄けいはんな線はトンネルの関係から車両の高さが抑えられており、直通用車両は架空電車線方式の区間で使うパンタグラフをどう屋根上に搭載するのか、などの問題がありそうです。
ただ、技術的には可能だとしても、複数の方式に対応した車両は構造が複雑になり、製造費用や保守費用が高くなりがちという課題があるでしょう。そのコストを近鉄としてどう利益につなげていくか、注目されます。
ちなみに、近鉄奈良線が大阪の繁華街のひとつである「ミナミ」こと難波に乗り入れたのは、1回目の大阪万博が開催された1970(昭和45)年のことでした。2025年の大阪万博でも、“新天地”への乗り入れを実現することができるのでしょうか。
【地図】直通ルートはこうなる?
太い線が直通特急の検討ルート。大和西大寺駅から近鉄橿原線などを走れば名古屋~夢洲間の運行も可能だ(国土地理院の地図を加工)。
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