トイレ利用状況のビッグデータを解析
高速道路のSA/PAに立ち寄るおもな目的のひとつがトイレでしょう。しかし、渋滞区間や、その渋滞を抜けた先のエリアでは利用が集中し、特に女子トイレでは行列することを心配する人もいるかもしれません。
新東名高速 清水PAのトイレ。ビッグデータの解析により算出された「最適便器数」の理論が活用されているという(画像:NEXCO中日本)。
そのようななか、NEXCO中日本は待ち時間の短縮を目指し、トイレの改善に努めているといいます。エリアごとに「最適便器数」なる数値を算出し、それに基づき施設のリニューアルなどを行っているのだとか。同社に詳しく話を聞きました。
――「最適便器数」とは、具体的にどのような数値なのでしょうか?
エリアごとにトイレの利用状況を解析し、お客さまを2分以上お待たせしない最適な便器の数を算出して配置しています。「2分」は、お客さまの声を踏まえて設定した許容待ち時間です。
算出方法としては、お客さまとの到着確率を「ポワソン確率」で表現し、待ち行列発生過程を「モンテカルロ・シミュレーション」により予測しています。ちょっと難しく感じられるかもしれませんが、要は利用率のログデータを集め、そのビッグデータを独自のロジックで解析し算出した数値です。
――どのエリアでこの理論を適用しているのでしょうか?
駿河湾沼津SA(静岡県沼津市)、清水PA(静岡市清水区)など、新東名高速の休憩施設16か所です。
――実際に行列は発生してないのでしょうか?
限られた特定の調査結果ですが、駿河湾沼津SA上り線の小型駐車場側、清水PA(上下線集約型)、および東名高速の富士川SA(静岡県富士市)下り線において、2014年のゴールデンウィークを含む4月中旬から7月末までで待ち行列の発生状況を確認した結果、2分以上の継続した待ちは発生していませんでした。
空きブースの数を表示 まだまだある混雑対策
トイレで待たせないための工夫は、「最適便器数」の算出以外にもあるといいます。
「たとえば、奥のブースが空いていても、それに気付かずに待ち行列が発生することがあります。その対策として、サバンナ効果(明るい方に引き寄せられるという心理的効果)を活用し、トイレの奥の方の照明を明るくすることで、奥のブースへと誘導する工夫をしています」(NEXCO中日本)
個室ブースが並ぶトイレの手前から奥にかけて照明をだんだんと明るくしていくというサバンナ効果に着目した照明は、東名高速の富士川SA下り線や、愛鷹PA(沼津市)の上下線で採用。このほか、上下線合わせて1日6万人が利用する日本最大の海老名SA(神奈川県海老名市)などでは、空きブース数をリアルタイムに表示する利用状況板を設置し、円滑な誘導に努めているそうです。
「たとえば当社の東京支社では、お客さまの行動に関する知見を組み込んだ『トイレ空間評価システム』を開発しています。設計段階でお客さまのトイレ利用をシミュレーションし、混雑が発生しないかなど、トイレを建てる前に検証しています」(NEXCO中日本)
一方で、トイレのリニューアルにあたっては敷地の制約上、便器の増設が難しいケースもあるとのこと。こうした場所では、個室ブースに対し横向きに配置していた便器を縦向きにするなど、配置を工夫して対策しているそうです。
海老名SA下り線の女子のトイレ。空きブースの数をリアルタイムに表示している(画像:NEXCO中日本)。
NEXCO中日本は、施設面の工夫や改良のみならず、それをいつもきれいな状態に保つエリアキャスト(従業員)の清掃のスキルや工夫があってこそ、トイレの快適性が保たれているといいます。「季節に合わせて温水洗浄機能付き便座の温度調整をしたり、花や手作りの小物を飾り付けたりと、おもてなしの心でお出迎えさせていただいております」と話します。