10年以上運行、いまや予約殺到の人気ぶり
愛知県の豊橋駅から市街地を経由し、市東部の住宅地を結ぶ路面電車の豊橋鉄道豊鉄市内線(東田本線)。この路線で、11月から2月までの約3か月半、「おでんしゃ」という列車が運行されています。全便予約制で、車内では、おでんやビールなどが振る舞われるというものです。
豊橋鉄道では、同路線で6月から9月にかけて「納涼ビール電車」を1992(平成4)年から運行しています。それに対し、「冬にもなにかできないか」ということで、2007(平成19)年に「おでんしゃ」の運行が始まりました。
豊橋鉄道の「おでんしゃ」。専用デザインの車両で運行される(やまだともこ撮影)。
2018年度冬は2月24日(日)までの期間中、水曜と土休日は昼(11時57分発)と夜(18時25分発)の2便、それ以外の日は夜の便のみを運行しています。予約は電話のみで、1便につき定員30名。曜日や便によって団体貸切の便と、個人での申し込みが可能な「個人便」があります。個人便の料金は、大人1人3900円(税込)。豊橋鉄道によると、「団体貸切は会社や地域団体、趣味のサークル仲間で利用されるケースが近頃は多いです。個人便は、友人どうしなどで利用される方もいらっしゃいます」とのこと。
ただ、2018年度の運行便は2019年1月28日(月)現在、全て満席です。例年、予約開始日にシーズン中運行される便の7割以上、その3日後までには9割の予約が埋まってしまうといいます。
「おでんしゃ」実際に乗車!
出発は豊橋駅東口の停留場から。賑やかなイラストが施された「おでんしゃ」仕様の車両は、乗降口に赤のれんが掛けられ、なかに入ると赤提灯がズラリ。「走る屋台」というキャッチフレーズもうなずけます。車内は両側に(窓を背にして座る)ロングシート、中央にロングテーブルが設置されており、乗客はテーブルを囲む形で席に着きます。
提供されるおでんは、地元豊橋に本社を構えるヤマサちくわの特製品で、プラスチックの容器に入っています。容器下の黄色いひもを引っ張ると、あつあつのおでんになるという仕掛けです。具はちくわにうずらの卵、大葉入りのはんぺんなど。車両の前後にはビールサーバーが置かれており、飲み放題。添乗員さんがどんどん注いでくれます。
隣の人との距離が近く、初対面でもすぐに打ち解けられる(やまだともこ撮影)。
決して広いとはいえない1両の車内、隣の人とも近く、お酒の力もあって、見知らぬ人とも話しやすい環境かもしれません。「おでんを食べながらお酒を飲み、電車に揺られながら仲間とおしゃべりをしたりと、普段とは違う空間を楽しめます」と豊橋鉄道は話します。
運行区間は豊橋駅前から運動公園前停留場までの4.7km、運動公園前での休憩を挟んで往復します。全体の所要時間は約80分です。途中には、石畳の軌道敷(線路)を走る区間や、半径11mで90度曲がるという日本一の急カーブ(井原~運動公園前)などもあります。このカーブはあまりに急なため、一部車両は走行できないのだとか。ほかにも車窓の見どころを添乗員さんに聞いたところ、「沿線にある豊橋市役所の周辺は、テレビドラマ『陸王』のロケに使われたんですよ」と教えてくれました。
子どもも楽しめる「おでんしゃ」、リピーター続出
乗車したのがお昼の便だったからか、幼稚園から小学生ぐらいまでの子供も多数参加しており、おでんを食べたり、持ち込んだおかしを食べたりしながら過ごしていました。静岡県から来たという幼稚園の子に話を聞くと、「路面電車に乗れたし、電車のなかでおでんを食べられたのが楽しかった」と満足げでした。
なお、参加者には「おでんしゃ」オリジナルの焼印が入った桝と、特製ラベルがついたカップ酒「四海王」(豊橋の福井酒造が製造)が記念にプレゼントされます。
真っ赤なのれんをくぐって乗車(やまだともこ撮影)。
豊橋鉄道によると、「リピーターの方が非常に多いです」とのこと。実際、今回の参加者のなかには「昨年は昼と夜の両方に乗りました」という人もいました。添乗員さんは「ご利用は近隣の方が多いですが、三重県や岐阜県、静岡県から乗りに来られる方もいます。過去には、北海道から来たという方もいらっしゃいましたよ」と話します。
ちなみに、「電車でおでん」というスタイルの特別列車は、長崎電気軌道の「おでん電車」、京阪石山坂本線の「おでんde電車」、能勢電鉄の「のせでんおでん電車」、万葉線の「おでん電車」など、全国に広がっています。
※記事制作協力:風来堂、やまだともこ
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