JRとは異なる特急の位置づけ
地方のJR沿線で生まれ育った人は、特急列車を「普通列車より速くて座席もよいものを使っているが高い」と思っている人が多いかもしれません。JRの場合、乗車券だけで乗れるのは各駅停車の普通列車や、普通列車の一種で停車駅を少なくした快速列車だけ。特急列車に乗るなら乗車券だけでなく特急券も買い足さなければならず、その分高くなります。
京王電鉄の特急は普通列車と同じ形態の車両だが乗車券だけで乗ることができる(2014年5月、草町義和撮影)。
しかし、JR以外の私鉄は必ずしもそうではありません。特急券が必要な特急列車を運転している私鉄があれば、特急券が不要の特急列車を運転している私鉄もあります。この場合は単に「普通列車(各駅停車)より停車駅が少なくて速い列車」という意味しかなく、車両も普通列車と同じものを使っていることが多いです。
大手私鉄16社の場合、特急券がいらない特急列車を運転しているのは、関東が京成電鉄、京王電鉄、東急電鉄、京急電鉄、相鉄の5社。関西は関西は南海電鉄、京阪電鉄、阪急電鉄、阪神電鉄の4社です。このほか、東海地方の名鉄と九州の西鉄も、特急券不要の特急列車を運転しています。
ただし、一部の私鉄は注意が必要です。
京成電鉄の場合、特急列車は特急券を買わずに乗ることができます。しかし、京成上野〜成田空港間を結んでいる全席指定の空港アクセス特急「スカイライナー」は、乗車券とは別に特急券に相当する「スカイライナー券」も買わなければ乗れません。朝夕に運転されている座席指定制の通勤列車「モーニングライナー」「イブニングライナー」も、それぞれ「モーニングライナー券」「イブニングライナー券」を購入する必要があります。
その代わり、車両は「スカイライナー」用に開発された、最高速度160km/hのAE形電車を使用。座席は特急列車がロングシート(一部クロスシート)なのに対し、「スカイライナー」は2人掛けのリクライニングシートが設置されています。「スカイライナー」がJRの特急列車に相当し、特急券不要の特急はJRの快速列車に相当するものと考えれば分かりやすいでしょう。
特急列車と快速列車を「連結」した列車も
東海地方の名鉄はさらに複雑です。同社の特急は「特急」「快速特急」「ミュースカイ」の3種類。このうち特急と快速特急は、2人掛けリクライニングシートを設けた「特別車」と、リクライニングしないクロスシート(一部はロングシート)を設けた「一般車」を連結しています。一般車は乗車券だけで乗れますが、特別車は「特別車両券」(ミューチケット)を買い足さないと利用できません。
名鉄の特急列車は特別車と一般車を連結している(2017年10月、草町義和撮影)。
JRの列車にたとえるなら、別料金が必要な特急列車と別料金不要の快速列車を連結して運転しているようなもの、といえるでしょうか。なお、「ミュースカイ」はすべての車両が特別車のため、必ずミューチケットを購入する必要があります。
関西大手の南海も、難波〜和歌山市・和歌山港間を結んでいる「サザン」は名鉄特急に近い体系といえます。列車には指定席車と自由席車が連結されており、自由席車は乗車券だけで乗車可能。指定席車は「座席指定券」を別に購入する必要があります。「サザン」以外の特急列車はすべて全席指定で、特急券を買わないと乗れません。
地方のJR沿線から大手私鉄の沿線に引っ越してきたばかりの人のなかには、「特急に乗るためには特急券が必要」という思い込みが強く、最初のうちは各駅停車の普通列車で通勤していた人がいるかもしれません。特急券が不要の特急列車が運転されている場合もありますから、一度確認した方がいいでしょう。
※一部内容を修正しました(4月16日9時00分)。
【写真】別料金を払うと豪華な専用車両に
小田急の特急ロマンスカーは乗車券のほかに特急券を買わなければ乗れないが、2人掛けリクライニングシートの専用車両で運転されている(2018年2月、恵 知仁撮影)。