奄美へのLCC就航が決定打に
マルエーフェリー(鹿児島市)は、同社が運航する阪神~奄美~沖縄航路(以下、阪神航路)について、2017年10月7日(木)阪神発の便を最後に旅客営業を休止します。同航路は、奄美大島(便によって徳之島、沖永良部、与論島にも寄港)を経由し神戸、大阪と那覇のあいだ1303kmを42時間~42時間30分で結ぶものです。
マルエーフェリーの阪神航路に就航している「琉球エキスプレス」(画像:マルエーフェリー)。
マルエーフェリーでは2014年12月に、片道1743kmという日本最長の旅客航路だった東京~沖縄間航路(以下、東京航路)で旅客営業を休止しており、さらに今回、阪神航路の旅客営業が休止されることで、「本州」と沖縄を結ぶ旅客フェリーは消滅。「本土」と沖縄を結ぶ旅客フェリーは、マルエーフェリーとマリックスライン(鹿児島市)の鹿児島~奄美~沖縄航路(以下、鹿児島航路)のみとなります。マルエーフェリーに話を聞きました。
――なぜ阪神航路の旅客営業を休止するのでしょうか?
LCC(格安航空)の台頭や、奄美群島の住民減少などが背景にあります。年間の旅客数は1998(平成10)年に2万7670人でしたが、2016年には7778人まで落ち込んでいたうえ、2017年に入り関空~奄美間のLCCが就航し、劇的な変化は望めないと判断しました。なお、2014年の東京~那覇航路の旅客営業休止も、成田~奄美間のLCC就航がきっかけでした。
――貨物も同様に減少しているのでしょうか?
いえ、貨物は堅調です。貨物船と比べ、旅客扱いをする船は多くの乗組員を必要とし、船の価格も1.5~2倍ほど違いますので、現在阪神航路で運航中の貨客船「琉球エキスプレス」を売却したうえでRORO船(編集部注:貨物を積んだトラックやトレーラーをそのまま運べる貨物船)「琉球エキスプレス2」に切り替え、路線を再編します。
貨物は新たに志布志へ寄港 奄美の農産物を東京へ
――具体的にはどのような体制になるのでしょうか?
阪神航路は貨物専用としたうえで、新たに志布志港(鹿児島県志布志市)を寄港地とします。志布志~沖縄間を東京航路、阪神航路の貨物2航路とすることで、たとえば阪神航路で運んだ奄美群島の農産物を志布志港で東京航路へ積み替え、首都圏に運ぶことが可能になります。
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マルエーフェリーによると、鹿児島航路は旅客も堅調で、利用者は年間15万人ほど。離島航路としての役割はこちらで代替できることからも、阪神航路の旅客営業休止を決めたそうです。
なお、神戸・大阪~那覇間の旅客運賃は2等1万5120円から。かつては「阪神地域に多く住む奄美群島や沖縄の出身者にとって、安価で楽な帰省手段として利用されていた」(マルエーフェリー)そうですが、LCCの登場により「安さ」の面で優位に立てなくなったといいます。
運航距離300kmを超える長距離フェリー事業者の団体である長距離フェリー協会(東京都千代田区)によると、「旅客においてはどの航路も同様にLCCと競合しており、大きくは伸びていない」そうですが、「貨物はむしろ増えている」といいます。
「長距離フェリーはそもそもトラックがメイン。各拠点間から目的地とする市場へ、必要な貨物を都合のよい時間に運べるようダイヤが組まれています。近年はトラックドライバー不足のため、船便の需要がさらに高まっているほか、船を新しく、より高効率なものに代替することも進んでいます」(長距離フェリー協会)。
長距離フェリー協会は、「当協会に所属する8社の14航路、計35隻が減る予定はない」と話します。