高知から県外へのフェリー消滅か
2018年10月現在、燃料価格が高騰しています。資源エネルギー庁によると、レギュラーガソリンの1Lあたり平均は10月22日(月)時点で160.0円。2014年11月以来、約4年ぶりに160円台に達しました。
こうした燃料価格変動の影響を受けやすいのがフェリーです。日本旅客船協会よると、フェリーの運航コストにおいて燃料費は、一般的に3割程度を占めるとのこと。現在、燃料高騰を理由に、あるフェリーが運航を休止する事態となっています。
2018年10月19日から運航を休止した宿毛フェリー「あしずり」(画像:PIXTA)。
それは、高知県の宿毛市と大分県の佐伯市を結ぶ宿毛フェリー。高知県にとっては県外を結ぶ唯一のフェリー航路ですが、10月19日(金)から運休したままです。宿毛市企画課の担当者は、「19日(金)0時台発の便から運休していたようで、翌朝出勤し、高知運輸支局および県からの電話でその事実を知ったほどです」と、突然のことに驚いているといいます。その後、会社側とコンタクトを重ねている同担当者に話を聞きました。
――なぜ運航休止に至ったのでしょうか?
燃料高騰がやはり大きな痛手なようです。加えて船の老朽化による故障や、台風の影響による営業損失、修繕費や船員の問題など、積もり積もって運休に至ったといいます。
――宿毛フェリーの利用実績はどうだったのでしょうか?
利用実績を収集しているところではありますが、県がトラック運送事業者に対してフェリー利用を促進するための補助金を出していることもあり、安く利用できたことから実績は低くはなかったと認識しています。宿毛フェリーをよく利用する運送10社に対し県が行ったヒアリングでも、「困っている」との声が寄せられました。
愛媛県の八幡浜まで北上すれば、大分県の別府や臼杵を結ぶフェリーがあるので死活問題というわけではないようですが、それにしても高知から鹿児島などへ向かう場合は遠回りとなります(編集部注:宿毛~八幡浜間は国道56号経由でおよそ100km)。
――燃料費がいくらくらいまで下がれば再開できる、といった見通しなどは立っているのでしょうか?
そういった見通しは伝えられておらず、先が見えない状況です。九州を結ぶ大切な航路でもあるので、市としては存続に協力したいと考えており、県としても関係市町村の意向に応じて必要な支援をするとしています。ただ、宿毛フェリー側としても、どのような助けが必要かわからない状況のようで、向こうから助けを求めてくれない限り、動けないところがあります。
燃油サーチャージも上がっている!
原油価格の高騰はほかのフェリーにも影響を及ぼしています。たとえば阪神地区と九州を結ぶ3航路を運航するフェリーさんふらわあ(神戸市東灘区)も、2018年10月1日から燃料油価格変動調整金、いわゆる燃油サーチャージを「0」段階から「2」段階に引き上げ。大阪~別府航路および神戸~大分航路では、旅客で620円、乗用車で1440円が適用されています。日本長距離フェリー協会によると、基準は各社で異なるものの、燃料費の高騰に対し燃油サーチャージを上げてきているそうです。
2018年9月に就航したフェリーさんふらわあの新造船「さんふらわあ きりしま」(2018年9月、伊藤真悟撮影)。
フェリーさんふらわあのような長距離フェリーは、働き方改革が叫ばれるなかでトラックの利用が増え、活況を呈していますが、日本旅客船協会によると、短・中距離の場合は、長距離ほどは戻っていないのが実情ではないかといいます。「収益のメインは貨物であることは間違いないのですが、短い距離のフェリーをトラック側が使ってくれるかどうかは、路線の特性にもよるでしょう」とのこと。
加えて、各社が設定している燃油サーチャージは、旅客であれば設定しやすいものの、貨物の場合は荷主があってこそ。基本的にBツーB(企業対企業)のサービスであり、旅客と同じ割合にはならないこともあると、日本旅客船協会は話します。
燃油価格が上昇した2013年には、国が経済団体に対し、燃料費の高騰分を反映した適正取引の推進を働きかけました。しかし日本旅客船協会によると、「現在のところ、そのような働きかけはなされていません。各事業者と荷主さんとで個別に交渉している状況でしょう」と話します。
いま燃油価格高騰を強く訴えられない事情が
今後、燃料価格が下がったとしても、フェリー業界においては2020年以降、現在よりもさらに負担が増えることが確実視されています。日本長距離フェリー協会は次のように話します。
「2020年1月から、船舶の排気ガスに含まれる硫黄酸化物(SOx)の規制が強化されますので、各事業者はその『SOx問題』への関心が高い印象です。現在船舶の燃料として一般的に使われているC重油よりも、硫黄分を大幅に少なくする必要があり、コストアップにつながると考えられています」(日本長距離フェリー協会)
規制に対応するには、燃料を変える、あるいはスクラバーと呼ばれる脱硫装置を船に取り付ける必要があるとのこと。しかし、規制強化まで残すところ1年余りというなかでも、現状では具体的にどのような燃料を使うことになるかはっきりしておらず、事業者にとって心配が大きいといいます。
国が示す船舶の「SOx対策」3つの手段(画像:国土交通省)。
当然ながら、それにともなう価格転嫁も想定されます。いまの段階で荷主あるいは国民に対して、燃料費の高騰を高らかに訴えることができない事情があるのです。
【グラフ】フェリー燃料の価格推移 4年ぶりの水準に
フェリーの燃料に使われるC重油の価格推移(日本長距離フェリー協会の資料をもとに乗りものニュース編集部作成)。
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