一番安い「新幹線」は240円
新幹線は、都市と都市を結ぶ特急列車しか走らない鉄道路線です。利用する際は、どんなに短い距離でも乗車券と特急券を買わなければなりません。新幹線で駅間距離がもっとも短い東北新幹線の東京~上野間(3.6km)は、運賃160円と特急料金(普通車自由席)860円で、合計1020円かかります。1000円未満で新幹線に乗れる区間はありません。
新潟駅の上越新幹線ホームで発車を待つ列車。将来はここから「安く乗れる新幹線」の列車が発車するかもしれない(2016年6月、草町義和撮影)。
ただし、「営業上は在来線扱い」の新幹線なら、もっと安く乗ることができます。
福岡県の博多南線は、山陽新幹線の博多駅と車両基地(博多総合車両所)を結ぶ、全長8.5kmの回送線を活用。車両基地の脇に博多南駅を設置し、JR西日本が新幹線の車両を使った通勤通学列車を運転しています。すべての列車が在来線の特急列車扱いで、特急料金は100円。これにJR西日本の運賃(200円)を加え、300円で新幹線の列車に乗ることができるわけです。
JR東日本が運営する新潟県の上越線ガーラ湯沢支線も、営業上は在来線扱いの新幹線です。ここは上越新幹線の越後湯沢駅と保線基地を結ぶ、全長1.8kmの線路を使用。保線基地に隣接する山に「ガーラ湯沢スキー場」があり、保線基地にはスキー場に直結するガーラ湯沢駅が設置されました。原則としてスキーシーズンに限り、東京~ガーラ湯沢間を直通する列車が運転されています。
東京~ガーラ湯沢間の運賃と料金は自由席の利用で合計6570円ですが、在来線扱いの越後湯沢~ガーラ湯沢間だけなら運賃140円と特急料金100円で、合計240円。博多南線よりさらに60円安い金額で新幹線の列車に乗れます。
空港直結の「安い新幹線」構想も
実は、新潟県にはもうひとつ、構想段階ですが安く乗れる新幹線があります。新潟駅と新潟空港を結ぶ空港アクセス鉄道です。
日本海に面している新潟空港。新潟市の中心部から直線で約6km離れている(2018年2月、草町義和撮影)。
新潟空港は、新潟市の中心部から直線で約6kmと比較的近いところにあります。いまはバスやタクシー、マイカーがおもなアクセス手段ですが、いずれも道路を走ることになるため、渋滞に巻き込まれて所定のダイヤより時間がかかる可能性があるなどの課題を抱えています。
また、日本では1980年代末期の冷戦終結後に「環日本海経済圏」の構想が提唱されるようになりました。これはロシアなど日本海の沿岸国との結びつきを強め、新しい経済圏を作りだそうというもの。新潟県も、環日本海経済圏の交通拠点として新潟空港を強化することを考え、その一環として新潟駅と新潟空港を結ぶ鉄道の構想が1990(平成2)年ころに浮上したのです。
整備方式としては、上越新幹線の延伸や在来線の延伸、軽量軌道交通(LRT)やモノレールの建設、さらには線路と道路の両方を走れるデュアル・モード・ビークル(DMV)の導入など、さまざまな案が出されました。現在は新幹線延伸案と在来線延伸案のふたつに絞られてきています。
ワンコインで新幹線に乗れる?
新潟県の「新潟空港アクセス改善検討委員会」が2017年12月にまとめた報告書などによると、新幹線延伸案は全長11.5km。新潟駅から上越新幹線の車両基地(新潟新幹線車両センター)までの約5kmは回送線を走り、車両基地から空港まで新たに線路を整備します。
新潟~新潟空港間の所要時間は11分と想定されています。現在運行されているバスは、途中の各停留所に停車する系統が33分、ノンストップのリムジンバスでも25分かかりますから、大幅な時間短縮が期待できます。
新潟駅の上越新幹線ホームにある駅名標。終点のため隣の駅名はひとつしか記されてないが、新幹線延伸案が実現すれば「新潟空港」の文字が入るかもしれない。
新潟駅から車両基地まではすでに設置されている回送線の高架橋を走る。
在来線延伸案では白新線の大形駅で分岐する新線を建設する。
採算性などの調査では、運賃と料金の合計が440円と設定されました。報告書は「JR本州3社の料金体系」に準じたとしています。JR本州3社の普通旅客運賃表(幹線)は11~15kmが240円ですから、残りの200円が特急料金です。博多南線やガーラ湯沢支線に比べると高いですが、500円玉が1個あればおつりがくるレベルに収まります。
ちなみに、在来線延伸案は全長12.3~12.5km。白新線の大形駅(新潟駅から7.0km)と新潟空港を結ぶ約5kmの新線を建設し、新潟~新潟空港間を16~18分で結ぶことが考えられています。
鉄道整備にはさまざまな難題が
仮に新幹線延伸案が想定通りに建設されれば、博多南線とガーラ湯沢支線に続く3本目の「安く乗れる新幹線」になると思われます。しかし、この構想が本当に実現するかどうかは、いまのところ未知数です。
新潟空港に乗り入れている路線バス。新潟県は当面のあいだ、バス交通の改善などを行う方針だ(2018年2月、草町義和撮影)。
報告書によると、新幹線延伸案の建設費は概算で422億円。ルートの半分がすでに整備されている回送線を活用するとはいえ、残り半分は新たに線路を整備しなければなりません。整備費用はどうしても高くなります。
国や自治体が建設費の全額を負担する「上下分離方式」を導入したとしても、日々の列車の運転にもお金がかかりますから、ある程度の利用者がいなければ赤字になります。報告書では、新幹線延伸案で採算点をクリアできる可能性がある利用者数を、上下分離方式を導入する場合で年間176万人としています。
「新幹線乗り入れ」実現のカギは?
新潟空港アクセス鉄道のおもな利用者は、当然のことながら同空港の利用者と想定されます。しかし、同空港の利用者数は2016年度で約99万人。新幹線延伸案による採算ラインの2分の1程度です。鉄道の整備を実現するためには、まず航空便の新設や増強などによって、空港自体の利用者を大幅に増やす必要があるのです。
新潟空港のコンコース。空港自体の利用者を大幅に増やせるかどうかが鉄道整備のカギだ(2018年2月、草町義和撮影)。
新潟県は「新潟空港アクセス改善の基本的考え方」を2017年12月に公表しました。現状の空港利用者数ではアクセス鉄道の整備は時期尚早と考えたようで、当面はバス交通の改善などを図るものとしています。
鉄道の整備は「(新潟空港の利用者数が)135万人を達成した段階」か「中期の目標年次(2025年度)を経過した段階」で「本格的な検討を行うか、関係者で再度検討・意思決定を行う」とし、結論を先送りしました。
航空便の強化やバス交通の改善などによって空港の利用者が増え、これにより「安く乗れる新幹線」の整備につながるかどうか、今後の動向が注目されます。
【画像】新潟駅と新潟空港の位置関係
新潟空港は新潟駅から北東へ約6km。新幹線の延伸(青)や在来線の延伸(緑)などによるアクセス鉄道の整備案がある(国土地理院の地図を加工)。