その「チリンチリン」、罰金かも?
歩道を歩いている際、背後から近づいてきた自転車にベルを鳴らされるといった経験は、誰しもあるでしょう。逆に自転車を運転している際に、こちらに気づかない前方の歩行者に対し鳴らすといった経験もあるかもしれません。
日常にありふれた光景のようにも思えますが、実はこの、歩行者に対しベルを鳴らすという行為は、法律違反になる可能性があるのです。
つい気軽に鳴らしてしまいそうになるベルだが、違法行為とされることも。写真はイメージ(画像:写真AC)。
自転車のベル、法律などでは「警音器」と称しますが、公益社団法人自転車道路交通法研究会によると「自動車のクラクションに相当するものである」とのことです(「自転車の道路交通法」より)。
では、「歩行者に対しベルを鳴らすこと」が違法行為かもしれない根拠はというと、これは道路交通法第54条の第2項にあります。そこには「車両等の運転者は、法令の規定により警音器を鳴らさなければならないこととされている場合を除き、警音器を鳴らしてはならない。ただし、危険を防止するためやむを得ないときは、この限りではない」と定められているのです。
たとえ歩行者が、自転車の進行方向をふさぐように歩いていたとしても、それは「危険を防止するためやむを得ないとき」には該当しません。このことについてグラディアトル法律事務所の刈谷龍太弁護士は「第63条の4では、たとえ自転車が歩道を走行することが許される場合であっても、自転車は歩行者の通行を妨げてはならないこととなっており、逆に歩行者の邪魔になる場合は一時停止しなさいと規定されています。そもそも自転車の場合、歩道を通行することが限定的に許されているに過ぎませんから、当然の帰結と言えるでしょう」と説明します。
また、このように直接的な規定がない場合であっても、「歩行者優先の原則」があるため歩行者に対してベルを鳴らすのは避けた方がいいそうです。では、「歩行者優先の原則」とはなんなのでしょうか。
逆に鳴らさなくてはならないときもある
「歩行者優先の原則」とは、刈谷弁護士によると「読んで字のごとく、道路の通行においては歩行者の通行が優先されるべきという考え方であり、道路交通法の規定もこの原則に沿うように作られています」といいます。よって、歩行者の後ろからベルを鳴らすのは、決して「危険を防止するためやむを得ないとき」には該当しないというわけです。
「危険を防止するためにやむを得ないときに該当するのは,現実に警音器を使用しなければ避けられないような危険が差し迫っているような場合です。たとえば、歩行者が自転車の存在に気づかず突然飛び出してきたような場合がこれに該当します」(刈谷弁護士)
一方の「警音器を鳴らさなければならないこととされている場合」とは、同じく道路交通法第54条に述べられており、以下のような場合が挙げられています。
・左右の見とおしのきかない交差点、見とおしのきかない道路のまがりかど又は見とおしのきかない上り坂の頂上で道路標識等により指定された場所を通行しようとするとき。
・山地部の道路その他曲折が多い道路について道路標識等により指定された区間における左右の見とおしのきかない交差点、見とおしのきかない道路のまがりかど又は見とおしのきかない上り坂の頂上を通行しようとするとき。
ここでいう「道路標識」は、いわゆる「警笛鳴らせ」の標識です。
まとめると、自転車のベルを鳴らしてよい、あるいは鳴らさなければならないケースとは、「『警笛鳴らせ』の道路標識により、警音器を鳴らすことが指示されている場合」「歩行者が自転車に気づかず飛び出してきたときのような、危険を防止するためやむを得ない場合」ということになります。つまり冒頭に記したような、前方の歩行者に向けて鳴らすというのはもってのほかということになるわけです。
文字通り「備えあれば憂いなし」
ここまで使用を制限されている警音器ですが、自転車を公道で走らせる場合には取り付けが義務付けられているものでもあります。根拠となるのは各都道府県の条例などであり、たとえば東京都の場合、道路交通規則第8条に「警音器の整備されていない自転車を運転しないこと」と明確に示されています。「警笛鳴らせ」の区間を自転車で走ることはもしかすると一度も経験することはないかもしれませんが、「危険を防止するやむを得ない場合」という、万が一の事態にも備えるという意味合いもあるのです。
「警笛鳴らせ」の道路標識(画像:国土交通省「道路標識一覧」より)。
なお、「そもそも歩道を自転車が走っていいのか」という点については、簡単にまとめると、以下のような場合について認められています。
・歩道に「自転車通行可」の道路標識や、道路標示がある場合。
・歩道に「普通自転車通行指定部分」の道路標示がある場合。
・運転者が13歳未満又は70歳以上、または身体の障害を有する者である場合。
・歩道を通行することが「やむを得ない」と認められる場合。
ただしこれらはあくまで例外であり、原則として歩道のある道路では、自転車は車道を通行しなければなりません。これに反した場合、通行区分(車道と歩道)違反が適用され、3か月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられます。
【写真】昨今増えた? 車道の「自転車ナビマーク」
車道の左側端には、自転車の通行場所や方向を案内する「自転車ナビマーク」が設置されていることも(2017年6月、乗りものニュース編集部撮影)。